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高校数学解説
文献あり

実数の冪乗の定義~e^√2の値ってどんな値?~

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はじめに

関数の連続性とやらを考えているとき、大学3年生にもなって恥ずかしながら$e^\sqrt{2}$が何なのか分からなくなりました。今回は基本に戻ってべき乗というのを再定義していこうと思います。ただし、今回は定義の大まかな流れのみの紹介で済まさせていただきます。よって指数法則についてはあまり証明しません。もし詳細が気になる方はきちんとした参考書で勉強してみてください。自分で勉強したことなので間違いがあればコメントなどで教えていただけると幸いです。

冪乗の定義 自然数から実数へ

自然数$\mathbb{N}$、整数$\mathbb{Z}$、有理数$\mathbb{Q}$、実数$\mathbb{R}$についてはすでに定義されているものとして話を進めていきます。(複素数$\mathbb{C}$については、今回は考えないことにします。)

自然数乗の定義

冪乗の定義(自然数ver)

$a$を実数、$n$を自然数とする。このとき、$a^n$を次のように帰納的に定義する。
$a^1 = a$, $a^{n+1} = a^n \times a$

この定義から、$a^n$を次のように表せます。
$a^n = \prod_{i=1}^{n} a = a \times a \times \cdots \times a$$n$個の積)

これは当たり前に理解できると思います。

指数法則についても見ていきましょう。

指数法則(自然数ver)

$a,b$を正の実数、$m,n$を自然数とする。このとき、次が成り立つ。
$a^m a^n = a^{m + n}$, $({a^m})^n = a^{mn}$, $(ab)^n = a^n b^n$

実数の演算の性質より示される。$\square$

整数乗の定義

冪乗の定義(整数ver)

$a$を実数、$m$を整数とする。このとき、$a^m$を次のように定義する。

  • $a \neq 0$のとき
    $$ a^m = \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a^m   (m \geq 1)\\ 1    (m = 0)\\ 1 / a^m  (m \leq -1) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
  • $a = 0$のとき
    $$ 0^m = \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 0     (m \gt 0)\\ 0 または 1  (m = 0) ※分野によってどちらで定義するか異なる \end{array} \right. \end{eqnarray} $$

これもほとんど当たり前に理解できますね。
ただし、$0^0$の定義には十分注意してください。どの分野を勉強するかで定義が変わってきます。

指数法則についても見ていきましょう。

指数法則(整数ver)

$a,b$を正の実数、$m,n$を自然数とする。このとき、次が成り立つ。
$a^m a^n = a^{m + n}$, $({a^m})^n = a^{mn}$, $(ab)^n = a^n b^n$

実数の演算の性質より示される$\square$

以降、指数法則については省略させていただきます。

自然数の逆数乗の定義

まず最初に次の命題を考えましょう。

$a$を正の実数、$n$を自然数とする。このとき、$b^n = a$を満たす$b$は、非負実数の範囲でただ一つ存在する。

$f(x) = x^n - a$とし、区間縮小法を用いて示す。(杉浦光夫著 解析入門Ⅰ 東京大学出版 第Ⅰ章§3例3参照)$\square$

これにより、まだ定義していませんが、$a^{1/n}$の一意性が言えましたね!

冪乗の定義(自然数の逆数ver)

$a$を正の実数、$n$を自然数とする。このとき、$b^n = a$を満たす非負実数bを$a^{1/n}$の値として定義する。
このとき、$a^{1/n}$$\sqrt[n]{a}$と書き表し、特に$n=2$のとき、$\sqrt{a}$と書き表す。

この定義は命題3によりwell-definedとなります。

有理数乗の定義

さて$a^{1/n}$が定義できたので、有理数乗の定義ができます!

冪乗の定義(有理数ver)

$a$を正の実数、$p$を有理数とする。このとき、$p$は自然数$n$と整数$m$を用いて$p = m / n$と表すことができ、$a^p$を次のように定義する。
$x^p = x^{(m/n)} = (x^m)^{1/n}$

ここで注意したいのが、後に指数法則から$(x^m)^{1/n} = (x^{1/n})^m$が示されるのでどちらで定義しても大丈夫です!

実数乗の定義

とうとう実数乗の定義です。
実数乗の定義は今までの定義とは違い、上限や下限、極限を用いて定義していきます。
ここでは主に二つの定義の仕方を見ていきましょう。

冪乗の定義(実数ver - 1)

$a$を正の実数、$x$を実数とする。このとき、$a^x$を次のように定義する。
$$ a^x = \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \sup \lbrace a^r \in \mathbb{R} \vert r \lt x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace     (a \gt 1)\\ 1                    (a = 1)\\ \sup \lbrace {(1/a)}^r \in \mathbb{R} \vert r \lt -x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace  (0 \lt a \lt 1) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
$0^0$については、整数と同様に定義する。

この定義は上限を用いた定義で、上限の一意性よりwell-definedです。この定義は下限を用いて次のように変えることもできます。
$$ a^x = \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \inf \lbrace a^r \in \mathbb{R} \vert r \gt x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace     (a \gt 1)\\ 1                    (a = 1)\\ \inf \lbrace {(1/a)}^r \in \mathbb{R} \vert r \gt -x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace  (0 \lt a \lt 1) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$

冪乗の定義(実数ver - 2)

$a$を正の実数、$x$を実数とする。このとき、$x$に収束する有理数列$(x_{n})_{n}$をとり、$a^x$
$a^x = \lim_{n \to \infty} a^{x_{n}} $
と定義する。
$0^0$については、整数と同様に定義する。

定義6がwell-definedであること、つまり$x$に収束する有理数列$(x_{n})_{n}$が存在すること、存在するならば$a^{x_{n}}$の極限値が存在すること、どんな数列$(x_{n})_{n}$をとってきても$a^{x_{n}}$の極限値が一致することを示す必要があります。

まず$x$に収束する有理数列$(x_{n})_{n}$が存在することを示す。
これは、$x$の無限小数を考えると、小数の定義から、小数を数列としてみることもでき、小数の桁数を増やしていくとそれは$x$に収束する。したがって、小数から得られる数列は$x$に収束する有理数列$(x_{n})_{n}$のひとつである。(杉浦光夫著 解析入門Ⅰ 東京大学出版 第Ⅰ章§3定理3.9参照)

次に、$(x_{n})_{n}$の極限値が存在することを示す。
これは、$(x_{n})_{n}$は収束するためコーシー列であり、有理数における$a^p$の単調増加性から、$(a^{x_{n}})_{n}$もコーシー列であり、収束することが分かる。

最後に、二つの$x$に収束する有理数列$(x_{n})_{n},(y_{n})_{n}$をとってきても$a^{x_{n}},a^{y_{n}}$の極限値が一致することを示す。
これは、$(x_{n})_{n},(y_{n})_{n}$$x$に収束することから、$\left| (x_{n})_{n}-(y_{n})_{n} \right|$を考えると、$\left| a^{x_{n}}-a^{y_{n}} \right|$が0に収束することが言えるため、$a^{x_{n}},a^{y_{n}}$の極限値が一致することが分かる。

次に、定義5と定義6によって得られる値が同じものであることを示します。

まず、
$$ a^x = \lim_{n \to \infty} a^{x_{n}} \Longrightarrow a^x = \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \sup \lbrace a^r \in \mathbb{R} \vert r \lt x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace     (a \gt 1)\\ 1                    (a = 1)\\ \sup \lbrace {(1/a)}^r \in \mathbb{R} \vert r \lt -x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace  (0 \lt a \lt 1) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
を示す。
$\mathbb{Q}$は可算集合であるため、$\mathbb{N}$から$\mathbb{Q}$へのある全単射$ \phi $が存在する。ここで、$a \gt 1$のとき、$ \phi (n) \lt x$を満たす任意の自然数$n$に対して、初項が$ \phi (n)$であり、$x$に収束するような単調増加有理数列$ {({x(n)}_m)}_m$を考えることができる。すると、$a^{\phi(n)} \leq \lim_{m \to \infty} a^{{x(n)}_m}$が成り立ち、任意の$n$に対して$\lim_{m \to \infty} a^{{x(n)}_m}$は一致する。$\lim_{m \to \infty} a^{{x(n)}_m}$$s$とする。任意の$ \epsilon $に対して、ある$x$より小さい有理数$p$が存在して、$a^p \gt s - \epsilon $が成り立つ。したがって、$s$$\sup \lbrace a^r \in \mathbb{R} \vert r \lt x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace$と一致する。$0 \lt a \lt 1$についても同様に示すことができる。

次に、

$$ a^x = \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \sup \lbrace a^r \in \mathbb{R} \vert r \lt x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace     (a \gt 1)\\ 1                    (a = 1)\\ \sup \lbrace {(1/a)}^r \in \mathbb{R} \vert r \lt -x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace  (0 \lt a \lt 1) \end{array} \right. \end{eqnarray} \Longrightarrow  a^x = \lim_{n \to \infty} a^{x_{n}} $$
を示す。
$s = \sup \lbrace a^r \in \mathbb{R} \vert r \lt x かつ r \in \mathbb{Q} \rbrace$とおく。任意の自然数$n$をとると上限の性質より$a^{x_{n}} \gt s - \frac{1}{n} $を満たすxより小さいある有理数$x_{n}$が存在する。この$x_{n}$を用いて有理数列${(x_{n})}_{n}$を作ると、$\lim_{n \to \infty} a^{x_{n}}$$s$に収束する。

以上により、定義5と定義6はそれぞれwell-definedであり、全く同じものであることが分かりました。

$e^\sqrt{2}$はどんな値なのか

$e$は実数値です。したがって、$\sqrt{2}$に収束するような有理数列${(x_{n})}_{n}$を作ると、$\lim_{n \to \infty} a^{x_{n}}$の値が$e^\sqrt{2}$の値ということになります。つまり、下のような数列の極限と言うことですね。
$$ y_{1} = e^{1}, y_{2} = e^{14/10}, y_{3} = e^{141/100}, y_{4} = e^{1414/1000}, y_{5} = e^{14142/10000}, \cdots $$

まとめ

高校のときに習った指数関数ですが、自然数から実数へこのような拡張・定義がなされていたんですね。
これを知らずに指数関数を扱っていたと思うと恐ろしいです(笑)。

参考文献

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更新日:4日前
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