この記事は1で勉強したことをまとめたものである.
プレプリント
はarXivにアップロードされている.
ここで言う貼り合わせ(patching)とは, 曲線の関数体上のGalois理論における結果を証明するために用いられた方法のことである. HarbaterとHartmannによるここでのアプローチは, これまでのアプローチよりも基礎的になっているらしい.
Galois理論におけるこれまでのpatchingの歴史はよく分からないが, キーワードだけ並べておく;
Riemannの存在定理; Serre's GAGA; 行列分解に関するCartanの補題; Grothendieckの存在定理を用いた形式べき級数環の貼り合わせ; Tateのrigid解析空間におけるrigid GAGA.
HarbaterとHartmannの方法は加群ではなくベクトル空間に着目している点で, 以前のアプローチとは異なり, より基礎的で直接的にpatchingに関する結果を証明することができるようになったらしい.
その結果, 逆Galois理論における結果(これは今までの方法でも証明された)だけでなく, 体のBrauer群や, 微分加群への応用が得られた.
$\mathbb{Q}_p (x)$や$\mathbb{F}_p((x))(y)$などの体(semi-global field)の整数論に興味を持っている.
semi-global field$F$上の線形代数群$G$に対して, $F$上の$G$-torsorの研究にpatchingが使われている.
$\alpha_i:\mathcal{C}_i \to \mathcal{C}_0$ $(i=1,2)$をfunctorとする.
このとき, 2-fibre product category $\mathcal{C}_1 \times_{\mathcal{C}_0} \mathcal{C}_2$を次のように定める:
objectは組$(V_1, V_2)$と$\mathcal{C}_0$におけるisomorphism$\phi:\alpha_1(V_1)\stackrel{\sim}{\to} \alpha_2(V_2)$たちからなる.
morpshim$(V_1, V_2;\phi)\to (V_1',V_2';\phi')$は$\mathcal{C}_i$におけるmorpshism$f_i:V_i \to V_i'$ $(i=1,2)$で$\phi'\circ \alpha_1(f_1)=\alpha_2(f_2)\circ \phi$を満たすものからなる.
$$
\begin{CD}
\alpha_1(V_1) @>{\phi}>> \alpha_2(V_2) \\
@V{\alpha_1(f_1)}VV @VV{\alpha_2(f_2)}V \\
\alpha_1(V_1') @>{\phi'}>> \alpha_2(V_2')
\end{CD}
$$
体$F$に対し, 有限次元$F$ベクトル空間のなす圏を$\operatorname{Vect}(F)$と表すことにする.
$F_1,F_2$を体$F_0$の部分体とし, $\mathcal{C}_i=\operatorname{Vect}(F)$とおくと, 係数拡大関手
$$\alpha_i:\mathcal{C}_i \to \mathcal{C}_0 \ ; \ \alpha_i(V_i)=V_i \otimes_{F_i}F_0$$
が存在する. したがって圏$\mathcal{C}:=\mathcal{C}_1 \times_{\mathcal{C}_0} \mathcal{C}_2$が構成できる.
$(V_1,V_2;\phi)\in \mathcal{C}$に対し, $V_0=\alpha_2(V_2)=V_2 \otimes_{F_2}F_0$とする.このとき, $V_0,V_1,V_2$は$F:=F_1\cap F_2 \subset F_0$上のベクトル空間である.
$i_2 :V_2 \hookrightarrow V_0$を自然な包含とし, $i_1 :V_1 \hookrightarrow V_0$を自然な包含$V_1 \hookrightarrow \alpha_1(V_1)=V_1\otimes_{F_1}F_0$と$\phi$の合成とする.
これらの包含$i_1,i_2$に関して, $F$上のベクトル空間のファイバー積$V:=V_1 \times_{V_0}V_2= \{(v_1, v_2)\in V_1 \times V_2 \mid i_1(v_1)=i_2(v_2)\}$が考えられる.
$V$を$(V_1,V_2:\phi)$のfiber product(ファイバー積)という.
$V_1,V_2$をそれぞれ$i_1,i_2$によってその像と同一視すれば, ファイバー積$V$は$V_0$内における$V_1$と$V_2$の交わり$V_1 \cap V_2$である. この同一視は$\phi$に依存する.
$F_1,F_2 \subset F_0$を体とし, $F=F_1 \cap F_2$とする.
$$\beta:\operatorname{Vect}(F) \to\operatorname{Vect}(F_1)\times_{\operatorname{Vect}(F_0)}\operatorname{Vect}(F_2) $$
を係数拡大から定まる自然な関手とする. このとき, 次の条件は同値である.
これは[Harbater, Convergent arithmetic power series, Amer. J. Math. (1984)]の結果の特別な場合である.
この命題によって, 様々な(幾何的な)状況における体の拡大$F \subset F_1, F_2 \subset F_0$に対して$\beta$が圏同値となること(この論文の主定理)が, 行列の分解(条件(2))と体の交わりの条件$F=F_1\cap F_2$を示すことに帰着される.
$\mathcal{F}:=\{F_i\}_{i \in I}$を体の有限逆系(inverse system)とし, その逆極限が体$F$であるとする.
$i,j \in I$で$i \succ j$を満たすものに対して, $\iota_{ij}: F_i \to F_j$を逆系の包含写像とする.
$\mathcal{F}$に対する(ベクトル空間の)patching problemとは, 有限次元$F_i$ベクトル空間のsystem$\mathcal{V}:=\{ V_i\}_{i \in I}$と$i \succ j$に対する$F_i$線形写像$\nu_{ij}:V_i \to V_j$の組であって, すべての$i \succ j$に対して$F_j$線形写像$\nu_{ij}\otimes_{F_i}F_j : V_i \otimes_{F_i}F_j \to V_j$が同型写像となるもののことをいう.
patching problem $\mathcal{V}$に対して次元$\dim _{F_i}V_i$は$i \in I$によらないので, これをpatching problemの次元といい, $\dim \mathcal{V}$と表す.
$\mathcal{F}$に対するpatching problemsの間の射$\{V_i\}_{i \in I} \to \{V_i'\}_{i \in I} $とは, $F_i$線形写像$\phi_i :V_i \to V'_i$たちで$\nu_{ij}, \nu'_{ij}$とcompatibleなもののことをいう. $\mathcal{F}$に対するpatching problemsは圏$\operatorname{PP}(\mathcal{F})$をなす.
有限次元$F$ベクトル空間$V$に対して, $V_i = V\otimes_F F_i$とおき$\nu_{ij}=\operatorname{id}_V\otimes_F \iota_{ij}$をとることでpatching problem $\beta(V)$が定まる. $\beta$は関手$\beta: \operatorname{Vect}(F)\to \operatorname{PP}(\mathcal{F})$を定める. $\mathcal{V}$が$\mathcal{F}$に対するpatching problemで, $\beta(V)$が$\mathcal{V}$に同型であるとき, $V$はpatching problem$\mathcal{V}$の解(solution)であるという.
もし$\beta: \operatorname{Vect}(F)\to \operatorname{PP}(\mathcal{F})$が圏同値ならば, 対象の同型類の間の全単射を誘導するので, $\mathcal{F}$に対する任意のpatching problemは同型を除いて一意的な解をもつことになる.
上のProposition 2.1における状況は逆系$\mathcal{F}=\{F_0,F_1, F_2\}$に対するpatching problemであると言い換えることができる. ここで, 半順序は$0\prec 1,2$である. $\iota_{i0}:F_i \hookrightarrow F_0$ $(i=1,2)$のinverse limitは$\iota_{10}(F_1)\cap \iota_{20}(F_2)\subset F_0$と同一視でき, 体である. 命題の条件が満たされるとき, $\mathcal{F}$に対する任意のpatching problem $\{V_0, V_1, V_2\}$は同型を除いてただ一つの解$V$をもち, 命題の最後の主張から, $V$はファイバー積$V_1 \times_{V_0}V_2$(または, 同値であるが, 逆系$\{V_i\}$のinverse limit)で与えられる.
$F_1, F_2\subset F_0$を体とし, $F=F_1 \cap F_2$とする. $\mathcal{V}=\{V_i\}$を$\mathcal{F}=\{F_i\}$に対するpatching problemとし, $V=V_1\cap V_2$を$V_0$における共通部分とする. このとき, patching problem$\mathcal{V}$が解をもつための必要十分条件は$\dim_F V=\dim \mathcal{V}$であり, このとき, $V$は解である.
$\mathcal{F}=\{F_i\}_{i \in I}$を体の有限逆系でinverse limitが体Fであるものとし, $\mathcal{V}=\{V_i\}_{i \in I}$を$\mathcal{F}$に対するpatching problemで$V$が解であるものとする. このとき, $V$と同型写像たち$V \otimes_F F_j \stackrel{\sim}{\to} V_j$ ($j \in I$)は, $F$ベクトル空間としてのinverse limit $\displaystyle \lim_{\leftarrow} V_i$と線形写像たち$ \displaystyle (\lim_{\leftarrow} V_i)\otimes_F F_j \to V_j$と同一視できる.
$F$ベクトル空間の同型$\displaystyle V=V\otimes_F (\lim_{\leftarrow}F_i)=\lim_{\leftarrow}(V\otimes_F F_i)=\lim_{\leftarrow}V_i$から従う.
最後に, 添え字集合$I$の例を与える.
$I=\{0,1,\dots,r\}$で半順序が$i\succ 0$$(i=1,\dots,r)$で与えられているとき, inverse limitはファイバー積
$$F=F_1 \times_{F_0}\dots \times_{F_0}F_r,\ V=V_1 \times_{V_0}\dots \times_{V_0}V_r $$
である. 包含写像による像と同一視すれば, $F$は$F_1,\dots,F_r$の$F_0$における共通部分であり, $V$についても同様である.
$I=I_0\cup I_1 \cup I_2$の形をした添え字集合を考える. ここで, 任意の$i_0 \in I_0$に対して, 一意的な元$i_1 \in I_1, i_2 \in I_2$が存在して$i_1 \succ i_0, i_2 \succ i_0$を満たし, 他に$I$における関係はないとする.
体の逆系$F=\{F_i\}_{i \in I}$に対するpathing problemを与えることは, 各$i\in I_1 \cup I_2$に対して有限次元$F_i$ベクトル空間$V_i$たちと, $i_1,i_2 \succ i_0$を満たす各$i_j \in I_j$に対して$F_{i_0}$ベクトル空間の同型$\mu_{i_1, i_2, i_0}: V_{i_1}\otimes_{F_{i_1}}F_{i_0}\stackrel{\sim}{\to} V_{i_2}\otimes_{F_{i_2}}F_{i_0}$を与えることと同値である.