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コンパクト群の既約ユニタリ表現が有限次元であることのコンパクト作用素を用いた証明

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コンパクト作用素のスペクトル分解定理の表現論への応用を紹介します.まず,コンパクト作用素のスペクトル分解定理を振り返ります.

コンパクト作用素のスペクトル分解定理

$X$を無限次元ノルム空間とし,$ T$をその上のコンパクト作用素とする.このとき,$0\in\sigma(T)$.さらに$\sigma(T)\backslash\{0\}$は高々可算,$\lambda\in\sigma(T)\backslash\{0\}$に対し$\text{Ker}(\lambda I-T)$は有限次元,集積点は$0$以外に存在しない.

証明は割愛しますが,単位球のコンパクト性と有限次元であることの同値性やフレドホルム作用素の理論から導かれるのでした.さらに$T$が自己共役であれば,固有値が実数であること,各固有空間は互いに直交することが簡単な計算でわかります.

本題に入る前に補題を用意します.
以下では$G$をコンパクト群とし(両側不変測度が存在するので),Haar測度$dg$$\int_Gdg=1$となるように選びます.Banach空間に値を持つ関数の積分を通常のRiemann積分と同様に定義します.Riemann積分では絶対値のノルムとしての性質だけを使っていたので,同様に積分の理論が展開できることを注意しておきます.

$(\pi,V)$$G$のユニタリ表現($G$から$V$のユニタリ群への準同型),$ p$を写像$ p:V\to V$,$v\to \int _G \pi(g)v\ dg$とする.$V$$G-$不変な元全体を$V^G(:=\{v\ |\ \forall g\in G,\pi(g)v=v\})$で表す.このとき,$p$$V$から$V^G$への直交射影である.

まず$p(V)\subseteq V^G$を示す.$g^{\prime}\in G$,$v\in V$とすると,
$\pi(g^{\prime})p(v)=\pi(g^{\prime})\int_G \pi(g)v\ dg=\int_G \pi(g^{\prime})\pi(g)v\ dg$
$=\int_G \pi(g^{\prime}g)v\ dg=\int_G \pi(g)v\ dg=p(v)$.

次に,$V^G$上で恒等写像であることを見る.
$v\in V^G$とすると$\forall g\in G,\pi(g)v=v$なので
$p(v)=\int_G\pi(g)v\ dg=\int_G v\ dg=v$.

自己共役性は$ *$のノルム連続性から明らか.$\Box$

コンパクト群の既約ユニタリ表現の有限次元性

$G$の任意の既約ユニタリ表現は有限次元である.

$G$の任意のユニタリ表現$(\pi,V)$に,有限次元の既約な部分空間$W$が存在することを示す.
$v\in V$,$\|v\|=1$なる$v$をとり,$v$が生成する部分空間への直交射影を$P$と置く.$P$は有限階で自己共役である.$V$上の表現$g\mapsto (A\mapsto \pi(g)^{-1}A\pi(g))$に対し(ユニタリ表現ではないが)補題$2$の議論を用いると,$\tilde{P}:=\displaystyle\int_G \pi(g)^{-1}P\pi(g)\ dg$はこの新しく定義した作用での不変元,つまり$ \tilde{P}$$(\pi,V)$ の自己$ G-$準同型である.また,各$g\in G$に対し$\pi(g)^{-1}P\pi(g)$が有限階作用素であることに注意すると,$H$上のコンパクト作用素の全体はノルム閉であることから$\tilde{P}$もコンパクトである.そこで,定理$1$$\tilde{P}$に適用する.$0$以外の固有値を$\lambda_k$,$k\in \mathbb{N}$と置き,対応する固有空間を$V_{\lambda_k}$と置く.また,$V_0=\text{Ker}\tilde{P}$と置く.
$v\perp V_0$であることを示す.すると,$V_{\lambda_k}\neq 0$となるような$\lambda_k$の存在がわかり,これは$G-$不変な有限次元部分空間であるから,証明が完了する.実際,$G-$不変性は$w\in V_{\lambda_k}$とすると$\tilde{P}\pi(g)w=\pi(g)\tilde{P}w=\lambda_k\pi(g)w$従って,$\pi(g)w\in V_{\lambda_k}$となることから分かる.
$u\in V_0$とする.$\tilde{P}u=0$だから,
$0=(\tilde{P}u,u)=\displaystyle\int_G (P\pi (g)u,\pi(g)u)\ dg=\displaystyle\int_G (P\pi (g)u,P\pi(g)u)\ dg$
$G\to V$,$g\mapsto P\pi(g)u$は表現の連続性から連続だから,
$\forall g\in G$,$P\pi(g)u=0$.特に$g=e$として$Pu=0$.示された.

コンパクト作用素の性質を用いて無限次元を含めた議論を有限次元に限定することができました.見事な応用です.

参考文献
黒田 成俊, 関数解析, 共立出版
小林 俊行, 大島 利雄, リー群と表現論,岩波書店

投稿日:512
更新日:512

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