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現代数学解説
文献あり

代数幾何の問題をいろいろ使って解く

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$$\newcommand{LT}[0]{\textsf{LT}} \newcommand{md}[0]{\text{multideg}} \newcommand{Spec}[0]{\text{Spec}} $$

はじめに

Hartshorneの演習2.3.15に, 次のような問題があります.
以下$k$を代数閉とは限らない体, $X$$k$上の有限型スキームとします.
また, 体$K$に対して$\bar{K}$$K$の代数閉包を表し, $\Spec K$を単に$K$と書きます.

[1]演習2.3.1.5(a)(幾何的既約スキームの特徴づけ)

以下の同値性を示せ. このとき, $X$は幾何的既約スキームという.

  1. $X\times_k \bar k$は既約.
  2. 任意の拡大体$K$に対して$X\times_k K$は既約.
[1]演習2.3.1.5(b)(幾何的被約スキームの特徴づけ)

以下の同値性を示せ. このとき, $X$は幾何的被約スキームという.

  1. $X\times_k \bar k$は被約.
  2. 任意の拡大体$K$に対して$X\times_k K$は被約.

なお, これらを両方みたすスキームを幾何的整スキームとよび, $k$上の代数多様体の幾何的性質を記述するときの基本的な概念です.

これらの問題に対して, モデル理論と計算機科学の道具を使ったアプローチを思いついたので紹介します. 問題をうまく分割することで, かなり見通しの良く直感的な証明ではないかと思います. この$2$つについては基本的な定義を知っていれば予備知識はあまりいらないように書いたつもりです.

モデル完全性について

この記事で使うモデル理論の道具はモデル完全性だけです.

$T$を理論とする. 任意の$M, N\vDash T$($M\subseteq N$)および論理式$\phi(\bar a)$($\bar a$$M$の元のタプル)に対し,
$M\vDash \phi(\bar a)\Leftrightarrow N\vDash \phi(\bar a)$
であるとき, $T$モデル完全であるという.

モデル完全性について, 以下が知られています.

標数を固定した代数閉体の理論, 係数として無限体$k$を固定したベクトル空間の理論はいずれもモデル完全である. なお, それぞれの言語は環の言語, および加法と$k$の元によるスカラー倍である.

[2]定理3.3.3, 定理3.3.11, 補題3.2.7より従う.

一回量化子消去を経由する証明が楽だと思います.

幾何的既約スキームについて

既約性とは, 交わらない空でない開集合が存在しないことでした.


(ii)$\Rightarrow$(i)は明らかなので逆を示す.

$X\times_k K$が既約でないとき, $X\times_k \bar K$も既約でない.

$X\times_k K$の交わらない空でない開部分スキーム$U, V$をとる. ファイバー積の性質より, $X\times_k K\times_K \bar K=X\times_k \bar K$において
$$(U\times_K \bar K)\cap (V\times_K \bar K)=(U\cap V)\times_K \bar K=\emptyset$$
なので示された.

$X\times_k \bar K$が既約でないとき, $X\times_k \bar k$も既約でない.

一般に, $X\times_k \bar k$を一般の$\bar k$上の有限型スキーム$X$でおきなおす.
$X\times_\bar k \bar K$の交わらない空でない開部分スキーム$U, V$をとる.
$X\times_\bar k \bar K$のアフィン開被覆として, $\{U_i\times_\bar k \bar K\}$をとることができるが, そのうち$U$, $V$と交わるものを$1$つずつ固定し, $\Spec A_U\times_\bar k \bar K$および$\Spec A_V\times_\bar k \bar K$とする. ここで, $A_U, A_V$はいずれも有限生成$\bar k$代数である.

$U'=\Spec A_U, V'=\Spec A_V$とする.
$U'\cap V'=\emptyset$なら示すことはない. そうでない場合を考える.
$U$$U\cap(U'\times_\bar k\bar K)$に取り替えるなどすることにより, $U\subseteq U'\times_\bar k\bar K$, $V\subseteq V'\times_\bar k\bar K$とする.

いま, $U', V'$$\bar k$-閉点全体はそれぞれある正整数$m, n$について$\bar k^m, \bar k^n$$\bar k$-definable部分集合である. それぞれの定義論理式を$\phi',\psi'$とおく. さらに, $U'$$V'$の張り合わせから誘導される閉点の間の写像も$\bar k$-definableである. 実際, この射は有限生成$\bar k$-代数の間の同型から誘導されるのでよい. これを$f$とおく.

さらに, $U'\times_\bar k\bar K, V'\times_\bar k\bar K$$\bar K$-閉点全体の集合はそれぞれ$\phi', \psi'$から定まり, $U, V$$\bar K$-閉点全体の集合はそれぞれ$\bar K^m, \bar K^n$$\bar K$-definable部分集合である. 定義論理式をそれぞれ$\phi(\bar x, \bar a), \psi(\bar x, \bar b)$とおく. ここで, $\phi(\bar x, \bar y), \psi(\bar x, \bar y)$はいずれも$\bar k$係数で, かつ$\phi', \psi'$および量化子がなくnegativeな(原始とは限らない)論理式の論理積であり, $\bar a, \bar b\in\bar K$である.

いま, Hilbertの零点定理より, 一般に代数閉体$L$上の空でない有限型スキームは$L$-点をもつ. したがって,
\begin{align*} \bar K\vDash & (\lnot\exists \bar x(\phi(\bar x, \bar a) \land\psi(f(\bar x), \bar b))) \\ & \land \forall \bar x((\phi(\bar x, \bar a)\to\phi'(\bar x))\land(\psi(f(\bar x), \bar b)\to\psi'(\bar x)))\\ & \land \exists \bar x\phi(\bar x, \bar a)\land\exists \bar x\psi(f(\bar x), \bar b) \end{align*}

であるため, 特に
\begin{align*} \bar K\vDash & \exists \bar y \exists \bar z(\lnot\exists \bar x(\phi(\bar x, \bar y) \land\psi(f(\bar x), \bar z))) \\ & \land \forall \bar x((\phi(\bar x, \bar y)\to\phi'(\bar x))\land(\psi(f(\bar x), \bar z)\to\psi'(\bar x)))\\ & \land \exists \bar x\phi(\bar x, \bar y)\land\exists \bar x\psi(f(\bar x), \bar z) \end{align*}
である. 代数閉体のモデル完全性より,
\begin{align*} \bar k\vDash & \exists \bar y \exists \bar z(\lnot\exists \bar x(\phi(\bar x, \bar y) \land\psi(f(\bar x), \bar z))) \\ & \land \forall \bar x((\phi(\bar x, \bar y)\to\phi'(\bar x))\land(\psi(f(\bar x), \bar z)\to\psi'(\bar x)))\\ & \land \exists \bar x\phi(\bar x, \bar y)\land\exists \bar x\psi(f(\bar x), \bar z) \end{align*}
がしたがう. よって, このような$\bar y=\bar c, \bar z=\bar d\in\bar k$を代入した$\phi(\bar x, \bar c), \psi(\bar x, \bar d)$から誘導される開部分スキームは, $X$の交わらない空でない開部分スキームを与える.

以上で(i)$\Rightarrow$(ii)が示された.


既約なら点を減らしても既約というのは容易ですが, 点を増やしても既約というのはかなり非自明です. この証明では, その大変さをモデル理論に押し付けています.

幾何的被約スキームについて

既約スキームは純粋に幾何的な条件だったのでdefinableな集合の議論に落としてよく扱いやすかったですが, 被約性は代数的な条件を見ないといけないので, 少し道具が必要になります.

イデアルの扱い

代数的な条件をある種有限な論理式に落とし込むために, ここではGröbner基底を使います.


以下, $\mathbb Z^n_{\ge0}$における単項式順序(平行移動で保たれる整列全順序)$>$$1$つ固定する.

[3]2.3 定理3

$F=(f_1, \ldots, f_s)$$k[x_1, \ldots ,x_n]$の順序付けられた$s$個の多項式の組とする. このとき, どの$f\in k[x_1, \ldots ,x_n]$$q_i, r\in k[x_1, \ldots ,x_n]$を用いて
$$f=q_1f_1+\cdots+q_sf_s+r$$
と書け, 以下が成立する.

  • $r$に登場するすべての単項式は$\LT(f_1), \ldots, \LT(f_s)$のいずれでも割り切れない.
  • $q_if_i\neq0$ならば$\md(f)\ge\md(q_if_i)$である.

ここで, $\LT$はこの単項式順序について最も指数が大きい項, $\md$はそのような項の$x_1, \ldots, x_n$の次数を並べた$\mathbb Z^n_{\ge0}$の元をさす.

[3]2.5 定義5

$k[x_1, \ldots ,x_n]$のイデアル$I$の, $0$を含まない有限部分集合$G=\{g_1, \ldots, g_t\}$Gröbner基底であるとは,
$$\langle\LT(g_1), \ldots, \LT(g_t)\rangle=\langle\LT(I)\rangle$$
であることをいう. なお, 左辺は$I$に属するすべての$0$でない多項式の$\LT$で生成されるイデアルである.

[3]2.5 系6

$k[x_1, \ldots ,x_n]$のすべてのイデアル$I$はGröbner基底をもち, これは$I$を生成する.

Gröbner基底の定義自体は今回証明では用いず, 次の性質を用いる.
$k[x_1, \ldots ,x_n]$のイデアル$I$およびGröbner基底$G=\{g_1, \ldots, g_t\}$をとる.

[3]2.6 命題1

$f\in k[x_1, \ldots ,x_n]$に対して, 次をみたす$r\in k[x_1, \ldots ,x_n]$がただ$1$つ存在する.

  • $r$に登場するすべての単項式は$\LT(g_1), \ldots, \LT(g_t)$のいずれでも割り切れない.
  • $f-r\in I$

命題4と命題6を組み合わせることで, 次を得る.

任意の$f\in I$に対して, ある$q_1, \ldots, q_s\in k[x_1, \ldots ,x_n]$が存在して
$$f=q_1g_1+\cdots+q_sg_s$$
と書け, 以下が成立する.

  • $q_ig_i\neq0$ならば$\md(f)\ge\md(q_ig_i)$である.

これを用いることで, 以下の命題を示すことができる.

$k\subseteq K$を体の拡大とする.
$I$$K[x_1, \ldots ,x_n]$のイデアルとし, $k$係数多項式からなる生成系をもつとする. このとき, 次の集合は$K^{|D|}$$k$-definable部分集合である.
$$\{(a_d)_{d\in D}\in K^{|D|}\mid \sum_{d\in D}a_dx^d\in I\}$$
なお, $D$$\mathbb Z^n_{\ge0}$の有限部分集合であり, $d=(d_1, \ldots, d_n)\in \mathbb Z^n_{\ge0}$に対して$x^d$$x_1^{d_1}\cdots x_n^{d_n}$をあらわす.

すなわち, イデアルに属するという述語は定義可能である.

多項式順序として, 次数付き辞書式順序を用いる. すなわち, $n$個の値の総和による順序を入れたのち, 同じものに対しては辞書式順序を定める. $I$$k[x_1, \ldots ,x_n]$への縮約のGröbner基底$G=\{g_1, \ldots, g_t\}$をとる. このとき, Gröbner基底の定義より, $G$$I$のGröbner基底でもある(例えば$K$$k$ベクトル空間としてみると, 線形代数の解の存在性に帰着される).

$d_0=\max D$とする. このとき, 各$g\in G$に対して, $\md(qg)\le d_0$なる$q\neq 0$$\md$としてありうるものは高々有限個である.
実際, $\md(qg)=\md(q)+\md(g)$であり, 次数付き辞書式順序において次数$d_0$以下の次数は有限通りなので, 示された.

これと命題7より
$$\sum_{d\in D}a_dx^d\in I\Leftrightarrow \cdots\exists c_{i, d}\cdots\left(\sum_{d\in D}a_dx^d=\sum_{i=1}^tg_i\left(\sum_{d\le d_0}c_{i, d}x^d\right)\right)$$
の右辺は$k$-論理式であり, 上の同値性が成立する. なお, $c_{i, d}$の添え字は右辺の総和の範囲の数だけ存在するものとする.

上の命題は一見Hilbertの基底定理を用いて有限な生成系をとるだけで示せそうに見えるが, 実際は「より次数の高い多項式を一度経由した結合として書ける」ようなイデアルの元を考慮できていない.

もとの問題の解答

上の定理8を用いることで, もとの問題への解答を与えることができます.


(ii)$\Rightarrow$(i)は明らかなので逆を示す.
被約性とは, すべての切断が$0$でない冪零元を持たないことであり, それはある開基上のすべての切断が$0$でない冪零元を持たないことと同値である.

$X\times_k K$が被約でないとき, $X\times_k \bar K$も被約でない.

$X$が初めから$K$上の有限型スキームとして, $X\times_k K$$X$で置き換えてよい.
$X$が被約でないとするとき, あるアフィン開集合$\Spec A=\Spec K[x_1, \ldots, x_n]/I$上の$0$でない冪零な切断が存在する. すなわち, $K[x_1, \ldots, x_n]/I$は被約でない. $K[x_1, \ldots, x_n]$の元$f$および正の整数$N$であって, $f\notin I$かつ$f^N\in I$なるものをとる. このとき, $I$$\bar K[x_1, \ldots, x_n]$への拡大$I^e$についても$f^N\in I^e$である.

以下$f\notin I^e$を示す. $k$が無限体の場合は以下のような方法が使える.
$f\in I^e$と仮定すると, $I$の適当な生成元$g_1, \ldots, g_s\in K[x_1, \ldots, x_n]$に対して, ある$q_1, \ldots, q_s\in \bar K[x_1, \ldots, x_n]$が存在して,
$$f=q_1g_1+\cdots+q_sg_s$$
が成立する. ここで, $q_i=\sum a_{i, d}x^d$とおくと,
$$K\vDash\cdots\exists c_{i, d}\cdots\left(f=g_1\sum c_{1, d}x^d+\cdots+g_s\sum c_{s, d}x^d\right)$$
であるが, 右辺は実は$k$ベクトル空間の言語で書くことができる. したがって, $k$ベクトル空間のモデル完全性より
$$k\vDash\cdots\exists c_{i, d}\cdots\left(f=g_1\sum c_{1, d}x^d+\cdots+g_s\sum c_{s, d}x^d\right)$$
である. 特に, $f\in I$となり, 矛盾する.

なお, $k$ベクトル空間のモデル完全性はもちろん$k$が有限体の場合は成立しない. その場合は(も)今回は右辺が線型方程式の解の存在を言っているだけなので, モデル理論の道具を使わずとも線形代数の議論だけで示せる.

$X\times_k \bar K$が被約でないとき, $X\times_k \bar k$も被約でない.

先と同様にして, $\bar K[x_1, \ldots, x_n]$の元$f$および正の整数$N$であって, $f\notin I$かつ$f^N\in I$なるものをとる. ここで, $I$$k$係数の生成系をもつ.
$f$を係数の多項式とみて,
$$f=f(a_d; x_1, \ldots, x_n)=\sum_{d\in D}a_dx^d$$
とおく. このとき, 定理8より
$$ \bar K\vDash \cdots \exists c_d\cdots (f(c_d)\notin I \land f(c_d)^N\in I) $$
の右辺は$k$-論理式として形式化可能であり, 上の式が成立する. したがって, 代数閉体のモデル完全性より
$$ \bar k\vDash \cdots \exists c_d\cdots (f(c_d)\notin I \land f(c_d)^N\in I) $$
が従い, 特に, $X\times_k \bar k$は被約でない.

以上で(i)$\Rightarrow$(ii)が示された.

まとめ

代数方程式を解くという文脈では, 問題を小さい代数閉体にとりかえても問題ないというのは直感的だと思います. そのような直感を厳密な数学に落とし込むときに部分的に数理論理学の道具が使えるのは興味深いと感じます.

もしなにか不備があれば教えてください.

参考文献

[1]
R.Hartshorne, 代数幾何学1, 丸善出版, p. 127
[2]
K.Tent, M.Ziegler, A COURSE IN MODEL THEORY, Cambridge University Press, p34, pp. 38-41
[3]
D.Cox, J.Little, D.O'Shea, グレブナー基底と代数多様体入門 上, 丸善出版, pp. 65-104
投稿日:9日前
更新日:8日前
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りぼーす
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東大数学科3年

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