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Feynman techniqueとその実例(実例編)

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級数botの積分にFeynman techniqueのいい実例があったので、解いていこうと思います。
問題の積分はこれです。

級数bot

$$ \int_{0}^{\pi}\ln(\frac{5}{4}+\cos x)dx=0 $$

素直に原始関数を求めようとすると対数積分$Li_2$が登場し、余裕で大学範囲に突入してしまいます。積分範囲と被積分関数の形からking propertyが刺さりそうにも見えますが、試してみるとうまく整理しきれないことがわかります。どうにか高校範囲(と言い張れる程度の逸脱)で求積できないでしょうか。
ここで登場するのがFeynman techniqueです。

Feynman technique

関数f(x,y)がyについて偏微分可能で、偏導関数が連続なら
$$ \frac{d}{dy}\int_a^bf(x,y)dx=\int_a^b \frac{ \partial }{ \partial y } f(x,y)dx $$

偏微分までならギリギリ高校範囲と言い張れるので[要出典]、当然このテクニックもギリギリ高校範囲と言い張ることができます。

では、実際に冒頭の積分をFeynman techniqueを使って求積してみましょう。
まず、冒頭の積分の被積分関数は1変数関数ですから、パラメータを導入してFeynman techniqueを使える形に持ち込む必要があります。$\frac54$をパラメータに置き換えるのが良いでしょう。すると、積分結果はパラメータについての関数になります。これをfとしましょう。

$$ f(a)=\int_0^{\pi}\ln(a+\cos x)dx $$

この形ならばFeynman techniqueが適用できます。やってみましょう。
\begin{eqnarray} \frac{d}{da}f(a)=\int_0^{\pi} \frac{ \partial }{ \partial a } \ln(a+\cos x)dx\\ =\int_0^{\pi} \frac{1}{a+\cos x}dx \end{eqnarray}
まだどうにかなりそうな形になりましたね。
とはいえ簡単に積分できる形には見えません。ですが三角関数の有理式なので伝家の宝刀†半角正接置換†を使えばどうにかなります。やってみましょう。
\begin{eqnarray} \int_0^{\pi} \frac{1}{a+\cos x}dx=\int_0^∞\frac{1}{a+\frac{1-t^2}{1+t^2}}\frac{2}{1+t^2}dt(t=\tan^{-1}(\frac{x}2))\\ =\int_0^∞\frac{2}{(a+1)+(a-1)t^2}dt \end{eqnarray}
ここでaの定義域を確認する必要があります。この手の積分は(実数範囲では)$t^2$の係数の符号に応じて解き方が変化するためです。
f(a)の定義に立ち返ってみると、a<1では被積分関数が発散する区間が存在するため、積分が有限に定義されるためにはa≧1が必要であることがわかります。つまりa-1は非負ですから、$\frac1{1+x^2}$系の積分に帰着できますね。
\begin{eqnarray} \int_0^∞\frac{2}{(a+1)+(a-1)t^2}dt=\frac{2}{a-1}\int_0^∞\frac{1}{\frac{a+1}{a-1}+t^2}dt\\=\frac{2}{a-1}\int_0^{\frac{\pi}2}\frac{1}{\frac{a+1}{a-1}+(\sqrt{\frac{a+1}{a-1}}\tan(\theta))^2}\frac{\sqrt{\frac{a+1}{a-1}}}{\cos^2(\theta)}d\theta(t=\sqrt{\frac{a+1}{a-1}}\tan(\theta))\\=\frac{2}{a-1}\sqrt{\frac{a-1}{a+1}}\int_0^{\frac{\pi}2}d\theta\\=\frac{\pi}{\sqrt{a^2-1}} \end{eqnarray}
このようにして無事f'(a)を求めることができました。これを積分すればf(a)が求まるはずです。
\begin{eqnarray} f(a)=\int\frac{\pi}{\sqrt{a^2-1}}da=\int\frac{\pi}{\sqrt{\cosh^2(b)-1}}\sinh(b)db(a=\cosh(b))\\=\int\pi db\\=\pi b+C\\=\pi\ln(a+\sqrt{a^2-1})+C \end{eqnarray}
おっと、積分定数を求める必要がありますね。そのためにはf(a)を直接求積できるaを探す必要があります。実際に探してみると、定義域の端であるa=1が都合がいいことがわかります。
\begin{eqnarray} f(1)=\int_0^{\pi}\ln(1+\cos(x))dx=\int_0^{\pi}\ln(1-\cos(x))dx(\mathbb{kingproperty})\\=\frac12\int_0^{\pi}(\ln(1+\cos(x))+\ln(1-\cos(x)))dx\\=\int_0^{\pi}\ln(\sin(x))dx\\=2\int_0^{\frac{\pi}2}\ln(\sin(x))dx \end{eqnarray}
この形にはking propertyが刺さります。$I=\int_0^{\frac{\pi}2}\ln(\sin(x))dx$としましょう。f(1)=2Iです。
\begin{eqnarray} I=\int_0^{\frac{\pi}2}\ln(\sin(x))dx=\int_0^{\frac{\pi}2}\ln(\cos(x))dx(\mathbb{kingproperty})\\=\frac12\int_0^{\frac{\pi}2}\ln(\sin(x)\cos(x))dx\\=\frac12\int_0^{\frac{\pi}2}\ln(\frac{\sin(2x)}2)dx\\=\frac12\int_0^{\frac{\pi}2}\ln(\sin(2x))dx-\frac{\pi\ln 2}4\\=\frac12\int_0^{\pi}\ln(\sin(y))\frac12dy-\frac{\pi\ln 2}4(y=2x)\\=\frac12I-\frac{\pi\ln 2}4 \end{eqnarray}
Iについての一次方程式が導けました。これを解けば$I=-\frac{\pi\ln 2}2$となりますから、$f(1)=-\pi\ln 2$と求めることができました。これを先ほどの式に代入すれば$f(a)=\pi(\ln(a+\sqrt{a^2-1})-\ln 2)$となりますから、あとはa=5/4を代入すればf(5/4)=0となることを示すことができます。

最後に、練習問題を置いて終わりの挨拶の代わりとすることにします。

練習問題

$$ \int_{0}^{\frac{\pi}2}\ln(a+\cos x)dx=0 $$
となる実数aを求めよ。

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