こんにちは.
以下の有名な定理は聞いたことがある方が多いと思います.
5次方程式に, 冪根を用いた解の公式は存在しない.
${}$
しかしこれは, 一般的に冪根で解く方法が存在しないと言っているだけで, 冪根で解ける5次方程式も存在するのです.
Galois群の言葉を使うと, 以下のようになることが知られています.
既約5次多項式$f$の$\Q$上の分解体を$K$, $G=\mathrm{Gal}(K/\Q)$とすると
$$ G=S_5,\ A_5,\ F_{20},\ D_5, \Z/5\Z$$
に限る. ただしここで$F_{20}=\F_5\rtimes\F_5^\times$, $D_5$は位数10の二面体群である.
$G=F_{20},\ D_5, \Z/5\Z$は可解群であり, このとき$f$の根は冪根を用いて表示できる.
${}$
そこで今回は, 冪根で解ける5次方程式を頑張って解いてみます.
${}$
$f(x)=x^5-5x-12$とすると$f(x+2)$は5-Eisensteinなので既約です. 実は次が成り立ちます.
事実: $f$の分解体を$K$として, $\mathrm{Gal}(K/\Q)=D_5$である.
今回はこれを認めて進めていくことにします.
${}$
5解を$x_1~\,x_5 $とおきます. $f(x)$は, グラフを描くとただ1つの実数解と2組の共役な複素数解を持つことが分かるので, $x_2=\bar{x}_1,\,x_4=\bar{x}_3$としておきます. 5解の添え字の入れ替えにより$\mathrm{Gal}(K/\Q)=D_5\subset S_5$とみなします.
複素共役がGalois群の元$\tau=(12)(34)$として存在することに着目します. $\tau$を含み$D_5$と同型な$S_5$の部分群は,
$$ D_5\cong \langle (13425),\tau\rangle,\ \langle (14325),\tau\rangle$$
のどちらかであることが調べると分かります. とりあえず前者だと仮定して, $\sigma=(13425)$とおきます.
${}$
$\langle\sigma\rangle$に対応する中間体を$M$とすると$K/M$は5次, $M/\Q$は2次巡回拡大になります. これが冪根拡大になるために1の原始5乗根$\zeta$も必要なので, 以下のようにします.
$$ \xymatrix@ur{ \Q(\zeta) \ar@{-}[r] & M(\zeta) \ar@{-}[r] & K(\zeta)\\ \Q \ar@{-}[u]^4 \ar@{-}[r]_2& M \ar@{-}[r]_5 \ar@{-}[u] & K \ar@{-}[u] } $$
ただしここで, $M$は複素共役$\tau$で固定されないので虚二次体であり, $K/\Q$の唯一の2次中間体であり, $\Q(\zeta)/\Q$の唯一の2次中間体は$\Q(\sqrt{5})$であることから, $K\cap\Q(\zeta)=\Q$であることを用いました.
Galoisの推進定理より, $\mathrm{Gal}(K(\zeta)/\Q)=\Z/4\Z\times D_5$になります.
${}$
3次方程式の解の公式を真似して, $\zeta$を1の原始5乗根として
$$ (x_1+x_3\zeta +x_4\zeta^2 +x_2\zeta^3 +x_5\zeta^4 )^5$$
が$\sigma=(13425)$で不変なことを利用します. ただしもう少し工夫して, 次のようにします.
${}$
$K[T]$において
$$
\begin{align*}
g(T)=&(x_1+x_3T+x_4T^2+x_2T^3+x_5T^4)^5\\[5pt]
\equiv& a_0+a_1T+\cdots+a_4T^4\mod(T^5-1)
\end{align*}$$
により$a_0~\,a_4\in K$を定めます. これは$\sigma$不変になります.
${}$
具体的には, $b_i=g(\zeta^i)\quad (i=0,1,\ldots,4)$ と定めると $b_i=\sum_{j=0}^4\zeta^{ij}a_j$なので逆に解いて
$$ a_i=\frac15\sum_{j=0}^4\zeta^{-ij}b_j$$
と計算できます. さらにこの表示を見れば, $\Q(\zeta)$同型$\zeta\mapsto\zeta^2$によっても$a_i$は不変なことが分かるので, $a_i\in M$となります.
${}$
しかしさらに, $a_i$は上の$g(T)$の展開係数から来ているので$x_i$たちの整数係数多項式であり, $x_i$たちは$\Z$上整なことから, $a_i$も$\Z$上整, 従って虚二次体の整数環の元であるとわかります. これは十分精密な数値計算により$a_i$を決定できることを意味します!
${}$
まず$x_i$たちをコンピューターで計算すると
$$ \begin{align*}
x_1=&0.3518542408 + 1.7095610433\ i\\
x_2=&0.3518542408 - 1.7095610433\ i\\
x_3=&-1.2728972239 + 0.7197986814\ i\\
x_4=&-1.2728972239 - 0.7197986814\ i\\
x_5=&1.8420859661
\end{align*}$$
となります. これと$\zeta=e^{\frac{2\pi i}5}=\frac{-1+\sqrt{5}}4+\sqrt{\frac{5+\sqrt{5}}8}\,i$を用いて$a_0$を計算してみると $a_0=7492.737751544688+3.069661109878722\times10^{-6}\ i$ となり, 実部が整数にならずおかしいです.
これはなぜかと言うと, 一番最初の$D_5$の選び方が悪かったのです!$\sigma=(14325)$ ととりなおしてもう一度計算しましょう.
${}$
$$ g(T)=(x_1+x_4T+x_3T^2+x_2T^3+x_5T^4)^5 $$
$$ b_i=g(\zeta^i),\quad a_i=\frac15\sum_{j=0}^4\zeta^{-ij}b_j$$
を計算すると,
$$ \begin{align*} a_0=&2499.9999973733643+5.195460197171542\times10^{-7}\ i \\ a_1=&624.9999996662126+2371.708243827056\ i\\ a_2=&-1874.9999997765913+1185.8541228115967\ i\\ a_3=&-1875.0000010267918-1185.8541226816128\ i\\ a_4=&624.9999995678263-2371.7082471941094\ i \end{align*}$$
となり, 合っていそうです!
$a_1$と$a_4$, $a_2$と$a_3$が共役になっているので(これは定義式の共役を地道に計算しても分かりますが), $\Z$係数2次方程式の根となります. 端数はもう無視して
$$ \begin{align*}
a_1+a_4=&1250\quad &a_1a_4=&6015625\\
a_2+a_3=&-3750\quad &a_2a_3=&4921875
\end{align*}$$
これを解くことで,
$$ \begin{align*}
a_0=&2500 \\
a_1=&625+750\sqrt{10}\,i\\
a_2=&-1875+375\sqrt{10}\,i\\
a_3=&-1875-375\sqrt{10}\,i\\
a_4=&625-750\sqrt{10}\,i
\end{align*}$$
と分かりました.
${}$
上の結果から解を表示できます. ただ複素数解は5乗根の偏角の選び方が面倒なので, ここでは実数解$x_5$の表示のみ求めます.
${}$
$$ b_i=g(\zeta^i)=\sum_{j=0}^4\zeta^{ij}a_j$$
は共役不変なことが簡単にわかるので実数です. これの5乗根は実数にただ一つ存在し, それは$g(T)$の定義より
$$ \begin{align*}
\sqrt[5]{b_0}=& x_1+x_4+x_3+x_2+x_5 \\
\sqrt[5]{b_1}=& \zeta x_1+\zeta^2 x_4+\zeta^3 x_3+\zeta^4 x_2+x_5\\
\sqrt[5]{b_2}=&\zeta^2 x_1+\zeta^4x_4+\zeta x_3+\zeta^3 x_2+x_5\\
\sqrt[5]{b_3}=&\zeta^3 x_1+\zeta x_4+\zeta^4 x_3+\zeta^2x_2+x_5\\
\sqrt[5]{b_4}=&\zeta^4 x_1+ \zeta^3 x_4+\zeta^2 x_3+\zeta x_2+x_5
\end{align*}$$
と書けるので,
$$ x_5=\frac{\sqrt[5]{b_0}+\sqrt[5]{b_1}+\sqrt[5]{b_2}+\sqrt[5]{b_3}+\sqrt[5]{b_4}}5$$
となります. (しかし解と係数の関係より$b_0=0$になります.)最後に$b_i$を代入すれば,
$x^5-5x-12=0$の実数解は
$$ \begin{align*} x_5=\frac1{\sqrt[10]{5^3}}\bigg(&\sqrt[5]{10+5\sqrt5+6\sqrt{5+\sqrt{5}}+3\sqrt{5-\sqrt{5}}}\\ +&\sqrt[5]{10+5\sqrt5-6\sqrt{5+\sqrt{5}}-3\sqrt{5-\sqrt{5}}}\\ +&\sqrt[5]{-10+5\sqrt5+6\sqrt{5-\sqrt{5}}-3\sqrt{5+\sqrt{5}}}\\ +&\sqrt[5]{-10+5\sqrt5-6\sqrt{5-\sqrt{5}}+3\sqrt{5+\sqrt{5}}}\ \bigg) \end{align*}$$
となります!
${}$
お疲れ様でした!
${}$
${}$