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4日目

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導入

今回は無限和で表された関数です。
$$ f(x) = \sum_{n\in \mathbb{Z}}\dfrac{2^{n}}{1+x^{2^{n}}} ~~(x>1) = \left(\cdots+\frac{\frac{1}{8}}{1+\sqrt[8]{x}}+\frac{\frac{1}{4}}{1+\sqrt[4]{x}}+\frac{\frac{1}{2}}{1+\sqrt{x}}+\frac{1}{1+x}+\frac{2}{1+x^{2}}+\frac{4}{1+x^{4}}+\frac{8}{1+x^{8}}+\cdots\right)$$
というものを思いつきました。ここで、総和記号の添え字の$n \in \mathbb {Z}$ですが、$n$を全整数に動かしながら足していくことを表しています。総和の上端及び下端の極限の取り方ですが、任意に取ることができます。すなわち、$\lim$記号を用いて書くなら、
$$f(x)=\lim_{\substack{n\rightarrow \infty \\ m\rightarrow \infty}}\sum_{k=-n}^{m}\dfrac{2^{k}}{1+x^{2^{k}}} ~~(x>1)$$
という感じです。
そして、実はこの関数は、
$$f(x)=\frac 1 {\ln(x)}$$
という閉じた形を持ちます。
なので、例えばここに$x=2$を代入すると、
$$\left(...+\frac{\frac{1}{8}}{1+\sqrt[8]{2}}+\frac{\frac{1}{4}}{1+\sqrt[4]{2}}+\frac{\frac{1}{2}}{1+\sqrt{2}}+\frac{1}{1+2}+\frac{2}{1+2^{2}}+\frac{4}{1+2^{4}}+\frac{8}{1+2^{8}}+...\right)=\frac{1}{\ln\left(2\right)}$$
という等式が得られたりします。今回はそんな関数のお話です。では、導出していきましょう。

導出

まず、任意の自然数$n$に対し、$g(x)=1-x^{2^{n}}$を考えます。よく知られた因数分解公式$A^{2}-B^{2} = (A+B)(A-B)$を繰り返し用いて、
$$g\left(x\right)=1-x^{2^{n}}=\left(1+x^{2^{n-1}}\right)\left(1-x^{2^{n-1}}\right)=\left(1+x^{2^{n-1}}\right)\left(1+x^{2^{n-2}}\right)\left(1-x^{2^{n-2}}\right) = \cdots =\left(1-x\right)\prod_{k=0}^{n-1}\left(1+x^{2^{k}}\right) $$です。$x\neq1$のとき、両辺を$1-x$で割って、
$$\frac{1-x^{2^{n}}}{1-x}=\prod_{k=0}^{n-1}\left(1+x^{2^{k}}\right) ~~...①$$という関係が得られます。ここで、$n\rightarrow \infty$の極限を考えます。元の関数$g(x)$が収束するのは、$|x|\le1 $の場合ですが、簡単のため$x\neq\pm1$としておきます。
そうすると、$x^{2^{n}}\rightarrow 0 ~(n\rightarrow 0)$となるので、①から、
$$\frac{1}{1-x}=\prod_{k=0}^{\infty}\left(1+x^{2^{k}}\right) ~~~(|x|<1) ~~...②$$
となります。左辺の$\frac{1}{1-x}$は、初項$1$公比$x$の無限等比級数の和としてよく見かけますね。収束する範囲が$|x|<1$であることからも、

$\displaystyle \sum_{k=0}^{\infty}x^{k}$$\displaystyle \prod_{k=0}^{\infty}\left(1+x^{2^{k}}\right)$は親戚のように思えます。

さて、②の両辺に自然対数$\ln$をとると、
$\displaystyle \ln\left(\frac{1}{1-x}\right)=\ln\left(\prod_{k=0}^{\infty}\left(1+x^{2^{k}}\right)\right)$
となります。真数の積は和に変換できますから、
$$-\ln\left(1-x\right)=\sum_{k=0}^{\infty}\ln\left(1+x^{2^{k}}\right)$$となります。両辺を$x$で微分します。
$\displaystyle \frac{1}{1-x}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{2^{k}x^{2^{k}-1}}{1+x^{2^{k}}}$
両辺に$x$を掛けて、
$\displaystyle \frac{x}{1-x}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{2^{k}x^{2^{k}}}{1+x^{2^{k}}}~~...③$
元の関数$f(x)$に近い形が出てきましたが、これはまだ自然数についてのみ足し上げただけです。負の整数も足さなければなりません。
この次の作業が少しトリッキーです。
まず、$x$の範囲を、$0\le x<1$に制限します。このとき、自然数$n$を用いて、$x=\sqrt[2^{n}]{t}$と置きます。明らかに$0\le t <1$です。
③に代入すると、
$$\frac{\sqrt[2^{n}]{t}}{1-\sqrt[2^{n}]{t}}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{2^{k}t^{2^{k-n}}}{1+t^{2^{k-n}}}~~...④$$
となります。$\left(x^{2^{k}}=\left(\sqrt[2^{n}]{t}\right)^{2^{k}} = t^{\frac{2^{k}}{2^{n}}}=t^{2^{k-n}}\right)$であることに注意してください。
$$\sum_{k=0}^{\infty}\frac{2^{k}t^{2^{k-n}}}{1+t^{2^{k-n}}}=2^{n}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{2^{k-n}t^{2^{k-n}}}{1+t^{2^{k-n}}}~~...⑤$$
なので、新たに$j=k-n$とすると、$k$の取りうる範囲は$0 \le k$なので、$-n \le k-n$より$-n \le j$となります。よって、④⑤から、
$$\frac{\sqrt[2^{n}]{t}}{1-\sqrt[2^{n}]{t}}=2^{n}\sum_{j=-n}^{\infty}\frac{2^{j}t^{2^{j}}}{1+t^{2^{j}}}$$
両辺を$2^{n}$で割って、
$$\frac{2^{-n}\sqrt[2^{n}]{t}}{1-\sqrt[2^{n}]{t}}=\sum_{j=-n}^{\infty}\frac{2^{j}t^{2^{j}}}{1+t^{2^{j}}}~~...⑥$$
あとは、$n\rightarrow \infty$の極限を取るだけです。ここで、
$$\frac{2^{-n}\sqrt[2^{n}]{t}}{1-\sqrt[2^{n}]{t}}=\frac{2^{-n}t^{\frac{1}{2^{n}}}}{1-t^{\frac{1}{2^{n}}}}=\frac{2^{-n}t^{2^{-n}}}{1-t^{2^{-n}}}$$ですから、$\displaystyle 2^{-n}=\alpha$とおくと、$n\rightarrow\infty$$\alpha\rightarrow0$です。
よって、
$$\lim_{n\rightarrow\infty} \frac{2^{-n}t^{2^{-n}}}{1-t^{2^{-n}}}=\lim_{\alpha\rightarrow0} \frac{\alpha t^{\alpha}}{1-t^{\alpha}}~~...⑦$$
これは$\frac 0 0 $の不定形です。ロピタルを使うことも出来ますが、せっかくなのでしっかりと求めてみましょう。
まず求める極限の逆数を取ると、
$\displaystyle \left(\frac{\alpha t^{\alpha}}{1-t^{\alpha}}\right)^{-1}=\frac {1-t^{\alpha}} {\alpha t^{\alpha}}=\frac{\frac{1}{t^{\alpha}}-1}{\alpha}$
ここで、関数$h(x)=t^{-x}$を考えます。今$t$は定数として扱っているので、これは$t$を底とする指数関数です。
そして、$h(0)=t^{0}=1$であるので、先ほどの極限は、
$$\lim_{\alpha\rightarrow0}\frac {h(\alpha)-h(0)} {\alpha -0 }$$とみなせて、これは$h'(0)$に等しく、
$\displaystyle h'\left(x\right)=\frac{d}{dx}\left(t^{-x}\right)=-\ln\left(t\right)\cdot t^{-x}$であることから、
⑦の極限は、
$$ \lim_{\alpha\rightarrow0} \frac{\alpha t^{\alpha}}{1-t^{\alpha}} = \frac 1 {h'(0)}= \frac {-1} {\ln(t)}~~...⑧$$

と求まりました。
よって、⑥⑧から、

$\displaystyle \sum_{j=-\infty}^{\infty}\frac{2^{j}t^{2^{j}}}{1+t^{2^{j}}}=\frac{-1}{\ln\left(t\right)}$

とが得られます。$j$$n$に置きなおして、また、$j$の動く範囲は全整数ですから、結局
$$ \sum_{n \in \mathbb{Z} }\frac{2^{n}t^{2^{n}}}{1+t^{2^{n}}}=\frac{-1}{\ln\left(t\right)}~~(0< t<1)$$
となります。
ここで、$t =\displaystyle \frac 1 x$とすれば、$0< t<1$より$1< x$で、

$\displaystyle \sum_{n \in \mathbb{Z} }\frac{2^{n}\left(\frac{1}{x}\right)^{2^{n}}}{1+\left(\frac{1}{x}\right)^{2^{n}}}=\frac{-1}{\ln\left(\frac{1}{x}\right)}$

より
$$\sum_{n \in \mathbb{Z} }\frac{2^{n}}{1+x^{2^{n}}}=\frac{1}{\ln\left(x\right)}~~(x>1)$$
となります。
(総和の上端と下端の極限の順序について、今回は上端→下端の順に取りましたが、おそらく逆でも可能なはずです。面倒なので省いています。)
よって、$f(x)$の閉じた形が得られました。

応用

さて、$f(x)$自身は全整数を動くわけですが、途中の③に、非負整数のみを動くような式が得られていました。
$\displaystyle \sum_{n\in \mathbb{Z}}\dfrac{2^{n}x^{2^n}}{1+x^{2^{n}}} = \frac {-1} {\ln(x)}~~(0< x<1)$

かつ

$\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\frac{2^{n}x^{2^{n}}}{1+x^{2^{n}}} =\frac{x}{1-x} ~~(0< x<1)$

なので、前者から後者を引いて、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2^{-n}x^{2^{-n}}}{1+x^{2^{-n}}}=\frac{-1}{\ln\left(x\right)}-\frac{x}{1-x}~~...⑨$$
であり、
$x\rightarrow\frac 1 x$として、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2^{-n}}{1+x^{2^{-n}}}=\frac{1}{\ln\left(x\right)}+\frac{1}{x-1}$$
でもあります。そしてこれらの級数に関しては、$x>0$で収束します。

更に、
以前用いた関係式
$$\int_{0}^{1}\frac{t^{x}-1}{\ln\left(t\right)}dt=\ln\left(x+1\right) $$
を用いると、
$$\int_{0}^{1}\sum_{n\in \mathbb{Z}}\frac{2^{n}t^{2^{n}}\left(1-t^{x}\right)}{1+t^{2^{n}}}dt = \ln(x+1)$$

左辺について、積分と総和を入れ替えて
$$\sum_{n\in \mathbb{Z}}2^{n}\int_{0}^{1}\frac{t^{2^{n}}\left(1-t^{x}\right)}{1+t^{2^{n}}}dt $$
$0< t<1$なので、$0< t^{2^{n}}<1$が成り立ちますから、等比級数の和の公式を適用して、
$$=\sum_{n\in \mathbb{Z}}2^{n}\int_{0}^{1}{t^{2^{n}}\left(1-t^{x}\right)}\sum_{k=0}^{\infty}\left({-t^{2^{n}}}\right)^{k}dt $$
またも積分と総和を入れ替えて
$$=\sum_{n\in \mathbb{Z}}2^{n}\sum_{k=0}^{\infty}(-1)^{k}\int_{0}^{1}{t^{k\cdot2^{n}}}{t^{2^{n}}\left(1-t^{x}\right)}dt $$
$$=\sum_{n\in \mathbb{Z}}2^{n}\sum_{k=0}^{\infty}(-1)^{k-1}\int_{0}^{1}{t^{(k+1)\cdot2^{n}}}-t^{x+(k+1)\cdot2^{n}}dt$$
$$=\sum_{n\in \mathbb{Z}}2^{n}\sum_{k=0}^{\infty}(-1)^{k}\left( \frac{1}{2^{n}\left(k+1\right)+1}-\frac{1}{2^{n}\left(k+1\right)+x+1}\right)$$
$$=\sum_{n\in \mathbb{Z}}2^{n}\sum_{k=1}^{\infty}(-1)^{k-1}\left( \frac{1}{2^{n}k+1}-\frac{1}{2^{n}k+x+1}\right)$$
$$ =\sum_{n\in \mathbb{Z}}\sum_{k=1}^{\infty}(-1)^{k-1}\left( \frac{1}{k+\frac {1} {2^{n}}}-\frac{1}{k+\frac {x+1} {2^{n}}}\right)$$
となります。これが$\ln(x+1)$に等しいので、例えば$x=1$を代入すれば、
$$ \sum_{n\in \mathbb{Z}}\sum_{k=1}^{\infty}(-1)^{k-1}\left( \frac{1}{k+\frac {1} {2^{n}}}-\frac{1}{k+\frac {1} {2^{n-1}}}\right)=\ln(2)=0.6931...$$
という等式が得られます。収束速度は遅いので実用的ではありません。
更に、⑨を用いれば、左辺の計算は省略して、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\sum_{k=1}^{\infty}(-1)^{k-1}\left( \frac{1}{k+2^{n}}-\frac{1}{k+{2^{n}(x+1)}}\right) = \ln(x+1)-\int_{0}^{1}\frac{t\left(1-t^{x}\right)}{1-t}dt$$
ここで、
$\displaystyle \int_{0}^{1}\frac{t\left(1-t^{x}\right)}{1-t}dt = \int_{0}^{1}\left(1-t^{x}\right)\sum_{n=0}^{\infty}t^{n+1}dt = \sum_{n=0}^{\infty}\int_{0}^{1}\left(t^{n+1}-t^{n+x+1}\right)dt$
$$=\sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{n+2}-\frac{1}{n+x+2}\right)$$
$$=\sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{n+1}-\frac{1}{n+x+1}\right)-\frac{x}{x+1}$$
$$ =\psi\left(x+1\right)-\frac{x}{x+1}+\gamma$$
ここで、ディガンマ関数$\psi(x)$は、階乗の一般化であるガンマ関数$\Gamma(x)$の対数微分$\displaystyle \frac {d} {dx}\left(\ln(\Gamma(x))\right)=\frac {\Gamma'(x)} {\Gamma(x)}$であり、$\gamma$はオイラーの定数と呼ばれる、調和級数と自然対数の差の極限$\displaystyle \lim_{n\rightarrow\infty} \left(\sum_{k=1}^{n}\frac 1 k -\ln(n) \right)$で定義される定数で、その値はおよそ$0.5772...$です。
いまだ無理数かどうか分かっていないなど、この定数自身も非常に興味深い数ですが、今回はひとまずおいておいて、
結局、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\sum_{k=1}^{\infty}(-1)^{k-1}\left( \frac{1}{k+{2^{n}}}-\frac{1}{k+ {2^{n}(x+1)}}\right) = \ln(x+1)-\psi\left(x+1\right)+\frac{x}{x+1}-\gamma$$
となります。
$x=1$を代入すれば、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\sum_{k=1}^{\infty}(-1)^{k-1}\left( \frac{1}{k+{2^{n}}}-\frac{1}{k+ {2^{n+1}}}\right) = \ln(2)-\psi\left(2\right)+\frac{1}{2}-\gamma = 0.19314...$$
などが得られます。

まとめ

いかがだったでしょうか。高校生+$\alpha(\alpha \rightarrow 0)$の存在でも、身近なところから思わぬ表現が得られるのは嬉しいものです。
今回はこれで終わりです。

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