ベクトル空間に次の3つの公理を満たす演算を導入します。
これを幾何積といいます。演算子はありません。ベクトル$u$と$v$の幾何積は$uv$と表します。
幾何積の特徴はなんといっても縮約公理です。縮約公理とは任意のベクトル$u$について、その自身との積(これを平方といいます)$uu = u^2$がスカラーになる公理です。この公理がベクトル空間に幾何的な性質を与えると言っても言い過ぎではありません。
このスカラーの値は具体的には何か。あえてここでは立ち入りません。それでも十分に多くのことが言えるのです。
双線形であるとは、積の一方を固定して定まる単項演算が線形写像になるということです。分配法則と言った方が分かりやすいかもしれません。
ということは、結果全体はベクトル空間になるということを前提としているわけです。しかし、もとのベクトル空間とは違うベクトル空間です。というのは、縮約公理があるからです。結果がスカラーになることがあるからです。
ここでは結果全体がベクトル空間になるかは確かめません。ベクトル空間になることを受け入れるという立場です。
縮約公理から幾何積の結果はスカラーにもなります。そのため幾何積$uuv$を考えると、これはスカラー$u^2$とベクトル$v$の幾何積ということになります。また幾何積$uuvv$を考えると、これはスカラー$u^2$とスカラー$v^2$の幾何積になります。
ここでスカラーとベクトルもしくはスカラーとスカラーの幾何積を次のように定めます。
スカラー倍もスカラー乗法も演算子がありません。そのため、幾何積と混同のおそれがありましたが、同じものとするため問題はなくなりました。また、スカラーの幾何積は結合則も双線形性も満たします。そうである必要はないのですが縮約公理も満たしています。
ここまで見た性質はほとんど自明なものでしたが、ここで非自明でかつ幾何代数において重要な定理があります。それが反可換子はスカラーであるという定理です。
反可換子とは$uv + vu$という形の和のことです。これを$\{u, v\}$と書きます(反可換子については別の記事で詳しく書きます)。反可換子がスカラーであるとは、任意のベクトル$u$, $v$について$uv + vu$は必ずスカラーになる、ということです。
任意のベクトル$u$, $v$について$uv + vu$はスカラーである
$u$, $v$を任意のベクトルとします。$u + v$もベクトルです。そのためその平方$ (u + v)^2$はスカラーになります。これを双線形性(分配則)によって展開すると、
$$ (u + v)^2 = u^2 + uv + vu + v^2 $$
となります。反交換子$uv + vu$が現れました。変形すると、
$$ uv + vu = (u + v)^2 - u^2 - v^2 $$
となります。右辺はスカラーから2つのスカラーを引いた値です。そのため、その結果はスカラーです。
反交換子がスカラーであることがこういうことも言えます。
$u$と$v$が可換であるとき、$u$と$v$の幾何積$uv = vu$はスカラーである。
というのは反可換子が$uv + vu = 2uv = 2vu$になるからです。