自分用のノート
半順序集合における閉包作用素と一対一に対応する閉包系の定義は以下の記事で与えた。
https://mathlog.info/articles/p9hqeT28X8LfihyNs8Iq
しかし半順序集合において、いくつかの閉包系の共通部分が再び閉包系になるかどうかは分かっていなかった。
この記事はその回答である。
半順序集合$P$のいくつかの閉包系の共通部分であって、閉包系でないものが存在する。
閉包系の共通部分が閉包系になる条件は何だろうか?
半順序集合$P$上の任意個の閉包系の共通部分が閉包系になるとき、$P$は閉包系完備(closure system comptele)であると言うことにする。
半順序集合$P$の任意の空でない鎖が上限を持つとき、$P$は鎖完備(chain complete)であると言う。
$P$が鎖完備 ⇒ $P$は閉包系完備
[⇒]
$P$を鎖完備な半順序集合とする。
$(S_i)_{i \in I}$を$P$上の閉包系の族とする。
$(\cl_i)_{i \in I}$を各$S_i$に対応する閉包作用素とする。
$S = \bigcap_{i \in I}S_i$と置く。
$x \in P$を取る。
$↑^Px \cap S$が最小元を持つことを示す。
[⇐]
は成り立つのか?
成り立たない。
対偶の否定が成り立つ。即ち、
鎖完備でないが、閉包系完備である例が存在する。
$A = \{0, 1\}$をアルファベットとし、$P = A^*$を「$0$と$1$からなる有限文字列の全体」とする。(空文字列$\epsilon$も含む)
$P$上の半順序$\le$ を、「接頭辞であること」として定義する。
すなわち、$s \le t$とは、ある文字列$u \in P$が存在して$t = su$となることとする。
この半順序集合 $P$ は、根($\epsilon$)を一番下とする、上に無限に伸びる完全二分木になる。
[$P$は鎖完備でない]
$\indent$$C = \{\epsilon, 0, 00, 000, 0000, \dots \}$と置く。
$\indent$$C$は鎖であるが、上界すら持たず、当然上限も持ちえない。
$\indent$ゆえに $P$ は鎖完備ではない。
[$P$の閉包系は$P$のみである]
$\indent$$P$自身はもちろん閉包系である。
$\indent$$P$の閉包系$S$を取る。
$\indent$$S \neq P$と仮定する。
$\indent$$S \neq P$と仮定すると、ある$x \in P \setminus S$が存在する。
$\indent$$S$は閉包系であるから、定義より$\uparrow^P x \cap S$は最小元を持つ。
$\indent$これを$y$とする。
$\indent$$x \notin S$かつ$y \in S$であるから、$x \neq y$
よって、$x < y$
$\indent$$y$は接頭辞として$x$を持つ文字列であるから、$x$の直後に$0$か$1$のどちらかが続く。
$\indent$[$y \ge x0$の場合]
$\dindent$ここで、二分木のもう一方の枝である $x1$ に注目する。
$\dindent$$x1 \in P$であり、$S$は閉包系だから、同様に $\uparrow^P x1 \cap S$ も最小元を持つ。
$\dindent$$\uparrow^P x1 \cap S$は空ではないから、$z \ge x1$なる$z \in S$が取れる。
$\dindent$この時、$z \ge x1 > x$であるから、$z \in \uparrow^P x \cap S$
$\dindent$$y$は$\uparrow^P x \cap S$の最小元だから、$y \le z$
$\dindent$しかし、$y \ge x0$と$z \ge x1$は最初の分岐が異なるから、一方が他方の接頭辞になることは決してなく、$y$と$z$は比較不能。
$\dindent$これは$y \le z$に矛盾。
$\indent$[$y \ge x1$の場合]
$\dindent$同様に矛盾
$\indent$従って、$S=P$
[$P$の閉包系の任意交叉は閉包系]
$\indent$$P$の閉包系は$P$のみであるから、任意交叉が再び閉包系になる。
どうすれば同値になるのだ?
更に弱くしてみよう。
鎖完備の場合の証明にフリーライドするとすれば、
「任意の$x \in P$と任意の$S \subset P$($S\ \cap ↑^Px \not= \varnothing$)に対し、$X=\set{z \in P\ |\ x \le z\ \text{かつ}\ \forall s \in ↑^Px \cap S, z \le s}$が極大元を持つ」
とかかな?
これは鎖完備より真に弱いのか?
この条件を局所極大条件(locally maximal condition)と呼ぶことにする。
$P$が鎖完備 ⇒ $P$が局所極大条件を満たす
$P$を鎖完備な半順序集合とする。
$x \in P$を取る。
$P$の部分集合$S$($S\ \cap ↑^Px \not= \varnothing$)を取る。
$X=\set{z \in P\ |\ x \le z\ \text{かつ}\ \forall s \in ↑^Px \cap S, z \le s}$と置く。
$T \underset{total}{\subset} X$を取る。($T \not= \varnothing$)
$P$は鎖完備だから、$T$は上限$t_0 \in P$を持つ。
[$t_0 \in X$]
[$x \le t_0$]
$T$の適当な元$t$に対し、$x \le t \le t_0$
より、$x \le t_0$
[$\forall s \in ↑^Px \cap S, t_0 \le s$]
$s \in ↑^Px \cap S$を取る。
$s$は$T$の上界。
$t_0$は$T$の最小上界であるから、$t_0 \le s$
従って、$t_0 \in X$
よって、Zornの補題より、$X$は極大元を持つ。
従って、$P$は局所極大条件を満たす。
局所極大条件 ⇔ $\forall x \in P,\ \forall U \subset ↑^Px\ \ (U \not=\varnothing), \ ↓^PU \cap ↑^Px$が極大元を持つ
[⇒]
$x \in P$を取る。
$U \subset ↑^Px$を取る。($U \not= \varnothing$)
$S = U$として局所極大条件を適用すれば、
$X=\set{z \in P\ |\ x \le z\ \text{かつ}\ \forall s \in ↑^Px \cap S, z \le s}$
$=\set{z \in P\ |\ x \le z\ \text{かつ}\ \forall s \in U, z \le s}$
$=↓^PU \cap ↑^Px$
が極大元を持つ。
[⇐]
$x \in P$を取る。
$S \subset P$を取る。($S\ \cap ↑^Px \not= \varnothing$)
$U = ↑^Px \cap S$と置くと、$U \subset ↑^Px$である。
よって仮定より、$↓^P U \cap ↑^P x$
$=\set{z \in P\ |\ x \le z\ \text{かつ}\ \forall s \in ↑^Px \cap S, z \le s}$
は極大元を持つ。
鎖完備でないが、局所極大条件を満たす例が存在する。
上で作った二分木の例は局所極大条件を満たす。
$x \in P$を取る。
$U \subset ↑^Px$を取る。($U \not= \varnothing$)
$X = ↓^PU \cap ↑^Px$と置く。
[$X$は全順序]
$\indent$$a,b \in X$を取る。
$\indent$適当な$u \in U$に対し$a,b \le u$であるから、$P$の構造的に、$a$と$b$は比較可能。
$U$の元の文字長の最小値を$n$とする。
$X$に最大元が無いと仮定すると、より大きい元を$X$の中から取り続けられる。
これを有限回続けることで、いつか長さ$n$を超える元$z$を$X$から取れる。
しかし、これは$z$は$U$の文字長$n$の元の下界ではないことを言っていて、それは$X \subset ↓^PU \cap ↑^Px$に矛盾。
従って、$X$は最大元(極大元)を持つ。
この例より、局所極大条件は鎖完備より真に弱いことが示された。