可換環には、Jacobson環と呼ばれる重要なクラスがあります。本記事では、筆者が把握しているJacobson環の特徴づけ(全部で14個)をすべて証明します。
本記事では、環といえば常に単位的結合的な可換環とします。また、環$A$に対して以下の記号を使います。
また、命題等の引用において、なぜか番号がずれているので注意(リンクは正しい)。
特徴づけの一部のためGoldmanイデアルというマイナーな概念を用いるので、それを準備します。
$R$を整域、$K$をその商体とする。このとき次は同値となる。
(1) $K$は$R$上有限型である。
(2) $K$は$R$代数として一つの元で生成される。
これらの同値な条件が満たされるとき、$R$はGoldman整域、略してG整域であるという。
(2) $\Rightarrow$ (1): 自明。
(1) $\Rightarrow$ (2): $K=R[a_1/b_1,\ldots,a_n/b_n]$なら、$b\coloneqq b_1\cdots b_n$とおけば$K=R[1/b]$となる。
ここで商体の生成元には次のような特徴づけがあります。
$R$を整域、$K$をその商体、$f\in R\setminus\{0\}$とする。このとき次は同値となる。
(1) 零でない$R$の任意の素イデアルは$f$を含む。
(2) 零でない$R$の任意のイデアルは$f$のあるべきを含む。
(3) $K=R_f\coloneqq R[1/f]$.
環$A$のイデアル$\p$がGoldmanイデアル、略してGイデアルであるとは、剰余環$A/\p$がG整域であるときをいう。
定義から明らかに次が成り立ちます。
$$
\text{極大イデアル}\Longrightarrow\text{Gイデアル}\Longrightarrow\text{素イデアル}
$$
イデアル$\fraka$の根基$\sqrt{\fraka}$は$\fraka$を含むすべての素イデアルの共通部分ですが、次の命題が示すように、この事実は$G$イデアルを用いて精密化されます。
$A$を環、$\fraka\subset A$をイデアルとする。このとき
$$
\sqrt{\fraka}=\bigcap\limits_{\fraka\subset\p\text{ : Gイデアル}}\p.
$$
$A$を$A/\fraka$でおきかえて、$\fraka=(0)$としてよい。すなわち、
$$
\nil(A) = \bigcap\limits_{\p\text{ : Gイデアル}}\p
$$
を示せばよい。
($\subset$) Gイデアルが素イデアルであることから明らか。
($\supset$) $f\in A\setminus\nil(A)$とし、$f$を含まないGイデアルを構成する。$f\notin\nil(A)$より$A_f\neq 0$であるから、$A_f$の極大イデアルが存在する。その$A$への引き戻しを$\p$とすると、$\p$は$f$を含まない。この$\p$がGイデアルであることを示す。定義より$\p$は$D(f)$において極大であるから、$\p$を真に含む素イデアルは$f$を含む。言い換えれば、$A/\p$の零でない素イデアルは$f$を含む。したがってlem:Gdomainより$\Frac(A/\p) = (A/\p)_f$であるから、$\p$は$G$イデアルである。
環$A$に対して、次は同値である。これらの同値な条件を満たす環をJacobson環と呼ぶ。
(1) 任意のイデアル$\fraka\subset A$に対し、根基$\sqrt{\fraka}$は$\fraka$を含む極大イデアルすべての共通部分に等しい。
(2) $A$の任意の根基イデアルは$A$の極大イデアルの共通部分になっている
(3) $A$の任意の素イデアルは$A$の極大イデアルの共通部分になっている。
(4) $A$の任意のGイデアルは$A$の極大イデアルの共通部分になっている。
(5) $A$の任意のGイデアルは極大イデアルである。
(6) 極大ではない任意の素イデアル$\p\subset A$と任意の$f\in A\setminus \p$に対し、$(A/\p)_f$は体でない。
(7) 極大ではない$A$の任意の素イデアルは、それを真に含んでいる素イデアルすべての共通部分に等しい。
(1)' 任意のイデアル$\fraka \subset A$に対し$\rad(A/\fraka ) = \nil(A/\fraka)$が成り立つ。
(3)' 任意の素イデアル$\p\subset A$に対し$\rad(A/\p)=(0)$が成り立つ。
(8) 体であるすべての有限型$A$代数$K$は$A$上有限(すなわち、整)である。
(8)' $A$上の任意の有限型代数$B$に対し、$\n$が$B$の極大イデアルならば$\n\cap A$は$A$の極大イデアルである。
(8)'' $A$上の任意の$n$($\geq 1$)変数多項式環$A[T_1, \ldots, T_n]$に対し、$\n$が$A[T_1, \ldots, T_n]$の極大イデアルならば$\n\cap A$は$A$の極大イデアルである。
(9) $\Max(A)$は$\Spec(A)$において非常に稠密である(後述のdef:verydense)。
(10) 一点からなる$\Spec(A)$のすべての局所閉部分集合は閉集合である。
(1) $\Rightarrow$ (2) $\Rightarrow$ (3) $\Rightarrow$ (4): 自明。
(4) $\Rightarrow$ (1): prop:Gradicalから従う。
(5) $\Leftrightarrow$ (6): lem:Gdomainより、極大ではない任意の素イデアル$\p\subset A$に対し
$$
\text{$\p$ が Gイデアル}\Longleftrightarrow\text{ある $0\neq f\in A/\p$ に対して $(A/\p)_f$ は体}
$$
が成り立つ。よって、(5)の否定と(6)の否定が同値になる。
(6) $\Leftrightarrow$ (7): 極大ではない任意の素イデアル$\p\subset A$に対し
\begin{align*}
\p=\bigcap_{\p\subsetneq\q\in\Spec(A)}\q &\Longleftrightarrow \bigcap_{(0)\neq\frakP\in\Spec(A/\p)}\frakP = (0) \\
&\Longleftrightarrow 0\neq{}^\forall f\in A/\p, \ (0)\neq {}^\exists \frakP\in\Spec(A/\p) \ \text{ s.t. }\ f\notin \frakP \\
&\Longleftrightarrow {}^\forall f\in A\setminus\p, \ (A/\p)_f\neq\Frac(A/\p)
\end{align*}
であるから従う(最後の同値はlem:Gdomain)。
(3) $\Rightarrow$ (7): 極大ではない任意の素イデアル$\p\subset A$に対し
$$
\p \subset \bigcap_{\p\subsetneq\q\in\Spec(A)}\q \subset \bigcap_{\p\subset\m \in\Max(A)}\m
$$
が成り立つことから従う。
(5) $\Rightarrow$ (4): 自明。
$$ \begin{xy}\xymatrix{ (1) \ar@{=>}[rr] & & (2) \ar@{=>}[d] \\ (4) \ar@{=>}[u] & & (3) \ar@{=>}[ll] \ar@{=>}[d] \\ (5) \ar@{=>}[u] & & (7) \ar@{<=>}[ld] \\ & (6) \ar@{<=>}[lu] } \end{xy} $$
Jacobson根基(resp. べき零イデアル)は極大イデアル(resp. 素イデアル)全体の共通部分に等しいことから、(1)$\Leftrightarrow$(1)' (resp. (3)$\Leftrightarrow$(3)') が従う。
$$
\begin{xy}\xymatrix{
(1) \ar@{<=>}[r] \ar@{=>}[r] \ar@{<=>}[d] & (1)' \\
(3) \ar@{<=>}[r] & (3)'
}
\end{xy}
$$
(3)' $\Rightarrow$ (8): 条件(8)はHilbertの零点定理とも呼ばれているだけに、ここが最も難しい。実際、証明にはネーターの正規化定理から従う次の結果を用いる。
$A\subset B$を整域の拡大で$B$は$A$上有限型であるとする。このとき、次の条件を満たす$s\in A\setminus \{0\}$が存在する。
・代数閉体$\Omega$への環準同型$f\colon A\to \Omega$が$f(s)\neq 0$を満たすならば、$f$は環準同型$B\to\Omega$に延長される。
$f\colon A\to K$を有限型$A$代数で$K$は体であるとする。このとき$f$が有限であることを示したい。$f$が整であることを示せば十分である。$A$が(3)'を満たすなら、$A/\Ker(f)$も(3)'を満たす。よって、$A$を$A/\Ker(f)$でおきかえて、$f$は単射としてよい(特に、$A$は整域である)。thm:AM21のような$s\in A\setminus\{0\}$をとる。仮定より$A$は(3)'を満たす整域なので$\rad(A)=\nil(A)=(0)$, したがって$s\notin\m$となる極大イデアル$\m\subset A$が存在する。剰余体$A/\m$の代数閉包$\Omega$を固定すると、合成$A\twoheadrightarrow A/\m\hookrightarrow\Omega$は$s$を非零元にうつすから、$s$のとり方より$K$に延長できる。
$$
\begin{xy}\xymatrix{
A \ar@{->>}[r] \ar@{^{(}->}[d] & A/\m \ar@{^{(}->}[r] & \Omega \\
K \ar@{-->}[rru]_{g}
}\end{xy}
$$
$K$が体より$g$は単射で、$A\to\Omega$は整だから、$A\hookrightarrow K$も整である。
(8) $\Rightarrow$ (6): 極大ではない素イデアル$\p\subset A$と$f\in A\setminus\p$を任意にとる。$K\coloneqq (A/\p)_f$が体であると仮定して矛盾を導く。合成$A\twoheadrightarrow A/\p\hookrightarrow (A/\p)_f=K$は有限型だから、仮定(8)より整である。すると$A/\p\hookrightarrow K$も整となり、$K$は体なので$A/\p$も体である。これは$\p$が極大ではないことに矛盾する。
$$
\begin{xy}\xymatrix{
(3)' \ar@{<=>}[rd] \ar@{=>}[r] & (8) \ar@{=>}[d] \\
& (6)
}
\end{xy}
$$
(8) $\Rightarrow$ (8)': 極大イデアル$\n\subset B$をとる。このとき有限型な射$A/(\n\cap A) \hookrightarrow B/\n$が得られるが、(8)よりこれは整拡大となる。よって$A/(\n\cap A)$は体、すなわち$\n\cap A$は$A$の極大イデアルである。
(8)' $\Rightarrow$ (8): $f\colon A\to K$を有限型$A$代数で$K$は体であるとする。このとき有限型な射$A/\Ker(f)\hookrightarrow K$が得られるが、(8)'より$\Ker(f)$は極大イデアル、したがって$A/\Ker(f)$は体だから、零点定理(AM Corollary 5.24)より$A/\Ker(f)\hookrightarrow K$は有限となる。$A\to A/\Ker(f)$も有限なので、$f$は有限である。
(8)' $\Leftrightarrow$ (8)'': イデアルの対応定理から従う。
$$ \begin{xy}\xymatrix{ (8) \ar@{<=>}[r] & (8)' \ar@{<=>}[r] & (8)'' } \end{xy} $$
まず非常に稠密な部分集合の定義を思い出します。
$X$を位相空間とする。部分集合$X_0\subset X$が以下の同値な条件を満たすとき、$X$において非常に稠密(very dense)であるという。
(a) $U\mapsto U\cap X_0$は$X$の開集合系から$X_0$の開集合系への全単射となる。
(b) $F\mapsto F\cap X_0$は$X$の閉集合系から$X_0$の閉集合系への全単射となる。
(c) 任意の閉集合$F\subset X$に対し、$F=\overline{F\cap X_0}$である。
(d) 空でない任意の局所閉集合$Z\subset X$は$X_0$の点を含む。
(2) $\Leftrightarrow$ (9): 任意の根基イデアル$\fraka\subset A$に対して
$$
\fraka = \bigcap_{\m\in V(\fraka)\cap\Max(A)}\m \Longleftrightarrow V(\fraka)=\overline{V(\fraka)\cap \Max(A)}
$$
を示せば十分である。しかしこれは、一般に部分集合$S\subset\Spec(A)$の閉包が$\overline{S}=V(\bigcap_{x\in S}\p_x)$と表されることから明らかである。
(9) $\Rightarrow$ (10): def:verydenseの条件(d)からただちに従う。
(10) $\Rightarrow$ (6): 極大ではない素イデアル$\p\subset A$と$f\in A\setminus\p$を任意にとる。$K\coloneqq (A/\p)_f\cong A_f/\p A_f$が体であると仮定して矛盾を導く。$\p A_f$が$A_f$の極大イデアルだから、$\p$は$D(f)$の閉点である。よって$\{\p\}$は$\Spec(A)$の局所閉部分集合であるから、仮定(10)により閉集合となる。これは$\p$が極大ではないことに矛盾する。
$$ \begin{xy}\xymatrix{ (2) \ar@{<=>}[r] \ar@{<=>}[d] & (9) \ar@{=>}[d] \\ (6) & (10) \ar@{=>}[l] } \end{xy} $$
主にM. F. Atiyah--I. G. Macdonald AMのChapter 5, Exercise 23--26を参考にしました。Bourbaki BouACのChapter V, §3.4にも詳しく書かれています。Gイデアルとの関係についてはI. Kaplansky Kの§1-3を参考にしました。
Jacobson環の定義として、Bourbaki BouAC はthm:Mainの条件(3)を、Kaplansky K は(5)を採用しています。
これらの文献において、thm:Mainの条件は以下のように現れています。
(1): K §1-3, Theorem 30.
(2)~(5): K §1-3, Exercise 9.
(3), (1)', (7): AM Chapter 5, Exercise 23.
(8): AM Chapter 4, Exercise 25.
(9), (10): AM Chapter 5, Exercise 26.
残った(6)は(5)と(7)の間に自然に挟まるものであり、また(8)'と(8)''はJacobson環の重要な性質です(べき級数環とは異なり、多項式環の極大イデアルの引き戻しは一般に極大イデアルにならないので)。
体上の有限型代数に対する条件(1)はHilbertの零点定理と呼ばれ、体上の代数幾何学をする上で、スキームを考える代わりにその閉点全体だけからなる代数多様体を考えれば十分(なことが多い)ことの根拠です。(おそらく)Hilbertの零点定理との関連から、Jacobson環はHilbert環と呼ばれることもありますK。
条件(9)は完全に位相空間の性質であり、これを満たす位相空間はJacobson空間と呼ばれます。これを用いて、スキームに対してもJacobsonスキームが定義されます(EGA IV-3 EGAIV-3 §10)。