3

高校生のための有限体入門

476
0

はじめに

素数pに対してFp={0,1,2,,p1}とすると,modpでの演算によってFp内で和・差・積・(0でない元による)商を定義することができる.このように集合に四則演算が定まっている構造のことを,現代数学の言葉では「体」と呼ぶ.上述のFpの他に,有理数全体Qや実数全体R,複素数全体Cなども体の例である.
FpQRと違って有限個(p個)の元からなる.このような体を有限体という.実はFpの他にも,元の個数が素冪pnであるような有限体Fpnが存在するのだが,その構成法はFpに比べて少々難しいので,大学で数学を学んだ人以外にはあまり知られていないと思う.そこで本記事ではこれらの有限体Fpnの構成法およびその使い道について解説する.

Fpの代数閉包

有限体FpnFpという大きな(有限体ではない)体から構成することができる.この体FpFpの代数閉包と呼ばれるものであり,大雑把に言えばmodpの世界における複素数体Cのようなものである.具体的には,Fpは次のような性質を持っている:

  • FpFp.
  • 任意のFpの元はあるFp係数多項式の根である.
  • 任意のFp係数多項式は1次式の積に因数分解できる.

Fpの具体的な構成法は少々難しく,またそれほど重要ではないので割愛する.以下の説明では上記の3つの性質のみを用いる

F5係数の多項式x23F5の中に根を持たないので,F5係数の範囲ではこれ以上因数分解できないが,F5係数の範囲では
x23=(xα)(xβ)(α,βFp)
と因数分解される.係数を比較するとα+β=0となるため,α3と書くことにするとβ=3と表せる.

Fpについて考える上で重要なのがp乗写像
F:FpFp;F(x)=xp
である.これをFrobenius写像という.明らかにFrobenius写像は積および商を保つが,実は和と差も保っている:

任意のx,yFpに対して(x+y)p=xp+ypおよび(xy)p=xpypが成り立つ.

二項定理より
(x+y)p=i=0p(pi)xiypi
が成り立つ.i=1,2,,p1に対して(pi)pの倍数なのでFpにおいて0である.よって(x+y)p=xp+ypとなる.
((xy)+y)p=(xy)p+yp
を移項すれば(xy)p=xpypも得られる.

Frobenius写像F:FpFp;F(x)=xpは全単射である.

aFpに対して方程式xp=aFp内に解を持つのでFは全射である.また
yp=zp(yz)p=0y=z
よりFは単射である.

任意のxFpに対してxp=xが成り立つというのがFermatの小定理であった.これは次のように一般化される:

任意のxFpに対し,ある正整数nが存在してxpn=xとなる.

xはあるFp係数多項式の根なので
xd+ad1xd1++a1x+a0=0
を満たすa0,a1,,ad1Fpが存在する.この式より,xiの形の元は全て
bd1xd1++b1x+b0(b0,b1,,bd1Fp)
と表せる.特にS={x,xp,xp2,xp3,}は有限集合である.写像F:SS;F(y)=ypは単射なので全単射となる.特にFn(x)=xとなる正整数nが存在するのでよい.

Fpの元xに対し,xpn=xとなる正整数nの最小値をx次数と呼ぶ.

Fermatの小定理よりFpの元の次数は1である.次数1の元はxpx=0の解なので高々p個しか存在しない.よってFpは次数1の元全体に等しい.

F5におけるx23=0の解を1つ取って3と書く.このとき
35=93=3,325=(3)5=3
となる.つまり3の次数は2である.

後で使うために,Fp係数の多項式の微分を定義しておく:

Fp係数多項式f(x)=adxd+ad1xd1++a1x+a0に対して
f(x)=dadxd1+(d1)ad1xd2++a1
と定める.

Fp係数多項式f(x),g(x)に対して(f(x)g(x))=f(x)g(x)+f(x)g(x)が成り立つ.

展開することでf(x)=axd,g(x)=bxeの場合に帰着できる.この場合は容易である.

有限体の構成

素冪pnに対し,Fpn={xFpxpn=x}と定める.つまり,Fpnは次数がnの約数であるようなFpの元全体からなる集合である.

Fermatの小定理よりFpFpnが成り立つ.また命題2より,任意のFpの元はあるFpnに含まれる.

x,yFpnに対し,x+y,xy,xyFpnが成り立つ.さらにy0ならばx/yFpnも成り立つ.

命題1より(x+y)pn=xpn+ypn=x+yとなるのでx+yFpnである.残りの主張も同様に示される.

命題5よりFpnは体をなす.体Fpn位数pnの有限体と呼ぶ.

Fpnの元の個数はpnである.

Fpnは方程式xpnx=0Fpにおける解全体である.Fp係数の範囲で
xpnx=i=1pn(xαi)
と因数分解すると,Fpn={α1,,αpn}である.よってα1,,αpnが相異なることを示せばよい.上の式の両辺を微分すると,Fpにおいてpn=0なので
1=i=1pnji(xαj)
となる.この式にx=αiを代入すると
ji(αiαj)=1
となるので,α1,,αpnが相異なることがわかる.

F5におけるx23=0の解を1つ取って3と書くと,例3で見たように3F25である.命題5より
a+b3(a,bF5)
という形の元は全てF25に属する.またこれらの元は相異なることが容易に示せる.F2525個の元からなるので,結局
F25={a+b3a,bF5}
となることがわかる.

有限体の包含関係

FpnFpmnm.

nmならばFpnFpmであることは定義から明らかである.逆にFpnFpmであると仮定してnmを示そう.nを割り切る素冪lkに対してlkmを示せばよいので,n=lkの場合に帰着される.命題6より,Fplkに含まれるがFplk1に含まれない元xを取ることができる.このときxの次数はちょうどlkなので,xFpmよりlkmが得られる.

命題7より,小さいnに対するFpnの包含関係は以下のようになっている(矢印は包含写像):
Fp4Fp6Fp2Fp3Fp5Fp

次数の求め方

具体的なFpの元の次数を求めるには,以下の命題を用いるのが便利である:

f(x)Fp係数のn次多項式とし,αFpにおけるf(x)の根とする.f(x)Fp上既約(Fp係数の範囲でこれ以上因数分解できない)ならば,αの次数はnであり,Fpにおけるf(x)の根はα,αp,αp2,,αpn1である.

f(x)=adxd+ad1xd1++a1x+a0(aiFp)とする.βFpf(x)の根ならば
adβd+ad1βd1++a1β+a0=0
であるが,両辺にFrobenius写像を適用すると,aip=aiより
adβdp+ad1β(d1)p++a1pβ+a0=0
となるので,βpf(x)の根である.つまり,Fpにおけるf(x)の根全体の集合をSとすると,写像F:SS;F(x)=xpが定まる.Fは単射なので全単射である.Fk(α)=αとなる正整数kのうち最小のものを取る.T={α,αp,,αpk1}と定めると,Fは全単射TTに制限できる.
g(x)=adβT(xβ)
と定めると,g(x)の係数はFrobenius写像で不変なので,g(x)Fp係数多項式となる.定義よりg(x)f(x)を割り切るので,f(x)が既約であるという仮定よりg(x)=f(x)となる.よってk=n,T=Sである.

Fibonacci数列への応用

有限体の応用例として,Fibonacci数のmodpでの振る舞いについて調べる.Fibonacci数列は
F1=F2=1,Fn+2=Fn+1+Fn
により定まる数列であり,その一般項は
Fn=ϕnϕnϕϕ(ϕ=1+52,ϕ=152)
で与えられる.これの「modp版」を考えよう.Fpにおけるx25=0の解を1つ取って5と書く.

pを素数とする.
(1) p=2ならば5=1である.
(2) p=5ならば5=0である.
(3) p1,4(mod5)ならば5Fpである.
(4) p2,3(mod5),p2ならば5Fp2Fpであり,5p=5である.

(1),(2)は明らかである.以下p2,5でないとする.平方剰余の相互法則より,p1,4(mod5)ならばpmod5で平方剰余であり,p2,3(mod5)ならばpmod5で平方非剰余である.前者の場合,x25=0Fpに解を持つので5Fpとなる.後者の場合,x25Fp上既約なので,命題8より5の次数は2であり,5p=5となる.

以下ではp2,5とする.Fpの元α,β
α=1+52,β=152
により定める.またFpの元un
un=αnβnαβ
により定める.するとu1=1,u2=α+β=1であり,またαn+2=αn+1+αnおよびβn+2=βn+1+βnより
un+2=un+1+un
が成り立つ.すなわち,unFnmodpで考えたものに他ならない.これを用いると次のような事実が示せる.

素数p2,5に対してFn+2p=Fn+p+Fn(modp)が成り立つ.

α2=α+1にFrobenius写像を適用するとα2p=αp+1となり,αn+2p=αn+p+αnが得られる.同様にβn+2p=βn+p+βnも成り立つので,un+2p=un+p=unが得られる.

p2,5以外の素数とする.
(1) p1,4(mod5)ならばFn+p1Fn(modp)が成り立つ.
(2) p2,3(mod5)ならばFn+p+1Fn(modp)が成り立つ.

p1,4(mod5)ならば命題9よりα,βFpなのでαn+p1=αn,βn+p1=βnである.よってun+p1=unが得られる.p2,3(mod5)ならば命題9よりα,βFp2Fpであり,αp=β,βp=αである.よって
αn+p+1=αn(αβ)=αn
であり,同様にβn+p+1=βnも成り立つので,un+p+1=unが得られる.

投稿日:20241026
更新日:20241028
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

J_Koizumi
119
12097

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. $\F_p$の代数閉包
  3. 有限体の構成
  4. 有限体の包含関係
  5. 次数の求め方
  6. Fibonacci数列への応用