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5^n と 5^n+4^n の十進桁数が異なるような正整数 n は高々有限個である

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目次

  1. 初めに
  2. 無理数度とは
  3. $\log_{10} \alpha$ の無理数度
  4. 証明

1. 初めに

突然ですが、2024年度の東京大学文系数学の第3問で、以下の問題が出題されました。

以下の問いに答えよ。必要ならば、 $0.3 < \log_{10} 2 < 0.31$ であることを用いてよい。
(1) $5^n > 10^{19}$ となる最小の自然数 $n$ を求めよ。
(2) $5^m + 4^m > 10^{19}$ となる最小の自然数 $m$ を求めよ。

この問題を見たとき、多くの人は「大きな $n$ に対しては $5^n$$5^n + 4^n$ の値はほとんど変わらず桁数も同じはずだから、(1) と (2) の答えは一致するだろう」と考えるはずです。実際のところ、(1) と (2) の答えは一致し、ともに $n = 28, m =28$ となります。
しかし、このような直感が常に正しいわけではありません。
実際 $n = 10$ の場合を計算してみると、
\begin{align} 5^{10} &= 9765625 \\ 5^{10} + 4^{10} &= 10814201 \end{align}
となり、2つの数の桁数は一致しません。
では、$5^n$$5^n + 4^n$ の桁数が一致しないような $n$ は無数に存在するのでしょうか?

結論から言ってしまえば、有限個しか存在しません。
この記事では、この性質が $5$$4$ に限らず、一般の正の代数的数について成り立つことを証明します。

2. 有理数近似と無理数度

$\alpha^n$$\alpha^n+\beta^n$ の桁数が異なるという現象を対数を用いて考えてみましょう。

$\alpha^n$ の桁数は $\lfloor n \log_{10} \alpha \rfloor + 1$ です。$\alpha^n + \beta^n$ の桁数がこれよりも大きくなるためには、$n \log_{10} \alpha$ の小数部分が非常に $1$ に近く、あと少し足すだけで次の整数に繰り上がる、すなわち $\log_{10} \alpha$ がある有理数 $p/n$ によって極めて高い精度で近似できる必要があります。

そうすると、実数が有理数でどれくらい良く近似できるかを測る指標が欲しくなってきます。

具体的に考えてみましょう。$\pi$ の有理数近似として $22/7 = 3.142857...$ が有名です。単純に考えれば、最初の3桁を一致させるためには $157/50$ のようにより大きい分母が必要に思えますが、$22/7$ は分母が比較的小さいにも関わらず最初の3桁が一致しており、非常に良い近似だといえます。

この考え方は、分母の大きさに対して誤差が小さいほど良い近似であろうという立場に基づいています。これを定式化し、有理数近似の良さを定義しましょう。

有理数近似の良さ

$x$ を実数、$p$$q$ を互いに素な整数とし、$q \ge 2$ とする。また、$x \neq \frac{p}{q}$ とする。
このとき、$x$$p/q$ による有理数近似の良さ $P(x,p/q)$ を以下で定義する。
\begin{align} P\left(x,\frac{p}{q}\right) = -\log_{q} \left| x - \frac{p}{q} \right| \end{align}

例えば $\pi$$22/7$ による近似の良さは $P(\pi,22/7) = 3.429\dots$ となります。一方 $157/50$ による近似の良さは $P(\pi,157/50) = 1.646\dots$ となり、$22/7$ の方が良い近似であることが定量的に分かります。

これを踏まえ、「その数がどれくらい良い近似を作りやすいか」の上限を示す指標として、無理数度を定義します。

無理数度

$x$ を実数とする。$x$ の無理数度 $\mu(x)$ は、次の条件を満たす実数 $\nu$ の下限である。
\begin{align} \left| \left\{ \frac{p}{q} \in \mathbb{Q} \ \middle| \ P\left(x,\frac{p}{q}\right) > \nu \right\}\right| < \infty \end{align}
ただし、どのような $\nu$ に対しても不等式を満たす有理数 $p/q$ が無数に存在する場合、$\mu(x) = \infty$ と定める。

有理数の無理数度は $1$ 、無理数の無理数度は必ず $2$ 以上、代数的無理数の無理数度は $2$ であるというように、無理数度は、その数がどのような数論的性質を持つかによって大きく変わることが知られています。

もし $\log_{10} \alpha$ の無理数度が $\infty$ だった場合、異常に精度の良い有理数近似がいくらでも作れてしまうため、桁数が変わるような $n$ が無数に存在してしまうかもしれません。

果たして $\log_{10} \alpha$ の無理数度は有限なのでしょうか? これを次の章で、Baker の定理という定理を用いて確かめていきます。

3. $\log_{10} \alpha$ の無理数度

Baker の定理

$\alpha_1,\alpha_2,\cdots,\alpha_n$ を0でない代数的数とし、$\beta_0,\beta_1,\cdots,\beta_n$ を高さが $B$ 以下の代数的数とする。ただし $B \geq 2$ とする。このとき、
\begin{align} \beta_0 + \beta_1 \log \alpha_1 + \cdots + \beta_n \log \alpha_n = 0 \end{align}
または
\begin{align} \left| \beta_0 + \beta_1 \log \alpha_1 + \cdots + \beta_n \log \alpha_n \right| > B^{-C} \end{align}
が成り立つ。ただし、$C$$n$ および $\alpha_i, \beta_j$ の次数、$\alpha_i$ の高さに依存する正の定数である。

この定理を用いて、以下の補題を証明します。

$\log_{10} \alpha$ の無理数度の評価

$\alpha$ を正の代数的数とする。このとき $\log_{10}\alpha$ が無理数であれば、
\begin{align} \mu(\log_{10}\alpha) < \infty \end{align}
が成り立つ。

背理法で示す。仮に $\mu(\log_{10} \alpha) = \infty$ になると仮定する。このとき、無理数度の定義からいかなる正の実数 $\nu$ に対しても、$q \ge 2$ を満たす既約分数 $p/q$ が無限に存在して $P(\log_{10} \alpha,p/q) > \nu$ となる。
すなわち
\begin{align} \left|\log_{10} \alpha - \frac{p}{q}\right| < q^{-\nu} \end{align}
が成り立つ。底の変換公式より
\begin{align} |q \log \alpha - p \log 10| < (\log 10) q^{1-\nu} \end{align}
を得る。
背理法の仮定から $\left|\log_{10} \alpha - \frac{p}{q}\right| < q^{-\nu}$ であり、$\nu > 0$ かつ $q \ge 2$ より $q^{-\nu} < 1$ である。これと三角不等式を用いると、
\begin{align} \left|\frac{p}{q}\right| - |\log_{10} \alpha| \le \left|\log_{10} \alpha - \frac{p}{q}\right| < 1 \end{align}
すなわち $|p| < q (|\log_{10} \alpha| + 1)$ と評価できる。また、 $q,-p$ の高さは $B = \max(|p|,q)$ 以下であり、 $c = \max(1, |\log_{10} \alpha| + 1)$ とおけば、$c$$p$$q$ に依存しない正の定数で、$B \leq cq$ が成り立つ。

さらに、$\log_{10}\alpha$ は無理数なので $|q \log \alpha - p \log 10| \neq 0$ で、さらに $q, -p$ は整数であるためその次数は常に $1$ である。したがって Baker の定理より、$p$$q$ に依存せず $\alpha$ のみに依存する正の定数 $C$ が存在して、
\begin{align} |q \log \alpha - p \log 10| > B^{-C} \geq (cq)^{-C} \end{align}
が成り立つ。

背理法の仮定より、いかなる $\nu$ を選んでも条件を満たす $p/q$ が無数に存在するはずである。そこで、特に $\nu = C+2$ とする。このとき不等式
\begin{align} \left|\log_{10} \alpha - \frac{p}{q}\right| < q^{-(C+2)} \end{align}
を満たす近似分数 $p/q$ が無数に存在する。

ここで、 $q$ の値がある定数 $Q$ 以下に限られると仮定すると、$|p| < q(|\log_{10}\alpha| + 1) \le Q(|\log_{10}\alpha| + 1)$ となり、$q$$p$ も有限通りしか選べない。すると近似分数 $p/q$ が有限個しか存在しないことになり、これは $p/q$ が無数に存在するという仮定に矛盾する。

したがって、無数に存在する $p/q$ の中から $q$ が十分大きいものを選ぶことができる。このとき2つの評価を組み合わせると、
\begin{align} (cq)^{-C} < (\log 10) q^{1-(C+2)} \end{align}
すなわち
\begin{align} c^{-C} q < \log 10 \end{align}
となるが、$q$ が十分に大きければこれは明らかに成り立たず、矛盾。
したがって $\mu(\log_{10}\alpha) < \infty$ であることが示された。

4. 証明

$\alpha^n$$\alpha^n + \beta^n$ の桁数に関する定理

$\alpha$$\beta$$\alpha > \beta$ を満たす正の代数的数とする。このとき、$\alpha^n$$\alpha^n + \beta^n$ の十進法での桁数が異なるような正整数 $n$ は高々有限個しか存在しない。
すなわち、$d(x)$$x$ の十進桁数 $\lfloor\log_{10} x\rfloor +1$ とすると、
\begin{align} |\{n \in \mathbb{N} \mid d(\alpha^n) \neq d(\alpha^n + \beta^n) \}| < \infty \end{align}
が成り立つ。

先ほど示した補題が使える形になるように変形していきましょう。

$\alpha^n$ の桁数は $\lfloor n\log_{10} \alpha \rfloor + 1$ で与えられる。$\alpha^n + \beta^n$ の桁数がこれと異なるということは、
\begin{align} \log_{10} (\alpha^n + \beta^n) \geq \lfloor n\log_{10} \alpha \rfloor + 1 \end{align}
を満たすことと同値である。よって、これを満たす正整数 $n$ が高々有限個であることを示せばよい。
$x$ の小数部分を $\mathrm{frac}(x) = x - \lfloor x \rfloor$ とすると、
\begin{align} \log_{10} (\alpha^n + \beta^n) &= \log_{10} \left( \alpha^n \left\{ 1+\left( \frac{\beta}{\alpha}\right) ^n \right\} \right) \\ &= \lfloor n\log_{10} \alpha \rfloor + \mathrm{frac}(n\log_{10} \alpha) + \log_{10} \left\{1+\left( \frac{\beta}{\alpha}\right) ^n \right\} \end{align}
とできる。これを代入して整理すると
\begin{align} \log_{10} \left\{1+\left( \frac{\beta}{\alpha}\right) ^n \right\} \geq 1 - \mathrm{frac}(n\log_{10} \alpha) \end{align}
となる。

ここで、この不等式を満たす $n$ が無数に存在すると仮定し、条件を満たす $k$ 番目に小さい正整数を $n_k$ とおく。
このとき $\mathrm{frac}(n_k \log_{10} \alpha) = n_k \log_{10} \alpha - \lfloor n_k \log_{10} \alpha \rfloor$ より、
\begin{align} 1 + \lfloor n_k \log_{10} \alpha \rfloor - n_k \log_{10} \alpha \leq \log_{10} \left\{1+\left( \frac{\beta}{\alpha}\right) ^{n_k} \right\} \end{align}
両辺を $n_k$ で割り、移項して絶対値をとると以下のようになる。
\begin{align} 0 < \left|\log_{10} \alpha - \frac{\lfloor n_k \log_{10} \alpha \rfloor + 1}{n_k}\right| \leq \frac{1}{n_k} \log_{10} \left\{1+\left( \frac{\beta}{\alpha}\right) ^{n_k} \right\} \end{align}
ここで、$x>0$ において成り立つ不等式 $\log(1+x) < x$ を用いると、
\begin{align} \frac{1}{n_k} \log_{10} \left\{1+\left( \frac{\beta}{\alpha}\right) ^{n_k} \right\} = \frac{1}{n_k \log 10} \log \left\{1+\left( \frac{\beta}{\alpha}\right) ^{n_k} \right\} < \frac{1}{n_k \log 10} \left(\frac{\beta}{\alpha}\right) ^{n_k} \end{align}
と評価できる。
$\alpha > \beta > 0$ より $0 < \frac{\beta}{\alpha} < 1$ であるため、任意の正の実数 $\nu$ に対し、ある正の実数 $M$ が存在し、$n > M$ を満たす任意の正整数 $n$ に対して
\begin{align} n^{\nu-1} \left(\frac{\beta}{\alpha}\right)^n < \log 10 \end{align}
が成立する。
背理法の仮定より、$n_k$ は条件を満たす正整数を小さい順に並べた数列であるため、$k \to \infty$ のとき $n_k \to \infty$ となる。したがって、ある正整数 $K$ が存在し、$k > K$ ならば $n_k > M$ となる。
このとき上の不等式の $n$$n_k$ を代入し、両辺を ${n_k}^\nu \log 10$ で割ることで、
\begin{align} \frac{1}{n_k \log 10} \left(\frac{\beta}{\alpha}\right) ^{n_k} < n_k^{-\nu} \end{align}
がわかる。

  1. $\log_{10}\alpha$ が無理数の場合
    補題より $\log_{10}\alpha$ の無理数度 $\mu(\log_{10}\alpha)$ は有限である。そこで、 $\nu = \mu(\log_{10}\alpha) + 1$ とする。
    先の議論から、この $\nu$ についても十分大きな $k$ に対しては
    \begin{align} \frac{1}{n_k \log 10} \left(\frac{\beta}{\alpha}\right) ^{n_k} < n_k^{-\nu} \end{align}
    が成り立つ。
    ここで $\frac{\lfloor n_k \log_{10} \alpha \rfloor + 1}{n_k}$ を既約分数に約分したものを $\frac{p_k}{q_k}$ とおくと、$q_k \le n_k$ であるため、
    \begin{align} \left|\log_{10} \alpha - \frac{p_k}{q_k}\right| < n_k^{-\nu} \le q_k^{-\nu} \end{align}
    が十分大きな $k$ について成り立つ。
    $k \to \infty$ のとき $n_k \to \infty$ であり $n_k^{-\nu} \to 0$ となるため、先の不等式より $\displaystyle\lim_{k \to \infty} \frac{p_k}{q_k} = \log_{10} \alpha$ が成り立つ。
    ここで、数列 $\left\{\frac{p_k}{q_k}\right\}$ に含まれる相異なる値が有限個しか存在しないと仮定する。すると、少なくとも1つの有理数 $r$ が数列中に無限回現れることになり、その部分列の極限も $r$ となる。しかしこれは $\left\{\frac{p_k}{q_k}\right\}$ の収束性から $\log_{10}\alpha = r$ を意味し、$\log_{10}\alpha$ が無理数であることに矛盾する。
    したがって、数列 $\left\{\frac{p_k}{q_k}\right\}$ の中には相異なる値が無数に含まれていることがわかる。
    よって、不等式
    \begin{align} \left|\log_{10} \alpha - \frac{p_k}{q_k}\right| < q_k^{-\nu} \end{align}
    を満たす相異なる既約分数 $p_k/q_k$ が無数に存在するが、$\nu = \mu(\log_{10}\alpha) + 1 > \mu(\log_{10}\alpha)$ と設定したため、無理数度の定義によればそのような有理数は高々有限個しか存在しないはずであり、矛盾する。

  2. $\log_{10}\alpha$ が有理数の場合
    $\log_{10}\alpha = p/q$ ($p,q$ は整数、$q>0$)とおく。
    このとき$\mathrm{frac}(n_k \log_{10}\alpha) = \mathrm{frac}\left(n_k \frac{p}{q}\right)$ のとり得る値は $0, \frac{1}{q}, \frac{2}{q}, \dots, \frac{q-1}{q}$ のいずれかに限られる。
    したがって、$1 - \mathrm{frac}(n_k \log_{10} \alpha) \geq \frac{1}{q}$ が常に成り立つ。
    一方で、$0 < \frac{\beta}{\alpha} < 1$ より $\log_{10}\left\{1+\left(\frac{\beta}{\alpha}\right)^{n_k}\right\}$$n_k \to \infty$$0$ に収束する。そのため、十分大きな $k$ においては
    \begin{align} \log_{10} \left\{1+\left( \frac{\beta}{\alpha}\right) ^{n_k} \right\} \geq \frac{1}{q} \end{align}
    を満たすことができなくなる。これは不等式を満たす $n_k$ が無数に存在するという仮定に矛盾する。

以上より、いかなる場合でも矛盾が導かれたため、桁数が異なる正整数 $n$ は高々有限個であることが示された。

投稿日:9日前
更新日:6日前
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