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現代数学解説
文献あり

解を数えて級数をなす(ヴェイユの論文を読んで)

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はじめに

この記事では,アンドレ・ヴェイユが「ヴェイユ予想」を提唱した論文『Numbers of solutions of equations in finite fields』1の中で議論されていることの具体例を見てみます.私の理解が浅いため,ヴェイユ予想の主張自体は説明しません.(ヴェイユ予想については1,または2を見てみるといいでしょう.)なお「予想」という言葉を使っていますが,現在ではヴェイユ予想はすでに解決しています.

論文のタイトルを和訳すると「有限体上の方程式の解の個数」になります.この論文ではまず$r+1$個の変数$x_0,x_1,...,x_r$からなる

$a_0x_0^{n_0}+a_1x_1^{n_1}+...+a_rx_r^{n_r}=b$

という形の方程式の有限体$\mathbb{F}_{q}$における解の個数を評価します.次に,上の方程式で$n_0=n_1=...=n_r=n,\;b=0$とした方程式

$a_0x_0^{n}+a_1x_1^{n}+...+a_rx_r^{n}=0$

の,射影空間における解の個数を係数とする冪級数を考えます.この記事ではこれら2つのことについて,具体例を見てみます.

方程式$x_0^3+x_1^3+x_2^3=0$の解の個数

設定

この記事で考えるのは次の方程式$C$です:

$C:x_0^3+x_1^3+x_2^3=0$

標数$7$の有限体における$C$の解の個数を評価しましょう.

$\nu$$1$以上の整数とし,$q_{\nu}=7^{\nu}$とおきます.当面の間は$\nu$を固定して議論するので,添え字$\nu$を省略して単に$q$とも書くことにします.($q=q_{\nu}=7^{\nu}$.)以降定義する記号についても,同様に添え字を省略することがあります.

$q$個の元からなる有限体$k_{\nu}:=\mathbb{F}_q$における方程式$C$の解の個数を$N_{\nu}$とします:

$N_{\nu}=\#\{(x_0,x_1,x_2)\in k_{\nu}^3\mid x_0^3+x_1^3+x_2^3=0\}$

この章の目標は$N=N_{\nu}$に対する次の$2$つの評価を得ることです:

等式による評価

$N=q^2+(q-1)(j_{}(\gamma_1)+j_{}(\gamma_2))$が成り立つ.
また,$|j_{}(\gamma_1)|=|j_{}(\gamma_2)|=\sqrt{q}$

(ただし$j,\gamma_1,\gamma_2$は,あとで定義する.)

不等式による評価

$|N-q^2|\leq 2(q-1)\sqrt{q}$が成り立つ.

命題1から命題2はすぐに得られるので,まずは命題1を仮定して命題2を示しておきます.

(命題2の証明)

命題1を仮定する.
\begin{aligned} |N-q^2|&=|(q-1)(j_{\nu}(\gamma_1)+j_{\nu}(\gamma_2))|\\ \\ &\leq (q-1)(|j_{\nu}(\gamma_1)|+|j_{\nu}(\gamma_2)|)\\ \\ &=(q-1)(\sqrt{q}+\sqrt{q})\\ \\ &=2(q-1)\sqrt{q}. \end{aligned}

また,命題2の不等式の両辺を$q^2$で割ることで

$\left|\dfrac{N}{q^2}-1\right|\leq 2\cdot\dfrac{q-1}{q}\cdot\dfrac{\sqrt{q}}{q}\leq 2\cdot1\cdot\dfrac{1}{\sqrt{q}}=\dfrac{2}{\sqrt{q}}$となり,次の評価が得られました:

$\left|\dfrac{N}{q^2}-1\right|\leq \dfrac{2}{\sqrt{q}}$

命題3の評価は論文には出てきませんが,私はこの形の方が好きです.比$N/q^2$$1$に近い(あるいは,$q$が大きくなるにつれて限りなく$1$に近づく)ことが見える形だからです.$C:x_0^3+x_1^3+x_2^3=0$$\mathbb{F}_q$における解の個数は$q^2=(\#\mathbb{F}_q)^2$に近い値になるということになります.

$\nu=1,2,3,4,5$の場合について,プログラムを書いて調べた解の個数$N_{\nu}$を載せておきます.$q_{\nu}^2,\;N_{\nu}/q_{\nu}^2$の値も並べておきます

$\nu$$N_{\nu}$$q_{\nu}^2(=7^{2\nu})$$N_{\nu}/q_{\nu}^2$
155491.12...
2302524011.25...
31108091176490.94...
4559440157648010.97...
52860213152824752491.01...

確かに$N_{\nu}$$q_{\nu}^2$とはまあまあ近い値になっていますね!

命題1の証明

$3$乗根の個数

それでは命題1の等式を証明していこうと思います.改めて記号を確認しておきます.$\nu$$1$以上の整数であり,$q=7^{\nu},\; k=\mathbb{F}_q$であり,$k$における方程式

$C:x_0^3+x_1^3+x_2^3=0$

の解$(x_0,x_1,x_2)\in k^3$の個数を$N$とします.

さて,$u\in k$に対して,$u$$k$における$3$乗根の個数を$N(u)$と書くことにします.$N(0)=1$です.また,$u\in k\setminus \{0\}$に対しては$u$$3$乗根$v\in k$がもし存在すれば$2v,\;4v\in k$$u$$3$乗根であるため,次の命題が成立します:

任意の$u\in k\setminus\{0\}$に対して$N(u)=0$または$N(u)=3$

この$N(u)$を用いて解の個数$N$は次のように書けます:

$N=\displaystyle\sum_{u=(u_0,u_1,u_2)\in L} N(u_0)N(u_1)N(u_2)$が成り立つ.

ただし,$L=\{(u_0,u_1,u_2)\in k^3\mid u_0+u_1+u_2=0\}$とした.

$u_0+u_1+u_2=0$を満たす$(u_0,u_1,u_2)\in k^3$をとり固定する.

$i=0,1,2$に対して$v_i^3=u_i$を満たす$v_i$を取れば,組$(v_0,v_1,v_2)$$C$の解となるが,条件$(\forall i,\;v_i^3=u_i)$を満たす組$(v_0,v_1,v_2)$$N(u_0)N(u_1)N(u_2)$個ある.

ところで$L$$k^3$の中で$k$$2$次元の部分空間をなすので,次が成り立ちます:

$\#L=(\#k)^2=q^2$

指標を考える

次に$N(u)$$N$を指標を用いて評価していきます.
有理数$\alpha\in \dfrac{1}{3}\mathbb{Z}:=\left\{\dfrac{m}{3}\mid m\in \mathbb{Z}\right\}$に対して写像$\chi_{\alpha}:k\rightarrow \mathbb{C}$を次のように定義します:
まず$k^*=k\setminus\{0\}$は巡回群なので,その生成元$w$$1$つとり固定します.$u\in k^*$はある$m\in\mathbb{Z}$により$u=w^m$と書けるので,この$m$を用いて$\chi_{\alpha}(u)=e^{2\pi m\alpha\sqrt{-1}}$と定めます.また,$\alpha\not\in \mathbb{Z}$のとき$\chi_{\alpha}(0)=0$$\alpha\in \mathbb{Z}$のとき$\chi_{\alpha}(0)=1$と定めます.

実は次の章で$\nu$ごとの$\chi_{\alpha}$たちの整合性が必要になるので,これらは次のように定められているとします.

$\mathbb{F}_{7^{\nu}}^*$の生成元を$w_{\nu}$と書き,$\alpha\in\dfrac{1}{3}\mathbb{Z}$$w_{\nu}$により定まる$\chi_{\alpha}:\mathbb{F}_{7^{\nu}}\rightarrow \mathbb{C}$を,$\nu$を明記して$\chi_{\nu,\alpha}$と書くことにする.$\chi_{\nu,\alpha}$は生成元$w_{\nu}$の取り方に依存して決まるが,次の整合性を満たしていると仮定する:

任意の$u\in \mathbb{F}_{7^{\nu}}^*$に対して$\chi_{\nu,\alpha}(u)=\chi_{1,\alpha}(Nr_{\nu}(u))$
ただし$Nr_{\nu}$は体拡大$\mathbb{F}_{7^{\nu}}/\mathbb{F}_7$に対して定まるノルム.

(この整合性を満たすように$w_{\nu}$たちを定めるということです.)

さて,こうして定めた$\chi_{\alpha}$に対して次のことが成立するのはそんなに難しくないでしょう:

(1)$u\in k$に対して$\chi_{0}(u)=1$
(2)$\alpha,\beta\in\dfrac{1}{3}\mathbb{Z},\;u\in k^*$に対して$\chi_{\alpha+\beta}(u)=\chi_{\alpha}(u)\chi_{\beta}(u)$

(3)$\alpha\in\dfrac{1}{3}\mathbb{Z},\;u,v\in k^*$に対して$\chi_{\alpha}(uv)=\chi_{\alpha}(u)\chi_{\alpha}(v)$

(4)$u\in k$に対して$N(u)=\displaystyle\sum_{\alpha\in A}\chi_{\alpha}(u)$.ただし$A=\left\{0,\dfrac{1}{3},\dfrac{2}{3}\right\}$

((4)は$u=0$の場合と,$u\not=0$$u$が立方数である場合と,立方数でない場合とで場合分けすると示せます.)

命題5と命題7(4)を合わせることで次が得られます:

$N=\displaystyle\sum_{((u_0,u_1,u_2),(\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2))\in L\times A^3}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{\alpha_2}(u_2)$

以下では$3$つの値の組を$1$つの文字でおいて$u=(u_0,u_1,u_2)\in L$$\alpha=(\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2)\in A^3$とも書くことにします.

以降で添字集合$L\times A^3$$3$個の部分集合に分けることで命題8の右辺を評価していきます.

$A'=\left\{\dfrac{1}{3},\dfrac{2}{3}\right\}$とおき,

$B_1=\{(0,0,0)\}$

$B_2=\{\alpha=(\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2)\in A^3\mid \alpha_0,\alpha_1,\alpha_2$のうち$0$であるものの個数が$1$または$2\}$

$B_3=A'^3=\{\alpha=(\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2)\in A^3\mid \alpha_0,\alpha_1,\alpha_2$のいずれも$0$でない$\}$

とおきます.すると$A^3=B_1\coprod B_2\coprod B_3$となります.

そこで,$(u,\alpha)$$L\times B_i\;(i=1,2,3)$を動くときの$\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{\alpha_2}(u_2)$の和をそれぞれ評価していきます.

$L\times B_1$

まず,$S_1:=\displaystyle\sum_{(u,\alpha)\in L\times B_1}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{\alpha_2}(u_2)$を評価します.

$S_1=q^2$

$S_1=\displaystyle\sum_{u\in L}\chi_{0}(u_0)\chi_{0}(u_1)\chi_{0}(u_2)=\sum_{u\in L}1\cdot 1\cdot 1=\#L=q^2$

$L\times B_2$

次に$S_2:=\displaystyle\sum_{(u,\alpha)\in L\times B_2}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{\alpha_2}(u_2)$を評価します.

$\alpha=(\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2)\in B_2$に対して,$\alpha$を固定して$u\in L$を動かしたときの和を

$S_2(\alpha):=\displaystyle\sum_{u\in L}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{\alpha_2}(u_2)$
と定めます.各$S_2(\alpha)$を評価します.

任意の$\alpha\in B_2$に対して$S_2(\alpha)=0$

$\alpha=(\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2)\in B_2$$\alpha_0,\alpha_1\not=0,\;\alpha_2=0$を満たすとする.

\begin{aligned} S_2(\alpha)&=\displaystyle\sum_{u\in L}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{0}(u_2)\\ &=\displaystyle\sum_{u_0,u_1\in k}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{0}(-u_0-u_1)\\ &=\displaystyle\sum_{u_0,u_1\in k}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\cdot 1\\ &=\left(\sum_{u_0\in k}\chi_{\alpha_0}(u_0)\right)\left(\sum_{u_1\in k}\chi_{\alpha_1}(u_1)\right)\\ &=0\cdot 0\\ &=0. \end{aligned}

他の$\alpha\in B_2$に対しても同様に示せる.

ただし次の補題を用いました:

$\alpha\in A'=\left\{\dfrac{1}{3},\dfrac{2}{3}\right\}$に対して$\displaystyle\sum_{u\in k}\chi_{\alpha}(u)=0$

\begin{aligned} \displaystyle\sum_{u\in k}\chi_{\alpha}(u)&=\chi_{\alpha}(0)+\sum_{u\in k^*}\chi_{\alpha}(u)\\ &=0+\sum_{m=0}^{q-2}e^{2\pi\alpha\sqrt{-1}\cdot m}\\ &=\dfrac{1-(e^{2\pi\alpha\sqrt{-1}})^{q-1}}{1-e^{2\pi\alpha\sqrt{-1}}}\\ &=\dfrac{1-1}{1-e^{2\pi\alpha\sqrt{-1}}}\\ &=0. \end{aligned}
($q-1$$3$の倍数であることに注意.)

$S_2=\displaystyle\sum_{\alpha\in B_2}S_2(\alpha)$と命題10により,次が得られます:

$S_2=0$

$L\times B_3$

最後に$S_3:=\displaystyle\sum_{(u,\alpha)\in L\times B_3}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{\alpha_2}(u_2)$を評価します.

前項と同様に$\alpha=(\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2)\in B_3$に対して,$\alpha$を固定して$u\in L$を動かしたときの和を

$S_3(\alpha):=\displaystyle\sum_{u\in L}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{\alpha_2}(u_2)$
と定めます.

さて$S_3$を表すのに必要な記号をいくつか定義します.
$B_4:=\{\alpha=(\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2)\in B_3\mid \alpha_0+\alpha_1+\alpha_2\in \mathbb{Z}\}$とおきます.少し手を動かすとわかると思うのですが,$B_4=\left\{\left(\dfrac{1}{3},\dfrac{1}{3},\dfrac{1}{3}\right),\left(\dfrac{2}{3},\dfrac{2}{3},\dfrac{2}{3}\right)\right\}$となります.$\gamma_1=\left(\dfrac{1}{3},\dfrac{1}{3},\dfrac{1}{3}\right),\gamma_2=\left(\dfrac{2}{3},\dfrac{2}{3},\dfrac{2}{3}\right)$とおきます.

$\alpha\in B_4$に対して,$j_{\nu}(\alpha)=j(\alpha):=\displaystyle\sum_{v_1,v_2\in k ,\;1+v_1+v_2=0}\chi_{\alpha_1}(v_1)\chi_{\alpha_2}(v_2)$と定めます.すると,次の評価が成り立ちます:

$S_3=(q-1)\displaystyle\sum_{\alpha\in B_4}j(\alpha)=(q-1)(j(\gamma_1)+j(\gamma_2))$

$\alpha=(\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2)\in B_3$をとる.$\alpha_0\not\in\mathbb{Z}$なので,$u_0=0$のとき$\chi_{\alpha_0}(u_0)=0$であることから,
\begin{aligned} S_3(\alpha)&=\displaystyle\sum_{u\in L}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{\alpha_2}(u_2)\\ &=\sum_{u\in L,\;u_0\not=0}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_1)\chi_{\alpha_2}(u_2). \end{aligned}
そこで,$u_0\not=0$なる$u=(u_0,u_1,u_2)\in k^3$に対して$v_1=u_1/u_0,\;v_2=u_2/u_0$とおくと,$u_0+u_1+u_2=0\Leftrightarrow 1+v_1+v_2=0$より,命題7(2),(3)を用いて,
\begin{aligned} S_3(\alpha)&=\sum_{u_0,v_1,v_2\in k,\;u_0\not=0,\;1+v_1+v_2=0}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_0v_1)\chi_{\alpha_2}(u_0v_2)\\ &=\sum_{u_0,v_1,v_2\in k,\;u_0\not=0,\;1+v_1+v_2=0}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_0)\chi_{\alpha_1}(v_1)\chi_{\alpha_2}(u_0)\chi_{\alpha_2}(v_2)\\ &=\left(\sum_{u_0\in k\setminus\{0\}}\chi_{\alpha_0}(u_0)\chi_{\alpha_1}(u_0)\chi_{\alpha_2}(u_0)\right)\left(\sum_{v_1,v_2\in k,\;1+v_1+v_2=0}\chi_{\alpha_1}(v_1)\chi_{\alpha_2}(v_2)\right)\\ &=\left(\sum_{u_0\in k\setminus\{0\}}\chi_{\beta}(u_0)\right)\left(\sum_{v_1,v_2\in k,\;1+v_1+v_2=0}\chi_{\alpha_1}(v_1)\chi_{\alpha_2}(v_2)\right). \end{aligned}
ただし$\beta=\alpha_0+\alpha_1+\alpha_2$とおいた.

ここで,右辺の前者の因子に注目し,$\beta$が整数かどうかで場合分けする.

(i)$\beta=\alpha_0+\alpha_1+\alpha_2\not\in\mathbb{Z}$の場合,
補題11の証明と同様にして$\displaystyle\sum_{u_0\in k\setminus\{0\}}\chi_{\beta}(u_0)=0.$

ゆえ,$S_3(\alpha)=0.$

(ii)$\beta=\alpha_0+\alpha_1+\alpha_2\in\mathbb{Z}$の場合,
$\displaystyle\sum_{u_0\in k\setminus\{0\}}\chi_{\beta}(u_0)=\sum_{u\in k\setminus\{0\}}1=q-1.$

ゆえ,$S_3(\alpha)=(q-1)j(\alpha).$

以上から,$S_3=\displaystyle\sum_{\alpha \in B_3}S_3(\alpha)=(q-1)\sum_{\alpha\in B_4}j(\alpha)=(q-1)(j(\gamma_1)+j(\gamma_2)).$

以上をまとめる

命題8,9,12,13により,次の評価が得られます:
$N=S_1+S_2+S_3=q^2+(q-1)(j(\gamma_1)+j(\gamma_2)).$

また,全く自明ではないのですが,$|j(\gamma_i)|=\sqrt{q}\;(i=1,2)$となります.(このことを示すのはこの記事では省略します.論文1では,ガウス和というものを考えて示しています.)

以上で命題1が証明されました!

解の個数で冪級数を作る

射影空間における解の個数

射影空間とは

この章では比$(a_0:a_1:a_2)$全体の集合である射影空間$P^2(k)$で解の個数を考えます.まず射影空間の定義を見ましょう.

$k$を体とし,集合$X:=k^3\setminus\{(0,0,0)\}$に次のように定義される同値関係$\sim$を導入します:

$X$上の同値関係$\sim$を次のように定義する:

$(x_0,x_1,x_2),(y_0,y_1,y_2)\in X$に対して,

$(x_0,x_1,x_2)\sim(y_0,y_1,y_2)$
$:\Leftrightarrow$ある$c\in k\setminus\{0\}$が存在して$y_0=cx_0,\;y_1=cx_1,\;y_2=cx_2.$

この同値関係による商集合を$P^2(k)$と書き,射影空間と呼ぶことにします:$P^2(k)=X/\sim$.また,$(a_0,a_1,a_2)\in X$が代表する$P^2(k)$の元を$(a_0:a_1:a_2)$と書くことにします.

解の個数

$(a_0,a_1,a_2)\in X$について,これが方程式$C$の解である($a_0^3+a_1^3+a_2^3=0$)とき,$(a_0:a_1:a_2)\in P^2(k)$$C$の解であるということにします.$1$以上の整数$\nu$に対して, $k=k_{\nu}=\mathbb{F}_{q_{\nu}}$とおいたとき,$P^2(k)$の元であって$C$の解であるものの個数を$\overline{N}_{\nu}$と書くことにします.前の章の結果(命題1)から$\overline{N}_{\nu}$に対する次の評価がすぐに得られます:

$\overline{N}_{\nu}=1+7^{\nu}+j_{\nu}(\gamma_1)+j_{\nu}(\gamma_2).$

まず方程式$C$$X=k^3\setminus\{0\}$における解の個数は$N_{\nu}-1$

また,$C$の解$(x_0,x_1,x_2)\in X$$1$つとり固定するとき,任意の$c\in k\setminus\{0\}$に対して$(x_0,x_1,x_2)\sim (cx_0,cx_1,cx_2)$であり,$P^2(k)$において$(x_0,x_1,x_2)$と同じ元を定める$X$の元の個数は$\#(k\setminus\{0\})=q_{\nu}-1$

よって命題1により
\begin{aligned} \overline{N}_{\nu}&=\dfrac{N_{\nu}-1}{q_{\nu}-1}\\ \\ &=\dfrac{q_{\nu}^2-1+(q_{\nu}-1)(j_{\nu}(\gamma_1)+j_{\nu}(\gamma_2))}{q_{\nu}-1}\\ \\ &=q_{\nu}+1+j_{\nu}(\gamma_1)+j_{\nu}(\gamma_2)\\ \\ &=1+7^{\nu}+j_{\nu}(\gamma_1)+j_{\nu}(\gamma_2). \end{aligned}

さて,実は次のことが成り立ちます:

$\nu$$1$以上の整数とするとき,$i=1,2$に対して$j_{\nu}(\gamma_i)=-(-j_1(\gamma_i))^{\nu}.$

この命題は自明でないですが,証明は省略します.

さて$i=1,2$に対して$c_i=-j_1(\gamma_i)$とおきます.命題14,15より,次の評価が得られます:

$\overline{N}_{\nu}=1^{\nu}+7^{\nu}-c_1^{\nu}-c_2^{\nu}.$

こうして$\overline{N}_{\nu}$が「$a^{\nu}$」という形の数の和差として書けました.実はこのことが,あとで効いてきます!

ちなみに$c_1,c_2$の値を求めることは難しくないです.$j_1$$\gamma_1,\;\gamma_2$の定義を確認して計算すると,

$c_1=\dfrac{-1+\sqrt{-27}}{2},\;c_2=\dfrac{-1-\sqrt{-27}}{2}$

がわかります.

解の個数という整数を表すのに複素数が登場するというのなんとも奇妙で面白いですね!

$\nu=1,2,3,4,5$の場合の解の個数$\overline{N}_{\nu}$を命題16により計算したので,載せておきます:

$\nu$$\overline{N}_{\nu}$
19
263
3324
42331
517019

冪級数を考える

形式的冪級数環とは

$\overline{N}_{\nu}$を係数とする冪級数$\sum \overline{N}_{\nu}T^{\nu-1}$を考えましょう.

複素数体$\mathbb{C}$上の$T$を変数とする多項式環$\mathbb{C}[T]$を知っている人は多いと思うのですが,ここでは無限版多項式環ともいうべき,形式的冪級数環$\mathbb{C}[[T]]$というものを考えます.

$\mathbb{C}[[T]]$は,集合としては$a_0+a_1T+a_2T+...$と無限個の項の形式的な和として書けるもの全体の集合です:
$\mathbb{C}[[T]]:=\{a_0+a_1T+a_2T^2+...\mid \forall i\geq 0,\;a_i\in\mathbb{C}\}$.

$\mathbb{C}[[T]]$における加法は,多項式環$\mathbb{C}[T]$と同様に,次のように定まっています:

$f(T)=a_0+a_1T+a_2T^2+...,\;g(T)=b_0+b_1T+b_2T^2+...\in \mathbb{C}[[T]]$に対して,

$f(T)+g(T):=(a_0+b_0)+(a_1+b_1)T+(a_2+b_2)T^2+...$

$\mathbb{C}[[T]]$における乗法の定義は省略しますが,考えうる限り最も自然な方法で定義されています.また,「微分」も次のように定義されています:

$f(T)=\displaystyle\sum_{\nu=0}^{\infty}a_{\nu}T^{\nu}=a_0+a_1T+a_2T^2+...$に対して,

$\dfrac{\text{d}}{\text{d}T}f(T):=\displaystyle\sum_{\nu=1}^{\infty}\nu a_{\nu}T^{\nu-1}=a_1+2a_2T+3a_3T^2+...$

解の個数を係数とする冪級数

それでは,$P^2(k_{\nu})$における$C$の解の個数$\overline{N}_{\nu}$を係数とする冪級数

$F(T):=\displaystyle\sum_{\nu=1}^{\infty}\overline{N}_{\nu}T^{\nu-1}=\overline{N}_1+\overline{N}_2T+\overline{N}_3T^2+...$

を考えましょう.添え字と指数が$1$ずれていることに注意してください.

さてここから,命題16を用いて$F(T)$を変形していきましょう.なお以下の議論では細かい説明を省略していますが,解析における操作と同様の操作がなぜかおこなえると思って読んでください.
$\mathbb{C}[[T]]$の元$\dfrac{1}{1-T},\; \exp(T),\;\log(1-T)\in \mathbb{C}[[T]]$の定義だけ一応書いておきます:

$\dfrac{1}{1-T}:=\displaystyle\sum_{\nu=1}^{\infty}T^{\nu}=1+T+T^2+T^3+...$

$\exp(T):=\displaystyle\sum_{\nu=0}^{\infty}\dfrac{T^{\nu}}{\nu!}=1+T+\dfrac{T^2}{2}+\dfrac{T^3}{6}+...$

$\log(1-T):=-\displaystyle\sum_{\nu=1}^{\infty}\dfrac{T^{\nu}}{\nu}=-T-\dfrac{T^2}{2}-\dfrac{T^3}{3}-...$

命題16を用いて$F(T)$を変形します:

\begin{aligned} F(T)&=\overline{N}_1+\overline{N}_2T+\overline{N}_3T^2+...\\ \\ &=(1+7-c_1-c_2)+(1+7^2-c_1^2-c_2^2)T+(1+7^3-c_1^3-c_2^3)T^2+...\\ \\ &=(1+T+T^2...)+(7+7^2T+7^3T^2+...)-(c_1+c_1^2T+c_1^3T^2+...)-(c_2+c_2^2T+c_2^3T^2+...)\\ \\ &=(1+T+T^2...)+7(1+7T+(7T)^2+...)-c_1(1+c_1T+(c_1T)^2+...)-c_2(1+(c_2T)+(c_2T)^2+...)\\ \\ &=\dfrac{1}{1-T}+\dfrac{7}{1-7T}-\dfrac{c_1}{1-c_1T}-\dfrac{c_2}{1-c_2T}\\ \\ &=\dfrac{\text{d}}{\text{d}T}\left(-\log(1-T)-\log(1-7T)+\log(1-c_1T)+\log(1-c_2T)\right)\\ \\ &=\dfrac{\text{d}}{\text{d}T}\left(\log\dfrac{(1-c_1T)(1-c_2T)}{(1-T)(1-7T)}\right)\\\\ &=\dfrac{\text{d}}{\text{d}T}\left(\log\dfrac{1+T+7T^2}{(1-T)(1-7T)}\right)\\\\ \end{aligned}

この右辺の$\log$の中身$Z(T):=\dfrac{1+T+7T^2}{(1-T)(1-7T)}$を($C$の)合同ゼータ関数と言います.

(なお両辺を「積分」することで

$\displaystyle\sum_{\nu=1}^{\infty}\dfrac{\overline{N}_{\nu}}{\nu}T^{\nu}=\log\dfrac{1+T+7T^2}{(1-T)(1-7T)}$

さらに両辺の$\exp$をとることで

$\exp\left(\displaystyle\sum_{\nu=1}^{\infty}\dfrac{\overline{N}_{\nu}}{\nu}T^{\nu}\right)=\dfrac{1+T+7T^2}{(1-T)(1-7T)}$

となり,2の定義11.15の形になります.)

ヴェイユ予想によれば,この合同ゼータ関数$Z(T)$は,$\mathbb{C}$において方程式$C$が定める代数多様体の「かたち」に関する情報を持っているらしいです.(私の理解が浅いため詳しく説明することはできませんが,いつかちゃんと理解したいです!)

さて,合同ゼータ関数$Z(T)=\dfrac{1+T+7T^2}{(1-T)(1-7T)}$の分子$T^2$の係数が$7$になっており,この記事で我々が扱っている体$\mathbb{F}_{7^{\nu}}$の標数$7$と一致していますね.実はこれは偶然ではなく,ヴェイユ予想の小さな片鱗がここに現れているのです!

漸化式を求める

フィボナッチ数列との比較

命題16の解の個数に対する評価を再掲します:

$\overline{N}_{\nu}=1+7^{\nu}-c_1^{\nu}-c_2^{\nu}$

(ただし,$c_1=\dfrac{-1+\sqrt{-27}}{2},\;c_2=\dfrac{-1-\sqrt{-27}}{2}$.)

移項して両辺を入れ替えることで,

$1+7^{\nu}-\overline{N}_{\nu}=c_1^{\nu}+c_2^{\nu}$

を得ます.この式では,左辺の整数$1+7^{\nu}-\overline{N}_{\nu}$が,無理数$c_1,\; c_2$のべきの和として表されています.これを見て,私はフィボナッチ数列を思い浮かべました.

フィボナッチ数列$(F_n)_{n\in \mathbb{N}}$とは,

$F_1=F_2=1$とし,漸化式$F_{n+2}=F_{n+1}+F_n\;(n\geq 1)$により順次定まる数列です.特性方程式を考えるなどして一般項を求めることができ,一般項は次のようになっています:

$F_n=\dfrac{1}{\sqrt{5}}\left(\left(\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}\right)^n-\left(\dfrac{1-\sqrt{5}}{2}\right)^n\right)$

整数$F_n$が無理数のべきの差の$\dfrac{1}{\sqrt{5}}$倍として書かれています.さっきの$1+7^{\nu}-\overline{N}_{\nu}=c_1^{\nu}+c_2^{\nu}$と似ていますね.

解の個数についての漸化式を求める

というわけで,この類似を見て私は,逆に数列$a_{\nu}:=1+7^{\nu}-\overline{N}_{\nu}=c_1^{\nu}+c_2^{\nu}$がどんな漸化式を満たすのか,求めたくなりました.フィボナッチ数列の漸化式から一般項を求める手順を逆向きに辿ることで,数列$ (a_{\nu})_{\nu\in\mathbb{N}}$ の漸化式を求めてみましょう!

正の整数$\nu$に対して,$a_{\nu+2}+a_{\nu+1}+7a_{\nu}=0.$

\begin{aligned} a_{\nu}&=c_1^{\nu}+c_2^{\nu}\\ \\ \dfrac{a_{\nu}}{c_2^{\nu}}&=\left(\dfrac{c_1}{c_2}\right)^{\nu}+1&\text{(両辺を}c_2^{\nu}\text{で割った)}\\\\ \dfrac{a_{\nu}}{c_2^{\nu}}-1&=\left(\dfrac{c_1}{c_2}\right)^{\nu}. \end{aligned}
ここで$b_{\nu}:=\dfrac{a_{\nu}}{c_2^{\nu}}-1$とおくと,$b_{\nu}=\left(\dfrac{c_1}{c_2}\right)^{\nu}$であるから,$(b_{\nu})$は公比$\dfrac{c_1}{c_2}$の等比数列である.よって次の漸化式を得る:$b_{\nu+1}=\dfrac{c_1}{c_2}b_{\nu}.$

よって,$b_{\nu}=\dfrac{a_{\nu}}{c_2^{\nu}}-1$より,
\begin{aligned} \dfrac{a_{\nu+1}}{c_2^{\nu+1}}-1&= \dfrac{c_1}{c_2}\left(\dfrac{a_{\nu}}{c_2^{\nu}}-1\right)\\\\ a_{\nu+1}-c_2^{\nu+1}&=c_1a_{\nu}-c_1c_2^{\nu}&\text{(両辺に}c_2^{\nu+1}\text{を掛けた)}\\\\ a_{\nu+1}-c_1a_{\nu}&=(c_2-c_1)c_2^{\nu}. \end{aligned}

ここで$d_{\nu}:=a_{\nu+1}-c_1a_{\nu}$とおくと,$d_{\nu}=(c_2-c_1)c_2^{\nu}$であり$(d_{\nu})$は公比$c_2$の等比数列である.よって次の漸化式を得る:$d_{\nu+1}=c_2d_{\nu}.$

よって,$d_{\nu}=a_{\nu+1}-c_1a_{\nu}$より,
\begin{aligned} a_{\nu+2}-c_1a_{\nu+1}&=c_2(a_{\nu+1}-c_1a_{\nu})\\\\ a_{\nu+2}-(c_1+c_2)a_{\nu+1}+c_1c_2a_{\nu}&=0\\\\ a_{\nu+2}+a_{\nu+1}+7a_{\nu}&=0. \end{aligned}

かくして$a_{\nu+2}+a_{\nu+1}+7a_{\nu}=0$という漸化式が得られました!ここに$a_{\nu}=1+7^{\nu}-\overline{N}_{\nu}$を代入し整理することで,次の$\overline{N}_{\nu}$に対する漸化式も得られます:

正の整数$\nu$に対して,$\overline{N}_{\nu+2}+\overline{N}_{\nu+1}+7\overline{N}_{\nu}=9(1+7^{\nu+1}).$

左辺の$\overline{N}_{*}$の係数は$1,\; 1,\; 7$と並んでいますが,$C$の合同ゼータ関数$Z(T)=\dfrac{1+T+7T^2}{(1-T)(1-7T)}$の分子の係数にも同じ$1,\; 1,\; 7$が並んでいて興味深いですね.

おしまい.

参考文献

[1]
André Weil, Numbers of solutions of equations in finite fields, Bull. Amer. Math. Soc., 1949, 497-508
[2]
三枝洋一, 数論幾何入門 モジュラー曲線から大定理・大予想へ, 森北出版, 2024
投稿日:1017
更新日:1018
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