熟読未満ななめ読み以上の気になった論文についての要点をまとめたものです
Woodhouse, N. M. J. "The differentiable and causal structures of space‐time." Journal of Mathematical Physics 14.4 (1973): 495-501.
を少し読んだので要点のまとめです。細かい行間、証明などはフォローしてない部分があります。理解に誤りがある可能性もあります。興味を持った方はこの論文を読んでぜひ議論してください。元論文はどうも表現を簡潔にしようとする意識が強く意味が取りにくいのでこの記事では少し表現を変えています。
通常のGRの仮定は以下である。
しかし従来のGRの建設の仕方はいくらかの人たち(Ehlers,Pirani,Schildなど)から以下のような難癖をつけられてきた。
この論文の目的は物理的にreasonableな単純で原始的な公理から時空の可微分構造、因果構造、共形構造を導くことである。
$ M:$点集合
$ P:M$の部分集合の族で$ P\ni p$には$ C^0$級1次元部分多様体の構造を入れることができ、さらに$\mathbb{R}$と同相である
任意の$ x\in M$に対して、ある$ p\ni P$が存在して、$ x\in p$となるとする
各$ p\in P$には$\mathbb{R}$の2つある順序のうち1つが誘導される、$ <<_p$と書く
$ x,y\in p$に対して$ x<<_py$のとき、$ x$は$ y$にchronologicalに先行するという
各$ p\in P$はparticleと呼ばれ、自由落下の粒子の世界線を表す
(a) trip
各particle$ p\in P$に順序が定められているとする
$ x,y\in M$に対して、$ x$から$ y$へのtripとは、点列$ x=z_0,z_1,\cdots,z_n=y$とparticle列$ p_1,\cdots,p_n$で以下の条件を満たすもののことである
$ 0\le i\le n-1$に対して、$ z_i,z_{i+1}\in p_{i+1}$かつ$ z_i<<_{p_{i+1}}z_{i+1}$
(b) $ <<$
$ x$から$ y$へのtripが存在するとき、$ x<< y$と書く( x chronologically precedes to y)
各$ p\in P$の順序を$ x<< x$となる$ x\in M$が存在しないように選ぶことができる
(a) $ I^+(x):=\{y\in M;\ x<< y\},I^-(x):=\{y\in M;\ x>>y\}$
(b) $ x< y$(x causally preceeds y) $ \Leftrightarrow\ I^+(y)\subset I^+(x)$ and $ I^-(y)\supset I^-(x)$
(c)Alexandrov位相とは$ \{I^+(x);x\in M\}\cup\{I^-(x);x\in M\}$が準開基となって作られる位相である
(d) $ x\uparrow y$(horismos relation) $ \Leftrightarrow x< y$だが$ x<< y$ではない
Lorentz多様体において、$ \overline{I^+(p)}=\overline{J^+(p)}$と$ \overline{I^+(x)}=\{y\in M;\ I^+(y)\subset I^+(x)\}$が成り立つ
(b)はこの性質を抽象化したものと思われる
(c)は後で分かるが物理的にもリーズナブルな位相である
$ x\in M,p\in P$に対して、$ p\cap I^+(x)$と$ p\cap I^-(x)$は$ p$の位相に関して開集合である
($ x$から$ p$のある点へchronologicalに到達できるとき、より早くchronologicalに到達することが可能だということを意味している)
物理的には時空点は近傍を小さくした極限でしかない
どんな測定もただ一つの時空点で行われることはありえない
従ってどんな実験や測定も時空点$ x,y$が因果的に関与しているかしていないのかを判断することはできない
これらのことからalmost causalityを以下のように導入する
$ xAy\Leftrightarrow\ \forall z\in I^-(x),I^+(z)\supset I^+(y)$
$ xAy,yAx\Rightarrow x=y$
Alex位相はハウスドルフ
$ <<$はfuture, past distinguishingである
すなわち、
$ I^+(x)=I^+(y)\Rightarrow x=y$
$ I^-(x)=I^-(y)\Rightarrow x=y$
Axiom 1bは結構リーズナブルであるが、補題1,2が導かれるというのがなかなかよい結果だと思う
$ \forall x\in M$に対して、$ y\in M$で$ y<< x$となるものが存在する
$ y_1,y_2<< x$のとき、$ z\in M$で$ z<< x$かつ$ z<< y_1,y_2$となるものが存在する
局所的な因果構造の連続性を要請する。
任意の$ x\in M$に対して、future and past reflectingな近傍$ N_x$が存在する
Lorentz多様体ではhorismosな関係にある2点間には少なくとも一つのnull geodesicが存在するという事実があるが、今はLorentz多様体の構造が入ってないのでlight signalをlocalに定義する。
$ x\in M,y\in N_x$に対して、$ x\uparrow y$のとき$ x$から$ y$へのlocal light signalが存在するという
そいて光のやり取りを利用したmessage functionなるものを定義する。これは多様体構造や微分構造を入れるのに後で使われる。
partcle $ p\in P$の十分近い近傍$ U_p$の点$ z\in U_p$に対して、$ z$から出る未来向きのlight signalを受け取る点を$ f^+(z)\in p$、$ z$へ未来向きにlight signalを出すことの出来る$ p$上の点を$ f^-(z)\in p$とする。
$ f^\pm:U_p\to p$をmessage functionと呼ぶ。
厳密には以下のように定義する。
$ U_p:=\bigcup_{x\in p}N_x$
$ N_x:$local reflecting nbhd such that $ N_x:=I^+(m_1)\cup I^-(m_2),\exists m_1,m_2\in p$
$ f^+(z):=\inf_{x\in p}\{x>>z\}$($ \inf$は$ p$上の順序$ <<_p$について考える)
$ f^-(z):=\sup_{x\in p}\{x<< z\}$($ \sup$は$ p$上の順序$ <<_p$について考える)
$ f^\pm:U_p\to p$は連続写像かつ開写像である。
この証明は少し長い。
この補題の証明からAlex位は$ f^\pm$が連続になるような最も粗い位相であることが分かる。よってAlex位相はfree fall observerが近傍時空を連続に観察できるために最低限必要な位相であるため物理的にもreasonableである。
適当な2人のfree fallする観測者がそれぞれ、ある時空点に対して、光を発射して、それが反射して受け取るとき、発射した固有時と反射を受け取った時刻を使って4つの実数を作れば、それが局所座標になっているというアイデアを使って時空に4次元位相多様体としての座標付けが可能であるという公理を定める。
$ p_1,p_2\in P,\ U_{p_1}\cap U_{p_2}\ne\emptyset$とする
$ f_i^\pm:U_{p_i}\to\mathbb{R}$を$ p_i$に関するmessage funcとする
$ f:(U_{p_1}\cap U_{p_2})\backslash(p_1\cup p_2)\to\mathbb{R}^4$を
$ f_{p_1,p_2}(x)=(f_1^+(x),f^-_1(x),f_2^+(x),f^-_2(x))\in\mathbb{R}^4$
と定義する
このとき、任意の$ x\in M$に対して、以下の条件を満たす$ p_1,p_2\in P$が存在する
(i)$ U_{p_1}\cap U_{p_2}\ne\emptyset$
(ii)$ (U_{p_1}\cap U_{p_2})\backslash(p_1\cup p_2)$の適当な部分集合$ W$で$ x\in W$となるものが存在する
(iii)$f_{p_1,p_2}|_W:W\to \mathbb{R}4$は同相写像であり、$ f_{p_1,p_2}(W)$は$ \mathbb{R}^4$の単連結領域である
直感的にはこの方法で局所座標付けできそうな気がするが要確認
例えば、Minkowskiにおいて、同一平面上にある2つのtimelike geodesicは上のような局所座標を定めることはできない(要確認)
”ねじれの位置”のような関係になっている必要がある
$ M$は$ C^0$級実多様体である。
first dimension axiomは4次元限定であるのが少し気に入らない。高次元時空にも適用できるように次元公理は拡張されるべきであると思う。
時空中の流体の流れをモデル化して1パラメータ局所変換群芽に似た構造を定義する。
$ p_\lambda\in P$は1次元実多様体の構造を持つからparametrizationを$ t_\lambda:\mathbb{R}\to p_\lambda$とする
添え字集合$ \lambda\in\Lambda$は$ P$の元やそのparametrizationを指定しているとする
$ U\subset M$を開集合とするとき、$ \mathfrak{C}:=\{(p_\lambda,t_\lambda);\ \lambda\in\Lambda\}$が$ U$上の$C^0$-congruenceであるとは
(i) 任意の$ x\in U$に対して、$ (p_x,t_x)\in\mathfrak{C}$で$ x\in p_x,\ t_x(0)=x$を満たすものがただ一つ存在する
(ii) 与えられた$ r\in(-\epsilon,\epsilon)\subset \mathbb{R}$]に対して、$ U\ni x\mapsto t_x(r)\in M$は連続写像
$C^0$多様体の構造が入ったので次に$ C^1$級構造を導入したい
お気持ち
$ P$の各元は微分可能なparametrizationを取ることが可能であるとする(以下parametrizationは可微分なものを考える)
任意の$ p\in P$と十分小さい$ V\subset U_p$を取る
$ \mathfrak{C}$を$ V$上の$ C^0$-congruenceとする
$ x\in V$に対して、congruenceの定義より$ (p_x,t_x)\in\mathfrak{C}$で$ x\in p_x,\ t_x(0)=x$となるものがただ一つ存在する($ t_x$は微分可能なparametrizationになっているとする)
$ f_p^\pm$を$ p$に関するmessage funcとする
このとき$ f^\pm_p\circ t_x:\mathbb{R}\to\mathbb{R}$に対して、$ \frac{d}{dt}(f^\pm_p\circ t_x)(0)$が定まるとし、また写像
$ V_\pm:V\to\mathbb{R}$
$ V_\pm(x):=\frac{d}{dt}(f^\pm_p\circ t_x)(0)$
は連続であるとする
congruenceが独立な方向へ流れていることを次のように定義する。
$ x\in M$の近傍$ U$において、$ n$個の$ C^0$-congruence$ \{\mathfrak{C}_i\}_{i=1,\cdots,n}$があるとする
$ W\subset\mathbb{R}^n$を十分小さい開集合とし、$ (y^1,\cdots,y^n)\in W$とする
このとき、$ x$から$ \mathfrak{C}_1$の流れに沿って$ y^1$だけ進み、次にその点から$ \mathfrak{C}_2$の流れに沿って$ y^2$だけ進み、を繰り返すことで、$ f:\mathbb{R}^n\supset W\to U$が定まる(もう少し厳密に記述できるが省略)
$ f$が同相写像となるとき、$ \{\mathfrak{C}_i\}_{i=1,\cdots,n}$は独立であるという
($ M$の位相はAlex位相、$W$の位相は通常の$\mathbb{R}^n$の位相)
2つ目の次元公理を導入する。
任意の$ x\in M$において、適当な近傍$ U(\ni x)$があり、$ U$上に4つの独立な$ C^0$-congruence$ \{\mathfrak{C}_i\}_{i=1,\cdots,4}$が存在する
以上の準備から$C^1$級構造が入る。
任意の2つのparticle間のmessage funcが$ C^1$級ならば、$ M$は$ C^1$級多様体である
さらに、$ M$が$ C^k,\ (k\geq1)$級多様体であるとき、Axiom5の$ V_\pm$を$ C^{k+1}$級にして、congruenceの独立性の定義の$ f$を$ C^{k+1}$級同相写像にして、Thm2の仮定をmessage funcが$ C^{k+1}$級であるとすると、帰納的に$ M$が$ C^\infty$]級多様体であることが従う
1st,2nd dimensional axiomに相当する機能を持つもう少し一般的な公理を作りたい
位相次元などからアプローチできないだろうか
$C^\infty$多様体構造を帰納的に入れることができるという部分は可算個の公理を導入しているので、ちょっと嫌なのだが、よく考えるとC^∞構造を導くためには任意有限階の微分可能性についてどこかの段階では仮定しないといけないので、実質的にはこれしかないかなとも思う
いよいよ共形構造を入れる。ここがこの論文の最も重要な部分だと思う。しかし論理がよく分からない部分が多い。
$ x\in M$に対して、$ x\in p$となる$ p\in P$を選び、$ p$の微分可能なparametrizationを$ t:p\to\mathbb{R},\ t(x)=0$とする
$ g:U_p\to R$を$ g(z):=t(f_p^+(z))\times t(f_p^-(z))$と定義する
(これまで$ f^\pm$は$ p$上で定義されていなかったが、$ z\in p$に対して、$ f^\pm(z)=z$と拡張しておく)
$ g(z)=0$となるのは$ t(f_p^+(z))=0$または$ t(f_p^-(z))=0$のときだから$ z\in (\partial I^+(x)\cup \partial I^-(x))\cap U_p$に対して、$ g(z)=0$である
($ g$はLorentz多様体の測地座標系における$ -t^2+x^2+y^2+z^2$という関数をイメージすればよい、この関数は原点で鞍点になっている、light cone2つを合わせた集合は$ g=0$の等高面である、$ Hess(g)=diag(-1,1,1,1)$となっているからこれを”計量”としたい)
$ g(z)=0$という集合は$ x\in p,\ t(x)=0$を満たしさえすれば$ p,t$の取り方によらない
$ S:=\{z\in U_p;\ g(z)=0\}$は3 dimのtopological hypersurfaceである(要確認)
特に$ x$において$ S$は滑らかな部分多様体ではない(要確認)
$ x$の近傍において$ x$を原点とする適当な座標$ \{y^a\}$で$ p=\{y^0=t,y^i=0\}$となるものを取る
$ \partial_a g(x)\ne0$なら、$ S$は$ x$において滑らかな部分多様体を定めるので(陰関数定理)、$ \partial_a g(x)=0$である
よってテイラー展開すると$ g(y^a)=\frac{1}{2}\partial_a\partial_b g(x) y^ay^b+O(|y^a|^3)$となっている
$ p$上では$ g(t,0,0,0)=t^2$であるから、$2=\frac{d^2}{dt^2}g(y^a(t))|_{t=0}=\partial^2_0g(x)$であるため、$ \partial_a\partial_b g(x)\ne0$である
parametrizationを$ t'=t'(t)$に取り替えて構成したものを$ g'$とすると、$ \partial_a\partial_b g'(x)=(\partial t'/\partial t)^2\partial_a\partial_b g(x)$となる
$ p$を取り替えても$ \partial_a\partial_b g'(x)=\Omega(x)^2\partial_a\partial_b g(x)$となるらしい(これは重要なステップだと思うが論理は書かれていない)
よって$ \partial_a\partial_b g(x)$は各$ x\in M$に対してscale倍の不定性を許して定まる
論文ではscale倍の不定性を許して$ \partial_a\partial_b g(x)$が定まり、その後non-degenerateを公理として仮定するという流れだが、この論理はよく分からないので、暫定的に論理が通るように以下のように改変する
$ \partial_a\partial_b g(x)$は$ p,t$の取り方によらずにnon-degenerateである
$ V:$vector space ($ dim V\geq2$)
$ g,h:$indefinite non-degenerate metric on V
$ v\in V$に対して、$ g(v,v)=0$と$ h(v,v)=0$が同値ならば、ある$ \alpha\in\mathbb{R}$があり$ g=\alpha h$となる
Axiom6とこの補題より、$ \partial_a\partial_b g(x)v^av^b=0$となる$ v\in T_xM$は$ p,t$の取り方に依存せず定まるから、$ \partial_a\partial_b g(x)$はscale倍の不定性を許して定まる
上に述べた議論はこの論文で非常に重要な部分だと思うが十分な論証がなされていないと思われる。
全く非自明なことが1行ぐらいで述べられており不満足である。
最後にnon-localなlight signalを定義し、null geodesicとの関係を論じる。
(a) non-local light signal
$ x,y\in M$に対して、$ x$から$ y$へのlight signalとは、点列$ z_0=x,z_1,\cdots,z_n=y$で次を満たすもののことである
(b) light path
light path $ L$とは$ M$の連結部分集合であり、任意の$ z\in L$に対して、次の条件を満たすreflecting nbhd $ N_z$が存在するようなものである
上の定義はKronheimer-Penroseのcausal structureの定義と少し違うところがあるので注意が必要らしい
何か例が書いてあるがよく分からない
light pathはconformally null geodesicである
証明は2つの補題を用いて行うため結構長いし非自明である
particleやlight signalのふるまいは時空の共形構造を定める
重力がEinstein方程式で記述されると仮定されていて、さらに真空の重力場$ Ric=0$の場合は時空の曲がりはWeylテンソルで決まる、すなわち共形構造のみで決まるから上記の情報のみで時空の曲がり具合は完全に分かる
しかしリーマン構造までは分からない
原理的かつ物理的にリーズナブルでかつ出来るだけ最小限の仮定から時空の色々な性質を導こうとする試みであり、おもしろいと思う。
共形構造に関する議論は論理的に雑な印象で結論はあってるのだろうが明らかに非自明なことがさも簡単に分かるかのように書かれていて不満足である。
論理が完全になったとして、次元公理に関しては改善の余地があると思う。
次元公理に入るまでの議論は秀逸である。