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現代数学解説
文献あり

射影n空間に定まる2つの位相はどちらが強いか?

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ゼミの準備をしていたとき,タイトルのような疑問を持ったので実際に検証してみました.
射影$n$空間$\mathbb{P}^n$には$\mathbb{A}^{n+1}$から誘導される位相とZariski位相の2つの位相があります.この記事ではその2つの位相の強弱について見ていきます.また,代数閉体$k$を任意に固定します.
記号や定義などはすべてHaに基づきます.

準備

ここでは$\mathbb{P}^n$に位相を入れるための準備をします.また,この章の命題等は証明を与えないことにします.

アファイン$n$空間の定義

アファイン$n$空間

$k$上のアファイン$n$空間(affine $n$-space)$\mathbb{A}^n$とは,集合としては$n$個の$k$の組である.

$\mathbb{A}^n$に位相を入れるためにいくつか定義をしていきます.$ k[x_1,\ldots ,x_n]$の元を自然に$\mathbb{A}^n$から$k$への写像とみなします.$T\subseteq k[x_1,\ldots ,x_n]$に対し$\mathbb{A}^n$の部分集合$Z_{\mathbb{A}^n}(T)$
$Z_{\mathbb{A}^n}(T):= \{ P\in \mathbb{A}^n\mid\forall f\in T, f(P)=0\}$
と定めます.

代数的集合

$\mathbb{A}^n$の部分集合$Y$代数的集合(algebraic set)であるとは,ある$ k[x_1,\ldots ,x_n]$の部分集合$T$で,$Y=Z_{\mathbb{A}^n}(T)$となることをいう.

代数的集合全体のなす集合は閉集合の公理を充す.つまり

  1. $Y_1,Y_2$が代数的集合なら$Y_1\cup Y_2$も代数的集合である.
  2. $\{ Y_\lambda\} _{\lambda \in \Lambda}$が代数的集合の族であれば$\bigcap _{\lambda \in \Lambda}Y_\lambda$も代数的集合.
  3. $\emptyset ,\mathbb{A}^n$は代数的集合.

これにより$\mathbb{A}^n$に位相を入れることができます.

Zariski位相

$\mathbb{A}^n$Zariski位相(Zariski topology)を,閉集合として代数的集合を取ることにより定義する.

本題のために次のようなものを定義しておきます.

$\mathbb{A}^n$の部分集合$Y$に対し,$Y$$k[x_1,\ldots ,x_n ]$におけるイデアル$I(Y)$
$I(Y):= \{ f\in k[x_1,\ldots ,x_n ] \mid \forall P \in Y,f(P)=0\}$
と定義する.

$\mathbb{A}^n$の代数的集合と$k[x_1,\ldots ,x_n]$の根基イデアルの間には,$Y\mapsto I(Y),\mathfrak{a}\mapsto Z_{\mathbb{A}^n}(\mathfrak{a})$で与えられる包含を逆にする1対1対応がある.

代数学の準備

次数付き環

$S$が($\mathbb{N}$型の)次数付き環(graded ring)であるとは,Abel群としての直和$ S=\bigoplus _{d\ge 0}S_d$が与えられ,任意の$d,e\ge 0$に対し$S_d\cdot S_e\subseteq S_{d+e}$が成立つことをいう.また,このとき$S_d$の元を次数$d$の斉次元という.次数付き環の定義から$ S$の元は(次数が異なる)有限個の斉次元の和として一意的に書ける.
次数付き環$S$のイデアル$\mathfrak{a}$が次のような性質を持つとき,斉次イデアル(homogeneous ideal)であるという.
$\mathfrak{a}$の任意の元$f$$f=\sum_{d\ge 0} f_d$のように斉次元の和として書いたとき$f_d\in \mathfrak{a}$がすべての$d\ge 0$で成立つ.

$\mathfrak{a}$が斉次イデアルであることと$\mathfrak{a}$が斉次元で生成されることは同値である.

射影$n$空間の定義

射影$n$空間

$\mathbb{A}^{n+1}\setminus \{ 0\}$上には次のような同値関係$\sim$が入る:
$(x_0,\ldots ,x_n)\sim (y_0,\ldots ,y_n):\Leftrightarrow \exists \lambda \in k^\times ,\forall i,x_i=\lambda y_i.$
このとき,$k$上の射影$n$空間(projective $n$-space)$\mathbb{P}^n$を,
$ \mathbb{P}^n:=(\mathbb{A}^{n+1}\setminus \{ 0\})/\sim$
と定義する.

ここで$\mathbb{P}^n$には$\mathbb{A}^{n+1}$から誘導される位相が入ります.もう一つの位相について考えます.
$ k[x_0,\ldots ,x_n]$には自然に次数付き環の構造が入ります($x_i$たちを次数1と思う).$f\in k[x_0,\ldots ,x_n]$が斉次多項式であるとき,$P\in\mathbb{P}^n$に対し$f(P)$が0かどうかは意味を持ちます.$T$$k[x_0,\ldots ,x_n]$の斉次元からなる(斉次元全体とは限らない)部分集合としたとき,$\mathbb{P}^n$の部分集合$Z_{\mathbb{P}^n}(T)$
$ Z_{\mathbb{P}^n}(T):= \{ P\in \mathbb{P}^n\mid \forall f\in T,f(P)=0 \}$
と定義します.$\mathfrak{a}$$k[x_0,\ldots ,x_n]$の斉次イデアルのとき,$ T$$\mathfrak{a}$の斉次元からなる生成元集合として,$Z_{\mathbb{P}^n}(\mathfrak{a}):=Z_{\mathbb{P}^n}(T)$と定めます.

代数的集合

$\mathbb{P}^n$の部分集合$Y$代数的集合(algebraic set)であるとは,ある$ k[x_0,\ldots ,x_n]$の斉次元からなる部分集合$T$で,$Y=Z_{\mathbb{P}^n}(T)$となることをいう.

代数的集合全体のなす集合は閉集合の公理を充す.つまり

  1. $Y_1,Y_2$が代数的集合なら$Y_1\cup Y_2$も代数的集合である.
  2. $\{ Y_\lambda\} _{\lambda \in \Lambda}$が代数的集合の族であれば$\bigcap _{\lambda \in \Lambda}Y_\lambda$も代数的集合.
  3. $\emptyset ,\mathbb{P}^n$は代数的集合.

これにより$\mathbb{P}^n$にもう一つ位相を入れることができました.

Zariski位相

$\mathbb{P}^n$Zariski位相(Zariski topology)を,閉集合として代数的集合を取ることにより定義する.

本題

$\mathbb{P}^n$には,$\mathbb{A}^{n+1}$から誘導される位相(この閉集合系を$\mathcal{F}_1$とおく)とZariski位相(この閉集合系を$\mathcal{F}_2$とおく)の二つの位相が入ります.ここではこの二つの位相の強弱を見ていきます.
$\pi : \mathbb{A}^{n+1}\setminus \{ 0\}\to \mathbb{P}^n$を自然な商写像とする.

 $Y\in \mathcal{F}_2$,すなわち$Y\subseteq \mathbb{P}^n$を代数的集合とする.このとき$Y=Z_{\mathbb{P}^n}(T)$なる斉次元からなる集合$T$が存在する.このとき,$\pi ^{-1}(Z_{\mathbb{P}^n}(T))=Z_{\mathbb{A}^{n+1}}(T)\setminus\{ 0\}$が成立つ.
$Z_{\mathbb{A}^{n+1}}(T)\setminus\{ 0\}$$\mathbb{A}^{n+1}\setminus\{ 0\}$における閉集合であるから,$Y=Z_{\mathbb{P}^n}(T)\in \mathcal{F}_1$となる.

 次に$Y\in \mathcal{F}_1$,すなわち$Y\subseteq \mathbb{P}^n$$\pi ^{-1}(Y)(=:F)$が閉集合となる部分集合とする.$F$は次のような性質を持つ.

  • $x\in F,\lambda \in k^\times$なら$\lambda x\in F$

$F$$\mathbb{A}^{n+1}$での閉包を$\overline{F}$とすると$\overline{F}$も上のような性質をもつ.このとき$I(\overline{F})\subseteq k[x_0,\ldots ,x_n]$は斉次イデアル.
$\because$$f\in I(\overline{F}),f=\sum_{d\ge 0}f_d$とする.このとき任意の$x\in \overline{F},\lambda \in k^\times$に対し,
$0=f(\lambda x)=\sum_{d\ge 0}f_d(\lambda x)=\sum_{d\ge 0}\lambda ^df_d(x)$
となる.これを$\lambda$についての函数と思うことにより$f_d(x)=0$となり,$f_d\in I(\overline{F})$.これは$ I(\overline{F})$が斉次イデアルであることを意味する.$\Box $
 $I(\overline{F})$の斉次元からなる生成元集合を$T$とすると,$\overline{F}=Z_{\mathbb{A}^{n+1}}(T)$が成立つ.故に,
$\pi ^{-1}(Y)=F=\overline{F}\setminus \{ 0\}=Z_{\mathbb{A}^{n+1}}(T)\setminus \{ 0\}=\pi ^{-1}(Z_{\mathbb{P}^{n}}(T))$
となる.$\pi$は全射ゆえ$Z_{\mathbb{P}^{n}}(T)=Y $となり,$Y=Z_{\mathbb{P}^{n}}(T)\in \mathcal{F}_2$となる.

以上の議論から,$\mathcal{F}_1=\mathcal{F}_2,$すなわち$\mathbb{P}^n$に定まる二つの位相が一致することがわかりました.

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1977
投稿日:7日前
更新日:7日前
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