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OMC対策(A分野:床関数・天井関数)

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本記事の前提知識

 床関数をある程度見たことがないと,本記事を読むのは少し難しいように思う.

床関数・天井関数の基本

床関数・天井関数

(床関数) $\lfloor x \rfloor$で,$x$以下の最大の整数を表す.
(天井関数)$\lceil x \rceil$で,$x$以上の最小の整数を表す.


(注)床関数$\lfloor x \rfloor$については,受験数学ではガウス記号$[x]$を使うことがほとんどである.

 床関数に関連して,$\lfloor x \rfloor$$x$の整数部分と呼ぶことも多い.ただしこれについては,$-1.5$の整数部分が$-2$になるなど,$x < 0$の範囲では直観と異なる表現になる.(また,あまり一般的な表現ではないが,$-1.5$の整数部分を$-1$とする流儀もある.○○の整数部分と言う表現は正の数に限って使うのが無難だろう.)
 床関数・天井関数に関連して,小数部分$ x - \lfloor x \rfloor $$\{x\}$で表す場合もあるが,この記法はそう頻繁には見ない.

(1) 任意の整数$n$に対して$\lfloor n \rfloor =\lceil n \rceil =n$
(2) 整数でない任意の実数$x$に対して$\lceil x \rceil =\lfloor x \rfloor +1$
(3) 任意の実数$x$に対して$\lfloor x \rfloor + \lceil -x \rceil = 0$
(4) 任意の整数$n$に対して$\left\lfloor \dfrac{n}{2} \right\rfloor =\dfrac{2n-1+(-1)^n}{4}$


(確認問題)全て確かめよ.

略解
(1)は定義を見よ.
(2)(3)は,$x=n+a$$n=\lfloor x \rfloor$)とおけば確かめられるだろう.
(4)については,$k$を整数として,$n=2k,2k+1$を代入すればよい.
 

床関数・天井関数を用いた問題の解き方

 床関数・天井関数に関する問題について,最も基本的なアイディアは,実数を整数部分$\lfloor x \rfloor$と小数部分$x- \lfloor x \rfloor$に分けることである.
 次の例題を見てほしい.

 $\lfloor x \rfloor ^2=\lfloor x^2 \rfloor$を満たす正の実数$x$を答えよ.


(解答)$x=n+a$とおく(当然$\lfloor x \rfloor=n$である).
 $\lfloor x \rfloor ^2=n^2, \lfloor x^2 \rfloor=\lfloor (n+a)^2 \rfloor$なので,$2an+a^2 <1$を満たすとき,等式が成立する.
 $a$に関する二次不等式を解いて$-\sqrt{n^2+1}-n< a<\sqrt{n^2+1}-n$となるが,$a≧0$なので$0≦a<\sqrt{n^2+1}-n$である.
 以上より,ある非負整数$n$に対して,$n≦x<\sqrt{n^2+1}$を満たす実数が答えとなる.

 方程式$x=\left(\lfloor x \rfloor +\dfrac{1}{3}\right)^2$を解け.

解答
 $x=n+a$とおくと,$n^2-\dfrac{1}{3}n+\left(\dfrac{1}{9}-a\right)=0$となる.
 ここで$n$が整数であることから,$\dfrac{1}{9}-a$$\dfrac{*}{3}$という形になる必要がある.よって$a$$\dfrac{1}{9},\dfrac{4}{9},\dfrac{7}{9}$のいずれかである.それぞれの場合に方程式を解くことで,$x=\dfrac{1}{3},\dfrac{16}{9}$のみが答えとなる.
 
別解
 明らかに$x≧0$であり,これより$\lfloor x \rfloor ≧0$
 よって$x=\left(\lfloor x \rfloor +\dfrac{1}{3}\right)^2> \lfloor x \rfloor ^2$であり,$x≧2$では不等式$x > \lfloor x \rfloor ^2$が満たされないため$\lfloor x \rfloor=0 \text{ or } 1$である.あとは$\lfloor x \rfloor=0,1$をそれぞれ代入して$x$を求め,それぞれの場合に方程式を満たすか確認すればよい.
 

 $0< x<2$の範囲で,次の不等式を満たす$x$を答えよ.
  $\left\lfloor x+\dfrac{1}{5} \right\rfloor=\left\lfloor x+\dfrac{1}{4} \right\rfloor<\left\lfloor x+\dfrac{1}{3} \right\rfloor=\left\lfloor x+\dfrac{1}{2} \right\rfloor$

ヒント
 $\left\lfloor x+\dfrac{1}{4} \right\rfloor<\left\lfloor x+\dfrac{1}{3} \right\rfloor$さえ満たせば残りの等式も満たす.
 
(証明)このとき,$\left\lfloor x+\dfrac{1}{4}\right\rfloor<\left\lfloor x+\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{12}\right\rfloor$より,$x+\dfrac{1}{4}$の小数部分は$\dfrac{11}{12}$以上である.よって$\left\lfloor x+\dfrac{1}{5} \right\rfloor=\left\lfloor x+\dfrac{1}{4} \right\rfloor$も満たす.$\left\lfloor x+\dfrac{1}{3} \right\rfloor=\left\lfloor x+\dfrac{1}{2} \right\rfloor$も同様.
 
解答
 $\left\lfloor x+\dfrac{1}{4} \right\rfloor<\left\lfloor x+\dfrac{1}{3} \right\rfloor$を解けば十分である.すなわち$x+\dfrac{1}{4} < n≦ x+\dfrac{1}{3} $となるような整数$n$が存在すればよい.これより$n-\dfrac{1}{3}≦x< n-\dfrac{1}{4}$
 よって解は$\dfrac{2}{3}≦x<\dfrac{3}{4}, \dfrac{5}{3}≦x<\dfrac{7}{4}$である.
 
OMCの例題
OMCB033(A)
OMC105(B)
OMC163(D)
OMCB027(E)
OMCB028(E)
OMC117(E) ←天井関数・床関数以外の内容を含む
 

床関数・天井関数と規則性

 ここからは問題を解きながら,床関数・天井関数に関連する規則性を身に着けてほしい.

 $\sum\limits_{k=1}^{100} \lfloor \sqrt{k} \rfloor$の値を求めよ.

解答
 整数$m$に対して,$m^2≦k< m^2+2m$の範囲で$\lfloor \sqrt{k} \rfloor=m$となる.つまり$\lfloor \sqrt{k} \rfloor=m$となる整数$k$$2m+1$個存在する.よって
 $\sum\limits_{k=1}^{100} \lfloor \sqrt{k} \rfloor=\sum\limits_{m=1}^{9} m(2m+1)+\lfloor \sqrt{100} \rfloor=625$
 

 $100 \sqrt{1}, 100\sqrt{2}, 100\sqrt{3}, \cdots 100\sqrt{10000}$の整数部分としてあり得る値はいくつあるか.

ヒント1
 $100\sqrt{1}, 100\sqrt{2}, 100\sqrt{3},100\sqrt{4}$までを考えると,整数部分は$100,141,173,200$となっており,全て異なるように見える.
 ところが$100\sqrt{9875}=100\sqrt{9876}=9937$となるように,大きな値になると,全て異なるわけではない.
 
ヒント2
 ヒント1で見たように,$100\sqrt{1}, 100\sqrt{2}, 100\sqrt{3},100\sqrt{4}$の整数部分を見ると,非常にばらばらな値を取っているように見えるが,$n$の値が十分大きくなると,ある整数より大きい全ての正整数の値を全てとるようになる.
 
ヒント3
 $100\sqrt{n+1}-100\sqrt{n}<1$の範囲では,$\lfloor 100\sqrt{n} \rfloor$たちが連続する正整数を全て取る.
 
解答
 以下のように,$100\sqrt{n+1}-100\sqrt{n} < 1$を解く.
$\begin{aligned} 100\sqrt{n+1} &< 1+100\sqrt{n}\\ 10000(n+1) &< 1+200\sqrt{n}+10000n\\ 9999 &<200\sqrt{n}\\ 9999^2 &< 200^2n \end{aligned}$
 よって,以下のことがわかる.

1. $n<2500$の範囲では,$100\sqrt{n+1}-100\sqrt{n} ≧ 1$を満たすので,$\lfloor 100\sqrt{n} \rfloor$たちは全て異なる値である.
2. $n=2500$$100\sqrt{n}=5000$であり,$100\sqrt{n}$たちは$n>2500$の範囲で$5000$以降の全ての自然数を取る.

 よって求めるべき値は$2499+5001=7500$
 

(やや難)
 整数$m,n$が互いに素であるとき$\sum\limits_{k=1}^{n-1} \left\lfloor \dfrac{km}{n} \right\rfloor=\dfrac{(m-1)(n-1)}{2}$を示せ.

ヒント(補題)
 整数でない任意の実数$r$と整数$x$に対して,$\lfloor r \rfloor + \lfloor x-r \rfloor =x-1$である.(証明は略)
 
解答
 $n$が奇数であるときは,補題を使えば
$\sum\limits_{k=1}^{n-1} \left\lfloor \dfrac{km}{n} \right\rfloor=\sum\limits_{k=1}^{(n-1)/2} \left( \left\lfloor \dfrac{km}{n} \right\rfloor+\left\lfloor m-\dfrac{km}{n} \right\rfloor \right)$より示せる.
 
 $n$が偶数であるときも,補題を使って
$\sum\limits_{k=1}^{n-1} \left\lfloor \dfrac{km}{n} \right\rfloor=\sum\limits_{k=1}^{n/2-1} \left( \left\lfloor \dfrac{km}{n} \right\rfloor+\left\lfloor m-\dfrac{km}{n} \right\rfloor \right) + \left\lfloor \dfrac{m}{2} \right\rfloor$となる.$m$が奇数であることから$\left\lfloor \dfrac{m}{2} \right\rfloor=\dfrac{m-1}{2}$となり,これを使えば示せる.

OMCの例題
OMC183(C)
OMC070(F)
OMCB035(G)
 

おまけ

 以下に$2$つの公式を挙げているが,これらは床関数を用いた非常に美しいものである.OMC対策というわけではないが,面白いので紹介しておく.

エルミートの恒等式(Hermite’s identity)

 実数$x$,正整数$n$に対して
  $\lfloor nx \rfloor =\sum\limits_{k=0}^{n-1} \left\lfloor x+\dfrac{k}{n} \right\rfloor$

 証明は 数学の景色 を参照.

レイリーの定理

 $1$より大きい無理数$r,s$$\dfrac{1}{r}+\dfrac{1}{s}=1$を満たすとき,$S_r=\{\lfloor nr \rfloor | n \in \mathbb{N}_{>0}\}$, $S_s=\{\lfloor ns \rfloor | n \in \mathbb{N}_{>0}\}$とすると,$S_r \cup S_s=\mathbb{N}_{>0}, S_r \cap S_s=\emptyset$が成り立つ.
(つまり,無理数を用いて自然数全体の集合を$2$つに分割できる.)

 証明は Wikipedia を参照.

投稿日:324
更新日:324
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て
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