今回は、多項式がちょうどFibonacci多項式となるための条件について解説します。
整数$n$について、$n$がFibonacci数であることと、$5n^2+4$または$5n^2-4$が平方数であることは同値です。
例えば$n=5$なら$5\cdot 5^2-4=121=11^2$、$n=8$なら$5\cdot 8^2+4=324=18^2$です。
この多項式版を考えます。$5=1^2+4$なので、$1$を不定元$X$に置き換えると、$5n^2\pm4$は$(X^2+4)f(X)^2\pm4$に、Fibonacci数はFibonacci多項式$F_n(X)$に対応します($F_n(1)$が通常のFibonacci数です)。1
多項式$f(X)$について、$(X^2+4)f(X)^2\pm4$のいずれかが完全平方式であることと、$f(X)=\pm F_n(X)$となる非負整数$n$が存在することは同値である。
証明の鍵は、$g^2-(X^2+4)f^2=\pm4$をPell方程式とみなして、$k[X,\sqrt{X^2+4}]$の単数を決定することです。整数版では黄金比$\frac{1+\sqrt5}{2}$が基本単数ですが、多項式版ではその役割を$\frac{X+\sqrt{X^2+4}}{2}$が果たし、決定には次数による降下法を使います。
まずはFibonacci多項式の定義から始めましょう。
以後、$k$を標数が$2$でない体2で、$-1$が$k$で平方でないもの3(例えば$\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{F}_p$($p\equiv3\pmod4$))とする。
$k$上のFibonacci多項式とは、次の初期条件と漸化式で定義される多項式列$(F_n(X):n\in\mathbb{Z})$のことである。
$$ F_{n+2}(X)=XF_{n+1}(X)+F_n(X),\quad F_0(X)=0,\quad F_1(X)=1 $$
$k$上の多項式$f(X)$に対して、以下同値:
$L_n(X)=XF_n(X)+2F_{n-1}(X)$ で定まる多項式列$(L_n(X):n\in\mathbb{Z})$をLucas多項式という。Lucas多項式は、次の初期条件と漸化式を満たす。
$$ L_{n+2}(X)=XL_{n+1}(X)+L_n(X),\quad L_0(X)=2,\quad L_1(X)=X $$
以後、$D:=X^2+4$とおく。$k$上の一変数有理関数体$K=k(X)$に対して$D$は$K$で平方でないため、$R=k[X,\sqrt{D}]$は次数2の拡大の整域である。
$u=a+b\sqrt{D}\in K$に対し、共役を$\overline{u}=a-b\sqrt{D}$、ノルムを$N(u)=u\overline{u}=a^2-b^2D$とする。
$$
\alpha=\frac{X+\sqrt{D}}2
$$
とおくと、$\alpha+\overline{\alpha}=X$かつ$\alpha\overline{\alpha}=-1$より、$\alpha^2-X\alpha-1=0$で$N(\alpha)=-1$なので、$\alpha\in R^{\times}$である。
$$ \alpha^n=\frac{L_n+F_n\sqrt{D}}2,\quad n\geq 0. $$
非負整数$n$に対して$\alpha^n=F_n\alpha+F_{n-1}$となることを帰納法で示す。
以上より、$\alpha^n=F_n\alpha+F_{n-1}$が成り立つ。ここで、$\alpha=\frac{X+\sqrt{D}}2$を代入することで、
$$
\alpha^n=\frac{XF_n+2F_{n-1}}2+\frac{F_n}2\sqrt{D}=\frac{L_n+F_n\sqrt{D}}2
$$
となる。
$N(\alpha^n)=(N(\alpha))^n=(-1)^n$なので、先の補題より
$$
\frac{L_n^2-DF_n^2}4=(-1)^n
$$
となる。よって、
$$
(X^2+4)F_n^2+4(-1)^n=L_n^2
$$
となり、$f=\pm F_n$のとき $(X^2+4)f^2\pm 4$のいずれかが$k[X]$の元$L_n$の完全平方式となる。
$\varepsilon=\pm1$と$g\in k[X]$により、多項式$(X^2+4)f(X)^2+4\varepsilon=g^2$だと仮定する。
$$
u=\frac{g+f\sqrt{D}}2
$$
とおくと、
$$
N(u)=\frac{g^2-f^2D}{4}=\varepsilon
$$
ここで、$\sqrt{D}=X(1+4X^{-2})^{1/2}\in k((1/X))$とみなし、Laurent級数の$X$についての最高次数を$\deg$で表すと、$\deg\sqrt{D}=1$である。
$u\overline{u}=\varepsilon$より$\deg\overline{u}=-\deg{u}$となる。$d=\deg{u}$とおく。
これらより、いずれの場合も$u=\pm\alpha^{|d|}$あるいは$u^{-1}=\pm\alpha^{|d|}$となる。先の補題と係数比較により、$n=|d|$として$f=\pm F_n$が従う。
今回は、$(X^2+4)f(X)^2\pm4$が完全平方式になる条件を、Fibonacci多項式で特徴づけました。最後に、ここから広がる話題を2つ紹介します。
$X^2+4$を$X^2-4$に替えると、$\alpha$のノルムが$-1$から$1$になり、Fibonacci多項式の代わりにChebyshev多項式が現れます。符号も$+4$だけが残るはずで、同じ降下法で示せると思います。実際に確かめてみてはいかがでしょうか。
より一般に、平方因子を持たない多項式$D(X)$に対する方程式$g^2-Df^2=\pm4$も考えられます。$D$が偶数次で最高次係数が$k$で平方のとき、この方程式が非自明な解を持つことは、曲線$y^2=D(X)$の無限遠にある2点の差がJacobianの捩れ点であることと同値です(Pell–Abel方程式)。今回の$D=X^2+4$は種数$0$なので必ず解を持ちますが、種数が上がると、解の存在自体が難しい問題になります。
Pell方程式という古典的な道具が、多項式の世界でも働く様子が伝われば幸いです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
[1] 整数版は、この定理から直ちには従いません($f$は多項式ではなく整数なので)。ただし証明は同じ流れです。$\phi=\frac{1+\sqrt5}{2}$とおくと、$g^2-5n^2=\pm4$のとき$g\equiv n\pmod 2$なので、$\frac{g+n\sqrt5}{2}\in\mathbb{Z}[\phi]$はノルム$\pm1$の元、つまり単数$\pm\phi^m$であり、ここから$n$がFibonacci数であると分かります。今回の証明では、次数が降下法の「大きさ」の役割を果たしています。
[2] 降下の途中で$2$で割るので、標数$2$は除外しています。標数$2$では$4=0$となり、$(X^2+4)f^2\pm4=(Xf)^2$が常に完全平方式になるため、そもそも主張が成り立ちません。
[3] この仮定は必要です。$k$が$i^2=-1$を満たす$i$を持つとき、$f=i$は$(X^2+4)f^2+4=-X^2=(iX)^2$を満たしますが、$\pm F_n$ではありません。証明では、$d=0$の場合に$g^2=4\varepsilon$から$\varepsilon=1$を導くところで使っています。仮定を外すと、同じ証明から$f=cF_n$($c^4=1$)の形が得られます。