皆さんお久しぶりですかえでです.最近はk4rcという名義をよく使っていますが,にしても記事を書くのが久しぶりすぎて文章のフォーマットすらも忘れてしまっていないか心配です.
さて本題ですが,最近解いた問題である ELMO Shortlist 2025 G9 に関連して,今回は円錐曲線について話していこうと思います.記事の内容は問題のネタバレを含むのでご注意ください.
今回の主題となる ELMO Shortlist 2025 G9 の主張は以下の通りです.
内心を$I$とする三角形$ABC$において,互いに等角共役な2点$P,Q$を三角形$BPC$における$P$-傍心と三角形$BQC$における$Q$-傍心がともに$\angle BAC$の外角の二等分線上にあるように取る.$\angle BPC$の二等分線と$\angle BQC$の二等分線は直線$BC$とそれぞれ点$D,E$で交わっており,互いに$F$で交わっている.このとき,円$BIC$と円$DEF$が接していることを示せ.
私の最近のツイートで言及した通り,この問題は2025年の数学オリンピックの幾何で断トツで1番難しいです.なんならここ3年程度で1番難しいんじゃないでしょうか?
あの
初等幾何問題bot
も難易度50であると評価しています.
今回は私k4rcがこの問題を解いた時の解法に基づいて話をしていきます.
ここから大ネタバレですが,実は私はこの問題において普通の議論はほとんどしておらず,9割以上を円錐曲線に関する議論で示しています.
議論の流れとしては次のような感じです.
ただし,今回は3は一切扱いません.また,タイトルから分かるようにメインは2なので,1についてもその帰結しか扱いません.
Three Conics Theoremの主張については2で詳細を書きます.
記事としては2がメインですが,1の最初からいきなりこの問題の最重要部分が登場します.
三角形 $ABC$の$A$-傍心を$I_A$,2点$B,C$を焦点とし$A$を通る楕円を$\varepsilon$とする.このとき,$I_A$から$\varepsilon$に引いた接線と$\varepsilon$の2接点は問題の$P,Q$と一致する.
えー!!って感じですよね.僕も最初そうなりましたし,そもそもこれに気付くのに2日くらい要しました.気付くまでの2日間はずっと何も分からないよ〜と嘆いていたので,いかにこの問題が鬼畜かが分かりますね.
また,さらに以下のことが分かります.
三角形$BPC$における$P$-傍心を$J_P$と三角形$BQC$における$Q$-傍心を$J_Q$とする.このとき,6点$A,B,C,I_A,P,J_P$と6点$A,B,C,I_A,Q,J_Q$はそれぞれ共円錐曲線である.
共円錐曲線であるというのは同じ円錐曲線に乗るということです.
円錐曲線に馴染みのない皆さんも,あるいはそうでない皆さんも,「どういうこと?」「だから何?」と思ったと思います.一旦ここまでに扱った2つの主張を認めるとして,次のメインパートに移りましょう.
さっきのパートで示した6点の共円錐曲線の使い方を理解してもらうために,まずはThree Conics Theoremの主張を書きます.日本語に訳すならば三円錐曲線定理ですね.
2定点を通る3つの異なる円錐曲線$E_1,E_2,E_3$について,$E_1,E_2$が再び交わる点を$P_{12},Q_{12}$とし,同様に$P_{23},Q_{23}$と$P_{31},Q_{31}$を定める.このとき,直線$P_{12}Q_{12},P_{23}Q_{23},P_{31}Q_{31}$は一点で交わる.
これの証明にはCayley-Bacharachの定理という大定理を用いることが多いですが,おそらく複素射影平面などで射影変換をすれば虚円点に関する議論から容易に示せると思います.
さて,このThree Conics Theoremを円錐曲線$ABCI_AQJ_Q, ABCI_APJ_P, J_PJ_Q \cup I_AP $に適用してみましょう.$J_PJ_Q \cup I_AP$は直線$J_PJ_Q$と直線$I_AP$の和集合で,これは円錐曲線として扱えます.また,これら3つの円錐曲線はすべて$A,I_A$を通っているので適用するための条件を満たしていますね.等角共役の性質から円錐曲線$ABCI_AQJ_Q$と直線$I_AP$が接していることに注意すれば,直線$BC,I_AJ_Q,PJ_P$の共点が得られます.
したがって,$I_A,D,J_Q$は共線です!また,同様に$I_A,E,J_P$の共線も従います.ヤバすぎますね.
実は,"Three Conics Theoremを適用しただけ"で得られたこの共線がこの問題の($P,Q$の構成法に次ぐ)大本質部分なんです.意外な大定理を適用しただけでこんなのが得られるなんて凄いですよね.この後の議論はぜひご自身で考えるなどしてください.
短い記事になってしまいましたが,この問題を通して伝えたかったことはただ1つで,円錐曲線はとても便利で数オリの問題にも十分に利用可能であるということです.先程述べた3つの議論の流れの中にも,それぞれ全く違う形で円錐曲線が登場していますよね.船旅にも載ってない分なかなか馴染みのないことかと思いますが,ぜひこの記事を読んでくださった皆さんには円錐曲線という新たな視点を取り入れて貰えればなと思います.
また,円錐曲線の視点に関連してInvolutionやMoving Pointsに関する記事,そしてorthotransversalという飛び道具についての記事も投稿しているので,ぜひそちらも見てみてください!
以上です.