16
高校数学解説
文献あり

有限和の等式とその応用

964
0

こんにちは、はじめまして。krutrです。
今回は、ある特殊な有限級数の等式と、その双曲線関数の入った無限級数への応用について、解説します。
主に極限に関する議論について、説明を欠く部分があります。予めご了承ください。
早速ですが、次の定理が成り立ちます。

有限複素数列{an}n=1,2,...,Nが、次の二条件

{an0nmanam

を満たすとき、hを整数として、次の等式が成立する:

n=1Nanhm=1mnN11anam={(m=1N11wam)wh(h1)1(h=0)0(1hN1)(m=1Nzamzam1)zh(Nh)
ただし、()whは、wを複素変数とし、|w|<min|an|において、0周りで()内をテイラー展開したときの、wh の係数、
()zhは、zを複素変数とし、|z|<min1|an|において、0周りで()内をテイラー展開したときの、zh の係数である。

式が複雑で、何を示しているのか分かりづらいので、h=0で、Nが小さい場合の例を確認してみましょう。
数列が条件を満たすとします。(この二条件は、定理中の総積部分がうまく定義されるためのものなので、あまり気にする必要はありません。)
まず、h=0のとき、定理1の等式は、
n=1Nm=1mnN11anam=1
となります。

N=1のとき、左辺の総積部分は空積となり1となるので、その1項だけの和をとり、左辺の値は1となるので、等号は成立します。

N=2のとき、左辺は、
11a1a2+11a2a1=a2a2a1+a1a1a2=1
となり、成立します。

N=3のとき、左辺は、
11a1a211a1a3+11a2a111a2a3+11a3a111a3a2
=a2a2a1a3a3a1+a1a1a2a3a3a2+a1a1a3a2a2a3
=a2a3(a2a3)+a1a3(a3a1)+a1a2(a1a2)(a3a2)(a2a1)(a1a3)
=a22a3a2a32+a32a1a3a12+a12a2a1a22(a3a2)(a2a1)(a1a3)
=1
となり、こちらも成立します。
例を確認して、成立しそうなのが確認できたところで、証明に移りましょう。

準備として、次の補題を示します。

有限複素数列{an}n=1,2,...,Nが、次の二条件

{an0nmanam

を満たすとき、hを、0hN1を満たす整数とし、zを複素変数とすると、次の等式が成立する:
n=1Nanhm=1mnN1zam1anam=zh

この等式は関数としての等式であり、h=0のとき、右辺は定数関数1であることに注意してください。

f(z)=n=1Nanhm=1mnN1zam1anamとする。
f(z)N1次以下のzの多項式関数である。
また、n=1,...,Nに対し、f(an)=anhであるから、f(z)=zhである。

この証明も、少しイメージしづらいので、N=3,h=2での例を確認してみましょう。
N=3,h=2のとき、
f(z)=a121za21a1a21za31a1a3+a221za11a2a11za31a2a3+a321za11a3a11za21a3a2
f(z)z2次以下の多項式関数であり、f(a1)=a12,f(a2)=a22,f(a3)=a32であるから、f(z)=z2である。

ようやく、本題の定理1の証明に入りましょう。
今回は、Nhの場合の証明は省略することにします。(今回のテーマにおいては、あまり重要ではないためです。)

(定理1)

補題2でz=0とすることで、0hN1の場合がしたがう。
よって、h=1のとき、条件を満たす有限複素数列a1,...,aN,w(ただし、 n=1,...,Nに対して、|w|<|an|)を考えると、
n=1Nan11anwm=1mnN11anam+wm=1N11wam=0
移項して等式を整理すると、
n=1N11wanm=1mnN11anam=m=1N11wam
左辺を等比級数により展開すると、
n=1N(1+(wan)+)m=1mnN11anam=m=1N11wam
wのべき乗の係数を比較することで、h1の場合を得る。

Nhの場合も、同じ様に求めることができます。

さて、ここからは、この定理の応用についてお話ししていきます。
この等式は、都合の良い場合に、N とすることで、無限級数の特殊値を求めることができます。

複素数列{an}n=1,2,が、次の二条件

{an0nmanam

を満たし、さらに、各nに対し、
m=1mn(1anam)が絶対収束し、それに対し、和n=1anhm=1mn11anam
が絶対収束するならば、
n=1anhm=1mn11anam{(m=111wam)wh(h1)1(h=0)0(1h)
ただし、()whは、wを複素変数とし、|w|<min|an|において、0周りで()内をテイラー展開したときの、wh の係数

定理1において、Nとする。

これを用いて、次のように、双曲線関数の入った無限級数の値を求めることができます。

数列{n4}n=1,2,...をとります。
m=1mn(1n4m4)=m=1mn(1n2m2)(1+n2m2)=(1)n1sinh(πn)4πn
です。(この計算は本筋ではないので、ここでは解説しません。)
よって、
n=1(1)n14πn4h+1sinhπn={(m=111w4m4)w4h(h1)1(h=0)0(1h)
h1の場合を
m=111w4m4=π2w2sin(πw)sinh(πw)を用いて計算していくことで、0k なるkを用いて、
n=1(1)n1πn4k+3sinh(πn)=η(4k+4)+l=12k+1(1)lη(2l)η(4k+42l)
n=1(1)n1πnsinh(πn)=14
n=1(1)n1πn4k+5sinh(πn)=0
が分かります。
これ以外にも、数列を(n12)4,n8,qnとしてみたりすると、
n=1(1)n1(n12)cosh(π(n12))=π4
n=1(1)n1n3sinh(πn)(cosh(2πn)cos(2πn))=116π3
n=0(1)nqn2+3n2(q;q)n=(q2;q)
など、様々な値が出てきます。(いずれもh=0)
三つめの式は、より一般の式
n=0q(n2)(z)n(q;q)n=(z;q)
で、z=q2とした場合になっています。
さらに、例えば、数列を、n2,n4を合わせたものとしてとると、
n=1(1)nn(cosh(π2n)cos(π2n))n=1(1)nnsinh(πn)sinh(πn2)=π2360124
などの結果も出てきます。(h=1)

まとめ

双曲線関数の級数などの、一見非自明な級数が、このように単純なステップで導出できるのは、とても興味深く感じます。
これからの個人的な課題としては、1/sinh2(πn),1/nsinh(aπn)などの比較的難しい和を、この手法の拡張として導出することです。
この記事は以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献

投稿日:2024211
更新日:2024211
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

krutr
krutr
18
1176
級数(複素,実解析における特殊値と代数)と、離散の有限数学(代数的組み合わせ論,根付き木)などに興味があります

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中