こんにちは、はじめまして。krutrです。
今回は、ある特殊な有限級数の等式と、その双曲線関数の入った無限級数への応用について、解説します。
主に極限に関する議論について、説明を欠く部分があります。予めご了承ください。
早速ですが、次の定理が成り立ちます。
有限複素数列$\{a_n\}_{n=1,2,...,N} $が、次の二条件
$\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a_n\neq 0\\ n\neq m\Rightarrow a_n\neq a_m \end{array} \right. \end{eqnarray}$
を満たすとき、$h$を整数として、次の等式が成立する:
$$
\sum_{n=1}^{N}a_n^h \prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{N} \frac{1}{1- \frac{a_n}{a_m} } = \begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\left(\displaystyle\prod_{m=1}^{N}
\frac{1}{1-\frac{w}{a_m}}\right)_{w^{-h}}\,\,\,(h\leqq-1) \\
\qquad\qquad1\qquad\quad\,\,\,\,\,\,\,(h=0)\\
\qquad\qquad0\qquad\quad\,\,\,\,\,\,\,(1\leqq h\leqq N-1)\\
\left(-\displaystyle\prod_{m=1}^{N}\frac{za_m}{za_m-1}\right)_{z^h}(N\leqq h)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
ただし、$()_{w^{-h}}$は、$w$を複素変数とし、$\left|w\right|<\min\left| a_n\right| $において、$0$周りで$()$内をテイラー展開したときの、$w^{-h}$ の係数、
$()_{z^{h}}$は、$z$を複素変数とし、$\left|z\right|<\min\frac{1}{\left| a_n\right|} $において、$0$周りで$()$内をテイラー展開したときの、$z^{h}$ の係数である。
式が複雑で、何を示しているのか分かりづらいので、$h=0$で、$N$が小さい場合の例を確認してみましょう。
数列が条件を満たすとします。(この二条件は、定理中の総積部分がうまく定義されるためのものなので、あまり気にする必要はありません。)
まず、$h=0$のとき、定理1の等式は、
$ \displaystyle\sum_{n=1}^{N} \prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{N} \frac{1}{1- \frac{a_n}{a_m} }=1$
となります。
・$N=1$のとき、左辺の総積部分は空積となり$1$となるので、その1項だけの和をとり、左辺の値は$1$となるので、等号は成立します。
・$N=2$のとき、左辺は、
$$
\quad\frac{1}{1-\frac{a_1}{a_2}}+\frac{1}{1-\frac{a_2}{a_1}}=
\frac{a_2}{a_2-a_1}+\frac{a_1}{a_1-a_2}=1
$$
となり、成立します。
・$N=3$のとき、左辺は、
$$
\quad\frac{1}{1-\frac{a_1}{a_2}}\frac{1}{1-\frac{a_1}{a_3}}+
\frac{1}{1-\frac{a_2}{a_1}}\frac{1}{1-\frac{a_2}{a_3}}+
\frac{1}{1-\frac{a_3}{a_1}}\frac{1}{1-\frac{a_3}{a_2}}
$$
$$
=\frac{a_2}{a_2-a_1}\frac{a_3}{a_3-a_1}+
\frac{a_1}{a_1-a_2}\frac{a_3}{a_3-a_2}+
\frac{a_1}{a_1-a_3}\frac{a_2}{a_2-a_3}
$$
$$
= \frac{a_2a_3(a_2-a_3)+a_1a_3(a_3-a_1)+a_1a_2(a_1-a_2)}{(a_3-a_2)(a_2-a_1)(a_1-a_3)}
$$
$$
= \frac{a_2^2a_3-a_2a_3^2+a_3^2a_1-a_3a_1^2+a_1^2a_2-a_1a_2^2}{(a_3-a_2)(a_2-a_1)(a_1-a_3)}
$$
$$=1$$
となり、こちらも成立します。
例を確認して、成立しそうなのが確認できたところで、証明に移りましょう。
準備として、次の補題を示します。
有限複素数列$\{a_n\}_{n=1,2,...,N} $が、次の二条件
$\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a_n\neq 0\\ n\neq m\Rightarrow a_n\neq a_m \end{array} \right. \end{eqnarray}$
を満たすとき、$h$を、$0\leqq h \leqq N-1$を満たす整数とし、$z$を複素変数とすると、次の等式が成立する:
$$\qquad\qquad\qquad\sum_{n=1}^{N}a_n^h \prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{N} \frac{1-\frac{z}{a_m}}{1- \frac{a_n}{a_m} }=z^h $$
この等式は関数としての等式であり、$h=0$のとき、右辺は定数関数$1$であることに注意してください。
$$f(z)=\sum_{n=1}^{N}a_n^h \prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{N} \frac{1-\frac{z}{a_m}}{1- \frac{a_n}{a_m} }$$とする。
$f(z)$は$N-1$次以下の$z$の多項式関数である。
また、$n=1,...,N$に対し、$f(a_n)=a_n^h$であるから、$f(z)=z^h$である。
この証明も、少しイメージしづらいので、$N=3,h=2$での例を確認してみましょう。
$N=3,h=2$のとき、
$$f(z)=
a_1^2\frac{1-\frac{z}{a_2}}{1-\frac{a_1}{a_2}}\frac{1-\frac{z}{a_3}}{1-\frac{a_1}{a_3}}+
a_2^2\frac{1-\frac{z}{a_1}}{1-\frac{a_2}{a_1}}\frac{1-\frac{z}{a_3}}{1-\frac{a_2}{a_3}}+
a_3^2\frac{1-\frac{z}{a_1}}{1-\frac{a_3}{a_1}}\frac{1-\frac{z}{a_2}}{1-\frac{a_3}{a_2}}
$$
$f(z)$は$z$の$2$次以下の多項式関数であり、$f(a_1)=a_1^2,f(a_2)=a_2^2,f(a_3)=a_3^2$であるから、$f(z)=z^2$である。
ようやく、本題の定理1の証明に入りましょう。
今回は、$N\leqq h$の場合の証明は省略することにします。(今回のテーマにおいては、あまり重要ではないためです。)
補題2で$z=0$とすることで、$0\leqq h \leqq N-1$の場合がしたがう。
よって、$h=1$のとき、条件を満たす有限複素数列$a_1,...,a_N,w$(ただし、 $n=1,...,N$に対して、$\left|w \right|<\left|a_n \right|$)を考えると、
$$\sum_{n=1}^{N}a_n\frac{1}{1-\frac{a_n} {w}}\prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{N} \frac{1}{1- \frac{a_n}{a_m} }+w\prod_{m=1}^{N} \frac{1}{1- \frac{w}{a_m} }=0$$
移項して等式を整理すると、
$$\sum_{n=1}^{N}\frac{1}{1-\frac{w}{a_n}}
\prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{N} \frac{1}{1- \frac{a_n}{a_m} }=
\prod_{m=1}^{N} \frac{1}{1- \frac{w}{a_m}}$$
左辺を等比級数により展開すると、
$$\sum_{n=1}^{N}\left(1+\left(\frac{w}{a_n}\right)+\cdots\right)
\prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{N} \frac{1}{1- \frac{a_n}{a_m} }=\prod_{m=1}^{N} \frac{1}{1- \frac{w}{a_m}}
$$
$w$のべき乗の係数を比較することで、$h\leqq-1$の場合を得る。
$N\leqq h$の場合も、同じ様に求めることができます。
さて、ここからは、この定理の応用についてお話ししていきます。
この等式は、都合の良い場合に、$N\ \rightarrow \infty$とすることで、無限級数の特殊値を求めることができます。
複素数列$\{a_n\}_{n=1,2,\cdots}$が、次の二条件
$\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a_n\neq 0\\ n\neq m\Rightarrow a_n\neq a_m \end{array} \right. \end{eqnarray}$
を満たし、さらに、各nに対し、
$$\prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{\infty}\left(1- \frac{a_n}{a_m} \right)$$が絶対収束し、それに対し、和$$\sum_{n=1}^{\infty}a_n^h\prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{\infty}\frac{1}{1- \frac{a_n}{a_m}} $$
が絶対収束するならば、
$$\sum_{n=1}^{\infty}a_n^h\prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{\infty}\frac{1}{1- \frac{a_n}{a_m}}= \begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\left(\displaystyle\prod_{m=1}^{\infty}
\frac{1}{1-\frac{w}{a_m}}\right)_{w^{-h}}\,(h\leqq-1)\\
\qquad\qquad1\qquad\quad\,\,\,\,(h=0)\\
\qquad\qquad0\qquad\quad\,\,\,\,(1\leqq h)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray} $$
ただし、$()_{w^{-h}}$は、$w$を複素変数とし、$\left|w\right|<\min\left| a_n\right| $において、$0$周りで$()$内をテイラー展開したときの、$w^{-h}$ の係数
定理1において、$N\rightarrow \infty$とする。
これを用いて、次のように、双曲線関数の入った無限級数の値を求めることができます。
数列$\{n^4\}_{n=1,2,...}$をとります。
$$\prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{\infty}\left(1- \frac{n^4}{m^4} \right)
=\prod_{\substack{m=1\\m\neq n}}^{\infty}\left(1- \frac{n^2}{m^2} \right)\left(1+ \frac{n^2}{m^2} \right)
=(-1)^{n-1}\frac{\sinh(\pi n)}{4\pi n}
$$
です。(この計算は本筋ではないので、ここでは解説しません。)
よって、
$$ \sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}4\pi n^{4h+1}}{\sinh{\pi n}}= \begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\left(\displaystyle\prod_{m=1}^{\infty}\frac{1}{1-\frac{w^4}{m^4}}\right)_{w^{-4h}} (h\leqq-1)\\
\qquad1\qquad\qquad\qquad(h=0)\\
\qquad0\qquad\qquad\qquad(1\leqq h)\\
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
$h\leqq-1$の場合を
$
\displaystyle\prod_{m=1}^{\infty}\frac{1}{1-\frac{w^4}{m^4}}=\frac{\pi^2w^2}{\sin(\pi w)\sinh(\pi w)}
$を用いて計算していくことで、$0\leqq k$ なる$k$を用いて、
$$ \sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}\pi }{n^{4k+3}\sinh(\pi n)}=
\eta(4k+4)+\sum_{l=1}^{2k+1}(-1)^l\eta(2l)\eta(4k+4-2l)
$$
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}\pi n }{\sinh(\pi n)}=\frac{1}{4}$$
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}\pi n^{4k+5} }{\sinh(\pi n)}=0
$$
が分かります。
これ以外にも、数列を$\left(n-\displaystyle\frac{1}{2}\right)^4,n^8,$$q^n$としてみたりすると、
$$
\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{\left(n-\frac{1}{2}\right)\cosh{\left(\pi\left(n-\frac{1}{2}\right)\right)}}=\frac{\pi}{4}
$$
$$
\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}n^3}{\sinh(\pi n)(\cosh(\sqrt{2}\pi n)-\cos(\sqrt{2}\pi n))}=\frac{1}{16\pi^3}
$$
$$\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^nq^{\frac{n^2+3n}{2}}}{(q;q)_{n}}=(q^2;q)_{\infty}
$$
など、様々な値が出てきます。(いずれも$h=0$)
三つめの式は、より一般の式
$$\sum_{n=0}^{\infty}\frac{q^{n \choose 2}(-z)^n}{(q;q)_n}=(z;q)_{\infty}
$$
で、$z=q^2$とした場合になっています。
さらに、例えば、数列を、$-n^2,n^4 $を合わせたものとしてとると、
$$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^n}{n(\cosh(\pi\sqrt{2n})-\cos(\pi\sqrt{2n}))}-\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^n}{n\sinh(\pi n)\sinh(\pi n^2)}=\frac{\pi^2}{360}-\frac{1}{24}
$$
などの結果も出てきます。$(h=-1)$
双曲線関数の級数などの、一見非自明な級数が、このように単純なステップで導出できるのは、とても興味深く感じます。
これからの個人的な課題としては、$1/\sinh^2(\pi n),1/n\sinh(a\pi n)$などの比較的難しい和を、この手法の拡張として導出することです。
この記事は以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。