世界一易しい『ラッセルのパラドクス』の説明

はじめに

　仕事で中学生に数学を教えています。
　中１の教科書に『集合』という言葉が出て来たところで、「実は『集合』って言葉、気をつけて使わないと怖いことになるんだよ」って言って、『ラッセルのパラドクス』の話をしたら大受けして、クラスを恐怖のどん底に陥れることに成功しました。
　その時の説明の仕方を紹介します。

『集合』の定義

　教科書に『集合』って言葉が出て来たね。
　要するに、なんでもいいんだ、『ものの集まり』のことを『集合』って呼ぶことにするよ。
　『ニンジンの集合』とか『鉛筆の集合』とか、『何か集めてひとまとまりにしたもの』くらいに思ってもらえばいいよ。
　でもね、この『集合』って言葉、ちょっと気をつけて使わないと『ヤバいこと』になるんだ。
　何がヤバいかって言うとね…。

『フツーの集合』と『ヘンな集合』

　『集合』にはさ、２種類あるんだ。
　『フツー（普通）の集合』と『ヘン（変）な集合』。
　先に『ヘンな集合』の話をするけど、何が『ヘン』なのかっていうと…。

『ヘンな集合』の定義

　『ヘンな集合』って、その中に、『自分自身』を持ってる集合なんだ。
　例えばさ、『ニンジンじゃないものぜーんぶ集めた集合』ってのを考えるとするじゃん。
　そうすると、そのあたりにある『鉛筆』とか『机』、『椅子』、みーんなその中に入るよね。
　さらに言うと、『ニンジンじゃないものぜーんぶ』集めたんだから、『鉛筆ぜーんぶ集めた集合』とか、『机ぜーんぶ集めた集合』とかも入っているよね。
　さらにさらに、『ニンジンじゃないものぜーんぶ集めた集合』って、それ自体は『ニンジン』じゃないよね。
　ってことは、『ニンジンじゃないものぜーんぶ集めた集合』って、『ニンジンじゃないものぜーんぶ集めた集合』それ自身を含んでいることになるよね。
　なーんか、それってヘンな感じするよね。
　なので、そういう『自分自身をその中に持ってる集合』のことを『ヘンな集合』って呼ぶことにするよ。

『フツーの集合』の定義

　じゃぁ、『フツーの集合』って何かって言ったら、『ヘン』じゃないやつ、つまり、『自分自身をその中に持たない集合』ってこと。
　これって、普通のことだよね。
　くどいようだけど『フツーの集合』って、普通に『自分自身をその中に持たない』、普通の集合のことね。

『フツーの集合』をぜーんぶ集めたら？

　ここまでは、いいよね？
　『ヘンな集合』と『フツーの集合』。
　自分自身をその中に持っているヤツは『ヘン』だし、自分自身をその中に持ってないのが『フツー』だ。
　それじゃぁ、世の中にある『フツーの集合』、ぜーんぶ集めてみようか。
　『鉛筆の集合』、『ニンジンの集合』、『リンゴの集合』、『椅子の集合』、『机の集合』、みーんな、『フツーの集合』だよね。（この辺りの説明はちょっと身振り手振りを交えて。(^_^)）
　そういう『フツーの集合』、世の中にあるヤツ、ぜーんぶ集めるよ、『フツーの集合』だけ、ぜーんぶ。
　『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』だ。
　これってもちろん、『フツーの集合』集めただけなんだから、『フツー』っぽいよね。
　よかった。『フツーの集合』集めただけだから、『フツー』だよね、そう、きっと『フツーの集合』だ。

ちょっと待て、それでいいのか？

　あれ？ちょっと待ってね。
　『フツーの集合』集めただけだから『フツー』っぽい、『フツーの集合』ってことは、それって、『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』に入ってるよね。
　この『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』が『フツーの集合』だったら、『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』の中に入っているはずだよね。
　そっか、自分自身を中に含んでいることになるね。
　ってことは、やっぱり『フツー』じゃなくて『ヘンな集合』だったんだね。だって『自分自身を含んでいる』んだから。
　ごめんごめん、『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』って、最初『フツー』だと思ってたけど、『ヘン』だったんだね。
　『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』は、やっぱり『ヘンな集合』でした。
　めでたしめでたし。

いやいや、『めでたしめでたし』じゃねーよ！

　あれ？
　『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』って、『フツーの集合だけ』を集めたんだよね。
　それが『ヘンな集合』だったとしたら、ヤバくない？（この辺りで話の不思議さに気づく子が出て来ました。）
　『ヘンな集合』ってことは、その中に『自分自身』を含んでいるわけだ。
　でも、今考えてるのって『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』だったよね。『フツーの集合』だけを『ぜーんぶ集めた』集合。
　ってことは、その中に入ってる集合って『フツーの集合』のはずだよね。
　その中に『ヘンな集合』って、入ってていいの？入ってないはずだよね。
　これってヤバくない？

『ヤバさ』再考

　もう一回、行くよ。
　今考えてるのは『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』。
　これって『フツーの集合だけ』集めたんだから、『フツー』っぽいよね。だからこれ自身も『フツーの集合』ってことにし・ま・し・た。
　でも、これが『フツーの集合』だとしたら、『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』の中に入っているはずだよね。
　ってことは、『自分自身を含む』ことになるので『ヘン』だよね。（この辺りで教室はザワザワしっぱなし。）
　よしよし、『フツーの集合をぜーんぶ集めた集合』は『ヘンな集合』でした、めでたしめでたし。
　って思ってたら、『ヘンな集合』は『フツーの集合（だけ）をぜーんぶ集めた集合』には入っていないはずなので…。
　やばい、わかんなくなってきた！

まとめ

　ってことで、『集合』って言葉も『集合を集めて集合をつくる』と、おかしなことが起こることがあるよ、というお話でした。
　これを、『ラッセルのパラドクス』って言います。
　よくわかんなくてスッキリしない人は、ググってみてください。
　チャンチャン。