某所において週$\frac{2}{3}$回くらいのペースで Nakanishi:Cluster Algebras and Scattering Diagrams Part I (cluster代数の基本的な教科書)のゼミを行っているので, ゼミノートを作るついでにmathlogに記事を載せておきます. {自分のゼミ内容}$\setminus${pdfに書かれていること}のみを書くので, 上の教科書と合わせて読んでください(self-containedでは全くないです) 気が向いたら適宜updateしていきます.
この記事はarXiv:2201.11371のバージョン3を基としているので, (多分ないと思いますが)更新が行われた際は参照ページ/命題番号のずれに注意してください.
また, 同じ著者による「団代数の基礎」も前半部分は上のpdfとほぼ同じなので, 対応するページ/章/定理番号があれば括弧で書きます.
質問/指摘などあればコメント欄へお願いします.
聴講者から, 「半体$\P$が加法の単位元があるのってどういう時かってわかりますか」みたいな質問がきました. その場では答えられなかったが,
落ち着くと,そういうのは自明半体しかないことがわかります:
半体$\P$が加法の単位元$0$を持てば, $\P$は自明な半体.
このとき, 任意の$a,b\in \P$に対し,
$a+b=(a0^{-1})(0+0a^{-1}b)=(a0^{-1})(0a^{-1}b)=b$. この式の$a,b$を入れ替えることで, $a+b=a$がわかり, 任意の$a,b\in \P$に対して$a=b$. よって$\P$は自明な半体.
ちなみに, 半体は(普遍代数の意味で)ちゃんと代数になっているので, 準同型の定義とか, 普遍半体の存在とそのuniversalityとかはそういう一般論からでたりします. まあ普遍半体の形とかは一般論からは(少なくとも容易には)でないんですけどね~
ここでやってることは, 要するに「一般の係数半体$\P$でミューテーションを文字式として計算するのは, 自由係数で計算しているのと本質的に同じだよね~」という話なんですが, 体が代数でないので見た目上煩雑な議論をする必要がでてきます.
この節では, $t_0\in \T$を固定し, $x_{i;t_0}$を単に$x_i$と書きます($x'_i$も同様).
また, $p\in\P$に対応する$\Z\P$の元を($\P$の元と区別したときは,)$[p]$と書きます.
proposition 2.5(b)(本:命題2.22(b),p46)は文字通りに読むと嘘で, 例えば$\P=\mathbb{1}$とかのときに, $x_1\in \mathcal{X}(\sigma)\subset (\Q\Qsf(\boldsymbol{y}))(\boldsymbol{x})$は$x_1=\frac{([y_1]-[1])x_1}{[y_1]-[1]}$とかけるので, これを言われたとおりに$\phi$で送ろうとすると, $\frac{0}{0}$が出てきてill-defになってしまいます.
本の場合だと, 「非負表示をえらび~」と書いているので, 嘘ではないがやっぱり「表示によらないのはなんで?」とかが気になる.
なので, 多分このような命題を代わりに考えるといいと思います:
$t_0\in \T$において自由係数なクラスターパターン$\Sigma$と, 係数が$\P$であるようなクラスターパターン$\Sigma'$があり, $\Sigma$と$\Sigma'$が同じ$B$パターンを共有していると仮定する.
このとき, 次の2条件を満たす環準同型$\phi:\A(\Sigma)\to (\Q\P)(\bs{x}')$が存在する:
証明のために少し定義と補題を準備します. 以下の記法は(恐らく)一般的なものではないので注意してください.
$\P$を半体とする. このとき, $\N\P\subset \Z\P$を, $\N\P=\{\sum_{i=1}^n a_i[p_i]|a_i,n\in \N, p_i \in\P\}$で定める.
また, $A$が$\Z\P$代数であり, $a_1,a_2,\cdots, a_n\in A$であるとき, $\N\P[a_1,a_2,\cdots ,a_n]:=\{f(x_1,\cdots x_n)|0\neq f\text{は}\N\P\text{係数多項式}\}$とする.
上の状況で, さらに$A$が体であり, $0\not\in \N\P[a_1,a_2,\cdots ,a_n] $のとき, $\N\P(a_1,a_2,\cdots ,a_n)\subset A$を$\{\frac{s}{t}|s,t\in\N\P[a_1,a_2,\cdots ,a_n] \}$で定める.
$A$を$\Z\P$代数とし, $a_1,\cdots ,a_n\in A$とする. このとき,$\N\P[a_1,a_2,\cdots ,a_n]$は和と積で閉じる.
さらに, $\N\P(a_1,a_2,\cdots ,a_n)$が定義されるならば, この集合は和と積と商で閉じる.
前半は定義より自明. 後半は前半からすぐでる. ($\frac{a}{b}+\frac{c}{d}=\frac{ad+bc}{bd}$などからわかる)
$\Sigma$のrankを$n$とする.
(元の論文にもあるように, 群の射は群環の射に伸びるので,)自然に$\pi_1:\Z\Qsf(\bs{y})\to \Z\P$が定義できる. 多項式環の普遍性より, これはさらに$\pi_2:\Z\Qsf(\bs{y})[x_1,x_2\cdots ,x_n]\to \Z\P[x_1,x_2\cdots ,x_n];x_i\mapsto x_i$に伸びる. $R=\Z\Qsf(\bs{y})[x_1,x_2\cdots ,x_n]$, $S=(\N\Qsf)[x_1,x_2,\cdots ,x_n]\subset R$と置く. このとき, $x_1,\cdots x_n$の代数的独立性より, $0\not\in S$. また, $\pi_2(S)=\N\P[\pi_2(x_1),\pi_2(x_2),\cdots,\pi_2(x_n)]=\N\P[x'_1,x'_2,\cdots,x'_n]$なので, 上と同様に$0\not \in \pi(S)$.
$\pi_2$と自然な埋め込みの合成$\pi_2':R\to \Q\P(x_1,x_2\cdots ,x_n)$と置くと, これは今示したことと, 局所化の普遍性より, $\pi_3:S^{-1}R\to \Q\P(x_1,x_2\cdots ,x_n)$に伸びる.
$x_i \in (\N\Qsf)(x_1,x_2,\cdots ,x_n)$であり, 上の命題より$(\N\Qsf)(x_1,x_2,\cdots ,x_n)$は和積商で閉じる. mutationは和積商と$[\P]$の元のみを用いてかけるので, $(\N\Qsf)(x_1,x_2,\cdots ,x_n)$は$\Sigma$のクラスター変数を全て含む. よって$S^{-1}R$は$\A(\Sigma)$を含む. 以下, $\phi=(\pi_3|_{\A(\Sigma)})$が条件を満たすことを示す.
1.は作り方から明らか(結局$\phi([p])=\pi_1([p])$になるので). また,$\phi(x_i)=x'_i$も作り方からわかる.
以下$t\in \T$とし, $\phi(x_{i;t})=x'_{i;t}(i=1,\cdots,n)$の成立を仮定し, $\phi(x_{i;\mu_k(t)})=x'_{i;\mu_k(t)}$を示す.
(これが示せれば, 帰納法により2の成立が言える. )
これはmutationの定義, $x_{i;\mu_k(t)}=x_{i;t}^{-1}\displaystyle\prod_{j=1}^n (x_{j;t})^{[-b_{jk;t}]_{+}} \frac{1+\hat{y}_{k;t}}{1\oplus y_{k;t}}$を$\phi$で送ればよい. ($x_{i;t}\in \A(\Sigma)\subset S^{-1}S$によって, $\phi(x_{i;t}^{-1})=\phi(x_{i;t})^{-1}$が保障されていることに注意)
この節には, prop1.11(本:命題1.10)で使った論法を使わないと埋まらない行間がそこそこあります.
$a_1,a_2,\cdots ,a_n\in\Z\P$とする. このとき, $\P$の
(乗法に対する)部分群$H\iso \Z^m$があり, $a_1,\cdots a_n\in \Z[H]\iso \Z[x_i^{\pm 1}](i=1,\cdots ,m)$.
$a_i$の係数として現れる$\P$の元が生成する(乗法)群を$H$とすればよい.
$\Z\P^{\times}=\{\pm 1\}\P$
$ab=1$,$a,b\in \Z\P$とする. このとき, 上の命題を$a,b$に対してつかい, ある$H\subset \P$があり$a,b\in\Z[H]\iso \Z[x_i^{\pm 1}]$. 整域$A$において,$A[x,x^{-1}]^{\times}=A^{\times }x^{\Z}$なので, これを繰り返し用い, $a\in \{\pm 1\}H\subset \{\pm 1\}\P$がわかる.
$d(t_3,t)=d$とあるが, $t_0$と$t$の位置関係によっては, $d(t_3,t)=d-2$の可能性もある(どちらにせよ帰納法は回るが)
式3.8とlemma 3.5(b)(本:式3.17と補題3.3(2))から$\tilde{f}$が$x^a_{k;t_1}$で割り切ることを導いてるが, 一般の半体$\P$に対しては$\Z\P$は一般にはUFDとは限らないので, すこし気を付ける必要がある:
修正案1:$\tilde{f},\tilde{g},x_{k;t_1},x_{k;t_3},x_{l;t_3}$について命題4を用いて, 多項式環の場合に帰着(命題5と似た感じ)
修正案2:$\Qsf$が(乗法によって群とみなした時に), $\Z^I$と同型なことを示し, そこから$\Z\Qsf$がUFDであることをいう.
「$y_l$について定数/2項式」などという表現があるが, $y$変数側の次数はアプリオリには与えられてないので, 少し頑張らないといけない:
$\Qsf^i=\{\frac{f}{g}|f,g\in \N[x_1,x_2,\cdots,x_n],f,g\text{は}x_i\text{と互いに素}\}$とすると, 群として$\Qsf\iso \Qsf^i\times \Z$となり, $\Z\Qsf[\bs{x}^{\pm 1}]=\Z\Qsf^i[y_i,\bs{x^{\pm 1}}]$となるので, 次数を定義することができる.
多項式$f\in \Z[\bs{u}]$が非負表示をもつとは, $f\in \N(\bs{u})\cap \Z[\bs{u}]$の意味であって$f\in \N[\bs{u}]$の意味ではないことに注意.
forzenな種子の間には矢を書かないことにしてるが, mutationとflipの対応をわかりやすくするには書いた方が見やすい気もする(やや図が煩雑になるが)
先に$\A$で議論をしてるが, $\C[\bs{P}]/I_R$で議論をしたうえで$\phi$で送った方が議論がきれいだと思う. あと環の次元論で殴るのもありかも.
一応$\C[\bs{P}]/I_R$において, 適当に単項式をかけることで, 非初期団代数を消せることを確かめておく:
$p_{14}p_{35}=p_{13}p_{45}+p_{15}p_{34}$
$p_{13}p_{24}=p_{14}p_{23}+p_{12}p_{34}$
$p_{14}p_{13}p_{25}=p_{14}(p_{12}p_{35}+p_{15}p_{23})=p_{12}(p_{13}p_{45}+p_{15}p_{34})+p_{14}p_{15}p_{23}$
prop4.5とかprop4.11の$\varepsilon$表示は,普通に$y$変数/$x$変数の$\varepsilon$表示からも出る.
補題5.4の証明において, 「$y_{k;t}$の次数」という表現があるが, section 3.1の説明でも書いたように$\Qsf\iso \Qsf^i\times \Z$を使って$\Z\Qsf^i[y_i,\bs{x^{\pm 1}}]$と解釈する必要がある
$\displaystyle{\sum_{m,k,l} c_{mkl} x_1^mx_2^kx_2^{-l}(p_2^{+}+p_2^{-}x_1^b)^l
}$ $(m\in \Z, k,l\geq 0,c_{mkl}\in \Z\P)$ がもし
$\Z\P[x_1,x_2^{\pm 1}]$に入っていたら,
$c_{mkl}=0(m<0)$が従う, みたいに書いてあるが, これは全然従わない.
例えば, $x_1^{-b}(-p_2^{+}+x_2x_2')$みたいな式を考えると, これは$p_2^{-}$と等しいので, $\Z\P[x_1,x_2^{\pm 1}]$に入るが, $c_{-b,0,0}\neq 0$となる. というわけで, 例えば次のような修正が必要となる:
$\Z\P[x_1,x_2^{\pm 1}]\cap \Z\P[x_1^{\pm 1},x_2,x_2']\subset \Z\P[x_1,x_2,x_2']$
$f\in \Z\P[x_1,x_2^{\pm 1}]\cap \Z\P[x_2,x_2',x_1^{\pm 1}]$を任意にとり, $f\in \Z\P[x_1,x_2,x_2']$を示す.
$f\in \Z\P[x_1^{\pm 1},x_2,x_2']$なので, $f=F(x_1,x_2,x_2')$となる$F\in \Z\P[T_1^{\pm 1},T_2,T_3]$がとれる. このような$F$のなかで, $m:=-\mathrm{ord}_{T_1} (F)$が最小になるように$F$をとる. $m\leq 0$をいえば証明が終わる. 以下, $m> 0$と仮定し, 矛盾を導く.
$F_i\in \Z\P[T_2,T_3]$を, $F=\displaystyle\sum_{i=-m}^{\infty} T_1^iF_i$が成立するように定める. 両辺に$T_1^{m}$をかけて, $(T_1,T_2,T_3)$に$(x_1,x_2,x_2')$を代入することで, 次の式を得る:
$fx_1^{m}=\displaystyle\sum_{i=-m}^{\infty} {x_1}^{i+m}F_i(x_2,x_2')$. この式の両辺はともに, $\Z\P[x_1,x_2^{\pm 1}]$上の式とみなせるので, $x_1$に$0$を代入することで, 次の式を得る($m>0$に注意):
$\displaystyle{0=F_{-m}\left(x_2,\frac{p_2^{+}}{x_2}\right)}$. よって, $F_{-m}(T_2,T_3)=g(T_2,T_3)(T_2T_3-{p_2}^{+})$となる$g\in \Z\P[T_2,T_3]$がとれる.
よって, $F_{-m}(x_2,x_2')=g(x_2,x_2')p_2^{-}x_1^b$となるが, これは$m$の最小性に矛盾する.
($F'=F-F_{-m}(T_2,T_3)T_1^{-m}+p_2^{-}g(T_2,T_3)T_1^{b-m}$とすると, $F'(x_1,x_2,x_2')=F(x_1,x_2,x_2')=f$かつ, $-\mathrm{ord}_{T_1} F'< m$となり, 矛盾する. )
"alternative proof of theorem 3.1."において, $n=(0,)1$は別個撃破する必要がある.