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三角関数で解く幾何

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 この記事は仮の人さん主催の AMC2023 の24日目の記事です.

はじめに

 幾何問題を初等的に解くには,難しい発想が必要ですが,三角関数で機械的に解く方法だと,最低限の知識(構図・公式など)と計算力だけで問題を解くことができます.
 この記事では,図形上の距離やを三角関数を使って求める手法を紹介します.また,三角関数の基本的性質を知っている前提で解法を書きます.

 特に断りのない場合,三角形ABCの内心,外心,垂心,角A内の傍心をそれぞれI,O,H,IAとします.また,三角形ABCの外接円の半径,内接円の半径,角A内の傍接円の半径をそれぞれR,r,rAとします.

準備運動

 三角形ABCにおいてcosB=14,cosC=38が成り立つとき,cosAを求めよ.

ヒント
 A=π(B+C)を用いる.
解答
 0<A,B,C<πに注意して,sinB=1cos2B=154,sinC=1cos2C=558より,
cosA=cos(π(B+C))=cos(B+C)=(cosBcosCsinBsinC)=533332

 三角形ABCにおいてsinB2=25,sinC2=37が成り立つとき,sinA2を求めよ.

ヒント
 A2=π(B2+C2)を用いる.
解答
 0<A2,B2,C2<π2に注意して,cosB2=1sin2B2=215,cosC2=1sin2C=407より,
sinA2=sin(π2(B2+C2))=cos(B2+C2)=cosB2cosC2sinB2sinC2=2210635

 鋭角三角形ABCにおいてsinA=35,cos(BC)=710が成り立つとき,sinBsinCを求めよ.

ヒント
 積和の公式よりsinBsinC=12(cos(BC)cos(B+C))cos(B+C)sinAから求まる.
解答
 0<A,B,C<π2に注意して,cos(B+C)=1sin2(B+C)=1sin2A=45より,
sinBsinC=12(cos(BC)cos(B+C))=34

 三角形ABCにおいてcosA=38,sinB+sinC=117が成り立つとき,cos(BC)を求めよ.

ヒント
 和積の公式より,sinB+sinC=2sinB+C2cosBC2sinB+C2cosAから求まる.
解答
 0<A<π2よりsinB+C2=cosA2=1+cosA2=114.和積の公式よりsinB+sinC=2sinB+C2cosBC2.したがって,cosBC2=2117.よって
cos(BC)=2cos2BC21=3949

 鋭角三角形ABCにおいてcosB2cosC2=712,cosB+cosC=59が成り立つとき,sinAを求めよ.

ヒント
 積和の公式よりcosB2cosC2=12(cosB+C2+cosBC2).和積の公式よりcosB+cosC=2cosB+C2cosBC2.これらからcosB+C2を求める.
解答
 積和の公式よりcosB2cosC2=12(cosB+C2+cosBC2).和積の公式よりcosB+cosC=2cosB+C2cosBC2.これらからπ4<B+C2<π2よりcosB+C2=13,sinB+C2=223.よって
sinA=sin(B+C)=2sinB+C2cosB+C2=429

三角関数を用いた解法の方針

 以下のようなステップで解けることが多いです.

  1. 問題文で与えられている長さをR×()で表す.
  2. 1で作られた連立方程式を解いてRsin()などの値を出す.
  3. 2を用いて答えるべき値を出す.

1のステップについて

 よく使われる式としては以下のようなものがあります.証明は各自試みてください.(いい練習になります)

BC=2RsinA

垂心・垂線の足

 A,B,Cから対辺に下ろした垂線の足をそれぞれD,E,Fとすると
AD=2RsinBsinC
EF=2RsinA|cosA|
AH=2R|cosA|
HD=2R|cosB||cosC|

頂点と五心の距離

 三角形ABCの内心,外心,垂心,角A内の傍心をそれぞれI,O,H,IAとすると
AO=R
AH=2R|cosA|
AI=4RsinB2sinC2
AIA=4RcosB2cosC2

内接円・傍接円の半径

 三角形ABCの外接円の半径,内接円の半径,角A内の傍接円の半径をそれぞれR,r,rAとすると
r=4RsinA2sinB2sinC2=R(cosA+cosB+cosC1)
rA=4RsinA2cosB2cosC2=R(cosA+cosB+cosC+1)

五心間の距離

IO2=R22Rr=R2(18sinA2sinB2sinC2)=R2(32(cosA+cosB+cosC))
IAO2=R2+2RrA=R2(1+8sinA2cosB2cosC2)=R2(3+2(cosA+cosB+cosC))
IIA=4RsinA2
IBIC=4RcosA2

面積

ABC=2R2sinAsinBsinC=12R2(sin2A+sin2B+sin2C)

練習問題

(問題は公開日(12/24)後に追加されるかもしれません)

 鋭角三角形ABCにおいて垂心をHとすると
AH=6,BC=8
 が成り立つ.このとき,三角形の外接円の半径Rを求めよ.

ヒント
 AH=2R|cosA|=2RcosA
 BC=2RsinA
解答
 0<A<π2よりAH=2R|cosA|=2RcosA,BC=2RsinA.したがって(2R)2=(2RsinA)2+(2RcosA)2=BC2+AH2=100よりR=5

 鋭角三角形ABCにおいてA,B,Cから対辺に下ろした垂線の足をそれぞれD,E,F,垂心をHとすると
BC=7,EF=4,HD=1
 が成り立つ.このとき,ABCの面積を求めよ.

ヒント
 BC=2RsinA
 EF=2RsinA|cosA|=2RsinAcosA
解答
 BC=2RsinA
 EF=2RsinA|cosA|=2RsinAcosA
 よりcosA=EFBC=470<A<π2よりsinA=337
 また,第一式よりR=BC2sinA=49233AH=2R|cosA|=2833.よって
ABC=12BC×(AH+HD)=231+1963366

 鋭角三角形ABCにおいて垂心をH,内心をIとすると
AIH=90°,BH=3,CH=5
 が成り立つ.このとき,AHを求めよ.

ヒント
 HAI=|BC|2より0<A,B,C<π2に注意して
AI=AHcosBC24RsinB2sinC2=2RcosAcosBC2(cosBC2cosB+C2)=cos(B+C)cosBC2(1+cos(B+C))cosBC2=cosB+C22cosB+C2cosBC2=1cosB+cosC=1
解答
 ヒントよりcosB+cosC=1CH+BH=2RcosB+2RcosC=2RよりR=4.すなわちcosB=38,cosC=58よりcosA=cos(B+C)=21451564.よってAH=2RcosA=2145158

 鋭角三角形ABCにおいて内心をI,外心をO,垂心をHとすると
AIO=90°,BH+CH=12,AO=7
 が成り立つ.このとき,IOを求めよ.

ヒント
 OAI=|BC|2より
AI=AOcosBC24RsinB2sinC2=RcosBC22R(cosBC2cosB+C2)=RcosBC2cosBC2=2cosB+C2
解答
 ヒントよりcosBC2=2cosB+C2.また
BH+CH=2RcosB+2RcosC=4RcosB+C2cosBC2
 よりcosB+C2cosBC2=BH+CH4R=37π4<BC2<π4に注意して,以上の二式からcosBC2=67,sin|BC|2=17.よってIO=RsinBC2=7
(2023/12/31 修正済み)

 鋭角三角形ABCにおいて外心をO,垂線をHAからBCに下した垂線の足をDとすると
AOH=90°,AO=5,DH=2
 が成り立つ.このとき,DO2を求めよ.

ヒント
 HAO=|BC|より
AO=AHcos(BC)R=2RcosAcos(BC)2cos(B+C)cos(BC)=1cos2B+cos2C=1cos2B+cos2C=12
解答
 ヒントよりcos2B+cos2C=12.またDH=2RcosBcosCよりcosBcosC=15.すなわちこの連立方程式を解いて
(cosB,cosC)=(110,210),(210,110)
 いずれの場合にせよ0<B,C<π2に注意してcos(BC)=2+3610.したがってAD=AOcos(BC)+DH=36
 よって余弦定理より
DO2=AD2+AO22cos(BC)×AD×AO=2566

 三角形ABCにおいて内心をIとすると
ACAB=113,BI=5,CI=6
 が成り立つ.このとき,BCを求めよ.

ヒント
ACAB=2R(sinBsinC)=4RsinA2sinBC2
BI=4RsinA2sinC2
CI=4RsinA2sinB2
解答
 ヒントより,以下のように文字を置ける.(xは正実数)
sinB2=6x,sinC2=5x,sinBC2=113x
 0<B2,C2<π2に注意して,加法定理より
sinBC2=sinB2cosC2cosB2sinC2113x=6x125x25x136x2
 x>0よりこれを解いてx=790.すなわちsinB2=715,sinC2=718より
sinA2=cosB+C2=cosB2cosC2sinB2sinC2=1930
sinA=2sinA2cosA2=13311450
R=CI4sinA2sinB2=675133
 よって
BC=2RsinA=311

 三角形ABCにおいて内心をI,角A内の傍心をIA,外心をOとすると
BC=8,IO=3,IAO=9
 が成り立つ.このとき,ABCの面積としてありうる値を全て求めよ.

ヒント
IO2+IAO2=(R22Rr)+(R2+2RrA)=6R24R2cosA
BC=2RsinA
解答
IO2+IAO2=6R24R2cosAより
cosA=3R2452R2,sinA=1(3R2452R2)2
BC=2RsinAより
2R1(3R2452R2)2=8
R>0に注意してこれを解くとR=5,95
(1) R=5のとき
 sinA=45,cosA=35
 IO2=R22Rr=R22R×R(cosA+cosB+cosC1)よりcosB+cosC=1825
 0<A2<π2に注意して
cosB+C2=sinA2=1cosA2=15
 cosB+cosC=2cosB+C2cosBC2より
cosBC2=955,cos(BC)=2cos2BC21=37125
 積和の公式よりsinBsinC=12(cos(BC)cos(B+C))=56125
 よってABC=2R2sinAsinBsinC=44825
(2) R=95のとき
 sinA=459,cosA=19
 IO2=R22Rr=R22R×R(cosA+cosB+cosC1)よりcosB+cosC=109
 0<A2<π2に注意して
cosB+C2=sinA2=1cosA2=23
 cosB+cosC=2cosB+C2cosBC2より
cosBC2=56,cos(BC)=2cos2BC21=718
 積和の公式よりsinBsinC=12(cos(BC)cos(B+C))=14
 よってABC=2R2sinAsinBsinC=185
(1),(2)より44825,185

 三角形ABCにおいて外接円,内接円,角A内の傍接円の半径をそれぞれR,r,rAとすると
R=14,r=6,rA=19
 が成り立つ.このときBCを求めよ.

ヒント
r=R(cosA+cosB+cosC1)
rA=R(cosA+cosB+cosC+1)
解答
 ヒントより2R+rrA=2RcosA
 すなわちcosA=1528,sinA=55928
 よってBC=2RsinA=559

あとがき

 OMC上にも三角関数で無理やり解ける問題がたくさんあります(いずれ紹介します).この解法のメリットはコツさえつかめば,同様の問題も解くことができることです.逆にこの解法では計算量が多いまたは簡潔な式にならないような問題もあります.あくまでこれは解法の一つに過ぎず,最初は初等的解法を試みるべきです.

 明日(25日目)はW2TZMSさんの記事が公開されます.いよいよ最後の記事ですね.

投稿日:20231224
更新日:20231231
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  1. はじめに
  2. 準備運動
  3. 三角関数を用いた解法の方針
  4. 1のステップについて
  5. 垂心・垂線の足
  6. 頂点と五心の距離
  7. 内接円・傍接円の半径
  8. 五心間の距離
  9. 面積
  10. 練習問題
  11. あとがき