この記事は僕がグダグダ考えたことをまとめた(?)ものになります.結論としてはハーツホーンの定義良くできてるなぁというオチになります.
$\text{Spec}(R)$で環$R$の素イデアルすべての集合を表します.
$S$を積閉集合,$I$を$S$と交わらないイデアルとすれば,$I$を含み$S$と交わらない素イデアルが存在する.
[松村]定理1.2を参照.
$\displaystyle\sqrt{\mathfrak{a}}=\bigcap_{x\in V(\mathfrak{a})}\mathfrak{p}_x$
$f\in\sqrt{\mathfrak{a}}$とする.このとき,ある$r>0$があって$f^r\in\mathfrak{a}$.任意の$x\in V(\mathfrak{a})$に対し,$\mathfrak{a}\subset \mathfrak{p}_x$なので,$f^r\in\mathfrak{p}_x$.$\mathfrak{p}_x$は素イデアルなので,$f\in\mathfrak{p}_x$.
逆に,$f\notin\sqrt{\mathfrak{a}}$とする.積閉集合$S=\{f^r|r\ge 0\}$が$\mathfrak{a}$と交わらないので,補題1より$\mathfrak{a}$を含み$f$を含まない素イデアルが存在する.
以上より,$I(V(\mathfrak{a}))=\sqrt{\mathfrak{a}}$が分かります.これはヒルベルトの零点定理の類似となっています.
以下が成り立つ.
(1) $V(0)=\text{Spec}(R)$,$V(1)=\phi$
(2) $V(\mathfrak{a})\cup V(\mathfrak{b})=V(\mathfrak{ab})$
(3) $\bigcap_i V(\mathfrak{a}_i)=V(\sum_i \mathfrak{a}_i)$
読者に任せる.
命題3により,$\text{Spec}(R)$に$V(\mathfrak{a})$の形の集合を閉集合として位相が入ります.
$V(I(Y))=\overline{Y}$
$V(I(Y))\supset Y$は明らかなので,$V(I(Y))\supset\overline{Y}$となる.逆に,$V(\mathfrak{a})$が$Y$を含む$\text{Spec}(R)$の閉集合ならば,$V(\mathfrak{a})\supset Y$より,$I(V(\mathfrak{a}))\subset I(Y)$なので,$\mathfrak{a}\subset I(Y)$.よって$V(\mathfrak{a})\supset V(I(Y))$.ゆえに$V(I(Y))\subset \overline{Y}$である.
$D(f)$の形の開集合は$\text{Spec}(R)$の位相の基底をなす.
適当な参考文献を参照してください.
さて,準備ができたので$\text{Spec}(R)$上に層を載せます.そのために,$\text{Spec}(R)$の開集合$U$上の関数とはどのようなものかを考えます.$f(x)\in R/\mathfrak{p}_x$でした.なので,安直に考えれば$\dfrac{f(x)}{g(x)}\,\,(g(x)\neq0)$のようなものがその資格を持つと言えるでしょう.これをきちんと定式化したいと思います.
開集合$U\subset\text{Spec}(R)$に対して,$\mathcal{O}(U)$を次のような関数の集合と定義する:$s:U\rightarrow \bigsqcup_{x\in U}k(x)$でそれぞれの$x\in U$に対して$s(x)\in k(x)$であり,任意の$x\in U$に対し,ある近傍$D(g)\subset U$と$f,g\in R$が存在して
$$
s(y)=\frac{f(y)}{g(y)}\quad (\forall y\in D(g))
$$
が成り立つもの.
ハーツホーンの定義に持っていきたいので,ここで,ハーツホーンの方の定義と上の定義が同値であることを示しますたかった.そうすれば,構造層の基本的性質の証明の手間が省けます!
開集合$U\subset\text{Spec}(R)$に対して,$\mathcal{O}^H(U)$を次のような関数の集合と定義する:$s:U\rightarrow \bigsqcup_{x\in U}R_x$でそれぞれの$x\in U$に対して$s(x)\in R_x$であり,任意の$x\in U$に対し,ある近傍$D(g)\subset U$と$f,g\in R$が存在して
$$
s(y)=\frac{f}{g}\quad (\forall y\in D(g))
$$
が成り立つもの.
$\Phi_U:\mathcal{O}^H(U)\rightarrow \mathcal{O}(U)$を$f/g\mapsto f(y)/g(y)$で定義する.
$\Psi_U:\mathcal{O}(U)\rightarrow \mathcal{O}'(U)$を$f(y)/g(y)\mapsto f/g$で定義する.
$\Psi$の方のwell-defined性を確認したかった.つまり,これは一般にwell-definedになりません!残念!でも,$R$が被約なら一致します!この世に被約でない環が存在することが恨めしい...
$f(y)/g(y)=f'(y)/g'(y)$ならば,$f/g=f'/g'$を確認しようとしてみます.
$f(y)/g(y)=f'(y)/g'(y)$より,$fg'-f'g=0\,\,\text{mod.}\,\mathfrak{p}_y$(ある$x$の近傍$D(h)$上)が成り立つ.$a=fg'-f'g$とおくと,$a\in \bigcap_{y\in D(h)}\mathfrak{p}_y$である.
ここで次の命題を示す.
$ (\bigcap_{y\in D(h)}\mathfrak{p}_y)R_h$は$R_h$の冪零元根基に等しい.
ここでの$R_h$は$R$の$h$による局所化のことです.ちょっと紛らわしくてすみません...
命題2より,$\sqrt{(0)}=\bigcap_{x\in \text{Spec}(R)}\mathfrak{p}_x$である.
$R$の素イデアルで$h$を含まないものと$R_h$の素イデアルとの間には$\mathfrak{p}\mapsto \mathfrak{p}R_h$で定まる一対一対応があった.よって補題7も使うと,$\sqrt{(0)}|_{R_h}=\bigcap_{y\in\text{Spec}(R_h)}\mathfrak{p}_y=\bigcap_{x\in\text{Spec{R}},h\notin\mathfrak{p}_x}\mathfrak{p}_xR_h=(\bigcap_{y\in D(h)}\mathfrak{p}_y)R_h$である.
$(\bigcap_{i\in I}I_i)S^{-1}R=\bigcap_{i\in I}I_iS^{-1}R$
ChatGPTに聞けば答えてくれると思います.
さて続き.$a\in \bigcap_{y\in D(h)}\mathfrak{p}_y$を局所化すると,$a/1=\sqrt{(0)}$である.よって$R$が被約なら$a=0$.よってwell-definedになります.しかし被約でないならwell-definedになりません.悲しい...つまり,スキーム論においては被約であれば$\mathcal{O}^H(U)$の元は$k(x)$に値を持つ関数という描像が描けますが,被約でない場合は冪零元の存在のせいで,ある場所に値を持つ関数という描像はあまり正しくないと言えるでしょう.
特に整スキームの時は被約であるのでこの描像が生きます.この描像が何の役に立つかはちょっと分かりませんが,スキームライフを送るうえでちょっとは役に立てたらうれしいです.