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数学科の院生が教える本当に初学者向けの数学書

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よくある話

やる夫「やる夫は4月から数学科1年生!大学数学を極めるお!今日は意識高く本屋にやって来たんだお!」
やらない夫「……お前、数学が好きなのはいいけども、二次試験の数学散々だったんだろ?無理すんなよ。」
やる夫「やらない夫は黙ってろお!やる夫は本気出せば天才だお!」

やる夫「おっ、ここが専門書の棚かお。あった、杉浦光夫『解析入門Ⅰ』。これが欲しかったんだお!」
やらない夫「いや、それは『解析門前払い』として有名な本で……」
やる夫「杉浦解析は名著だお!即レジだお!」

やる夫「さぁ、始めるお!最初は実数のことが書いてあるお!こんなの知ってるお!」
やる夫「2ページでもう加群とか可換群、可換環みたいな言葉が出てきたお。なんのことか分からないお」
『問1 R(一般に体K)において次のことが成り立つことを示せ.(i) (R3)を満たす0は唯一つ.』
やる夫「(R3)って何だったお?条件が多すぎて忘れちゃったお」
『(R3) Rの元0が存在して,すべてのaRに対して,a+0=aをみたす.』
やる夫「日本語なのに日本語の意味が分からないお…。」
やらない夫「どうしたやる夫、顔色が悪いぞ。」
やる夫「ま、まだ序盤だから仕方ないお!次のページに期待だお!」
やる夫「順序体、順序集合…!?全順序集合…?問2も全く分からないお」
やらない夫「おい、大丈夫か。なんかお前の顔がゲシュタルト崩壊してるぞ。」
やる夫「……無理だお……やる夫には……こんな世界は早すぎたお……。」

――BAD END――

じゃあどうすればよかったのか

前置きが長くなりましたが、こういう結末を避けるために、初学者は初学者向けの教科書を買いましょう。数学の勉強のやり方全般に関しては 以前書いた記事 も参考にしてください。

数学科の院生が教える本当に初学者向けの数学書

最初の一手

賛否両論見かけますが、「マセマ」シリーズは初手で取り組む本としては良いと思います。本によっては間違った記述があるとか色々指摘されていますが、どうせその後もっとちゃんとした先生の書いたしっかりした教科書を読むんだし、そこまで気にしなくていいでしょう。それよりも雰囲気を掴むのが大事だと思います。

全く読んだことありませんが、加藤文元先生監修のチャート式シリーズ(「微分積分」「線形代数」「統計学」)も評判が良いです。高校までの学習と大学以降の本格的な数学学習の架け橋になるんじゃないかと思います。

藤原敦先生の手を動かしてまなぶシリーズも良さそうです。

最近はインターネット上で無料の良質なPDFがたくさん転がっています。例えば「[勉強したい内容] ac.jp pdf」とかでググればたくさんヒットするでしょう。そうやって見つけたPDFとして、中西敏浩先生の「 およそ100ページで学ぶ微分積分学 」は大学以降の本格的な微分積分を学ぶ準備として丁度よい気がします。

集合と写像

前に書いた記事 でも強調したのですが、本格的に大学数学をやるのであれば、まず集合と写像の言葉に慣れるのが大前提です。微分積分や線形代数を勉強する前にこちらから始めた方が良いとさえ思います。私自身は、この手の内容は松坂和夫『集合・位相入門』で勉強しました。古い本なんですが、説明が丁寧で独学に向いていると思います。もうちょっと記述があっさりしていて全体的にコンパクトな本に内田伏一『集合と位相』があります。これも定評ある教科書で、良い本だと思います。

ただ、これまで挙げた二冊は人によっては難しかったり、分厚すぎるように感じられるかもしれません。それから(数学的な本質とは関係がありませんが)そもそも古いんですよね。そこで、「集合 写像 ac.jp pdf」とかで検索してヒットしたpdfを適当に読み漁り、自分に合ったものを見つけても良いと思います。

最近(ここ5~10年?)は新しい教科書がどんどん出ていて、私も全く追えていませんが、例えば原啓介『集合・位相・圏 数学の言葉への最短コース』とか嘉田勝『論理と集合から始める数学の基礎』は評判が良い気がします。私は全く読んでいませんが。

微分積分の教科書

杉浦解析は何でも書いてある良い本なので手元に置いておくと何かと便利だと思いますが、これを最初から読んでいくのは労力に対して得られるものが少ないのではないかという気がします。微分積分の教科書は伝統的に名著と呼ばれる優れた教科書が多くあり、私自身は笠原晧司『微分積分学』で勉強しましたが、他にも吹田・新保『理工系の微分積分学』難波誠『微分積分学』など(そしてそれ以外にも多数の)定評ある古き良き教科書がたくさんあります。こういう教科書がしっかり読みこなせるならそれでよいと思います。

笠原微積は個人的に思い入れがある教科書なので少し解説しておきます。基本的に解説が簡潔で的を得ておりとても分かりやすいと思います。サクサク読めて気持ち良いと感じる人が多いのではないでしょうか。ただ、簡潔すぎて合わないと感じる人もいるかもしれません。それから、一番最初の実数論の部分は若干いい加減(だと私は思う)ので、もし実数論がしっかり勉強したいのであれば、その部分だけは他の本(それこそ杉浦解析など)を参照した方が良いと思います。ただ、個人的な意見ですが、微分積分学習の初期段階で実数論に深入りするとそこで力尽きてしまう危険性があるのでお勧めしません。(話は逸れますが、そして実数論に深入りするなと言っておいてこういうことを言うのも変ですが、QからRを構成するのは一度はやっておくべきです。内田集合位相の巻末付録に丁寧な説明が載っています。)

最近は新しい教科書もたくさん出版されていて、そういう新しくて現代的に整理された教科書を選んだ方が余計な苦労をせずに勉強できるかもしれません。吉田伸夫『微分積分』は本格派でありながらも(内容の本格さに比べて)かなり読みやすい教科書のように思われます。それほど真面目に読んでいないので人に推薦するのは無責任かもしれませんが……。

線形代数

線形代数にも古き良き名著がたくさんあります。齋藤正彦『線型代数入門』佐武一郎『線型代数学』、その他にも調べればいくらでも有名な教科書が出て来るでしょう。そういう教科書が読みこなせる人はそういう教科書を読めばよいのだと思います。

ただ、私は院試の線形代数さえままならない程度に線形代数が苦手で、当然そういう本を読みこなす力はありませんでした。ではどうやって勉強したのかと言うと、川久保勝夫『線形代数学』を読んでいました。これは本当に初学者にお勧めできる教科書で、「高度なことが、非常に易しく書かれている」という印象です。前書きに「人の思考順、学習する順に話を筋を構成している」と書かれていますが、まさにその通りだと思います。

長谷川浩司『線型代数』も(読んではいませんが)評判が良いと思います。目次を見てみても、簡単な内容から高度な内容へ徐々に議論を進めていく心づかいが感じられます。

斎藤毅『線形代数の世界』は非常に有名な教科書で、多くの数学科で指定テキストになっているかと思いますが、これは学部1, 2年生が勉強するにはかなり難しい教科書だと私は思います。そもそも、解析系に進むのであれば要らない内容も多いです。まずは川久保線形代数や長谷川線型代数などの内容をマスターするところを目指すのが良いと思います。

その他

田崎晴明先生が無料で公開されているノート は非常に高品質で、タイトルは「物理を学び楽しむために」ですが、数学科水準の集合と写像・微分積分・線形代数・常微分方程式・ベクトル解析のしっかりした教科書になっていると思います。物理学的な要素も随所に盛り込まれているので、数学を学びつつ物理学の素養も身に着けられる、一石二鳥のテキストになっているのではないでしょうか。

最後に

こういう記事を書いてしまうのはだいたい本業の研究に集中できず「気が散っている」ときです。そういうことです。さっさと研究に戻ろうと思います。

投稿日:31
更新日:31
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