こんにちは。krutrです。
今回は、$n$次の正方行列を単に$n\times n$の形式的な記号の配置として考え、その中で、特殊な対称性を持つクラスを考察します。
考察対象は、自己双対(self dual)と呼ばれるクラスと、さらにその特殊な場合である、自己極(self polar)と呼ばれるクラスで、両者の差についての明示的なよい条件を求めるのが、今回の記事の目標です。
では早速、定義から始めましょう。
$n$を自然数とし、$I,J$を$\abs{I}=\abs{J}=n,\abs{I\cap J}=\varnothing $なる有限集合とする。$\mathrm{Map}(I\times J,\mathbb{N)}$の元を$n$次の(有限)行列という。
$\mathbb{N}$は単にラベルとして使用しているだけであり、各々の数字に特に記号以外の意味はないです。$\mathbb{N}$はこれ以降の議論にほぼ用いません。
$S_{IJ}$を$I$から$J$への全単射全体のなす集合とし、同様に、$S_{JI}$を$J$から$I$への全単射全体のなす集合とする。
$\phi$の$p$への作用(※1)$\cdot$を、
$\phi\cdot p\coloneqq(\sigma(j),\tau(i))$
とし、さらに、
$\phi$の$P$への作用(※1)$\cdot$を、
$\phi\cdot P\coloneqq\{((\sigma(j),\tau(i)),r)|((i,j),r)\in P)\}$
とする。このような作用(※1)$\phi\cdot\,$を、dual swapという。
(※1)基本的に、この定義では群作用としてみることはない。この場合は対象集合内の置換を引き起こすことを表現しているに過ぎない。
ある$P\in\mathrm{Map}(I\times J,\mathbb{N)}$に対して、
$\phi\cdot P=P$となるような$\phi$が存在するとき、$P$をself dualといい、$\phi$を$P$のdualityという。
$P$のあるduality$\phi=(\sigma,\tau)$について、$\sigma\tau=\mathrm{id}_I\,(\tau\sigma=\mathrm{id}_J)$が成り立つとき、$P$をself polarといい、$\phi$を$P$のpolarityという。
さて、では今回の目標となる主張を述べます。
$P$は、self polar でないが、 self dual であるような行列である
$\Leftrightarrow P$の任意のduality$(\sigma,\tau)$に対して、$\sigma\tau\in W_I$
ただし$W_I$は、巡回型が次を満たすような$S_I$($I$の置換群)の部分集合:
巡回型$w_1,w_2,...,w_k,...$について、
また、$W_I$は、
「$P$は、self polar でないが、 self dual であるような行列である
$\Leftrightarrow P$の任意のduality$(\sigma,\tau)$に対して、$\sigma\tau\in X_I$」
を満たす$X_I$のうち最小である。
境界条件を与えているという意味で、この定理は self dual と self polar との差を明示的に与えます。
では早速、この定理の証明に取り組んでいきましょう。
まずは、dualityの考察をしましょう。
あるduality$\phi=(\sigma,\tau)$は、$I\times J$上の置換と考えることができる以上、$\phi$によって固定されるような、$I\times J$の(最小の)分解$(\eqqcolon I\times J/\phi)
$を形成し、それは次のようなものになります。
$\phi=(\sigma,\tau)\in S_{JI}\times S_{IJ}$とする。
$\sigma\tau\in S_I$を、互いに素な巡回置換の積として書く方法を、巡回置換の掛け順と、各巡回置換の表示を完全に指定して一つ(好きに)選び、それを、
$\sigma\tau=(i^1_0i^1_1...)(i^2_0i^2_1...)...(i^u_0i^u_1...)...(i^m_0i^m_1...)$
とラベル付けする。ただし、各$u$に対して、$\{i^u_0,i^u_1,...\}\eqqcolon I^u$と定め、$i^u_k$の下添字$k$は、$\mathbb{Z}/\abs{I^u}\mathbb{Z}$の元であるとする。
また、任意の$u\in\{1,2,...,m\}$に対して、$\tau(I^u)\eqqcolon J^u$と定め、さらに、$\tau(i^u_k)\eqqcolon j^u_k$とする。このとき、
$\sigma(j^u_k)=i^u_{k+1}$
と、$\tau\sigma$の表示
$\tau\sigma=(j^1_0j^1_1...)(j^2_0j^2_1...)...(j^u_0j^u_1...)...(j^m_0j^m_1...)$
が成り立つ。
$\tau(i^u_k)=j^u_k$より、
$\sigma\tau(i^u_k)=\sigma(j^u_k)$
$i^u_{k+1}=\sigma(j^u_k)$
さらに、
$\tau(i^u_{k+1})=\tau\sigma(j^u_k)$
$j^u_{k+1}=\tau\sigma(j^u_k) $
dualityについて分かってきたところで、次に、dualityの作る分解に、ラベル付けをしたものの一つ(以下、duality分解行列)が、あるpolalityによって固定されるかどうかをみていきます。
この場合、ある行列がこのdualityを持つ時点で、その行列にはpolarityが存在します。
この場合、少なくともduality分解行列は、polarityを持ちません。
dualityを持つが、polarityを持たない行列である
$\Leftrightarrow$その任意のdualityは、それによるduality分解行列が、polarityを持たない
ここから、(さらに境界条件に注意すると)定理1の概要が分かりますね。
つまり、dualityの分解行列がpolarityを持たない条件として、定理の条件が導出されます。
ここからは、実際に条件を導出していきます。
そのために、もっとduality分解行列についてまとめておきましょう。
dualityによるブロック分解は、$I^u\times J^u$内では次の下添字条件に帰着される:
$(i^u_a,j^u_b)$と$(i^u_c,j^u_d)$が同じブロック$B$に含まれる
$\Leftrightarrow a-b-c+d=0$または$a-b+c-d=1$
列挙してみると分かる。
$(i^u_a,j^u_b)\in B$に、何度も$\phi$を作用させていくと、
$(i^u_a,j^u_b),(i^u_{b+1},j^u_a),(i^u_{a+1},j^u_{b+1}),...$
となる。
duality分解行列のpolarity$(\alpha,\alpha^{-1})$が存在するとき、その$I^u\times J^u$への作用は、次のようになる:
➀$\abs{I^u}$が奇数であるとき、
(i)定数$e$を用いて、$\alpha(j^u_b)=i^u_{e-b},\,\alpha^{-1}(i^u_a)=i^u_{e-a}$
(ii)$\alpha(j^u_b)=i^u_{b+2^{-1}},\,\alpha^{-1}(i^u_a)=i^u_{a-2^{-1}}$
➁$\abs{I^u}$が偶数であるとき、
(i)定数$e$を用いて、$\alpha(j^u_b)=i^u_{e-b},\,\alpha^{-1}(i^u_a)=i^u_{e-a}$
$(i^u_a,j^u_b)\in B$をとる。$B$がpolarity$(\alpha,\alpha^{-1})$の作用で不変であるとき、
ある$c,d$が存在して、
$\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
(\alpha(j^u_b),\alpha^{-1}(i^u_a))=(i^u_c,j^u_d) \\
(a-b-c+d=0 )\lor(a-b+c-d=1 )
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}$
よって、ある$\beta\in S_{\mathbb{Z}/\abs{I^u}\mathbb{Z} }$が存在して、
$\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
(i^u_{\beta(b)},j^u_{\beta^{-1}(a)}))=(i^u_c,j^u_d) \\
(a-b-c+d=0 )\lor(a-b+c-d=1 )
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}$
したがって、
$(a-b-\beta(b)+\beta^{-1}(a)=0)\lor(a-b+\beta(b)-\beta^{-1}(a)=1)$
ここで、$x\in\mathbb{Z}/\abs{I^u}\mathbb{Z} $に対して、
$s(x)\coloneqq \beta(x)+x$
$t(x)\coloneqq \beta(x)-x$
と定めると、条件は、
$(s(\beta^{-1}(a))-s(b)=0)\lor(t(\beta^{-1}(a))+t(b)=1)$
よって、次で場合分けする。
$s(x)=\beta(x)+x=e$より、
$\beta(x)=e-x\,\,\,\,\,\,\,( \forall e)$
は、解。
(i))$s$のとる値が$3$つ以上存在するとき
$s(e)\neq s(f)\neq s(g)\neq s(e)$となる$e,f,g$に対して、
$$
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
t(e)+t(f)=1 \\
t(e)+t(g)=1\\
t(f)+t(g)=1
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
よって、
$2t(e)=2t(f)=2t(g)=1$であるから、$\abs{I^u}$は奇数であるしかなく、かつそのような時、任意の$x$に対して、$t(x)=2^{-1}$
したがって、$\beta(x)=x+2^{-1}$
は、解。
(ii)$s$のとる値が丁度$2$つの時
$n \geq 3$において、
$s(e)=s(f)\neq s(g)$となる、相異なる$e,f,g$が存在して、
$$
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\beta(e)+e-\beta(f)-f=0 \\
\beta(e)-e+\beta(g)-g=1\\
\beta(f)-f+\beta(g)-g=1
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
よって、
$2(e-f)=0$
$e$と$f$が異なることに注意すると、$\abs{I^u}$は偶数であるしかなく、
また、自然数$\displaystyle\frac{\abs{I^u}}{2}$を用いて(正確には、自然な全射の写り先に対して)、
$e-f=\displaystyle\frac{\abs{I^u}}{2}$
であるから、
$n \geq 6$において、必ず、同じ値をとる相異なる$e,f,g$が存在するので、解は存在しない。
$n=2,4$についても、個別に確認することで、1の場合以外の解が存在しないと分かる。
さて、いよいよ後半戦となります。
補題4の(i)のような部分的な作用を(添字の置換としての表示も含め)、反転、(ii)のようなのよう作用を、正転という。
dualityによるブロック分解は、$(I^u\times J^v)\sqcup(I^v\times J^u)$内では次の下添字条件に帰着される:
$(i^u_a,j^v_b)$と$(i^v_c,j^u_d)$が同じブロック$B$に含まれる
$\Leftrightarrow a-b+c-d=1\,\,\,(\mathrm{mod}\,\,\,\mathrm{gcd}(\abs{I^u},\abs{I^v}))$
列挙してみると分かる。
$(i^u_a,j^v_b)\in B$に、何度も$\phi$を作用させていくと、
$(i^u_a,j^v_b),(i^v_{b+1},j^u_a),(i^u_{a+1},j^v_{b+1}),...$
となる。
あるduality$(\sigma,\tau)$の分解行列がpolarityをもたない
$\Leftrightarrow\sigma\tau$の巡回型$w_1,w_2,...,w_k,...$について、
$(I^u\times J^v)\sqcup(I^v\times J^u)$の分解が、あるpolarity$(\alpha,\alpha^{-1})$の作用で不変であるとき、
$(i^u_a,j^v_b)\in (I^u\times J^v)\sqcup(I^v\times J^u)$をとる。
ある$c,d$が存在して、
$\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
(\alpha(j^v_b),\alpha^{-1}(i^u_a))=(i^v_c,j^u_d) \\
a-b+c-d=1
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}$
よって、ある$\beta_1\in S_{\mathbb{Z}/\abs{I^u}\mathbb{Z} },\beta_2\in S_{\mathbb{Z}/\abs{I^v}\mathbb{Z} }$が存在して、
$\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
(i^v_{\beta_2(b)},j^u_{\beta_1^{-1}(a)})=(i^v_c,j^u_d) \\
a-b+c-d=1
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}$
したがって、
$a-b+\beta_2(b)-\beta_1^{-1}(a)=1\,\,\,(\mathrm{mod}\,\,\,\mathrm{gcd}(\abs{I^u},\abs{I^v}))$
結果をまとめると、次のようになる。
duality分解行列がpolarityをもつとき、
$\abs{I^u}$たちのなす数リスト(正確には、数列)は、二つのリスト
$L_1,L_2$に分解できて、
$L_1$は奇数のみ、$L_2$は最大$2$つの偶数を含む数で構成されていて、$L_2$内の任意の$2$つの数の$\mathrm{gcd}$は、$1$か$2$であり、また、$L_1$の中の任意の数は、$L_2$の中の任意の数と互いに素である。
(※また、逆も成り立つ。条件式は同値変形を行っているためである。)
これを整理し、否定の条件を作る。すると、
$\abs{I^u}$たちのなす数リスト(正確には、数列)は、
以上になります。
読んでいただき、ありがとうございました。