3
現代数学解説
文献あり

【スピン幾何】Rarita-Schwinger場 1 ~定義~

229
0

 Rarita-Schwinger場の定義について勉強したのでノートを書きます。物理と数学の両方の文脈で述べます。なお私のRS場に対する理解は不完全であり、間違いがあるかもしれません(おおよそは合ってるとは思いますが)。RS場は一言で言ってしまえば、捻じれDirac作用素の固有3/2スピノルのことです。

convention

(M,g):n次元擬リーマンスピン多様体
:gから定まるリーマン接続
S:スピン束
S:スピン接続
γi:Clifford代数の既約表現の生成子(γiγj+γjγi=2ηij)
{ei}:o.n.frame
{θi}:o.n.co-frame
Clifford積はeiγi, θiγi
Γ(F):ベクトルバンドルFの滑らかな切断の集合
γijk=γ[iγjγk]
i:=ei
ψ,ϕM:=Mψ,ϕdv(ただし,は適当な内積)
登場する場はコンパクト台を持つかまたはベクトル場の発散の積分が消える程度の性質を持つとする
添え字の上げ下げはηij,ηijで行う

 E:=STMとする。ψΓ(E)は、ψiΓ(S),i=1,,nを用いて、
ψ=ψiθi
と表されます。さらにEにはリーマン接続から自然に接続が定まり、これをEと書くことにすると
iEψ=iSψjθj+ψjiθj=iSψjθj+ψj(Γikjθk)=(iSψjΓijkψk)θj
となるので、iEψj=iSψj+Γijkψkと書くことにします。
また、Γ(E)に作用するねじれDirac作用素を
DEψ:=γiiEψ=γiiEψjθj
と定義します。通常のDirac作用素はDと書きます。

mathematical RS場

 スピン幾何の文脈でのRS場の定義を述べる。まずΠ:Γ(E)Γ(S)
Πψ:=γiψi
とする。このとき、ベクトル束としての直和分解
E=kerΠS
が成り立つ。またPenrose作用素Pは次のように定義される。

作用素P:Γ(S)Γ(E)
P(ψ):=(iSψ+1nγiDψ)θi
Penrose作用素(またはtwistor作用素)と呼ぶ。

 定義からΠPψ=0であるからImPkerΠであることが分かる。よってPの形式的随伴作用素P:kerΠΓ(S)が定義される。

ψkerΠに対して、
Pψ=(E)iψi
である。

ψ=ψiθikerΠ,ϕΓ(S)に対して、
(iϕ+γiDϕ/n)θi,ψjθjM=iSϕ,ψiM+γiDϕ/n,ψiM=ϕ,iSψiMDϕ/n,γiψiM=ϕ,iEψiMMΓjkigjkϕ,ψidv=ϕ,iEψiM

そしてねじれDirac作用素のkerΠへの制限としてRS作用素が定義される。

捻じれDirac作用素の分解とRS作用素の定義

分解E=SkerΠに関して、
DE=(2nnD2P2nPQ)
が成り立つ。ここでPはPenrose作用素、PPの形式的随伴作用素である。QRS作用素と呼ぶ。

証明する前に公式を準備しておきます。

γkjEψk=jSΠψ

Γjkiγk=(jθi)に注意すると
γkjEΨk=γk(jSψkΓjkiψi)=γkjSψk+(jθi)ψi=jSΠψ

捻じれDirac作用素の分解

DE=(ABCQ)
とすると、A=ΠDEΠ, B=ΠDEΠ, C=ΠDEΠである。ここでΠ:Γ(E)kerΠ
Πψ=ψ+1nγiγkψkθi
で与えられる。

(i) A=2nnDの証明
Π1:Γ(S)ϕ1nγiϕθiΓ(E)であるので、
DEΠ1(ϕ)=1nDE(γiϕθi)=1nγjjE(γiϕθi)=1nγjjE(γkϕ)θk
となり、
γjjE(γkϕ)=γj(jS(γkϕ)Γjkiγiϕ)=γj(jek)ϕ+γjγkjSϕγjΓjkiγiϕ=γj(jek)ϕ+γjγkjSϕγj(jek)ϕ=γjγkjSϕ
であるから、
DEΠ1(ϕ)=1nγjγkjSϕθk(1)
が得られる。よって
Aϕ=ΠDEΠ1(ϕ)=1nγkγjjE(γkϕ)=1nγkγjγkjSϕ=1nγkγkγjjSϕ+2nγkδkjjSϕ=Dϕ+2nDϕ=2nnDϕ

(ii)B=2Pの証明
ψkerΠに対して、
ΠDEΠψ=γjγiiEψj=γiγjiEψj2ηijiEψj=γiiSΠψ+2Pψ=2Pψ
となることから従う。ただし3式目の第一項目に補題3を使った。

(iii)C=2nPの証明
(1)より
ΠDEΠ1(ϕ)=1nγjγkjSϕθk+1nγiγk(1nγjγkjSϕ)θi=(1nγjγijSϕ1n2γiγkγjγkjSϕ)θi
であり、
1nγjγijSϕ1n2γiγkγjγkjSϕ=1nγiγjjSϕ+2niSϕ+1n2γiγkγkγjjSϕ+2n2γiγkδkjjSϕ=1nγiγjjSϕ+2niSϕ1nγiγjjSϕ+2n2γiγkkSϕ=2n(iSϕ+1nγiγkkSϕ)
であることから従う。

 これらのことからψΓ(E)kerΠkerPに対して、
DEψ=Qψが成り立つことが分かる。以上の準備の下でRS場を以下のように定義する。

mathematical RS場

ψΓ(E)kerΠkerP
DEψ=Qψ=0
を満たすとき、ψを(mathematical)Rarita-Schwinger場という。

physical RS場

 物理の文脈ではRS場は以下のように定義されます。

physical RS場

ψΓ(E)
γijkjEψk=0
を満たすとき、(physical)Rarita-Schwinger場という。

 なお物理ではψiをMajoranaかWeylスピノルとすることが普通ですがこの記事内ではその条件は無くてもよいので課しません。またphysical RS場のLagrangianは
L=12ψi,γijkjEψk
で与えられます。ここで,はスピン不変内積です。

 γijk=γiγjγk+ηkjγiγjηik+γkηij
となることが簡単に分かるので、
γijkjEψk=(γiγjγk+ηkjγiγjηik+γkηij)jEψk=γiγjγkjEψk+γi(E)jψjγjjEψi+γk(E)iψk
となります。補題3とP,Π,DEの定義より
γijkjEψk=γiγjjSΠψγiPψDEψi+(S)iΠψ
となります。

 さらにLorentz-likeなゲージとしてPψ=(E)iψi=0を取り、拘束条件として、Πψ=γiψi=0を要請することを物理ではよくやります(この処方は次の節で論じる変分法での定式化を考えると妥当なものであることが分かります)。ψkerΠかつPψ=0のとき、DEψ=Qψとなるので結局
γijkjEψk=DEψi=Qψi
となります。従って次の命題が得られました。

ψΓ(E)kerΠkerPがmath RS場であることとphys RS場であることは同値である。

 ついでにQの明示的な表示も分かりました。

Qψ=γijkjEψkθi

変分法での定式化

 (M,g)上でψΓ(E)に対して、作用汎関数
S(ψ)=MReψ,DEψdv
を考えます。この作用汎関数の停留点としてRS場が特徴づけられることを見ます。ψはSpin群の既約表現であると仮定します。すなわちΠψ=0という条件です。

 ψt=ψ+tϕとして変分を行います。Dirac作用素の形式的自己随伴性を使うと
ddtS(ψt)|t=0=12M(Reϕ,DEψ+Reψ,DEϕ)dv=12M(Reϕ,DEψ+ReDEψ,ϕ)dv=MReϕ,DEψdv
となります。よって任意のϕに対してψが停留点を与えるためには
DEψ=0
でなければなりません。

 次に、前の節で導いた
DEψi=Qψi+γiγjjSΠψγiPψ+(S)iΠψ
を使い、Xψ,ϕ=ψ,Xϕに注意すると、
ψ,DEψ=ψ,Qψ+ψi,γiγjjSΠψψi,γiPψ+ψi,(S)iΠψ=ψ,QψΠψ,γjjSΠψ+Πψ,Pψ(S)iψi,Πψ+eiψi,Πψ=ψ,QψΠψ,DΠψ+Πψ,Pψ(E)iψi,Πψ+Γijiψj,Πψ=ψ,QψΠψ,DΠψ+Πψ,Pψ+Pψ,Πψ+divX
となります。ここでX=ψi,Πψeiです。Πψ=0なので、
MReψ,DEψdv=MReψ,Qψdv
となります。このときPψがどのような場であっても作用汎関数の値が変わらないことが分かります。よってS(ψ)の停留点を与えるψの集合はPψΓ(S)の不定性があることになります。そこでPψ=0となる停留点の代表を選ぶことにします。

 以上のことからS(ψ)の停留点を与える場は
DEψ=Qψ=0
を満たすことが分かりました。これはRS場です。

参考文献

[1]
Soma OHNO, Rarita-Schwinger fields on nearly K¨ahler manifolds., https://www.math.sci.hokudai.ac.jp/~wakate/mcyr/2022/pdf/ohno_soma.pdf
[2]
DANIEL Z. FREEDMAN, ANTOINE VAN PROEYEN, Supergravity
[3]
本間 泰史, スピン幾何学:スピノール場の数学
投稿日:20231123
更新日:2023129
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

Submersion
Submersion
98
28577
専門は相対論やLorentz幾何です。Einstein系の厳密解の構成や接触幾何の応用などの研究をしています。Ph.D保有者の中ではクソ雑魚の部類です。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. mathematical RS場
  2. physical RS場
  3. 変分法での定式化
  4. 参考文献