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現代数学解説
文献あり

虚数を用いないと表現できない実数について(casus irreducibilis)

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{c}[0]{\cdot} \newcommand{cc}[0]{{\atop{}\cdots{}}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{FF}[6]{{}_3F_2\left(\begin{matrix}#1,#2,#3\\#4,#5\end{matrix};#6\right)} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{K}[0]{\mathop{\vcenter{\text{\huge K}}}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\mathcal{L}} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[0]{\mathcal{M}} \newcommand{m}[0]{{\atop{}-{}}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{{\atop{}+{}}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では
$$2\cos\frac{2\pi}9=\sqrt[3]{\frac{-1+\sqrt3i}2}+\sqrt[3]{\frac{-1-\sqrt3i}2}$$
のように実数なのに虚数を用いないと表すことができない現象、いわゆるcasus irreducibilisについて解説していきます。

casus irreducibilis

 ラテン語のフレーズであるcasus irreducibilisとは、英語ではirreducible case、日本語では還元不能な場合という意味であり、具体的には三次方程式に関する次のような状況のことを指します。

三次方程式の還元不能性

 よく知られているように三次方程式
$$x^3+px+q=0$$
の解$x=\a_1,\a_2,\a_3$には
$$\a_k=\o^k\sqrt[3]{-\frac q2+\sqrt{\l(\frac q2\r)^2+\l(\frac p3\r)^3}} +\o^{-k}\sqrt[3]{-\frac q2-\sqrt{\l(\frac q2\r)^2+\l(\frac p3\r)^3}}\qquad \l(\o=\frac{-1+\sqrt{-3}}2\r)$$
という公式(カルダノの公式)が成り立つのでした。
 例えばこの方程式の判別式を
\begin{align} D&=(\a_1-\a_2)^2(\a_2-\a_3)^2(\a_3-\a_1)^2\\ &=-4p^3-27q^2 \end{align}
とおいたとき、実数$p,q$に対しその実数解は

  • $D<0$の場合
    $$\a=\sqrt[3]{-\frac q2+\sqrt{\frac{-D}{108}}} +\sqrt[3]{-\frac q2-\sqrt{\frac{-D}{108}}}$$
  • $D=0$の場合
    $$\a=-2\sqrt[3]{\frac q2},\ \sqrt[3]{\frac q2}$$

と求まることがわかります。
 しかし$D>0$の場合が問題であり、このとき方程式の解は$3$つとも実数となるのに対し、カルダノの公式は虚数の立方根を用いた表示しか与えることができません。
 そのことからこの場合のことを還元不能な場合(casus irreducibilis)と言います。

根号が開ける場合

 もちろん上の方程式が適当な意味で可約であるときは立方根を開くことができ、例えば
$$x^3-15x-4=0$$
という方程式に対しては
\begin{align} x &=\sqrt[3]{2+\sqrt{-121}}+\sqrt[3]{2-\sqrt{-121}}\\ &=\sqrt[3]{(2+\sqrt{-1})^3}+\sqrt[3]{(2-\sqrt{-1})^3}\\ &=(2+\sqrt{-1})+(2-\sqrt{-1})\\ &=4 \end{align}
という解が得られます。

根号が開けない場合

 しかし逆に適当な意味で既約であるとき、例えば$x=2\cos(2\pi/9)$の満たす方程式
$$x^3-3x+1=0$$
を考えると、これを解くことで
$$2\cos\frac{2\pi}9=\sqrt[3]{\frac{-1+\sqrt{-3}}2}+\sqrt[3]{\frac{-1-\sqrt{-3}}2}$$
という表示が得られますが(なお立方根の偏角は$|\arg\sqrt[3]z|<\pi/3$となるように定めるものとした)、なんとこの右辺の立方根は開くことができない、つまり虚数を含まない表示を与えることはできないというのです。
 ということで以下ではこのような方程式(の実数解)の還元不能性について解説していこうと思います。

還元不能とは

 まず還元不能とは、つまり「実数なのに虚数を用いないと表せない」とは厳密にどういう状況のことを指すのかを定式化しておきましょう。
 ここで還元不能性に類似する話題として五次以上の方程式に解の公式が存在しないという有名事実(アーベル・ルフィニの定理)があるわけですが、そこでは解の公式の存在とは四則演算と冪根による可解性、つまり次のような状況のことを言うのでした。

冪根拡大

 有限次拡大$L/K$が冪根拡大であるとは
$$K=M_0\subset M_1\subset M_2\subset\cdots\subset M_n=L \qquad(M_{m+1}=M_m(\g_m),\ \g_m^{l_m}\in M_m)$$
という拡大列が存在することを言う。

代数的可解性

 $L/K$を体の拡大とする。
 このとき$\a\in L$$K$上で冪根によって表せる(expressible by radicals)とは、ある冪根拡大$M/K$が存在して$\a\in M$が成り立つことを言う。
 また$K$上の多項式$f$とその分解体$L$について、$f$の任意の根$\a\in L$が冪根によって表せるとき、方程式$f(x)=0$(あるいは多項式$f$)は冪根によって解ける(solvable by radicals)あるいは代数的に解けると言う。

 このことを踏まえると虚数を含まない表示の存在とは次のように定式化することができます。

還元不能

 $K$を実数体$\R$の部分体とする。
 このとき$\a\in\R$$K$上で実冪根(仮訳)によって表せる(expressible by real radicals)とは、ある冪根拡大$M/K$が存在して$M\subset \R$および$\a\in M$が成り立つことを言う。
 また$\a\in\R$が一般の冪根によって表せるのに対し実冪根によっては表せないとき、$\a$還元不能であると言うことにする。

Hölder-Isaacsの定理

 さて冒頭では

  • 判別式が正、つまり解が全て実数
  • 適当な意味で既約

という条件を満たす三次方程式は実冪根によって解けないという話をしましたが、より一般に

  • 虚数解を持たない
  • 適当な意味で既約

という条件を満たす方程式のほとんどは実冪根によって解けないことが知られており、具体的には次のような主張が成り立ちます。

Hölder-Isaacsの定理

 $K$を実数体$\R$の部分体、$f\in K[x]$を虚根を持たない既約多項式、$L$をその最小分解体とする。
 このとき次の$3$条件は同値となる。

  1. $f$のある根が実冪根によって表せる。
  2. $f$の任意の根が実冪根によって表せる。
  3. $[L:K]$$2$の冪である。

 またこの$3$条件の成立/不成立のことを方程式$f(x)=0$(あるいは多項式$f$)は実冪根によって解ける/解けないと言うことにする。

 例えば$[L:K]$$\deg f$で割り切れることに注意すると次のような判定法が得られます。

 定理1の状況において$\deg f$$2$の冪でなければ、方程式$f(x)=0$は実冪根によっては解けない。

 また位数が素数冪の群($p$-群)は可解であることが知られていることから、条件(iii)の同値な言い換えとして次のような主張も成り立ちます。

 定理1の状況において方程式$f(x)=0$が実冪根によって解けることと、ある$\R$内の二次拡大の列
$$M_0=K\subset M_1\subset M_2\subset\cdots\subset M_n\subset \R \qquad(M_m=M_{m-1}(\sqrt{\g_m}),\ \g_m\in M_{m-1})$$
が存在し$L=M_n$が成り立つことは同値である。

 特にこれは実冪根による表現可能性と作図可能性が同値であることを意味しており、中々興味深いですね。

定理名について

 ちなみにCoxCoxによると上の定理はHölder(1891)とIsaacs(1985)によって独立に示されたそうですが、私がHölder(1891)にアクセスできていないのとその表題が

Ueber den Casus Irreducibilis bei der Gleichung dritten Grades
(三次方程式のCasus Irreducibilisについて)

であることもあり、Hölderがどの程度この定理に貢献しているのかが個人的によく分かっていません。
 とりあえずこの記事ではこれをHölder-Isaacsの定理と呼ぶことにしていますが、事と次第によっては単にHölderの定理、あるいはIsaacsの定理と呼ぶべきなのかもしれません(情報求む)。

具体例

 いま実冪根による可解性の判定法もわかったところで(一旦その証明はさておき)、中でも還元不能であるような具体例を$2$つほど紹介していきましょう。

三次方程式の場合

 まずは冒頭でも扱った三次方程式の場合を考えてみましょう。
 この場合は既約な三次多項式$f$について

  • $f$は虚根を持たない$\iff f$の判別式$D$は正である
  • $\deg f=3$は明らかに$2$の冪でない

が成り立つことに注意すると次のような主張が得られます。

 $\R$の部分体$K$上の既約な三次多項式
$$f(x)=ax^3+bx^2+cx+d\qquad(a,b,c,d\in K,\ a\neq0)$$
について、その判別式
$$D=18abcd-4ac^3-27a^2d^2+b^2c^2-4b^3d$$
$D>0$を満たすとき、方程式$f(x)=0$$K$上還元不能である。

 例えばアイゼンシュタインの既約判定法を利用すると次のような方程式の還元不能性がわかります。

 整数$a,b,c$をある素数$p$について
$$p\nmid a,\quad p\mid b,\quad p\mid c,\quad p^2\nmid c$$
および
$$\Big(\frac b{3a}\Big)^3>\l(\frac c{2a}\r)^2$$
を満たすように取ったとき、三次方程式
$$ax^3-bx+c=0$$
の解
$$x=\sqrt[3]{-\frac c{2a}+\sqrt{\l(\frac c{2a}\r)^2-\Big(\frac b{3a}\Big)^3}} +\sqrt[3]{-\frac c{2a}-\sqrt{\l(\frac c{2a}\r)^2-\Big(\frac b{3a}\Big)^3}}$$
は還元不能となる。

 例えば奇素数$p$に対し
$$a=1,\quad b=3p,\quad c=-2p$$
とおいて少し変形することで
$$\a=\sqrt[3]{1+\sqrt{1-p}}+\sqrt[3]{1-\sqrt{1-p}}$$
という実数は還元不能であることがわかる。

三角関数の特殊値

 次に三角関数の特殊値$\cos\frac{2\pi}n$の還元不能性について紹介していきましょう。
 よく知られているように非負整数$n$に対し実円分体$K=\Q(\cos\frac{2\pi}n)$

  • $K/\Q$はアーベル拡大
  • $[K:\Q]=\vp(n)/2\quad$($\vp:$オイラーのトーシェント関数)

という性質を持つので、$\cos\frac{2\pi}n$の最小多項式に対しHölder-Isaacsの定理を適用することで次のような主張が得られます。

 $\vp(n)$$2$の冪であるとき、つまり$n$が相違なるフェルマー素数$p_1,p_2,\ldots,p_l$を用いて
$$n=2^mp_1p_2\cdots p_l$$
と表せる場合を除き$\cos\frac{2\pi}n$は還元不能である。

 ここでフェルマー素数とは$2^k+1$型の素数のことであり、$k$$2$以外の素因数$p$を持つとき$2^k+1$$2^{k/p}+1$で割り切れることに注意すると$2^{2^k}+1$型の素数とも言い換えられます。なお現状フェルマー素数は
$$3,5,17,257,65537$$
$5$つしか知られていません。
 つまり$n$$7$$11$で割り切れる場合や、$9$$25$で割り切れる場合など、数多くの場合において$\cos\frac{2\pi}n$は還元不能となるわけです。

$$6\cos\frac{2\pi}7=\sqrt[3]{\frac{7+21\sqrt{-3}}2}+\sqrt[3]{\frac{7-21\sqrt{-3}}2}-1$$

$$2\cos\frac{2\pi}9=\sqrt[3]{\frac{-1+\sqrt{-3}}2}+\sqrt[3]{\frac{-1-\sqrt{-3}}2}$$
は還元不能である。

$$\cos3^\circ=\cos\frac\pi{60},\quad\sin3^\circ=\cos\frac{29\pi}{60}$$
は実冪根によって表せる、実際
\begin{align} \cos3^\circ&=\frac{\sqrt2-\sqrt6-\sqrt{10}+\sqrt{30}+2\sqrt{5+\sqrt5}+2\sqrt{15+3\sqrt5}}{16}\\ \sin3^\circ&=\frac{-\sqrt2-\sqrt6+\sqrt{10}+\sqrt{30}+2\sqrt{5+\sqrt5}-2\sqrt{15+3\sqrt5}}{16} \end{align}
と求まるのに対し
\begin{align} \cos1^\circ&=\frac{\sqrt[3]{\cos3^\circ+i\sin3^\circ}+\sqrt[3]{\cos3^\circ-i\sin3^\circ}}2\\ \sin1^\circ&=\frac{\sqrt[3]{\cos3^\circ+i\sin3^\circ}-\sqrt[3]{\cos3^\circ-i\sin3^\circ}}{2i}\\ \end{align}
は還元不能である。

 このように巷でしばしば見かける$\cos1^\circ,\sin1^\circ$の厳密値を求めてみた系の言説において、その明示式に
$$\sqrt[3]{\cos\t+i\sin\t}$$
という形の虚数が含まれていることにモヤモヤしていた人もいるかもしれませんが、それは実のところどうしようもないものであったというわけです。

証明

 では最後にHölder-Isaacsの定理の証明を見ていきましょう。
 なお以下の論証ではそこそこ細部を端折っているので、行間が気になる場合はCoxなどを参照してください。

補題

 $K$$\R$の部分体、$p$を素数、$\g$$\g^p\in K$かつ$\g\not\in K$なる実数とする。
 このとき多項式$f(x)=x^p-\g^p$$K$上で既約であり、特に$[K(\g):K]=p$が成り立つ。

 ある$g,h\in K[x]$が存在して
$$f=gh\qquad(1\leq\deg g< p)$$
と因数分解できるとすると(根と係数の関係から)
$$g(0)=\pm\g^{\deg g}$$
が成り立つことになるが、$rp+s\deg g=1$なる整数$r,s$を取ると
$$(\g^p)^rg(0)^s=\pm \g\in K$$
となって矛盾。よって主張を得る。

 $L\subset \R$かつ$[L:K]=p$を奇素数とするようなガロア拡大$L/K$に対し、$L\subset M\subset \R$なる冪根拡大$M/K$は存在しない。

 $L\subset M\subset \R$なる冪根拡大$M/K$が存在したと仮定し
$$K=M_0\subset M_1\subset M_2\subset\cdots\subset M_n=M \qquad(M_{m+1}=M_m(\sqrt[l_m]{\g_m}),\ \g_m\in M_m)$$
なる拡大列を取る。ここで各$l_m$は素数であるものとしてよい。
$$\xymatrix@R=10pt@C=10pt{ &&M_{m+1}\\ &LM_m\ar@{-}[ru]\\ L\ar@{-}[ru]&&M_m\ar@{-}[lu]^p\ar@{-}[uu]_{l_m}&\\ &K\ar@{-}[lu]^p\ar@{-}[ru]}$$
 このとき
$$L\not\subset M_m,\quad L\subset M_{m+1}$$
なる$m$を取ると、推進定理や上の補題から
$$[LM_m:M_m]=p,\quad[M_{m+1}:M_m]=l_m$$
が成り立ち、特に$p,l_m$は素数であったので
$$[M_{m+1}:LM_m]=l_m/p=1$$
つまり$l_m=p$および$M_{m+1}=LM_m$が成り立たなければならない。
 しかし$\z$$1$の原始$p$乗根とすると$LM_m/M_m$の正規性から
$$\z\sqrt[p]{\g_m}\in LM_m\subset\R$$
となって$\z\not\in\R$であることに矛盾。よって主張を得る。

証明

 いま(iii)$\Rightarrow$(ii)については上でも言及した通り$p$-群の可解性からわかり、(ii)$\Rightarrow$(i)については明らかなので、後は(i)$\Rightarrow$(iii)を示せば十分である。
 以下$K,f,L$は定理1と同じ状況、つまり

  • $K$:実数体$\R$の部分体
  • $f$:虚根を持たない$K$上の既約多項式
  • $L$$K$における$f$の最小分解体

とし、また$[L:K]$がある奇素数$p$によって割り切れるものとする。
 このとき以下の補題が成り立つ。

 $f$の任意の根$\a$に対し、ある位数$p$の元$\s\in\Gal(L/K)$であって$\s(\a)\neq\a$を満たすものが存在する。

 位数$p$の元$\s'\in\Gal(L/K)$を任意に取ったとき、ある$f$の根$\b$が存在し$\s'(\b)\neq \b$が成り立つ。
 このとき$\tau(\a)=\b$なる$\tau\in\Gal(L/K)$を取り$\s=\tau^{-1}\s'\tau$とおくと、これは所望の性質を満たすことがわかる。

 これと補題5によって所望の命題が得られる。

 $f$の任意の根は実冪根によって表せない。

 $f$の根$\a$に対し補題のような$\s$を取りその固定体を$K'$とおくと、$[L:K']=p$および$L=K'(\a)$が成り立つので補題5より$K'(\a)\subset M\subset\R$を満たすような冪根拡大$M/K'$は存在しない、つまり$\a$$K'$上ひいては$K$上で実冪根によって表せないことがわかる。

追記:Loewyの定理

 ところでHölder-Isaacsの定理では虚数解を持たない方程式のみを考えていましたが、一般の方程式の場合にも次のような事実を用いることで実冪根による非可解性が判定できるようです。

Loewyの定理

 $K$$\R$の部分体、$f\in K[x]$を既約多項式、$m,n$
$$\deg f=2^mn\qquad(2\nmid n)$$
なる非負整数とする。
 このとき実冪根によって表せるような$f$の根は高々$2^m$個しか存在しない。
 またそのような根が丁度$2^m$個存在するとき、$f$はそれ以外の実根を持たない。

 例えば$m=0$とすると次のような判定法が得られます。

 $\deg f$が奇数であるとき、$f$$2$つ以上の実根を持つならば、$f$の根は全て実冪根によっては表せない。

 なお一般の場合においては実冪根によって表せる実根と表せない実根が混在し得ることにも注意しましょう(当たり前と言えば当たり前ですが)。

(混在する例)

 $\Q$上の既約多項式
$$f(x)=x^6-18x^2-12x-2$$
を考えたとき、これは$\Q(\sqrt2)$において
\begin{align} f(x)&=g_+(x)g_-(x)\\ g_\pm(x)&=x^3\pm\sqrt2(3x+1) \end{align}
と分解でき、またこの$g_\pm$の判別式は
\begin{align} D_\pm &=-4(\pm3\sqrt2)^3-27(\pm\sqrt2)^2\\ &=-54(\pm 4\sqrt2+1) \end{align}
と求まることに注意すると、$f$の根の内訳は次のようになる。

  • ($g_+$由来の)虚根が$2$
  • ($g_+$由来の)実冪根によって表せる根が$1$
  • ($g_-$由来の)還元不能な実根が$3$

証明

 $K$$\R$の部分体、$f\in K[x]$を実冪根によって表せる根$\a$を持つ既約多項式とする。
 このときある冪根拡大$K'/K$が存在して以下が成り立つ。

  • $K'$における$\a$の最小多項式を$g$とおくと、ある$\deg f$の素因数$p$が存在し$\deg g=(\deg f)/p$が成り立つ。
  • $f=gh\quad(h\in K'[x])$と分解したとき
    • $p=2$の場合、$h$$K'$上既約である
    • $p\neq2$の場合、$h$は実根を持たない

 $\a\in L\subset\R$を満たすような冪根拡大$L/K$に対し、各$l_m$が素数であるような拡大列
$$K=M_0\subset M_1\subset M_2\subset\cdots\subset M_n=L \qquad(M_{m+1}=M_m(\sqrt[l_m]{\g_m}),\ \g_m\in M_m)$$
を取り、$f$$M_m$上既約かつ$M_{m+1}$上可約となるような拡大$M_{m+1}/M_m$を改めて
$$M_m=M,\quad M_{m+1}=M(\sqrt[p]\g)$$
とおく($\a\in M(\sqrt[p]\g)$である必要はない)。
 このとき$K'=M(\sqrt[p]\g)$が所望の性質を満たすことを示す。
$$\xymatrix@R=10pt@C=10pt{ &M(\a,\sqrt[p]\g)\\ M(\a)\ar@{-}[ur]&&M(\sqrt[p]\g)\ar@{-}[ul]\\ &M\ar@{-}[ul]_{\deg\,f}\ar@{-}[ur]^p}$$
 いま$\sqrt[p]\g\not\in M(\a)$であるとすると補題4から
$$[M(\a,\sqrt[p]\g),M(\a)]=p$$
ひいては
$$[M(\a,\sqrt[p]\g):M(\sqrt[p]\g)]=\deg f$$
が成り立つことになるが、これは$f$$M(\sqrt[p]\g)$上可約であったことに矛盾。
 したがって$M(\sqrt[p]\g)\subset M(\a)$でなければならず、このとこから$M(\sqrt[p]\g)$における$\a$の最小多項式を
$$g(x)=G(x,\sqrt[p]\g)\qquad(G\in M[x,y])$$
とおくと、$\deg g=(\deg f)/p$および
$$f(x)=\prod^{p-1}_{j=0}G(x,\z^j\sqrt[p]\g)\qquad(\z=e^{2\pi i/p})$$
が成り立つことがわかる。
 このとき$h(x)=\prod^{p-1}_{j=1}G(x,\z^j\sqrt[p]\g)$について

  • $p=2$の場合、$g,h$$M$上で共役なので$g$の既約性から$h$$M(\sqrt\g)$上既約である。
  • $p\neq2$の場合、ある$j\neq0$に対し$G(x,\z^j\sqrt[p]\g)$が実根$\b$を持ったとすると、その複素共役を取ることで$G(x,\z^{p-j}\sqrt[p]\g)$$\b$を根に持つことになるが、これは$f$が重根を持たないことに矛盾。よって$h$は実根を持たない。

という事実が成り立つので、以上により主張を得る。

Loewyの定理(再掲)

 $K$$\R$の部分体、$f\in K[x]$を既約多項式、$m,n$
$$\deg f=2^mn\qquad(2\nmid n)$$
なる非負整数とする。
 このとき実冪根によって表せるような$f$の根は高々$2^m$個しか存在しない。
 またそのような根が丁度$2^m$個存在するとき、$f$はそれ以外の実根を持たない。

 簡単のため$\deg f$の素因数分解
$$\deg f=p_1p_2\cdots p_r$$
($p_i$たちは重複してよい)における素数の個数を$r=\O(f)$とおき、実冪根によって表せるような根の個数・実根の個数をそれぞれ$\rho(f),\s(f)$とおく。
 このとき$\O(f)$に関する数学的帰納法によって

  1. $\rho(f)\leq2^m$
  2. $\rho(f)=2^m\Longrightarrow\s(f)=2^m$

が成り立つことを示す。
 $\O(f)=0$つまり$\deg f=1$のときは明らか。
 いま$\O(f)< r$なる$f$に対し主張が成り立つものとすると、$\O(f)=r,\rho(f)\geq1$なる$f$に対し、上の補題のような冪根拡大$K'/K$および素数$p$と多項式$g,h\in K'[x]$を取ることで

  • $p=2$のとき
    1. $g,h$$K'$上既約かつ$\deg g=\deg h=(\deg f)/2$より帰納法の仮定から($K'$上ひいては$K$上で)$\rho(g),\rho(h)\leq2^{m-1}$が成り立ち、したがって$\rho(f)=\rho(g)+\rho(h)\leq 2^m$を得る。
    2. また$\rho(f)=2^m$であるとき$\rho(g)=\rho(h)=2^{m-1}$となるので、帰納法の仮定から$\s(g)=\s(h)=2^{m-1}$つまり$\s(f)=\s(g)+\s(h)=2^m$を得る。
  • $p\neq2$のとき
    1. $h$は実根を持たず、$g$$K'$上既約かつ$\deg g=(\deg f)/p$を満たすので帰納法の仮定から$\rho(f)=\rho(g)\leq2^m$を得る。
    2. また$\rho(f)=2^m$であるとき$\rho(g)=2^{m-1}$となるので、帰納法の仮定から$\s(f)=\s(g)=2^m$を得る。

のようにして(i),(ii)が成り立つことが示された。

おまけ:実冪根によって解ける方程式

 さて以上ではHölder-Isaacsの定理やLoewyの定理という実冪根による非可解性の判定法について紹介してきましたが、逆にどのような方程式であれば実冪根によって解けるのでしょうか。
 その一つの解答として$\deg f$がフェルマー素数であればHölder-Isaacsの定理「虚根を持たない$\Rightarrow$実冪根によって解けない」の逆が成り立つという、非常に興味深い主張が成り立つようです。つまり$p=3,5,17,257,65537$次の可解かつ既約な方程式は虚根を持つか持たないかによって還元可能か否かが完全に判定できてしまうわけです。

 $K$$\R$の部分体、$p$をフェルマー素数、$f\in K[x]$$p$次多項式であって

  • 既約
  • 虚根を持つ
  • ガロア群が可解

を満たすものとする。
 このとき$f$の実根は全て実冪根によって表せる。またLoewyの定理から$f$の実根はただ一つとなる。

 以下に証明の大まかな流れだけを示しておきます。詳細についてはJensenJensenなどを参照してください。

(概略)

 $f$の最小分解体を$L$とおいたとき、仮定より$G=\Gal(L/K)$は次数$p$の推移的かつ可解な置換群となる。
 ここでそのような群(可解な原始置換群)は位数$p$の正規部分群$P$を持ち、また$G/P$
$$\Aut(P)\simeq\Aut(\F_p)=\{\phi_a:x\mapsto ax\mid a\in\F^\times_p\}\simeq\F_p^\times$$
の部分群に同型となることが知られている。
 また$\z$$1$の原始$p$乗根としたとき$\Gal(K(\z)/K)$$\F_p^\times$の部分群と同型なので、$p$はフェルマー素数としていたことから$|G/P|$および$[K(\z):K]$$2$の冪となることに注意する。
 いま$P$に対応する体を$M$とし
\begin{align} \L^+&=L(\z)\cap\R,&\L&=L(\z)\\ \M^+&=M(\z)\cap\R,&\M&=M(\z) \end{align}
とおく。
$$\xymatrix{ \L^+\ar@{-}[r]^2&\L\\ \M^+\ar@{-}[u]_p\ar@{-}[r]^2&\M\ar@{-}[u]_p}$$
 このときある$\g\in\M^+$が存在して$\L^+=\M^+(\sqrt[p]\g)$が成り立つことが次のような手順によって示せる。

  • $\L/\M$ クンマー拡大 なので、$\L=\M(\sqrt[p]\a)$なる$\a\in\M$が取れる。このとき$\Gal(\L/\M)$$\s(\sqrt[p]\a)=\z\sqrt[p]\a$なる$\s$によって生成される。
  • $\L^+$$f$の実根を含むが虚根は含まないので、$\L^+/\M^+$はガロア拡大ではない。特に$\tau$を複素共役写像とすると$\Gal(\L/\M^+)$$\s,\tau$によって生成される二面体群となる。
  • いま クンマー理論 からある整数$1\leq r< p$$\b\in\M^\times$が存在して
    $$\tau(\a)=\a^r\b^p$$
    が成り立つ。特に$\b$を適当に取り換えることで
    $$\tau(\sqrt[p]\a)=(\sqrt[p]\a)^r\b$$
    が成り立つものとしてよい。
  • このとき
    $$\a=\tau^2(\a)=\a^{r^2}\c(\b^r\tau(\b))^p$$
    より$r^2\equiv1\pmod p$つまり$r=\pm1\pmod p$となるが、$r\equiv-1$とすると
    $$\s\tau(\sqrt[p]\a)=\tau\s(\sqrt[p]\a)=(\sqrt[p]\a)^r\z^{-1}\b$$
    となって$\s,\tau$の非可換性に矛盾。
  • よって$r=1$であり、特に
    $$\g=|\a|^2=\a\tau(\a)=\b^2\g^p$$
    とおくと$\L=\M(\sqrt[p]\g)$および$\L^+=\M^+(\sqrt[p]\g)$が成り立つことがわかる。

 また$\M^+/K$は巡回拡大$M/K,K(\z)/K$の合成$\M/K$の部分拡大なので位数が$2$の冪のアーベル拡大であり、したがって冪根拡大となることに注意すると、$f$の実根は全て冪根拡大$\L^+/K$に含まれることがわかる。

参考文献

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[2]
I. M. Isaacs, Solution of polynomials by real radicals, Amer. Math. Monthly, 1985, 571–575
[3]
David A. Cox, Galois Theory (2nd ed.), John Wiley & Sons, 2012, 220-227
[4]
A. Loewy, Über die Reduktion algebraischer Gleichungen durch Adjunktion insbesondere reeller Radikale, Math. Z., 1922, 261–273
[5]
I. M. Isaacs, D.P. Moulton, Real fields and repeated radical extensions, J. Algebra, 1998, 429-455
[6]
C. U. Jensen, Solvability by Real Radicals and Fermat Primes, Canad. Math. Bull., 2004, 229-236
投稿日:21日前
更新日:15日前
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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