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それにまつわること (1)

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本稿から、数学行為 - すなわち、ヒトが数学をおこなうということ - と、それにまつわるさまざまのことについて、探求をすすめていく。

しかし探求は、すべて「私」の観点から始まり、そして (原理的には) いかなる方法においても「私」の観点を逸脱することは不可能である。したがって、以降の記述の方法について、これらは意図して「主観的なことば」でおこなわれる。

「数学」というオブジェ

いま一度、「数学」という対象が、私にとって、どのような性質をもつように感じられるか - ということを振り返っていく。

  1. 数理世界におけるさまざまな現象の探求を目的とする諸行為とその痕跡のことを指す。
  2. それらの痕跡について、最終的には「記号列への実装可能性」のもとに、その「成否」を機械的に、あるいは普遍的に判定可能である。
  3. 数理世界は、(私にとって、) ある種の「実在性」を伴いながら存在する。数理世界においても、(実世界におけるところと同様に、) ある種の「理 (コトワリ)」が通底し、そのことによって (2. において最終的に「記号列の世界」にその「成否」を委ねたことと対照的に ! ) さまざまな数学的命題を「印象のもとに判断」することができる。
  4. 数理世界の探求の主な手段のひとつに、「適切な定義を確立する」というものがある。適切な定義を確立することによって、言語・身体が拡張され、またそれらに関する新たな理論の構築によって、内的視野 (私にとっての数理世界の在り方) が変化する。その変化のもと、いくつかの (興味深い) 現象へのアクセスが可能、あるいは容易となる。
  5. 興味深い現象・命題にアクセスするためには、(基本的には、)戦略・戦術の立案が求められる。それらについても、「定石」的な身体の使い方というのは在り、場所によっては tedious / straightforward な作業が、場所によっては精密な観察、適切な思索・アイデアが求められる。
  6. 補題・命題群によってしばしば大量のコードとなって現れる数学の「痕跡」であるが、多くの場合 (5. に指摘したことを踏まえれば)「中心的なアイデア」というのはそう多いものではない。「中心的なアイデア」以外の周縁的な部分についての処理は、(訓練を要する部分でもあるが、逆説的にいえば)「一定の訓練によって対処可能」である。
  7. (5., 6. に述べた)「中心的なアイデア」のことを指して、これを「コンセプト」あるいは「概念」とよぶ。概念の習得により、(部分的にではあるが、しかし) 意識としての身体に、質的な変化が生じる - そのような感覚を得る。
some examples ...

さきほどの言及について、初等的な例とともに補足をおこなう。

2., 3., 7. において述べたことは、ある意味では、数学の「もっとも極端な二極性」としても捉えられる。すなわち、(roughly speaking,) 次のように述べることができる:

  • 2.的な観点においては、「数学」は最終的には「記号の連続」に他ならない。そこには一切の解釈・印象をもちこむ必要はなく、あくまでもその「成否」は機械的に判定される。
  • 3., 7.的な観点においては、「数学」は最終的には「概念」とそれに伴う「主観的印象の連続」に他ならない。「印象」のもとに (数学的諸現象に対応する) 諸操作をおこなうことが可能であり、そしてそのような方法によって (のみ ! ) 「所望の地点」にアクセスすることが可能である。

それぞれを敢えて極端にいうなら、以上のように state することができるだろう。一見「矛盾的」なこれらの要請は、しかし、いとも容易く両存することが可能である。この両存について、初等的な例のもとに観察・補足をおこなう。

次のような物理的命題の成否を考えてみよう: 時速 30 km で移動する自動車について、2 時間の経過のもとに進む距離は 60 km である。

この主張について、その妥当性は機械的な計算 (30 km/h × 2 h = 60 km) のもとで確認することが可能である。しかしそれだけでなく、私は「印象」の範疇においても、この命題の「妥当性」を (少なくともある程度) 検証することは可能である。そのプロセスはまさに次のようなものとなる:「時速 30 km」という速さを想像する。そして、その速さで 2 時間動くとき、おおよそ移動できる「相場」のようなものがある - そういったところに心を馳せる。すると、たとえば "100 m 程度しか移動できない" とか "40000 km も移動できてしまった (地球一周 ! )" という事態にはなさそうで、(実生活的経験に沿っていうなら) "他府県に移動する (あるいは例えば、札幌から小樽に移動する) くらいのことはできそうだ" 程度の印象を得る。そのような「帰納的」な方法で、実際に計算をおこなうことなしに、物理的命題の妥当性を (ある程度ではあるが) 検証することが可能となる。

初等的な (かつその評価の正確性についても多くの問題を抱える) 例ではあったが、しかしながら、「根本的な仕組み」自体は共通していることをここで指摘したい。すなわち、ここには「実在性」をもって現れる「世界 (現象の総体)」があり、それは「記号列の操作」によって予言可能なほどの「剛性」を備えるが、しかし私の「身体」は、そのような現象の体系・連続に関してある種の「印象」を抱くことができ、さらに私の身体にはそれらの印象について (印象の範囲において) 演算をおこなう機能がある。そして、(おどろくべきことに、) 印象による演算結果と記号列による計算結果は「合致」する ( ! )。

数学をおこなうさいにおいても同様の構図はあらわれる。しかし、数理世界に呼応する身体感は、(世間的な意味での) 日常的な身体感を伴う必要は必ずしもない …… というところは指摘しておきたい。(もちろん、それらの感覚について、意識的に「日常的な身体感」の語りうる範囲に帰着させる - という努力についても、試みとして重要なことであると私は常々思っている。しかし、当然、それは日常的な身体感 "以外" の身体感覚を排除する理由にはならない。)

日常的な身体感 (位置感覚、大小感覚、形状感覚、形質感覚、あるいは (内的) 物理エンジン ……) や、基本的な数感覚 (1, 2, 3, ... といったオブジェについての感覚) というものは、実際に数学をおこなううえで基本的となる。独自の語法を用いたため補足すると、位置感覚というのはすなわち上下左右というような (大雑把な) 配置に関する感覚のことを指す。形状感覚というのは、(位置感覚とも関連するが、) なにかが「交わっている」とか、なにかが「尖っている」とか、そういった印象のアクセプター (受容器) のことを指す。形質感覚というのは、例えば「硬い」「柔らかい」そういった印象のアクセプターのことを指す。また、物理エンジン的な方法で印象演算をおこなうことも可能である - 熱方程式や波動方程式を「解く」さい、熱や波動の「イメージ」はひとつの (素朴な) 指針となる。

しかし、さらに重要な指摘として、これらに挙げた以外の (素朴な意味でない、抽象的な)「感覚」でありながら、「古典的」な、そして「生活のうちに備える」種類のものが、私には (そしてきっとみなさんにも) 存在する - ということをいいたい。

私は、「意味」「意義」といった、"モノガタリ"-的なオブジェについて、これらを印象として受容できる。また私は、「手続き」「アルゴリズム」といった、"モノガタリ"-的なオブジェについて、これらを印象として受容できる。これは生活のうちに備える機能であり、そして私はしばしば "モノガタリ"-的な印象の演算によって思考し、あるいは生活 (社会行動も含めて ! ) をおこなっている。

さらに補足をおこなえば、前者は物語の質的な側面に焦点をあてたものであり、後者は物語の量的な側面に焦点をあてたものである。そして、これらは言語の使用と関連し、かつ言語の使用によって (少なくともある意味では) 強化される側面がある。そしてどのようなものであるにせよ、日常生活のうちにおいてもこの種類の「抽象的な思考」は無数に出現し、そして無意識的なレベルにおいてこれら「抽象的な印象」の演算をおこない、即時的に行動へ反映するといった芸当すら可能である ( ! )。

すなわちここで指摘したかったことというのは、要約すれば、それほどまでの「高度な」印象演算機構が、ヒトの身体には備わっている - ということである。そしてこの種の印象演算機構は、実際に私が「コンセプト」を取り扱うにあたって、ひとつの基礎をなしている - ということを、ここに明らかにしたい。

次稿においては、「身体感」という key idea のもとに、「学習」「存在」「encoding / decoding」といった現象について、その概観をおこないたい。また探求の過程において、身体というオブジェについて、"数学行為"-的観点のもと改めて再考し、かつ再定式をおこないたい。

投稿日:5月31日
OptHub AI Competition

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semi-mathematician

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