以下の圏と関手が定義されているとする。
局所小圏 $\mathcal{C}$ および $\mathcal{D}$、
薄い圏 $C_A =C(A, f)$ および $C_B = C(B, g)$、
関手 $F: \mathcal{C} \to \mathcal{D}$、
薄い圏への関手 $T_1: \mathcal{C} \to C_A$ および $T_2: \mathcal{D} \to C_B.$
このとき$T=(T_1,T_2)$として、
関手 $T(F): T_1(\mathcal{C}) \to T_2(\mathcal{D})$ を、以下で定める。
対象の対応:$\mathcal{C}$での任意の対象$i$に対して$$T(F)(T_1(i)) := T_2(F(i)).$$
射の対応:$\mathcal{C}$での任意の射 $f:i \to j$に対して
$$T(F)(f_{T_1(i)T_1(j)}):= g_{T_2(F(i))T_2(F(j))}.$$
$T(F)$ が関手となることは、「薄い圏の考察3」における命題1により保証される。また$T(F)$は
$T(F)\circ T_1 = T_2\circ F$
を満たす。
$$ \begin{CD} \mathcal{C} @>F>> \mathcal{D} \\ @V{T_1}VV @VV{T_2}V \\ T_1(\mathcal{C}) @>{T(F)}>> T_2(\mathcal{D}) \end{CD} $$
以下、(この論考の中でしか通じない用語だが)$T(F)$を$T$によって$F$を薄くした関手とよぶ。
例。
局所小圏 $\mathcal{C}$ と $\mathcal{D}$の間に定まる
関手 $F: \mathcal{C} \to \mathcal{D}$に対して
『薄い圏の考察(4)』で定義した括射関手
$P_\mathcal{C}: \mathcal{C} \to P(\mathcal{C})$ および $P_\mathcal{D}: \mathcal{D} \to P(\mathcal{D})$によって
$P=(P_\mathcal{C},P_\mathcal{D})$ と置くと
$P$によって$ F$を薄くした関手$P(F):P(\mathcal{C})\to P(\mathcal{D})$は
$P(F)(i)=F(i),$
$P(F)(hom_\mathcal{C}(i,j))=hom_\mathcal{D}(F(i),F(j)) $を満たす。($i,j\in Ob(\mathcal{C}).$)
特に$\mathcal{D}$が薄い圏のとき「薄い圏の考察(4)」の命題(括射関手 Pの普遍性)より、薄化関手 $F: \mathcal{C} \to \mathcal{D}$ に対し、以下を満たす一意な関手 $\tilde{F}: P(\mathcal{C}) \to \mathcal{D}$ が存在します。
$$F = \tilde{F} \circ \ P_C.$$
このとき各関手の定義域と余域をみると
$P (F) = \tilde{F} \circ \ P_D$ が成立しています。
これらの関係を図にすると、以下のようになります。
$$ \begin{xy} \xymatrix { \mathcal{C} \ar[r]^F \ar[d]_{P_\mathcal{C}} & \mathcal{D} \ar[d]^{P_\mathcal{D}} \\ P(\mathcal{C}) \ar[r]_{P(F)} \ar[ur]^{\tilde{F}} & P(\mathcal{D}) } \end{xy} $$
$T(F)$の一般的な性質を以下述べます。
命題。Fが圏同値ならばT(F)は圏同値。
(証明)「薄い圏の考察3」における補題1より、
Fが圏同値ならば$\mathcal{C}$は強連結。よって$T_1(\mathcal{C})$も強連結。またT(F) は、像への関手として定義されているので本質的に全射。ゆえに補題1よりT(F)は圏同値。(証明終)
注。「薄い圏の考察4」における定理1は、上命題を上例の
「$P$によって$ F$を薄くした関手」に適用したものといえます。
命題。Fが(左)随伴関手ならば、T(F)も(左)随伴関手。
(証明)関手 $F: \mathcal{C} \to \mathcal{D}$ が $G: \mathcal{D} \to \mathcal{C}$ の左随伴関手であるとすると、任意の対象 $c \in \mathrm{Ob}(\mathcal{C})$ に対して、次の2条件を満たすペア $(F(c), \eta_c)$ が存在する。
1.$\eta_c: c \to G(F(c))$ は $\mathcal{C}$ における射である。
2.任意の対象 $d \in \mathrm{Ob}(\mathcal{D})$ と、任意の射 $f: c \to G(d)$ に対して、$\mathcal{D}$ における射 $h: F(c) \to d$ がただ一つ存在して、$f = G(h) \circ \eta_c$ を満たす。
以下、$T'=(T_2,T_1)$と置いたとき$T(F): T_1(\mathcal{C}) \to T_2(\mathcal{D})$ が
$T'(G): T_2(\mathcal{D}) \to T_1(\mathcal{C})$ の左随伴となることを示す。
1.
$T_1(\mathcal{C})$での任意の対象 $T_1(c)$ に対し
$$\bar{\eta}_{T_1(c)} := T_1(\eta_c) : T_1(c) \to T_1(G(F(c)))$$によって $\bar{\eta}_{T_1(c)}$ を定める。
ここで $T_1(G(F(c))) = T'(G)(T_2(F(c))) = T'(G)(T(F)(T_1(c)))$ より
$\bar{\eta}_{T_1(c)}$ は $T_1(\mathcal{C})$ における射 $T_1(c) \to T'(G)(T(F)(T_1(c)))$ となる。
2.
$T_2(\mathcal{D})$ における任意の対象 $T_2(d)$と、任意の射 $\bar{f}: T_1(c) \to T'(G)(T_2(d))$ を考える。
$T_2(\mathcal{D})$ において、射 $\bar{h}: T(F)(T_1(c)) \to T_2(d)$ が一意に存在することを以下示す。
存在性:
仮定より$\mathcal{D}$ において $h: F(c) \to d$ が存在する。これを $T_2$ で送った$T_2(\mathcal{D})$での射$g_{T_2(F(c)), T_2(d)}$ を $\bar{h}$ とする。
可換性:
$T_1(\mathcal{C})$ において、射の合成 $\bar{f}$ と $T'(G)(\bar{h}) \circ \bar{\eta}_{T_1(c)}$ を比較する。
薄い圏の定義により、始点(定義域)と終点(余域)が一致する射は等しい。
両者の始点は $T_1(c)$、終点は $T'(G)(T_2(d))$ で一致するため、
$$\bar{f} = T'(G)(\bar{h}) \circ \bar{\eta}_{T_1(c)}$$
が成立する。
3. 一意性:
$\bar{h}$ の一意性は、$T_2(\mathcal{D})$ が薄い圏であることから直ちに従う。
以上より、誘導関手のペア $(T(F), T'(G))$ は随伴関係 $T(F) \dashv T'(G)$ を満たす。
(証明終)
次に局所小圏 $\mathcal{C}$ および $\mathcal{D}$、
薄い圏 $C_A =C(A, f)$ および $C_B = C(B, g)$、
関手 $F: \mathcal{C} \to \mathcal{D}$
を任意に固定します。
そして$T=(T_1,T_2),T'=(T'_1,T'_2)$として、
Fを薄くしたふたつの関手$T(F)$と$T’(F)$があるとします。
このとき以下が成り立ちます。
命題。$T_2$と$T'_2$が(自然)同型な関手ならば、$ T(F)$と$ T'(F)$は(自然)同型な関手となる。
(証明)$T_2$と$T'_2$が(自然)同型な関手だとすると「薄い圏の考察(3)」の自然同型の項で見たように、
任意のk${ \in }$Ob(${\mathcal D}$)に対して 関手$T_2 $から関手$ T'_2$への(唯一の)自然変換${\tau}$${ _{T_{2}}}$${ _{T'_{2}}}$={${\tau}$${ _k}$=g${_{T_{2}}}$${_(}$${_k}$${_)}$${_{T'_{2}}}$${_(}$${_k}$${_)}$ }${_k}$${ _\in }$${_O}$${_b}$${_(}$${_D}$${_)}$ が存在して、各成分${\tau}$${ _k}$=g${_{T_{2}}}$${_(}$${_k}$${_)}$${_{T'_{2}}}$${_(}$${_k}$${_)}$ が逆射 g${_{T'_{2}}}$${_(}$${_k}$${_)}$${_{T_{2}}}$${_(}$${_k}$${_)}$ を持ちます。
よって任意のi${ \in }$Ob(${\mathcal C}$)に対してk=F(i)とした
{${\tau}$${ _{F(i)}}$=g${_{T_{2}}}$${_(}$${_{F(i)}}$${_)}$${_{T'_{2}}}$${_(}$${_{F(i)}}$${_)}$ }${_i}$${ _\in }$${_O}$${_b}$${_(}$${_C}$${_)}$ が存在して、各成分${\tau}$${ _{F(i)}}$=g${_{T_{2}}}$${_(}$${_{F(i)}}$${_)}$${_{T'_{2}}}$${_(}$${_{F(i)}}$${_)}$ が逆射 g${_{T'_{2}}}$${_(}$${_{F(i)}}$${_)}$${_{T_{2}}}$${_(}$${_{F(i)}}$${_)}$ を持ちます。
これは、$ T(F)$と$ T'(F)$が(自然)同型であることの定義そのものです。(証明終)
次に局所小圏 $\mathcal{C}$ および $\mathcal{D}$、
薄い圏 $C_A =C(A, f)$ および $C_B = C(B, g)$、
関手 $F: \mathcal{C} \to \mathcal{D}$と$F': \mathcal{C} \to \mathcal{D}$
を任意に固定します。
$T=(T_1,T_2)$として、
FとF'を薄くしたふたつの関手T(F)とT’(F)があるとします。
このとき以下が成り立ちます。
命題。FとF'が(自然)同型な関手ならば、$ T(F)$と$ T(F')$は(自然)同型な関手となる。
(証明)FとF'が(自然)同型な関手だとすると
$\mathcal{C}$での任意の対象$i$に対して
$\alpha _i : F(i) \to F'(i)$とその逆射$\alpha' _i : F'(i) \to F(i)$
がとれて、$\mathcal{C}$での任意の射$f:i \to j$に対して
$\alpha _j \circ F(f)=F'(f) \circ \alpha _i $が成立。
ここで
$T(\alpha _i) : T_2(F(i)) \to T_2(F'(i))$ とすると
$T(\alpha' _i) : T_2(F'(i)) \to T_2(F(i))$ はその逆射であり、T_2の関手性より共に存在。また
$T(\alpha _j) \circ T(F(f))=T(F'(f)) \circ T(\alpha _i) $が成立。
これは、$ T(F)$と$ T(F')$が(自然)同型な関手であることを示している。(証明終)
「薄い圏の考察(4)」での$\mathbf {Cat}$ / 〜の議論を踏まえた上で、すべての小圏をあつめた$\mathbf {Cat}$の$T=(T_1,T_2)$による剰余圏$\mathbf {Cat}$ / Tを以下で定義します。$\mathbf {Cat}$ / Tの対象は小圏そのまま、そしてその対象${\mathcal C}$から対象${\mathcal D}$への射を
[F]$^T{_C}$${_D}$:={F' : ${\mathcal C}$→${\mathcal D}$:関手 | T(F')とT(F)は自然同型}で定義します。([F]$^T{_C}$${_D}$が射の定義を満たす証明は、[F]${_C}$${_D}$が射の定義を満たす証明と同様なので略します。)
このとき上命題より以下が言えます。
命題。$\mathbf {Cat}$ / 〜は、任意の薄化関手の組$T=(T_1,T_2)$に対する$\mathbf {Cat}$ / Tの部分圏となる。
(証明)上命題より$\mathbf {Cat}$ / 〜の射の集まりが$\mathbf {Cat}$ / Tの射の集まりに包含されるため「$\mathbf {Cat}$ / 〜は$\mathbf {Cat}$ / Tの部分圏である」と言えます。(証明終)
同じく「薄い圏の考察(4)」での$\mathbf {Cat}$ / Pの議論を踏まえると、以下の命題が成り立ちます。
命題。任意の薄化関手の組$T=(T_1,T_2)$に対して、$\mathbf {Cat}$ / Tは$\mathbf {Cat}$ / Pの部分圏となる。
(証明)$\mathbf {Cat}$ / Pにおける射の集まり[F]$^P{_C}$${_D}$は、${\mathcal C}$から${\mathcal D}$へのすべての関手を集めた集合Fct(${\mathcal C},{\mathcal D}$)なので、任意の$T=(T_1,T_2)$に対して$\mathbf {Cat}$ / Tにおける射の集まりは[F]$^P{_C}$${_D}$に包含される。よって$\mathbf {Cat}$ / 〜は$\mathbf {Cat}$ / Pの部分圏となる。(証明終)
さらに
命題。ふたつの薄化関手の組$T=(T_1,T_2)$と$T'=(T'_1,T'_2)$が任意の小圏${\mathcal D}$に対して充満関手$T'_2({\mathcal D})\to T_2({\mathcal D})$を持つとき、$\mathbf {Cat}$ / Tは$\mathbf {Cat}$ / T'の部分圏となる。
(証明)
T(F')とT(F)が自然同型となるF' : ${\mathcal C}$→${\mathcal D}$:関手をとると、$\mathcal{C}$での任意の対象$i$と$\mathcal{C}$での任意の射$f:i \to j$に対して
$T(\alpha _i) : T_2(F(i)) \to T_2(F'(i))$とその逆射
$T(\alpha' _i) : T_2(F'(i)) \to T_2(F(i))$ が存在。
このとき仮定より$\mathcal{C}$での任意の対象iに対して$T'(\alpha _i) : T'_2(F(i)) \to T'_2(F'(i))$とその逆射
$T'(\alpha' _i) : T'_2(F'(i)) \to T'_2(F(i))$$T(\alpha _i)$が存在。「薄い圏の考察3」でみたように薄い圏での自然変換は各成分とその逆射が存在すれば、一意に定まる。よってT'(F')とT'(F)は自然同型となる。
$\mathbf {Cat}$ / Tの射のあつまりが$\mathbf {Cat}$ / T'の射のあつまりに含まれることになるので、$\mathbf {Cat}$ / Tは$\mathbf {Cat}$ / T'の部分圏となる。
(証明終)