# PARI/GP
$\hspace{2pt}$[PARI/GP](http://pari.math.u-bordeaux.fr/)とは，数論に特化した計算機代数アプリケーションです．**完全無料**です．その他数式処理システムの一覧がWikipediaにまとめられています．→[コチラ](https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%B0%E5%BC%8F%E5%87%A6%E7%90%86%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7)
PARI/GPを説明した文献はネットで調べるといろいろ見つかりました．今回は，まだど素人ながら自分が使うことがあるコマンドなどを紹介しつつ，いくつか具体的に数値実験をしたいと思います．

始め方：青文字に入れたリンク先で "GP in your browser" をクリックします．
マニュアル："Documentation" をクリックすると User's Guide を PDF 形式でダウンロードするページに移ります．英語ですが，たぶん全ての機能が説明されていると思います．

# lindep関数
$\hspace{2pt}$今回猛威を振るうのがlindep関数です．これは複数個の数値の線形和が 0 になる（あるいは近似できる）係数の組を出力します．
実際のコマンドは，r 個の数値を比較する場合，"lindep([i1,i2,...,ir])" と入植すれば，r 個の整数の組 "[o1,o2,...,or]~" が出力されます．
具体例で見ていきますので，詳しくはそちらを見てください．また，その他必要な細かい操作方法や記法についてなどを「コマンドまとめ」で改めて少し説明しているつもりですので必要であればそちらを見てくだされば，と思います．

# 具体例１　級数
$\hspace{2pt}$次の等式が成り立つらしいです．ソースはありません．

> <div align="center">$\BA\D\\
\zeta(2)=\frac{5}{3}\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^n}{(2n+1)^2}\frac{\binom{2n}{n}^2}{\binom{3n+1}{n}\binom{6n+1}{3n}}-\sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n-1}}{(2n)^2}\frac{\binom{2n}{n}^2}{\binom{3n}{n}\binom{6n}{3n}}
\EA$</div>　

これを数値で見ていきます．無限級数を計算するのはsumalt関数です．コマンドは "sumalt(n=a,f(n))" で$\D\sum_{n=a}^\infty f(n)$を表します．リーマンゼータ関数は "zeta(x)" です．
では精度を高めつつ実際に数値を見ていきます．

	? \p300
	   realprecision = 308 significant digits (300 digits displayed)
	? B(x,y)=x!/((x-y)!*y!) %2 = (x,y)->x!/((x-y)!*y!)
	? A=sumalt(n=1,(-1)^(n-1)/(2*n)^2*B(2*n,n)^2/(B(3*n,n)*B(6*n,3*n)))
	%3 = 0.0165069937265260166676913437968416377675540126881728385374890903187901826225326669644032884891609429020281857824156775146802567001136858734676123528440741379439409947492965160087696240702377038183569546337224613912692692996316598411617397400149051841712195780928871324056100093586452554123651029121737
	? B=sumalt(n=0,(-1)^n/(2*n+1)^2*B(2*n,n)^2/(B(3*n+1,n)*B(6*n+1,3*n)))
	%4 = 0.996864636344851471884063906265720096191902348336982765763828391813278591815440124478819313465351788923619502846851720916585388832271216196841629179504964248865404582470235472662412378565426655169101108057167693328728218731683449778223221785390968936560901088107291484274347892942190460874086172183199
	? lindep([zeta(2),A,B])
	%5 = [-3, -3, 5]~

$\hspace{2pt}$上記をざっくり説明すると，

$\hspace{20pt}$１．精度を300桁にして
$\hspace{20pt}$２．関数 B(x,y) を定義して$\qquad\D\small B(x,y)=\binom{x}{y}$
$\hspace{20pt}$３．定数 A を定義して$\qquad\D\small A=\sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n-1}}{(2n)^2}\frac{\binom{2n}{n}^2}{\binom{3n}{n}\binom{6n}{3n}}$
$\hspace{20pt}$４．定数 B を定義して$\qquad\D\small B=\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^{n}}{(2n+1)^2}\frac{\binom{2n}{n}^2}{\binom{3n+1}{n}\binom{6n+1}{3n}}$
$\hspace{20pt}$５．ζ(2) と A と B のあいだに成り立つ線形関係を調べています．

ということで，結果を見ると，

<div align="center">$\BA\D\\
-3\zeta(2)-3A+5B=0
\EA$</div>

を示唆していることがわかります．また，こういう式はだいたい weight を１上げたものも成り立つと思います．なので$\zeta(3)$の場合はどうなるかも調べてみます．

	? \p300
	   realprecision = 308 significant digits (300 digits displayed)
	? B(x,y)=x!/((x-y)!*y!)
	%2 = (x,y)->x!/((x-y)!*y!)
	? C=sumalt(n=1,(-1)^(n-1)/(2*n)^3*B(2*n,n)^2/(B(3*n,n)*B(6*n,3*n)))
	%3 = 0.00829319533331464343025861754414363981361156213223294552475033315238564646326796460009190579067969346408578036836708702147502921058709882869816135554142615132391631560916655672716392607297744976003823399042811643637263159348554128414055681993736245647846645744959400137647769392005565737941547789307612
	? D=sumalt(n=0,(-1)^n/(2*n+1)^3*B(2*n,n)^2/(B(3*n+1,n)*B(6*n+1,3*n)))
	%4 = 0.998949687521890356689695595411493779032951389573004752985309518400736622667504920288682592744219483967137371373261570508251653595365369735247610245826108084103646047254744536690271670910876261949955225261244047263841702619642748448019746397608975227830524045108286251241030379165637783808808994820359
	? lindep([zeta(3),C,D])
	%5 = [-5, 2, 6]~

よって

<div align="center">$\BA\D\\
\zeta(3)=\frac{6}{5}\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^n}{(2n+1)^3}\frac{\binom{2n}{n}^2}{\binom{3n+1}{n}\binom{6n+1}{3n}}+\frac{2}{5}\sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n-1}}{(2n)^3}\frac{\binom{2n}{n}^2}{\binom{3n}{n}\binom{6n}{3n}}
\EA$</div>

が示唆されます．

# 具体例２　積分
$\hspace{2pt}$$\D\small A(n)=\int_0^1 x^{n}K(x)^3\,dx$が満たす関係式を推測してみます．

	? \p300
	   realprecision = 308 significant digits (300 digits displayed)
	? A(n)=intnum(x=0,1,x^n*ellK(x)^3)
	%2 = (n)->intnum(x=0,1,x^n*ellK(x)^3)
	? lindep([1,A(1),A(2),A(3),A(4)])
	%3 = [-6, 3, -24, -3, 32]~

よって

<div align="center">$\BA\D\\
6=\int_0^1 \L(3x-24x^2-3x^3+32x^4\R)K(x)^3\,dx
\EA$</div>

が示唆されます．また

	? lindep([1,A(0),A(2),A(3)])
	%4 = [40462627399388164979667084211237329560988917182468548839688868, 8268517657214823814327646813519973436533702696040845979454905, -19685943005043431702011820158413828824175158116726882376426508, -7512784216910945213987521125163993888066845842780189281850876]~

となります．

# コマンドまとめ
$\hspace{2pt}$以下にコマンドの一部を具体例とともに自分なりにまとめていますが，初等数論などは全く関知しないので，内容に非常に偏りがあると思います．その方面で利用したならネットで調べるか公式のマニュアルを見ることが推奨されると思います．
## 実行
$\hspace{2pt}$出力する場合は "Shift + Enter"．
## 精度
$\hspace{2pt}$精度を設定する場合は，"\p200" など入力します．この場合は200桁の精度で計算してくれます．たぶん．同じ計算でも数字が大きいほど精度は高いですが，その分計算時間が伸びます．

	? \p50
	   realprecision = 57 significant digits (50 digits displayed)
	? sin(1)
	%2 = 0.84147098480789650665250232163029899962256306079837
	? \p100
	   realprecision = 105 significant digits (100 digits displayed)
	? sin(1)
	%4 = 0.8414709848078965066525023216302989996225630607983710656727517099919104043912396689486397435430526959

## 定義
$\hspace{2pt}$$x,y,\cdots$についての関数$f(x)$を定義する場合，そのまま$f(x,y\,\cdots)=$のように入力すればよいです．積分の被積分関数や級数の被加数に変数を含めることもできます．
また，変数に代入したものを計算することもできます．

	? f(x,y)=x^2+x*y+y^2
	%1 = (x,y)->x^2+x*y+y^2
	? f(5,-3/4)
	%2 = 349/16

**$\Large ⚠$**掛け算は必ず "$\ast$" を挟みます．括弧どうしのあいだにもです．でないとエラーメッセージが出力されます．
$\hspace{2pt}$また，単なる数値を文字で定義し，その文字で利用することもできます．

	? A=f(-2/3,7)
	%3 = 403/9
	? A^2-4/7
	%4 = 1136539/567

## 代入
$\hspace{2pt}$変数 x に a，y に b を代入する場合は，頭に "x=a;y=b;" を付けます．

	? x=3;y=2;x^2+x*y+y^2
	%1 = 19

## 積分（定積分）
$\hspace{2pt}$定積分の場合は簡単ですが，マニュアルを読む限り積分範囲が無限大の場合は少し面倒になるんじゃないかと思います．今のところ定積分しか使っていませんし，それ以外のことはわかりません．積分だけでもいろいろな関数があるみたいですが，自分は intnum のみ使っています．"intnum(x=a,b,f(x))" で$\D\int_a^b f(x)\,dx$を表します．

	? intnum(x=0,1,sin(x)*exp(-x^2))
	%1 = 0.2946981822491216814642809324

## 級数
### 有限級数
$\hspace{2pt}$コマンドは "sum(n=a,b,f(n),0.)" で，$\D\sum_{n=a}^b f(n)$を表します．f(n) の後に必ず ",0." を入れる必要があります．なぜかはわかりません．

	? sum(n=5,100,(2*n^2+n+1)/(3*n^4+2*n-5),0.)
	%1 = 0.1500594253141269841374526226

### 無限級数
$\hspace{2pt}$コマンドは "sumalt(n=a,f(n))" で，$\D\sum_{n=a}^\infty f(n)$を表します．

	? sumalt(n=0,1/(n+1/3)^3)
	%2 = 27.56041099023623308539238521

## lindep関数
$\hspace{2pt}$複数個の数値の線形和が 0 になる（あるいは近似できる）係数の組が出力されます．コマンドは "lindep([a1,a2,...,ar])" です．

	? lindep([zetamult([4,1]),zetamult([2,2,1]),zetamult([2,1,1,1])])
	%1 = [-6, -2, 1]~
	? lindep([zetamult([4,1]),zetamult([2,2,1])])
	%2 = [82645289866, -34873846153]~

## 数学定数など
虚数単位：I（大文字のアイ）
円周率：Pi
オイラー定数$\gamma$：Euler
カタランの定数：Catalan
$\hspace{2pt}$

## 特殊関数
$\hspace{2pt}$"x" は変数です．
三角関数：sin(x)，asin(x)，sinh(x)，asinh(x)　など
リーマンゼータ関数：zeta(x)
多重ゼータ関数：zetamult([a1,a2,...,ar])　　**$\Large ⚠$**和をとる順番は右→左の向きです
ガンマ関数：gamma(x)
階乗：x!
第一種完全楕円積分：ellK(x)
超幾何級数：hypergeom([a1,a2,...,ap], [b1,b2,...,bq], z)
第一種ルジャンドル多項式：pollegendre(n,x)

## 出力結果の利用
$\hspace{2pt}$何かしらの出力結果が "%数字" である場合，それをそのまま用いることができます．

	? 3*(-5)+intnum(x=0,1,1/(1+x^3))-sumalt(n=1,exp(-n^2))
	%1 = -14.55066975414860502317852182
	? %1^2+sin(%1)
	%2 = 210.8062713489493710376032911

## 有理数近似
$\hspace{2pt}$出力結果は分数ではない数値の場合，それを分数になおすあるいは近似するときは "bestappr" を使います．

	? intnum(x=0,1,x^2)
	%1 = 0.3333333333333333333333333333
	? bestappr(%1)
	%2 = 1/3