この記事では, 楕円超幾何級数の導入までを行う. 楕円超幾何級数を定義するために, まず楕円Pochhammer記号を導入する. として,
と定義する. はの関数としては本質的にテータ関数である. 楕円Pochhammer記号を以下のように定義する.
楕円Pochhammer記号
に対し,
とする. また, に対し,
とする. そして, と表す.
通常の-Pochhammer記号はとなるが, 楕円Pochhammer記号においては一般に極限
が存在しないことに注意する必要がある. 楕円超幾何級数を扱う上で, まず楕円Pochhammer記号の扱えるようにしておくことが必要である. まず, は以下の等式を満たす.
上2つは定義から直ちに従う. 最後の等式は
と示される.
次に, 楕円Pochhammer記号の性質を示す.
1つ目は-Pochhammer記号の場合と全く同様なので省略する. 2つ目は
となって示される. 3つ目はの場合に示せば十分であり, そのとき,
となるから2つ目の等式に帰着する. 4つ目の等式は1つ目と3つ目から出る. 5つ目以降の等式はのとき,
と示される. 3つ目の等式と表せればの場合も示される.
これらの等式は-Pochhammer記号が満たすものと全く同じ形である. 次に楕円超幾何級数を定義する.
楕円超幾何級数は無限和の場合, 収束性の問題があるので, 基本的に有限和の場合が扱われる. のうちのどれか一つが非負整数を用いてと書けるとき, この楕円超幾何級数はterminatingであるといい, そのとき有限和になる. 上の定義は, very-well-poisedな超幾何級数の拡張である. Very-well-poisedでない楕円超幾何級数も考えられてはいるが, 楕円超幾何級数における最も基本的な公式であるFrenkel-Turaevの和公式がvery-well-poisedであるということもあって, 楕円類似は最初からvery-well-poisedで考えるのが良さそうである.