2

蛇の補題 with 位相

235
1

あけましておめでとうございます(激遅)

今年(2025)は巳年(へびどし)ということで、蛇の補題を証明していきたいと思います!
...が、普通の蛇の補題はみなさんご存じですよね...なので今回は位相群における蛇の補題を証明していきたいと思います!

前提知識

像と逆像の性質と計算
アーベル群上の蛇の補題とその証明
商位相と部分位相の性質

準備

今回は位相が入ったアーベル群にも蛇の補題が成り立つことを示していきたいと思います。
その前に蛇の補題を述べるのに使う対象の定義の準備から入りたいと思います

M,Mを可換な位相群とし、f:MMを連続準同型写像とする。
(1)KerfKerfMの部分位相を入れたものとする
(2)CokerfMCoKerfの商位相とする

つまり、例えば(1)というのはOKerf:={UKerf|UOM}Kerf:=(Kerf,OKerf)ということです

包含写像と商写像

f:MMを連続準同型写像とする
(1)核の包含写像をif:KerfMとする
(2)余核への商写像をπf:MCokerfとする

M,M,Mを可換な位相群とする。
MfMgM
f,gが連続な準同型写像で、Im f=Ker gとなるときMで完全と呼ぶ
また全てのMで完全な時、完全列と呼ぶ

ImfKerfの位相が同相である必要はありません
あくまで群としてIm f=Ker gであればOKです

本題

蛇の補題 with 位相

A,B,C,A,B,Cを可換な位相群とし
AfaBgbCc00AfBgC
が上の行と下の行が完全で可換図式になりfを閉写像 gを開写像 図式の全ての写像を連続とする。このとき蛇の補題により誘導される長完全列
Kerad1Kerbd2KercδCokeraq1Cokerbq2Cokerc
は全て連続写像になる

d1,d2(i)q1,q2(ii)δ(iii)で証明します
(i)
Kerbは部分位相なのでd1が連続であることとibd1が連続であることは同値。またibd1=fiaでありf,iaは連続なのでd1は連続。d2も同様に示せる
(ii)
Cokeraは商位相なのでq1が連続であることとq1πaが連続であることは同値。またq1πa=πbff,coker aは連続なのでq1は連続。q2も同様に示せる
(iii)
δの構成からxKercに対してπa(f1(b(g1(ic({x})))))={δ(x)}なので0UCoker aとすると
δ1(U)
(δの構成と逆像の定義より)

={xKer c|πa(f1(b(g1(ic({x})))))U}
(πa(πa1(X))XXπa1(πa(X))より)

={xKer c|f1(b(g1(ic({x}))))πa1(U)}
(fの単射性とb(g1(ic({x})))Im fより)

={xKer c|b(g1(ic({x})))f(πa1(U))}
(Xb1(b(X))b(b1(X))Xより)

={xKer c|g1(ic({x}))b1(f(πa1(U)))}
(gの全射性とKer g=Im fb1(f(πa1({0}))より)

={xKer c|ic({x})g(b1(f(πa1(U))))}
(Xic1(ic(X))ic(ic1(X))Xより)

={xKer c|{x}ic1(g(b1(f(πa1(U)))))}
(像と逆像の定義より)

=ic1(g(b1(f(πa1(U)))))
となる
δは位相群上の準同型写像なので連続性は0を含む開集合の逆像が開集合である事を示せばよい
UCokera0を含む開集合とするとπa1(U)は開集合なのでAπa1(U)は閉集合。fは閉写像なので
f(Aπa1(U))
は閉集合でありfは単射でもあるので
f(A)f(πa1(U))
も閉集合。またbも連続なので
b1(f(A)f(πa1(U)))
=b1(f(A))b1(f(πa1(U)))
は閉集合。またb1(f(πa1(U)))b1(f(A))なので
B(b1(f(A))b1(f(πa1(U))))
=(Bb1(f(A)))b1(f(πa1(U)))
は開集合である。またgは開写像より
g((Bb1(f(A)))b1(f(πa1(U))))
=g(Bb1(f(A)))g(b1(f(πa1(U))))
は開集合となりicの連続性から
ic1(g(Bb1(f(A))))ic1(g(b1(f(πa1(U)))))
=ic1(g(Bb1(f(A))))δ1(U)
は開集合となる。
xg1(Bb1(f(A)))を取るとgは全射よりあるyBb1(f(A))が存在してg(y)=xなので
b(y)b(Bb1(f(A)))=Im bf(A)Bf(A)
となりB'は完全より
f(A)=Im f=Ker g=g1({0})
なので
c(x)=c(g(y))=g(b(y))g(B g1({0}))=g(B){0}C{0}
よってc(x)0なのでxKer cとわかり
g1(Bb1(f(A)))Ker c=
であるから
ic1(g(Bb1(f(A))))δ1(U)
=(g(Bb1(f(A)))Ker c)δ1(U)
=δ1(U)
は開集合であることがわかり、δは連続

おまけ

上の証明で使った、定理とか行間の証明を載せておきます

X,Y,Zを位相空間とし、i:YZを埋め込み写像、f:XYを写像とすると以下が成り立つ
fが連続⇔ifが連続

X,Y,Zを位相空間とし、π:XYを商写像、f:YZを写像とすると以下が成り立つ

fが連続⇔fπが連続

f:XYを写像とし、U1,U2X , V1,V2Yとすると、像逆像について以下が成り立つ
f(U1U2)=f(U1)f(U2)
f(U1U2)f(U1)f(U2)
f1(V1V2)=f1(V1)f1(V2)
f1(V1V2)=f1(V1)f1(V2)
U1f1(f(U1)) (単射なら統合が成立)
f(f1(U1))U1 (全射なら統合が成立)
f1(V1V2)=f1(V1)f1(V2)
f(U1f1(V1))=f(U1)V1

蛇の補題

A,B,C,A,B,Cをアーベル群とし
AfaBgbCc00AfBgC
が上の行と下の行が完全列になるような可換図式とする。このとき長完全列
Ker ad1Ker bd2Ker cδCoker aq1Coker bq2Coker c
が誘導され完全列になる

行間

(1) b(g1(ic({x})))Im f
(2) Im fb1(f(πa1({0}))
(3) HBの部分群 SB Ker gH g1(g(SH))=SH

(1)
蛇の補題の証明を参照してください()
(2)
xIm fとすると、あるtAが存在して、f(t)=xとなる。πa(a(t))=0なので
a(t)πa1({0})となりf(a(t))f(πa1({0}))で図式の可換性から
b(f(t))f(πa1({0}))よってx=f(t)b1(f(πa1({0})))
(3)
g1(g(SH))=SHKer g=SH

おわりに

ご拝読いただきありがとうございました!
元々新年に乗せるつもりでしたが証明が埋まらずこんなにかかってしまいました。(振り返ると、大まかな方針自体はシンプルだったのでもっと早く出したかったです...)

証明を見るとわかるのですが、実は全く群の交換法則を使っていないので蛇の補題が成り立つ代数系であれば同じ議論が回せます!
是非とも証明に挑戦してみてください

来年は午年(うまどし)なので「次は馬に関する記事を書こうかなぁ」と思って調べたら、馬蹄形写像(力学系のお話)と競馬(主に確立のお話)しかヒットせず絶望したので、来年はもう干支の記事を書きません()
もし他に馬に関する命題があった場合は教えていただけると喜びます!

あらためましてご拝読ありがとうございました!
今年もよろしくお願いします(激遅)

投稿日:523
更新日:525
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

大学2年生になってしまいました。解析的整数論とホモロジー代数に興味があります。抜けが多い性格なので、絶対に誤植,計算ミスがあります💦よろしくお願いします。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. あけましておめでとうございます(激遅)
  2. 準備
  3. 本題
  4. おまけ
  5. おわりに