有限決定性〜Finite Determinacy〜
お、お客さん。また来て下すったんですかい
いや〜、最近はお客さん少なくなっちゃってねェ...来てくれて嬉しいですよ俺ゃ
そりゃね、店開いた時は繁盛したんだけどねェ...
あっ、ははは、そんな大将なんて呼ばねェで下さいよ。古びた店のおっちゃんなモンで。シンさんって呼んでくださいよ
あ、これ。サービスです、良ければ召し上がってくだせェ
じゃァ、サービスついでに俺ん話を聞いてやってください
『有限決定性〜Finite Determinacy〜』
ジェットって聞いたことあります?
は収束冪級数なので、項が無限に連なります.では,に微分同相(これも冪級数)を合成してください!ってなったら、永遠に計算し続けないといけなくなります.なので、途中で作業を放棄止めるということを考えます.
-ジェット
とする.
非負整数に対して,:自然な射影を考える.
:の-ジェット(-th jet)という.
は次の単項式で生成されるイデアルでした.というのはをと見なそうね!という意味なので,つまりはの次以上の項は切り捨てよう!ということになります.ランダウの記号を勉強した人はピンと来るかもしれません.
さて,関数のジェットを扱いましたね.写像のジェットも定義しましょう.
の部分加群をとします.
写像のジェット
- :-ジェット空間(-th jet space)
- :自然な射影
- :-ジェット(-th jet)
は体上の商ベクトル空間と思えます.基底は:次以下の単項式全体となります.
はの元ではないが,「の次以上の項を消しただけ」という意味でがに含まれるとすることがある(言葉の濫用みたいなもの)(卒研のテキストで暗にコレされて最初「は?」ってなった)(多分そういう慣習があるんだと思う)
の-ジェットはの近似として納得できると思います.またを大きくすれば大きくするほど,良い近似になることもわかると思います.
有限決定
さて,みなさんの中にはモヤモヤしている人もいるかもしれません.
え、それやっちゃっていいの?
ごもっともです。しかし私だってぐうの音は出ます!
気になる点を挙げると以下のよう。
- 途中で切っちゃっていいの?
- どこまできっちゃっていいの?
確かにジェットすることによって,,-同値性が崩れてしまっては研究が台無しですしね!!
-有限決定
とする.
- :--決定(--determined)任意のなるについて,
- :-有限決定(-finitely determined)s.t.:-決定
先ほどの質問を整理したような定義ですね。
「途中で切って同じなら,切る前のモノも-同値.つまり切っても全然問題ない!!」っていうのが有限決定です.
どこまで切り取ってもOKか?という疑問の答えは-決定のになるわけです.こののうち最小のものをオーダーといい,で表します.
じゃあ全部有限決定なの?という疑問ももちろん生まれます.
結果から言うと,有限決定なものもあるし,そうじゃないのもあります.
じゃあその判定法は?
まず、簡単のためとします。
その前に復習と準備
part2で接空間について説明したのは覚えているでしょうか?
またと同様に考えることで,群作用が考えられます.特にこのは上の微分同相全体です.ここでなので,-ジェットを考えることができます.
とします.簡単のためを省くこともあります.
:自然な射影とする.:-決定ゆえ
(の元はであるので,-決定性から)
この式のにおける接空間を両辺に取る.
(これは左辺がの次部分を表し,右辺が-軌道の-ジェットの接空間になります)
この不等式からが得られるので,中山の補題から
この補題で-決定の大枠がやっと見えてくる訳です.
そもそも接空間はの同値な微小変形なので,(切り取るという変形の意味する)を含めば、そりゃ切り取る前も-同値なものができそうだよな〜というのが私の中での落とし所です
"強い"ってなんなんだよ!!というクレームが入る前に定義を挟みましょう.
ただし,
"強い"-決定
が"強い"-決定であるとは,
内ののザリスキ近傍が存在して,を満たす任意のがと-同値であること
"強い"-決定ならば-決定
さらに-決定ならば"強い"-決定
- を"強い"-決定とする.なるをとると,ゆえ,
- を-決定とする.
とすると,はゆえ,
この命題から"強い"たる由縁が伺えます.実はこの"強い"ヤツがめちゃめちゃ大事なんです!!(っていうのは定理3をみれば明らか)
定理3を用いれば有限決定かどうか分かる上に、オーダーすら分かりうるわけです!!
(ちなみに私の使用してるテキストには"strongly -th determinant"って書いているのですが,和訳は知らないので"強い"って呼んでます)
しかし、この定理を証明なのですが、、、すみません!!!複素の場合だけしか示しません!!理由はちょっと面白い補題を使うからです.ただ多少遠回し感が否めませんが、、、
Artinの近似定理
を方程式系(ただし)の形式的冪級数としての解とする.
このとき,任意の正整数に対して収束冪級としてのの解が存在して,を満たす
個の方程式に形式的な解があれば,収束的に出来るっていう定理です!!そもそも収束と形式の違いがわからなければ嬉しくないですよね...私がこの手であなたを嬉しくして差し上げます!!
(誤解を恐れずにいうと)形式的冪級数は"グラフ的に"意味を持つとは限りません.収束冪級数環はTaylor展開された関数全体と考えると"グラフ的に"意味ありますよね.具体例を見て形式的と収束的の差を実感しましょう!
という形式的冪級数はダランベールの判定法からから収束半径は0であるので,どんな原点近傍でも収束しない.
こういうのが収束的でないですよね
実は私はちゃんと幾何的な意味を大事に(しろと先生にいわれ)ながら生きてる数学徒なのでこういう定理は本当に大事なんです.
証明は次回やります
準備だけで結構大変ですよね.疲れちゃいました...
まとめ
- ジェットを使えば"有限的に"写像を調べられる
- 有限決定を仮定すれば(ある程度)デカい項は切り取ってもOK
- 切り取ってもいい限度がオーダー
- 決定より強いのが"強い"決定
- 証明には「Artinの近似定理」を用いる
お客さん、今日はありがとうございましたァ!!また、来てくださいねェ
次回「証明《ナゾトキ》はディナーのあとで」