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特異点論入門〜これほど簡単な入門記事は多分ない〜part4

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有限決定性〜Finite Determinacy〜

お、お客さん。また来て下すったんですかい

いや〜、最近はお客さん少なくなっちゃってねェ...来てくれて嬉しいですよ俺ゃ
そりゃね、店開いた時は繁盛したんだけどねェ...
あっ、ははは、そんな大将なんて呼ばねェで下さいよ。古びた店のおっちゃんなモンで。シンさんって呼んでくださいよ
あ、これ。サービスです、良ければ召し上がってくだせェ

じゃァ、サービスついでに俺ん話を聞いてやってください
『有限決定性〜Finite Determinacy〜』

ジェットって聞いたことあります?

fは収束冪級数なので、項が無限に連なります.では,fに微分同相(これも冪級数)を合成してください!ってなったら、永遠に計算し続けないといけなくなります.なので、途中で作業を放棄止めるということを考えます.

k-ジェット

fEnとする.
非負整数kZに対して,jk:EnEn/mk+1:自然な射影を考える.
jkf:=f¯En/mk+1:fk-ジェット(k-th jet)という.

mk+1k+1次の単項式で生成されるイデアルでした.En/mk+1というのはmk+10と見なそうね!という意味なので,つまりはfk+1次以上の項は切り捨てよう!ということになります.ランダウの記号を勉強した人はピンと来るかもしれません.

  • f(x)=ex=i=01i!xik-ジェットはjkf=i=0k1i!xi
  • f(x,y,z)=x3+yz2+y4+z5+x2y2z24-ジェットはj4f=x3+yz2+y4

さて,関数のジェットを扱いましたね.写像のジェットも定義しましょう.
En,pの部分加群En,p0En,p0:=mEn,pとします.

写像のジェット
  • Jk(n,p)=defEn,p0/mkEn,p0:k-ジェット空間(k-th jet space)
  • jk:En,p0Jk(n,p):自然な射影
  • jkfJk(n,p):k-ジェット(k-th jet)

Jk(n,p)は体K上の商ベクトル空間と思えます.基底は{x1,,xn,,x1k,,xnk}:k次以下の単項式全体となります.

jkfEnの元ではないが,「fk+1次以上の項を消しただけ」という意味でjkfEnに含まれるとすることがある(言葉の濫用みたいなもの)(卒研のテキストで暗にコレされて最初「は?」ってなった)(多分そういう慣習があるんだと思う)

jkf=jkgfgmk+1

それはそう.

fk-ジェットjkffの近似として納得できると思います.またkを大きくすれば大きくするほど,良い近似になることもわかると思います.

有限決定

さて,みなさんの中にはモヤモヤしている人もいるかもしれません.
え、それやっちゃっていいの?
ごもっともです。しかし私だってぐうの音は出ます!
気になる点を挙げると以下のよう。

  • 途中で切っちゃっていいの?
  • どこまできっちゃっていいの?

確かにジェットすることによって,R,K-同値性が崩れてしまっては研究が台無しですしね!!

R-有限決定

fEn,p0とする.

  • f:k-R-決定(k-R-determined)def任意のjkg=jkfなるgEn,p0について,fRg
  • f:R-有限決定(R-finitely determined)defkZs.t.f:k-決定

先ほどの質問を整理したような定義ですね。
「途中で切って同じなら,切る前のモノもR-同値.つまり切っても全然問題ない!!」っていうのが有限決定です.
どこまで切り取ってもOKか?という疑問の答えはk-決定のkになるわけです.このkのうち最小のものをオーダーといい,OR(f)で表します.

じゃあ全部有限決定なの?という疑問ももちろん生まれます.
結果から言うと,有限決定なものもあるし,そうじゃないのもあります.
じゃあその判定法は?
まず、簡単のためp=1とします。

その前に復習と準備

part2で接空間について説明したのは覚えているでしょうか?

  • TRf=mJf

またKn,pと同様に考えることで,群作用Rn×En,p0En,p0;が考えられます.特にこのRn(Kn,0)上の微分同相全体です.ここでRn=En,n0なので,k-ジェットを考えることができます.
Rnk=defjk(Rn)とします.簡単のためnを省くこともあります.

fm:k-決定TRfmk+1

q=jk+1,k:Jk+1(n,1)Jk(n,1):自然な射影とする.f:k-決定ゆえq1(jkf)Rk+1jk+1f
(q1(jkf)の元jk+1f~jkf=jkf~であるので,k-決定性からfRf~)
この式のjk+1fにおける接空間を両辺に取る.
mk+1mk+2mJf+mk+2mk+2
(これは左辺がfk+1次部分を表し,右辺がRn-軌道のk+1-ジェットの接空間になります)
この不等式からmk+1mJf+mk+2が得られるので,中山の補題からTRf=mJfmk+1

この補題でk-決定の大枠がやっと見えてくる訳です.

そもそも接空間TRffR同値な微小変形なので,(切り取るという変形の意味する)mkを含めば、そりゃ切り取る前もR-同値なものができそうだよな〜というのが私の中での落とし所です

fmについて以下が成り立つ

  • TRfmk+1f:"強い"k-決定
  • mTRfmk+1f:k-決定

"強い"ってなんなんだよ!!というクレームが入る前に定義を挟みましょう.
Js(u)=def(js,k1)1(u)=u+Ker(js,k1)Js(n,1)
ただし,uJk1(n,1)

"強い"k-決定

fmが"強い"k-決定であるとは,
Jk(jk1f)内のjkfのザリスキ近傍U(f)が存在して,jkgU(f)を満たす任意のgmfR-同値であること

"強い"k-決定ならばk-決定
さらに(k1)-決定ならば"強い"k-決定

  • fmを"強い"k-決定とする.jkg=jkfなるgmをとると,jkg=jkfU(f)ゆえ,gRf
  • fm(k1)-決定とする.
    U(f)=Jk(jk1f)とすると,jkgU(f)jk1g=jk1fゆえ,gRf

この命題から"強い"たる由縁が伺えます.実はこの"強い"ヤツがめちゃめちゃ大事なんです!!(っていうのは定理3をみれば明らか)
定理3を用いれば有限決定かどうか分かる上に、オーダーすら分かりうるわけです!!
(ちなみに私の使用してるテキストには"strongly k-th determinant"って書いているのですが,和訳は知らないので"強い"って呼んでます)

しかし、この定理を証明なのですが、、、すみません!!!複素の場合だけしか示しません!!理由はちょっと面白い補題を使うからです.ただ多少遠回し感が否めませんが、、、

Artinの近似定理

Y(X)C[[X]]pを方程式系S:F(X,Y)=0(ただしF(X,Y)C{X,Y}q)の形式的冪級数としての解とする.
このとき,任意の正整数k1に対して収束冪級としてのSの解Yk(X)C{X}pが存在して,jkYk(X)=jkY(X)を満たす

p個の方程式に形式的な解があれば,収束的に出来るっていう定理です!!そもそも収束と形式の違いがわからなければ嬉しくないですよね...私がこの手であなたを嬉しくして差し上げます!!
(誤解を恐れずにいうと)形式的冪級数は"グラフ的に"意味を持つとは限りません.収束冪級数環はTaylor展開された関数全体と考えると"グラフ的に"意味ありますよね.具体例を見て形式的と収束的の差を実感しましょう!

f(x)=n=0n!xnという形式的冪級数はダランベールの判定法からlimn|n!(n+1)!|=limn1(n+1)=0から収束半径は0であるので,どんな原点近傍でも収束しない.

こういうのが収束的でないですよね
実は私はちゃんと幾何的な意味を大事に(しろと先生にいわれ)ながら生きてる数学徒なのでこういう定理は本当に大事なんです.

証明は次回やります

準備だけで結構大変ですよね.疲れちゃいました...

まとめ

  • ジェットを使えば"有限的に"写像を調べられる
  • 有限決定を仮定すれば(ある程度)デカい項は切り取ってもOK
  • 切り取ってもいい限度がオーダー
  • 決定より強いのが"強い"決定
  • 証明には「Artinの近似定理」を用いる

お客さん、今日はありがとうございましたァ!!また、来てくださいねェ
 
 
 
次回「証明《ナゾトキ》はディナーのあとで」

投稿日:33
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