いや〜、最近はお客さん少なくなっちゃってねェ...来てくれて嬉しいですよ俺ゃ
そりゃね、店開いた時は繁盛したんだけどねェ...
あっ、ははは、そんな大将なんて呼ばねェで下さいよ。古びた店のおっちゃんなモンで。シンさんって呼んでくださいよ
あ、これ。サービスです、良ければ召し上がってくだせェ
じゃァ、サービスついでに俺ん話を聞いてやってください
『有限決定性〜Finite Determinacy〜』
$f$は収束冪級数なので、項が無限に連なります.では,$f$に微分同相(これも冪級数)を合成してください!ってなったら、永遠に計算し続けないといけなくなります.なので、途中で作業を放棄止めるということを考えます.
$f\in E_{n}$とする.
非負整数$k\in\mathbb{Z_{\geq}}$に対して,$j^{k}:E_{n}\to E_{n}/\m^{k+1}$:自然な射影を考える.
$j^{k}f:=\bar{f}\in E_{n}/\m^{k+1}$:$f$の$k$-ジェット($k$-th jet)という.
$\m^{k+1}$は$k+1$次の単項式で生成されるイデアルでした.$E_{n}/\m^{k+1}$というのは$\m^{k+1}$を$0$と見なそうね!という意味なので,つまりは$f$の$k+1$次以上の項は切り捨てよう!ということになります.ランダウの記号を勉強した人はピンと来るかもしれません.
さて,関数のジェットを扱いましたね.写像のジェットも定義しましょう.
$E_{n,p}$の部分加群$\e$を$\e:=\m E_{n,p}$とします.
$\kjet$は体$\mathbb{K}$上の商ベクトル空間と思えます.基底は$\{x_{1},\cdots,x_{n},\cdots,x_{1}^{k},\cdots,x_{n}^{k}\}$:$k$次以下の単項式全体となります.
$j^{k}f$は$E_{n}$の元ではないが,「$f$の$k+1$次以上の項を消しただけ」という意味で$j^{k}f$が$E_{n}$に含まれるとすることがある(言葉の濫用みたいなもの)(卒研のテキストで暗にコレされて最初「は?」ってなった)(多分そういう慣習があるんだと思う)
$j^{k}f=j^{k}g\Leftrightarrow f-g\in\m^{k+1}$
それはそう.
$f$の$k$-ジェット$j^{k}f$は$f$の近似として納得できると思います.また$k$を大きくすれば大きくするほど,良い近似になることもわかると思います.
さて,みなさんの中にはモヤモヤしている人もいるかもしれません.
え、それやっちゃっていいの?
ごもっともです。しかし私だってぐうの音は出ます!
気になる点を挙げると以下のよう。
確かにジェットすることによって,$\R$,$\K$-同値性が崩れてしまっては研究が台無しですしね!!
$f\in\e$とする.
先ほどの質問を整理したような定義ですね。
「途中で切って同じなら,切る前のモノも$\R$-同値.つまり切っても全然問題ない!!」っていうのが有限決定です.
どこまで切り取ってもOKか?という疑問の答えは$k$-決定の$k$になるわけです.この$k$のうち最小のものをオーダーといい,$O_{\R}(f)$で表します.
じゃあ全部有限決定なの?という疑問ももちろん生まれます.
結果から言うと,有限決定なものもあるし,そうじゃないのもあります.
じゃあその判定法は?
まず、簡単のため$p=1$とします。
part2で接空間について説明したのは覚えているでしょうか?
また$K_{n,p}$と同様に考えることで,群作用$R_{n}\times\e\to\e;$が考えられます.特にこの$R_{n}$は$(\mathbb{K}^{n},0)$上の微分同相全体です.ここで$R_{n}=E_{n,n}^{0}$なので,$k$-ジェットを考えることができます.
$R_{n}^{k}\defe j^{k}(R_{n})$とします.簡単のため$n$を省くこともあります.
$f\in\m$:$k$-決定$\Rightarrow T\R f\supset\m^{k+1}$
$q=j^{k+1,k}:\J^{k+1}(n,1)\to \J^{k}(n,1)$:自然な射影とする.$f$:$k$-決定ゆえ$q^{-1}
(j^{k}f)\subset R^{k+1}\cdot j^{k+1}f$
($\because q^{-1}(j^{k}f)$の元$j^{k+1}\tilde{f} $は$j^{k}f=j^{k}\tilde{f}$であるので,$k$-決定性から$f\req\tilde{f}$)
この式の$j^{k+1}f$における接空間を両辺に取る.
\begin{align}
\frac{\m^{k+1}}{\m^{k+2}}\subset\frac{\m J_{f}+\m^{k+2}}{\m^{k+2}}
\end{align}
(これは左辺が$f$の$k+1$次部分を表し,右辺が$R_{n}$-軌道の$k+1$-ジェットの接空間になります)
この不等式から$\m^{k+1}\subset\m J_{f}+\m^{k+2}$が得られるので,中山の補題から$T\R f=\m J_{f}\supset\m^{k+1}$
この補題で$k$-決定の大枠がやっと見えてくる訳です.
そもそも接空間$T\R f$は$f$の$\R$同値な微小変形なので,(切り取るという変形の意味する)$\m^{k}$を含めば、そりゃ切り取る前も$\R$-同値なものができそうだよな〜というのが私の中での落とし所です
$f\in\m$について以下が成り立つ
"強い"ってなんなんだよ!!というクレームが入る前に定義を挟みましょう.
$J^{s}(u)\defe (j^{s,k-1})^{-1}(u)=u+\mbox{Ker}(j^{s,k-1})\subset J^{s}(n,1)$
ただし,$u\in J^{k-1}(n,1)$
$f\in\m$が"強い"$k$-決定であるとは,
$J^{k}(j^{k-1}f)$内の$j^{k}f$のザリスキ近傍$U(f)$が存在して,$j^{k}g\in U(f)$を満たす任意の$g\in\m$が$f$と$\R$-同値であること
"強い"$k$-決定ならば$k$-決定
さらに$(k-1)$-決定ならば"強い"$k$-決定
この命題から"強い"たる由縁が伺えます.実はこの"強い"ヤツがめちゃめちゃ大事なんです!!(っていうのは定理3をみれば明らか)
定理3を用いれば有限決定かどうか分かる上に、オーダーすら分かりうるわけです!!
(ちなみに私の使用してるテキストには"strongly $k$-th determinant"って書いているのですが,和訳は知らないので"強い"って呼んでます)
しかし、この定理を証明なのですが、、、すみません!!!複素の場合だけしか示しません!!理由はちょっと面白い補題を使うからです.ただ多少遠回し感が否めませんが、、、
$Y(X)\in\mathbb{C}[[X]]^{p}$を方程式系$S:F(X,Y)=0$(ただし$F(X,Y)\in\mathbb{C}\{X,Y\}^{q}$)の形式的冪級数としての解とする.
このとき,任意の正整数$k\geq1$に対して収束冪級としての$S$の解$Y^{k}(X)\in\mathbb{C}\{X\}^{p}$が存在して,$j^{k}Y^{k}(X)=j^{k}Y(X)$を満たす
$p$個の方程式に形式的な解があれば,収束的に出来るっていう定理です!!そもそも収束と形式の違いがわからなければ嬉しくないですよね...私がこの手であなたを嬉しくして差し上げます!!
(誤解を恐れずにいうと)形式的冪級数は"グラフ的に"意味を持つとは限りません.収束冪級数環はTaylor展開された関数全体と考えると"グラフ的に"意味ありますよね.具体例を見て形式的と収束的の差を実感しましょう!
\begin{align} f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}n!x^{n} \end{align}という形式的冪級数はダランベールの判定法から$\lim_{n\rightarrow\infty}\left|\frac{n!}{(n+1)!}\right|=\lim_{n\to\infty}\frac{1}{(n+1)}=0$から収束半径は0であるので,どんな原点近傍でも収束しない.
こういうのが収束的でないですよね
実は私はちゃんと幾何的な意味を大事に(しろと先生にいわれ)ながら生きてる数学徒なのでこういう定理は本当に大事なんです.
準備だけで結構大変ですよね.疲れちゃいました...
お客さん、今日はありがとうございましたァ!!また、来てくださいねェ
次回「証明《ナゾトキ》はディナーのあとで」