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現代数学解説
文献あり

ラマヌジャンの論文10:無限積 ∏_n[1+(x/(a+nd))^3] について

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はじめに

 この記事ではラマヌジャンの書いた論文"On the product n=0[1+(xa+nd)3]"を読んでいきます。
 タイトルの10という番号はハーディによる書籍"Collected Papers of Srinivasa Ramanujan"におけるナンバリングに準じています。ちなみに"Collected Papers"の全容については こちらのサイト こちらのサイト にて閲覧することができます。
 なお各命題の証明については論文で示されている式変形以外は自力で考案したものとなるので至らぬ点もあるかもしれませんがあしからず。

概説

 この論文の主題はある特定の条件を満たすx,a,dに対して
n=0[1+(xa+nd)3]
の値を求めたり、それを利用して
0arctan(x3)e2πnx1dx
の値を求めたりすることにあります。
 また第4節では類似した手法(?)によって
m=0(1)m1m2m3+n3

0x5sinhπxdxn6+x6
の値も求めたりします。

1-2.

 以下簡単のため
ρ=1+3i2
とおく。

補題

[1+(α+βn+α)3][1+(α+βn+β)3]=(1+α+2βn)(1+β+2αn)(1+αn)3(1+βn)3×[1(ραρβn)2][1(ραρβn)2]

 ρ+ρ=1に注意すると
1+(α+βn+α)3=(1+α+βn+α)(1ρα+βn+α)(1ρα+βn+α)=1+2α+βn(1+αn)3(1+ραρβn)(1+ραρβn)
と因数分解できることからわかる。

n=1(1+α+2βn)(1+β+2αn)(1+αn)3(1+βn)3=Γ(1+α)3Γ(1+β)3Γ(1+α+2β)Γ(1+β+2α)

1Γ(1+z)=eγzn=1(1+zn)ezn
に注意するとわかる。

n=1[1(ραρβn)2][1(ραρβn)2]=cosh3π(α+β)cosπ(αβ)2π2(α2+αβ+β2)

sinπzπz=n=1[1(zn)2]
および積和の公式に注意すると
n=1[1(ραρβn)2][1(ραρβn)2]=sin(π(ραρβ))sin(π(ραρβ))π2(ραρβ)(ραρβ)=cosπ(ρρ)(α+β)cosπ(ρ+ρ)(αβ)2π2(αρ2β)(αρ2β)=cosh3π(α+β)cosπ(αβ)2π2(α2+αβ+β2)
と求まる。

主題

ϕ(α,β)=n=1[1+(α+βn+α)3]
とおくと
ϕ(α,β)ϕ(β,α)=Γ(1+α)3Γ(1+β)3Γ(1+α+2β)Γ(1+β+2α)cosh3π(α+β)cosπ(αβ)2π2(α2+αβ+β2)
が成り立つ。

 補題1,2,3からわかる。

 いまβαが整数であるとするとϕ(α,β),ϕ(β,α)の商は有限積
ϕ(α,β)ϕ(β,α)=n=1βα[1+(α+βn+α)3]
として表せ、したがって上の公式と合わせることで
ϕ(α,β)=ϕ(α,β)ϕ(β,α)ϕ(α,β)ϕ(β,α)
の値を明示的に求めることができる。

n=1[1+(2αn+α)3]=Γ(1+α)3Γ(1+3α)sinh3πα3παn=1[1+(2α+1n+α)3]=Γ(1+α)3Γ(2+3α)cosh3π(12+α)π

 上での議論においてβ=αβ=α+1としたとき
cosh2x+1=2cosh2xcosh2x1=2sinh2x
とか
1+(2α+1α+1)3=(2+3α)(1+3α+3α2)(1+α)3
とかに注意するとわかる。

 x2adの倍数であるとき
n=0[1+(xa+nd)3]
の値は明示的に求まる。

 上での議論において
α=ad, β=xad
とすることでわかる。

3.

補題

n=1[1+(αn)3][1+3(α2n+α)2]=Γ(α2)Γ(1+α2)cosh3παcosπα2α+2π32α

 公式1と同様に
[1+(αn)3][1+3(α2n+α)2]=1+αn(1+α2n)2(1αn+α2n2)(1+αn+α2n2)=1+αn(1+α2n)2[1(ραn)2][1(ραn)2]
と変形して無限積を取ることで
n=1[1+(αn)3][1+3(α2n+α)2]=Γ(α2)2Γ(1+α)cosh3παcosπα2π2α2
がわかるので、あとは倍数公式
Γ(α)=2α1πΓ(α2)Γ(α+12)
に注意すると主張を得る。

arctan(ρz)+arctan(ρz)arctanz=arctan(z3)

 一致の定理から|z|<1において示せば十分である。
 いま
ω=1+3i2=ρ
とおくと冪級数
f(z)=n=0anzn
に対し
f(z)+f(ωz)+f(ωz)=3n=0a3nz3n
が成り立つので
arctanz+arctan(ρz)+arctan(ρz)=arctanzarctan(ωz)arctan(ωz)=3n=0(1)3n+13(2n+1)z3(2n+1)=n=0(1)n2n+1(z3)2n+1=arctan(z3)
を得る。

主題

 Re(α)>0において
12log2πα+πα3+logn=1[1+(αn)3]=logcosh3παcosπαπα+20arctan(x3/α3)e2πx1dx
が成り立つ。

 補題4の証明から
n=1[1+(αn)3]=cosh3παcosπα2π2α2n=11+αn1+αn+α2n2=cosh3παcosπα2π2α2Γ(1+ρα)Γ(1+ρα)Γ(1+α)
が成り立つので、ビネの公式
logΓ(1+z)=zlogzz+12log2πz+20arctan(x/z)e2πx1dx
および補題5に注意してこの対数を取ることで
logn=1[1+(αn)3]logcosh3παcosπα2π2α2=πα3+12log2πα+20arctan(x3/α3)e2πx1dx
を得る。

 いまαが整数であれば
n=1[1+(αn)3]=ϕ(0,α)
の値が求まるということだったので、上の公式により
0arctan(x3/α3)e2πx1dx=α0arctan(x3)e2παx1dx
の値も求めることができる。

0arctan(x3)e2πnx1dx=14nlog(2πnm=1n1[1nm+n2m2])π4312nlog(1(1)ne3πn)

ϕ(0,n)ϕ(n,0)=(n!)2(2n)!cosh3πn(1)n2π2n2=(n!)2(2n)!e3πn(1(1)ne3πn)24π2n2ϕ(0,n)ϕ(n,0)=m=1n[1+(nm)3]=(2n)!(n!)2m=1n1[1nm+n2m2]
より
logϕ(0,n)=12logm=1n1[1nm+n2m2]+3πn23+log1(1)ne3πn2πn
が成り立つので、あとは公式2
2n0arctan(x3)e2πnx1dx=logϕ(0,n)+12log2πn+πn3logcosh3πn(1)nπn
に注意すると主張を得る。

0arctan(x3)e2πx1dx=14log2ππ4312log(1+e3π)0arctan(x3)e4πx1dx=18log12ππ4314log(1e23π)0arctan(x3)e6πx1dx=112log1472ππ4316log(1+e33π)0arctan(x3)e8πx1dx=116log13523ππ8318log(1e43π)

4.

m=0(1)m1m2m3+n3=13m=1(1)m1m+n+43m=1(1)m12mn(2mn)2+3n2

m2m3+n3=13(1m+n+2mnm2mn+n2)
と部分分数分解できることからわかる。

 いま
log2=m=1(1)m1mπcoshπx2=4m=0(1)m2m+1(2m+1)2+x2
に注意すると正の奇数n=2k+1に対し
m=1(1)m1m+n=(1)n(log2m=1n(1)m1m)4m=1(1)m12mn(2mn)2+3n2=(1)kπcosh3πn2+m=1k(1)m12mnm2mn+n2=(1)k(πcosh3πn24m=0k1(1)m2m+1(2m+1)2+3n2)
が成り立つのでこれによって
m=0(1)m1m2m3+n3
の値を求めることができる。

m=0(1)m1m2m3+1=13(1log2+πsech32π)

2π0x6(a2+x2)(b6+x6)dx=13(1a+b+2a+ba2+ab+b2)

2π0x6(a2+x2)(b6+x6)dx=1πiiix6(a2x2)(b6x6)dx=2Re(α)>0Resz=αz6(a2z2)(b6z6)
と変形したとき、αの候補はα=a,b,ρb,ρbの4つに限るので
2π0x6(a2+x2)(b6+x6)dx=a5a6b613ba2b213ρba2ρ2b213ρba2ρ2b2=13(aa2b2+2a3+ab2a4+a2b2+b4)=a5a6b613ba2b213a2bb3a4+a2b2+b4=13(1a+b+(2a+b)(a2ab+b2)a4+a2b2+b4) =13(1a+b+2a+ba2+ab+b2)
を得る。

0x5sinhπxdxn6+x6=13m=0(1)mm+n43m=1(1)m12m+n(2m+n)2+3n2

1sinhπx=2xπ(12x2+m=1(1)mm2+x2)
および上の補題に注意するとわかる。

 上と同様にnが正の奇数であるときはこの積分の値を求めることができる。

0x5sinhπxdx1+x6=13(log21+πsech32π)

参考文献

[1]
S. Ramanujan, On the product ∏^{n=∞}_{n=0}[1+(x/(a+nd))^3], Journal of the Indian Mathematical Society, 1915, 209-211
投稿日:14日前
更新日:13日前
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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