指数の比較の問題で、常用対数の値が与えられていないときに使える不等式をまとめます。$ 2^{10} > 10^3 $とかそういうやつです。
タイトルは便宜的に関連する用語を付けただけであり、必ずしも該当の不等式を指すとは限りません。
$ 1024 = 2^{10} > 10^3 = 1000 $であるから、両辺の常用対数を取ることで$ 10\log_{10} 2 > 3 $すなわち$ \log_{10} 2 > 0.3 $を得る。
解説: もはや解説するまでもなく、全てのプログラマが知っている事実です。
$ 524288 = 2^{19} < 3^{12} = 531441 $であるから、両辺の底を$ 2 $とする対数を取ることで$ 19 < 12\log_2{3} $すなわち$ \log_{2} 3 > \frac{19}{12} $を得る。
解説: 数字が大きいですが$ \log_2{3} $の評価ができるのでこのまま覚えてしまいましょう。
$ 128 = 2^{7} > 5^3 = 125 $であるから、両辺の底を$ 2 $とする対数を取ることで$ 7 > 3\log_2{5} $すなわち$ \log_{2} 5 < \frac{7}{3} $を得る。
解説: 1つ前の不等式の両辺を$ 2^3 $で割ると$ \log_{2} 5 $の評価にできます。$ 10 $ではなく$ 2 $と$ 5 $が直接現れる場合に有効です。
$ 16384 = 2^{14} < 7^{5} = 16807 $であるから、両辺の底を$ 2 $とする対数を取ることで$ 14 < 5\log_2{7} $すなわち$ \log_{2} 7 > \frac{14}{5} $を得る。
解説: $ \log_2{3} $や$ \log_2{5} $と同じ手法で$ \log_2{7} $に対する近似も行うことができます。2022年の京大入試の最初の問題は常用対数が与えられていましたがこれを使うとより簡単に解くことができます。
$ 256 = 2^{8} > 3^{5} = 243 $であるから、両辺の底を$ 2 $とする対数を取ることで$ 8 > 5\log_2{3} $すなわち$ \log_{2} 3 < \frac{8}{5} $を得る。
解説: 「完全五度」と合わせると、$ 1 + \frac{700}{1200} < \log_2{3} < 1 + \frac{720}{1200} $がわかります。分母が$ 1200 $なのはこの手の近似を研究する界隈の慣習なので、答案に書くときは適宜約分して調整してください。
$ 2048 = 2^{11} < 3^{7} = 2187 $であるから、両辺の底を$ 2 $とする対数を取ることで$ 11 < 7\log_2{3} $すなわち$ \log_{2} 3 > \frac{11}{7} $を得る。
解説: $ \frac{11}{7} < \frac{19}{12} $なので正直必要ありません。ピタゴリアンリンマと並べて置きたかっただけです。
$ {1.2}^4 = 2.0736 > 2 $であるから、両辺の底を$ 2 $とする対数を取ることで$ 4\log_2{1.2} > 1 $すなわち$ \log_{2} {1.2} > \frac{1}{4} $を得る。
解説: $ \log_{2}{\frac{3}{2}} > \frac{7}{12}, \log_{2}{\frac{5}{4}} < \frac{4}{12} $なので引き算すると$ \log_{2}{\frac{6}{5}} > \frac{3}{12} $が得られますが、このように直接求める方法もあります。
$ 5^{5} = 3125 > 3072 = 2048 \cdot 1.5 > 2^{11} \cdot \sqrt{2} = 2^{11.5} $であるから、最左辺と最右辺の底を$ 2 $とする対数を取ることで$ 5\log_2{5} > 11.5 $すなわち$ \log_{2} 5 > 2.3 $を得る。
解説: $ \log_{2} 5 $を下から抑えるには、少し工夫が必要です。
$ \left(\frac{9}{8}\right)^6 = \frac{531441}{524288} \cdot 2 > 2 $であるから、最左辺と最右辺の底を$ 2 $とする対数を取ることで$ 6 \log_2{\frac{9}{8}} > 1 $すなわち$ \log_2{\frac{9}{8}} > \frac{1}{6} $を得る。
解説: $ 2^{\frac{1}{6}} \approx \frac{9}{8} $は結果だけ知っておいても損はないかもしれません。
$ \left(\frac{9}{8}\right)^6 = \frac{531441}{524288} \cdot 2 > 2 $であるから、最左辺と最右辺の底を$ 2 $とする対数を取ることで$ 6 \log_2{\frac{9}{8}} > 1 $すなわち$ \log_2{\frac{9}{8}} > \frac{1}{6} $を得る。
さらに、$ \left(1 + \frac{1}{16}\right)^2 > 1 + \frac{1}{8} = \frac{9}{8} > 2^{\frac{1}{6}} $であるから、$ \log_2{\frac{17}{16}} > \frac{1}{12} $を得る。
解説: 「長二度」の派生形です。私も使ったことがありません。二項定理を使えば$ \log_2{\frac{18}{17}} < \frac{1}{12} $も示せますが、現実的に不要だと思います。
ここまでのことを悪用すると、$ \log{2} < \frac{3}{4} $を示すことが出来ます。折角なので、最初からやります。
$ 524288 = 2^{19} < 3^{12} = 531441 $である。
この両辺の$ 12 $乗根を取り$ 2 $乗して$ 2^3 $で割ることで、
$ \frac{9}{8} > 2^{\frac{1}{6}} $
がわかる。また、$ 128 = 2^{7} > 5^{3} = 125 $であるから、
$ \frac{5}{4} < 2^{\frac{1}{3}} $
がわかる。
ここで、$ f(x) = 2^x $とおき、$ y = f(x) $のグラフを$ \Gamma $とする。
3点$ A(0, 1), B\left(\frac{1}{6}, \frac{9}{8} \right), C\left(\frac{1}{3}, \frac{5}{4} \right) $について考えると、この3点は直線$ y = \frac{3}{4} x + 1 $上にある。
また、$ A $は$ \Gamma $上、$ B $は$ \Gamma $より上、$ C $は$ \Gamma $より下にある。
よって、中間値の定理から、線分$ BC $と$ \Gamma $は共有点を持つので、これを$ P\left(p, 2^p\right) $とする。
このとき、4点$ A, B, P, C $は同一直線上にあり、その傾きは$ \frac{3}{4} $である。
よって、平均値の定理から、ある$ 0 < q < p $が存在し、
$ f'(q) = 2^q \log{2} = \frac{3}{4} $
が成り立つ。
$ q > 0 $より$ 2^q > 1 $であるから、
$ \log{2} < \frac{3}{4} $
が示された。(Q.E.D.)
上の解法はさらに最適化できます。
$ 524288 = 2^{19} < 3^{12} = 531441 $である。
この両辺の$ 12 $乗根を取り$ 2 $乗して$ 2^3 $で割ることで、
$ \frac{9}{8} > 2^{\frac{1}{6}} $
がわかる。
ここで、$ f(x) = 2^x, g(x) = \frac{3}{4}x + 1, h(x) = f(x) - g(x) $とおくと、
$ f(0) = g(0) = 1, h(0) = 0 $
$ f\left(\frac{1}{6}\right) < g\left(\frac{1}{6}\right), h\left(\frac{1}{6}\right) < 0 $
が成り立つ。また、
$ f'(0) > 0 $、$ f'(x) $は単調増加、$ g'(x) $は定数であるから、$ h'(x) $は単調増加である。
$ h'(0) \geq 0 $と仮定すると、$ x > 0 $で$ h'(x) > 0 $であるから$ h(x) $は単調増加であるが、これは$ h(0) > h\left(\frac{1}{6}\right) $に反するので、背理法から$ h'(0) < 0 $が得られる。
よって、$ f'(0) < g'(0) $であるから、$ \log{2} < \frac{3}{4} $が得られた。(Q.E.D.)