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組合せの問題とGrothendieckのGalois理論

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$$\newcommand{G}[0]{{D}_{2026}} $$

はじめに

この記事は数学に意欲的な高校生を想定読者にしています。具体的には,競技数学の問題を解くことを趣味にしていたり,群論の初歩(群・部分群・剰余類)くらいは自分で触ってみたことがあるという読者を想定しています。

受験数学や競技数学では,数の集合に対して操作を行う問題がしばしば登場することがあります。

まずはこの類の問題を紹介し,それを高校数学の範囲での解答を示します。
次に,群論の初歩(群・部分群・剰余類)の言葉のみでこの問題を捉え直し,Galois理論的な発想で紐解きます。ここで登場する発想そのものがGrothendieckが一般化したGalois理論に含まれます。

数学に意欲的な高校生は"何故か"Grothendieckの名前をよく知っているのですが,生涯で彼の仕事について学ぶ人はなかなかいないと思われます。この記事で,雰囲気でもGrothendieckの膨大な成果のうち一つに触れていただければと思います。

問題

赤いカードと青いカードが$2026$枚ずつあり,どちらの色にも $0, 1, \ldots, 2025$ の番号が$1$枚ずつ書かれている。これら$4052$枚をいくつかの空でない箱にわける。
操作$A$:すべてのカードの番号に$1$を加える。色はそのまま。
操作$B$:すべてのカードについて,番号 $i$ を $2026-i$ に書き直し,色を反転させる(赤$ \leftrightarrow$青)。
ただし、添え字の$2026$ は $0$ に書き直す。
$A$と$B$を何度施しても,わけ方は変わらなかった。このようなわけ方は何通りか。

解答

$i$番の赤いカードを$R_i$,$i$番の青いカードを$B_i$とかく(添え字は$2026$を法として考える)。

操作$A$でわけ方が変わらないので,
$$R_i\text{と}R_j\text{が同じ箱}\Longleftrightarrow R_{i+t} \text{と} R_{j+t} \text{が同じ箱}\tag{1}\label{l1}$$

が任意の整数$t$で成立する。$R_{2026}=R_0$より,$R_0$と$R_d$が同じ箱に入るような最小の$d\ (1\leq d\leq 2026)$が存在する。(\ref{l1})より,$d$の倍数の赤いカードはすべて$R_0$と同じ箱に入る。

ここで,$2026 = qd + r \quad (0\leq r < d)$とかくと,$R_{qd}$と$R_{2026}$は同じ箱に入るので,(\ref{l1})より$R_{r}$も同じ箱に入る。$d$の最小性から$r=0$がしたがう。よって,$d$は$2026$を割り切る。

同様に,$R_0$と$R_i$が同じ箱に入るなら$d$は$i$を割り切ることから,(\ref{l1})より,
$$R_i\text{と}R_j\text{が同じ箱}\Longleftrightarrow i \equiv j\ \text{mod}\ d\tag{2}\label{l2}$$

また,操作$B$は$B_i$を$R_{-i}$に変えるので,
$$B_i\text{と}B_j\text{が同じ箱}\Longleftrightarrow i \equiv j\ \text{mod}\ d\tag{3}\label{l3}$$
も成り立つ。

(イ) 同じ箱に赤と青のカードが入らない場合
(\ref{l2}), (\ref{l3})より,$d$で割った余りでカードをわけ,る方法しかなく,$\displaystyle{\sum_{d|2026}}1 = (2026\text{の正の約数の個数}) = 4$通り。
(ロ) 同じ箱に赤と青のカードが入る場合
$R_0$と同じ箱に入る青いカードの番号の$d$で割った余りを$c$とする((\ref{l3})よりこのような$c$はただ$1$つである)。この$c$を用いると,$R_{i}$と$B_{i+c}$は同じ箱に入る。したがって,$0\leq r< d$に対して,各箱の中身は
$$C_r = \left\{R_i \middle| i\equiv r \ \text{mod}\ d\right\}\ \cup\ \left\{B_j \middle| j\equiv r + c \ \text{mod}\ d\right\}$$
に決まる。実際,操作$A$は$C_r\mapsto C_{r+1\ \text{mod}\ d}$,操作$B$は$C_r\mapsto C_{-r-c\ \text{mod}\ d}$となりわけ方は変わらない。よってこの場合は$c$の取り方に対応し,$\displaystyle{\sum_{d|2026} d} = (2026\text{の正の約数の和}) = (1+2)(1+1013)=3042$通り。

以上より,求める場合の数は$3046$通り。

考察

問題の群による定式化

操作$A$にあたる変換を$a$, 操作$B$は同様に$b$と書きます。また,何も変えない操作を$1$とし,操作を繰り返し行うことを積として定義します。また,逆操作は${(\cdot)}^{-1}$で書くとします。例えば,$a^2ba$は,操作$A$→操作$B$→操作$A$を$2$回施すことを意味します。$a$と$b$を有限の積全体が作る集合はこの演算によって群を成します。
定義より,$a^{2026}=1$, $b^2=1$, $bab=a^{-1}$がしたがうことから,この群は以下の$4052$個の元からなる有限群となります。
$$1, a, \ldots, a^{2025}, b, ab, \ldots, a^{2025}b$$
この群は正$2026$角形を回転させる操作と裏返す操作からなる二面体群という名前がついています。これを$D_{2026}$と書くことにします。

大胆な発想の転換

$R_0$に対して操作をすることを考えると,
$$a^i(R_0)=R_i$$
$$a^ib(R_0)=B_i$$
となりますから,

各カード$R_i$または$B_i$は$R_0$をそこへ移す操作と一対一に対応する

ことが言えます。つまりは,

カード全体の集合は$D_{2026}$と一対一に対応する

ことになります。では,操作によって変わらない箱のわけ方は$D_{2026}$の何なのか?という問いが自然発生します。

Galois対応

問題の条件をみたすわけ方を一つ固定したとき,先ほどの一対一対応に基づいて,$R_0$と同じ箱に入っているカード全体に対応する操作全体の集合$H$は次のように書けます。
$$H=\left\{g\in D_{2026}\middle| g(R_0)\text{が}R_0\text{と同じ箱に入る}\right\}$$
条件をみたすわけ方ならば,$h, k\in H$に対して$hk\in H$であり,$h^{-1}\in H$ですから,$H$は$D_{2026}$の部分群です。残りの箱は,この箱に操作$g\in D_{2026}$を施してできる
$$gH = \left\{gh\middle| h\in H\right\}$$
という集合になります。群論ではこれを$H$の左剰余類と呼ぶのでした。

逆に,任意の$D_{2026}$の部分集合$H$に対して,カードを$gH\ (g\in \G)$ごとに箱に入れるわけ方を考えてみましょう。
このとき,操作$a$, $b$を箱$gH$に施すと$(ag)H$, $(bg)H$という箱に移ります。したがって,操作によって箱が分裂したりせず別の箱に移るため,わけ方は変わりません。

そもそも適当にとってきた部分群$H$と$gH\ (g\in \G)$に対して対応するカードが適切な"わけ方"になっているかどうか確認しなくてはいけませんが,以下の事実より成り立ちます。

  • 任意の$g\in\G$も,$1\in H$より,$g=g\cdot 1\in gH$なのでいずれかの箱に入る。
  • 二つの左剰余類は完全に一致するか全く重ならない。

二つ目は剰余類の基本的な性質ですのでぜひ証明してみてください。
したがって,部分群$H$とその左剰余類$gH\ (g\in \G)$はわけ方を一つ与えることになります。

上記をまとめると,

条件をみたすわけ方と$ \G$の部分群は一対一に対応する

となるのです。したがって,$\G$の部分群を数え上げる問題になるのです。この対応がGalois対応と呼ばれるものの一種になります。
二面体群の部分群の導出は省略しますが,以下のようになります。

解答の場合分け$R_0$の箱対応する部分群$H$個数
(i) 赤と青が混ざらない$\{R_i\mid i\equiv 0\}$$\langle a^d\rangle$$\tau(2026)$
(ii) 赤と青が混ざる$\{R_i\mid i\equiv 0\}\cup\{B_j\mid j\equiv c\}$$\langle a^d,\ a^cb\rangle$$\sigma(2026)$

最後に: Galois理論とGrothendieck

前節の対応を「Galois対応の一種」と呼んだ理由を簡単に説明します(大学の代数学の内容なので,雰囲気だけ掴めれば十分です)。

Galois理論:代数を群というレンズで見る

Galois理論の出発点は,方程式の解の公式の問題でした。$2$次方程式には解の公式があり,$3$次・$4$次方程式にも四則演算と累乗根を組み合わせた解の公式(Cardanoの公式,Ferrariの公式)があります。では$5$次以上ではどうか,という問いに答えたのがGaloisです。
Galoisの発想は,方程式の解のあいだの対称性に着目することでした。方程式$f(x)=0$の解をすべて添加した体$L$(最小分解体)を考え,$L$の元を,四則演算の関係を保ったまま係数の体$K$の元は動かさずに入れ替える写像全体を考えます。これは群をなし,Galois群$G=\mathrm{Gal}(L/K)$と呼ばれます。Galois理論の基本定理は

$K$と$L$の間にある体(中間体)と,$G$の部分群が一対一に対応する

ことを主張します。中間体$M$には「$M$の元を動かさない$G$の元全体」という部分群が対応します。
この対応のおかげで,方程式が解の公式を持つかどうか,という代数的な問いを群論の問題に帰着することによって見通しよく解決することができます。

Grothendieckの定式化

Galois理論は体に対する理論でした。数学者Grothendieckは,この理論を一般化し体以外の数学的対象(体以外にさまざまな幾何学的対象も含みました)に適用可能にしました(GrothendieckのGalois圏)。この一般化の下では,今回の対応もGalois理論と呼ぶことができるのです。これによって,ある分野では扱えない問題を別の数学の分野の道具を使って扱う,ということが可能になるのです。

投稿日:9日前
更新日:9日前
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