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現代数学解説
文献あり

『代数函数論』定理1.7(Henselの補題)

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$$\newcommand{mfK}[0]{\mathfrak{K}} \newcommand{mfo}[0]{\mathfrak{o}} \newcommand{mfp}[0]{\mathfrak{p}} $$

今回示したいのは次の定理です.

Henselの補題

$(K,P)$を素因子$P$に関する完備体,$\mfo,\mfp$をその付値環及び素イデアルとする.また,$\mfK=\mfo/\mfp$とする.このとき,次のことが成り立つ.
$f(X)\in\mfo[X]$に対して,$f(X)$の係数をmod$\mfp$で置き換えたものを$\overline{f}(X)$とする.このとき,$\overline{f}(X)$$\mfK[X]$の元として,互いに素な二つの多項式$g^\prime(X),h^\prime(X)$を用いて$\overline{f}(X)=g^\prime(X)h^\prime(X)$と分解できるならば,
$$f(X)=g(X)h(X),\quad\overline{g}(X)=g^\prime(X),\quad \overline{h}(X)=h^\prime(X)$$
を満足する$\mfo[X]$の多項式$g(X),h(X)$が存在する.しかも,$g(X)$の次数は$g^\prime(X)$の次数と一致させることができる.

お前は何を言っているんだ...となりました.主張の意味は分かるのだけれども,どうしてこんなことを考えたのか全くワカラン.Henselさんは頑張ったんやなと思って,しずしずと使わせてもらいましょう.

(雑な)流れとしては
1.$f\equiv g_1h_1$mod$\mfp$となる$g_1,h_1\in\mfo[X]$が取れる.($g_1\equiv g^\prime, h_1\equiv h^\prime$mod$\mfp$
2.$f\equiv g_2h_2$mod$\mfp^2$となる$g_2,h_2\in\mfo[X]$が取れる.($g_2\equiv g_1,h_2\equiv h_1$mod$\mfp$
3.$f\equiv g_3h_3$mod$\mfp^3$となる$g_3,h_3\in\mfo[X]$が取れる.($g_3\equiv g_2,h_3\equiv h_2$mod$\mfp^2$
4.$f\equiv g_4h_4$mod$\mfp^4$となる$g_4,h_4\in\mfo[X]$が取れる.($g_4\equiv g_3,h_4\equiv h_3$mod$\mfp^3$
$\cdots$
となるので,これらの極限として$g,h$をとると,これが求める解です.ここで,$g_i,h_i$の次数は高々$n^\prime,n-n^\prime$とできます.
やっていきましょう.以下,$\nu_P(t)=1$となる$t$を取っておきます.
ステップ1は明らか.
ステップ2を示します.$\mfo[X]$の多項式$u,v$に対し,$g_2=g_1 + tu$$h_2=h_1+tv$と置いてみます.このとき,$g_2\equiv g_1,h_2\equiv h_1$mod $\mfp$が,$\mfp=(t)$であることからわかります.ここで,もし
$$f-g_1h_1\equiv t(g_1v+h_1u)\quad\text{mod}\,\mfp^2\quad \cdots(1)$$
が満たされれば,$f\equiv g_1h_1+t(g_1v+h_1u)\equiv g_2h_2$mod$\mfp^2$$g_2=g_1 + tu$$h_2=h_1+tv$を代入して計算すれば分かります.なので,(1)式が満たされるように$u,v$を決めればよいわけです.ステップ1より,$f\equiv g_1h_1$mod$\mfp$なので$r\coloneqq t^{-1}(f-g_1h_1)$とすればこれは$\mfo[X]$の多項式で,$r\equiv g_1v + h_1 u$mod$\mfp$なる$u,v$を見つけられれば,(1)式が出るわけです.これは$g_1\equiv g^\prime,h_1\equiv h^\prime$mod$\mfp$で,$g^\prime,h^\prime$が互いに素であることから,こんな$u,v$は存在しますね.$u,v$の次数はどのようにとれるでしょうか.定め方より,$r$の次数は$n-1$以下だったので,$r\equiv g_1v + h_1 u$mod$\mfp$という式より,$v$$n-n^\prime-1$以下,$u$$n^\prime-1$以下です.よって$g_2,h_2$はそれぞれ$n^\prime,n-n^\prime$以下です!
以下同様にしてやっていけばokです.
さて,極限として$g,h$を取ると言っていましたが,具体的にどうやるかというと,上の議論から$\mfo[X]$の元の系列
$$g_1,g_2,\cdots;\quad h_1,h_2,\cdots$$
が取れます.これらは
$$g_i=\sum_{k=0}^{n^\prime}a_{ik}x^k,\quad h_i = \sum_{k=0}^{n-n^\prime}b_{ik}x^k$$
と表記できます.
$|a_{ik}-a_{jk}|\in\mfp^i$$i< j$)より,$\{a_{ik}\}_i$は収束する.収束先を$a_k$とする.
$$g=\sum_{k=0}^{n^\prime}a_k x^k,\quad h=\sum_{k=0}^{n-n^\prime}b_k x^k$$
とおけば,$g_i,h_i$の作り方から,$g\equiv g_1\equiv g^\prime,h\equiv h_1\equiv h^\prime$
また,$f\equiv gh$mod$\mfp^m$がすべての$m$について成り立つので,$f=gh$である.$g,h$の次数は高々$n^\prime,n-n^\prime$だったが,その和が$n$なのでよって$g$の次数は$n^\prime$.QED

なんか大変でしたね.お疲れさまでした.

参考文献

[1]
岩澤健吉, 代数函数論
投稿日:5日前

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投稿者

はじめまして!楽しい記事を書ければと思いますので、よろしくお願いします。

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