一般に,与えられた実数が有理数か無理数かを判定するのは難しい問題です.やといった代数的にいい性質をもつものなら簡単ですが,級数や積分で書かれる定数()が無理数であることを証明するのは難しいです.
今回は,級数で書かれる定数の無理数性を証明する方法の一つとして,自然数列が爆発的に発散する(特に,二重指数関数かそれ以上のオーダーを持つ)とき,その逆数和は多くの場合無理数になるということを発見したので,ここに載せようと思います.これを使うと,
など様々な数学定数が無理数であることが一瞬でわかります.
(は以上の整数, はフィボナッチ数列)
二重指数関数より強い数列ならぜったい無理数!
まず紹介するのは次の主張です.
自然数列が,
を満たすならば,次の無限和は無理数である.
とする.
が有理数であると仮定する,自然数を用いて
と書くとする.自然数を任意にとり両辺にをかけると,
となる.ここでとおく.左辺の第1項と右辺は常に整数であるから,も常に整数である必要がある.
とおく.より,を十分大きく取ればとなるから,
となる.よって十分大きな自然数に対しが成り立つ.これはすべての自然数に対しは整数であることに矛盾する.よって,は無理数である.
この結果から,数列が二重指数関数よりも速いスピードで無限大に発散していくとき,その逆数和が無理数になるということがわかります.(二重指数関数にはの関係があることに注意).実際
ですから,はが成り立つことの十分条件になります.
ちなみに,数列の条件はもう少し弱めることもできます.たとえばを各項の積とする代わりに,
としても,まったく同様の議論が成り立ちます.この場合,二重指数関数より弱いですがなどでも無理数に収束することがわかります.(の無理数性)
また,証明の流れからもわかるように,次のような弱め方もできます.
とする.数列が上に有界であり,に収束する部分列を持つならば,無限和は無理数である.
貪欲法によるエジプト分数表現とシルベスター数列
前節では,二重指数関数よりも速いスピードで発散する自然数列については,その逆数和が無理数であることを確認しました.それでは,二重指数関数程度のオーダーの数列なら有理数に収束することもあるのかということを考えてみます.その準備として次のような自然数列の構成法を考えてみましょう.
正の実数に対し,の「貪欲法でのエジプト分数表現」(一般的な呼称ではない)とは,自然数列の逆数和としてのの級数表示
であって,任意の自然数に対し,
をみたすものであると定義する.
これは,に対して順番に,
を満たすような最小の自然数を選ぶという貪欲法の結果で与えられるものである.すなわち,は次の漸化式で与えられる.
まずは,が単位分数として表される場合を考えてみます
なる自然数が存在する時,は次の漸化式で与えられる.
のときはシルベスター数列と呼ばれるもので,二重指数関数的に発散する数列であることがすぐにわかります.
を帰納法で示す.
- のとき
であり,
なので成立. - での成立を仮定する,のとき,
であり,
なので成立.
よって,
が成り立つ.
次に,が有理数である場合を考えてみます.
が有理数であるとき,十分大きなに対してが成立する.
定理2より,
なる自然数が存在することを示せば良い.(,は互いに素)とおき,を規約分数で表したときの分子と分母をそれぞれとする.
であり,とりわけのとき等号は成立しないのでとなる.ここで,
であるから,が成り立つ.よって,数列はとなるまで単調に減少するから,定理は示された.
二重指数関数レベルなら有理数に収束することはほとんどない.
前節で,二重指数関数程度のオーダーならその逆数和が有理数に収束することもあることがわかりました.しかし,このような爆発性を持っており逆数和が有理数に収束するのは実はかなり特殊なケースであり,ある種の一意性が成り立つことがわかります.
を自然数列とする.
なる定数が存在する時,無限和
が有理数に収束するならば,十分大きなに対してが成り立つ.
また,その極限値をとするとは整数となる.
とする.自然数を用いて
と書くとする.自然数を任意にとり両辺にをかけると,
となる.ここでとおく.左辺の第1項と右辺は常に整数であるから,も常に整数である必要がある.
とおく.
であり,
である.ここで最左辺と最右辺はともにでに収束するので,はさみうちの原理より,
となる.ここで,すべての自然数に対してが整数であることから,が整数で,十分大きなに対しが成り立つ必要がある(ε-N論法で証明できる).よって,は整数となり,十分大きなに対して
あとは変形を繰り返すだけで証明できる.まず,両辺をとしたものとの差をとって,
また,両辺でをとしたものとの比をとると,
となるから,定理は示された.
これを使えば,最初に示した
などの値が無理数であることが分かります.なぜなら,分母の数列は,
をみたしており,十分大きなに対して,を満たさないからです.
いかがでしたでしょうか.さらに強い主張が成り立つとか,関連する話題があれば気軽にコメントしていただけると喜びます.