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高校数学解説
文献あり

爆発的に発散する自然数列の逆数和は必ず無理数に収束する!?

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一般に,与えられた実数が有理数か無理数かを判定するのは難しい問題です.2log23といった代数的にいい性質をもつものなら簡単ですが,級数や積分で書かれる定数(e,π,)が無理数であることを証明するのは難しいです.

今回は,級数で書かれる定数の無理数性を証明する方法の一つとして,自然数列が爆発的に発散する(特に,二重指数関数かそれ以上のオーダーを持つ)とき,その逆数和は多くの場合無理数になるということを発見したので,ここに載せようと思います.これを使うと,
k=01a2k,  k=01a2k+1,  k=01F2k
など様々な数学定数が無理数であることが一瞬でわかります.
(a2以上の整数, {Fn}はフィボナッチ数列)

二重指数関数より強い数列ならぜったい無理数!

まず紹介するのは次の主張です.

自然数列{an}が,
limna1a2anan+1=0
を満たすならば,次の無限和は無理数である.
k=11ak

An=a1a2anとする.
k=11akが有理数であると仮定する,自然数p,qを用いて

k=11ak=pq
と書くとする.自然数nを任意にとり両辺にqAnをかけると,

qk=1nAnak+qk=1Anan+k=pAn
となる.ここでf(n):=k=1Anan+kとおく.左辺の第1項と右辺は常に整数であるから,qf(n)も常に整数である必要がある.

sn:=supknAkak+1とおく.Anan+10  (n0)より,nを十分大きく取ればk>nAkak+1<12となるから,
0<f(n)=k=1Anan+k=k=1An+k1an+ki=1k1An+i1An+i
k=1An+k1an+ki=1k1An+i1an+ik=1sn(12)k1=2sn0 (n)
となる.よって十分大きな自然数nに対し0<qf(n)<1が成り立つ.これはすべての自然数nに対しqf(n)は整数であることに矛盾する.よって,k=11akは無理数である.

この結果から,数列{an}二重指数関数a2nよりも速いスピードで無限大に発散していくとき,その逆数和が無理数になるということがわかります.(二重指数関数にはa20a21a2n1a2n=1aの関係があることに注意).実際
limna1a2anan+1=1a1limnk=1nak2ak+1ですから,limnan2an+1<1limna1a2anan+1=0が成り立つことの十分条件になります.

ちなみに,数列{an}の条件はもう少し弱めることもできます.たとえばAnを各項の積とする代わりに,
An=LCM{a1,a2,,an}
としても,まったく同様の議論が成り立ちます.この場合,二重指数関数より弱いですがan=n!などでも無理数に収束することがわかります.(eの無理数性)
また,証明の流れからもわかるように,次のような弱め方もできます.

xn=Anan+1とする.数列{xn}が上に有界であり,0に収束する部分列を持つならば,無限和k=11akは無理数である.

貪欲法によるエジプト分数表現とシルベスター数列

前節では,二重指数関数a2nよりも速いスピードで発散する自然数列については,その逆数和が無理数であることを確認しました.それでは,二重指数関数程度のオーダーの数列なら有理数に収束することもあるのかということを考えてみます.その準備として次のような自然数列の構成法を考えてみましょう.

正の実数αに対し,α「貪欲法でのエジプト分数表現」(一般的な呼称ではない)とは,自然数列{an}の逆数和としてのαの級数表示
α=k=11ak
であって,任意の自然数nに対し,1an<αk=1n11ak1an1
をみたすものであると定義する.

これは,n=1,2,3,に対して順番に,
α>k=1n1ak
を満たすような最小の自然数anを選ぶという貪欲法の結果で与えられるものである.すなわち,anは次の漸化式で与えられる.
an=1αk=1n11ak+1   (n1)

まずは,αが単位分数として表される場合を考えてみます

α=1m
なる自然数mが存在する時,{ak}は次の漸化式で与えられる.
a1=m+1,  ak+1=ak2ak+1

a1=2のときはシルベスター数列と呼ばれるもので,二重指数関数的に発散する数列であることがすぐにわかります.

αk=1n1ak=1an2anを帰納法で示す.

  1. n=1のとき
    a1=1α+1=m+1
    であり,α1a1=1m1m+1=1m2+m=1a12a1
    なので成立.
  2. n=n1での成立を仮定する,n=nのとき,
    an=1αk=1n11ak+1=an12an1+1=an12an1+1
    であり,αk=1n1ak=1an12an11an=1an11an=1an2an
    なので成立.

よって,an+1=1αk=1n1ak+1=an2an+1
が成り立つ.

次に,αが有理数である場合を考えてみます.

αが有理数であるとき,十分大きなkに対してak+1=ak2ak+1が成立する.

定理2より,
αk=1N1ak=1mなる自然数N,mが存在することを示せば良い.α=p0q0(p0,q0は互いに素)とおき,αk=1n1akを規約分数で表したときの分子と分母をそれぞれpn,qnとする.

αk=1n11ak=pn1qn11an1
であり,とりわけpn1>1のとき等号は成立しないのでanpn1qn1<pn1となる.ここで, 
αk=1n1ak=pn1qn11an=anpn1qn1anqn1
であるから,pn1>1pnanpn1qn1<pn1が成り立つ.よって,数列{pn}pn=1となるまで単調に減少するから,定理は示された.

二重指数関数レベルなら有理数に収束することはほとんどない.

前節で,二重指数関数程度のオーダーならその逆数和が有理数に収束することもあることがわかりました.しかし,このような爆発性を持っており逆数和が有理数に収束するのは実はかなり特殊なケースであり,ある種の一意性が成り立つことがわかります.

{an}を自然数列とする.
limna1a2anan+1=c
なる定数cが存在する時,無限和
k=11ak
が有理数に収束するならば,十分大きなkに対してak+1=ak2ak+1が成り立つ.
また,その極限値をαとするとcαは整数となる.

An=a1a2anとする.自然数p,qを用いて

k=11ak=pq
と書くとする.自然数nを任意にとり両辺にqAnをかけると,

qk=1nAnak+qk=1Anan+k=pAn
となる.ここでf(n):=k=1Anan+kとおく.左辺の第1項と右辺は常に整数であるから,qf(n)も常に整数である必要がある.

sn:=supknAkak+1とおく.

f(n)=k=1Anan+k=Anan+1+Anan+1k=1i=1k11an+i
であり,
Anan+1<f(n)=Anan+1+Anan+1k=2i=1k11an+i sn+snk=2i=1k11an+i sn+snk=11an+k=sn+sn(qpk=1n1ak)
である.ここで最左辺と最右辺はともにncに収束するので,はさみうちの原理より,
limnf(n)=c  limnqf(n)=qc
となる.ここで,すべての自然数nに対してqf(n)が整数であることから,qcが整数で,十分大きなnに対しqf(n)=qcが成り立つ必要がある(ε-N論法で証明できる).よって,cαは整数となり,十分大きなnに対して
k=1nAnak+f(n)=pqAn    k=1nAnak+c=pqAn
k=1n1ak+ca1a2an=pq
あとは変形を繰り返すだけで証明できる.まず,両辺nn+1としたものとの差をとって,
1an+1+(ca1a2an+1ca1a2an)=0
1an+1=ca1a2anan+11an+1
また,両辺でnn1としたものとの比をとると,
anan+1=1anan(an+11)an+1(an1)
an(an1)=an+11
an+1=an2an+1
となるから,定理は示された.

これを使えば,最初に示した
k=01a2k,  k=01a2k+1,  k=01F2k
などの値が無理数であることが分かります.なぜなら,分母の数列{ak}は,
limka0a1ak1ak<をみたしており,十分大きなkに対して,ak+1=ak2ak+1を満たさないからです.

いかがでしたでしょうか.さらに強い主張が成り立つとか,関連する話題があれば気軽にコメントしていただけると喜びます.

参考文献

投稿日:2023731
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