この記事では,リー群上の左不変ベクトル場と右不変ベクトル場の関係についてまとめておきます.多分どっかの教科書には書いてあると思うんですが,今まで知らなかったので備忘録として書いておきます.
記法の確認も込めて,基本的な事実から書いておきます.
$G$をリー群とし,$g \in G$に対して$L_g,R_g:G \to G$を左移動,右移動とします.$G$上のベクトル場$X \in \X(G)$が
$$ L_{g,\ast}(X) = X \quad (\forall g \in G)$$
を満たすとき左不変ベクトル場といい,
$$ R_{g,\ast}(X) = X \quad (\forall g \in G)$$
を満たすとき,右不変ベクトル場と言います.
$G$上の左不変ベクトル場全体を$\X^L(G)$,右不変ベクトル場全体を$\X^R(G)$と書くことにします.左(右)不変ベクトル場は単位元での接ベクトル$\in T_eG=\g$で決まってしまうので,ベクトル空間として$\X^L(G) \cong \g, \X^R(G) \cong \g$です.
$X,Y \in \X^L(G)$に対して$[X,Y] \in \X^L(G)$なので,$\X^L(G)$には自然にリー代数の構造が入ります.そこで,$\X^L(G) \cong \g$の同型を通して$\g$にリー代数の構造を入れることができます.具体的には,$X,Y \in \g$に対して
$$ [X,Y]_\g := [X^L,Y^L]_e$$
と定めます.ここで$X^L$は$X$から生成された左不変ベクトル場を表しています.同様に,$X$から生成される右不変ベクトル場を$X^R$と表すことにします.
では$X^L$と$X^R$の間に何か明示的な関係式はあるでしょうか.次の命題がその答えです.
$\iota \colon G \to G, g \mapsto g^{-1}$を逆元をとる写像とする.このとき$ \iota_{\ast}(X^L)=-X^R$が成り立つ.
任意の$g \in G$に対して
$$ (\iota_{\ast}X^L)_g = \iota_{\ast} L_{g^{-1},\ast} X = (\iota \circ L_{g^{-1}})_{\ast}(X) = (R_g \circ \iota)_{\ast}(X) = -R_{g,\ast}(X) = -X^R_g$$
となることから従う.ここで$\iota_{\ast}(X) = -X$であることを用いた(例えばトゥー多様体 問15.6を参照).
左不変ベクトル場$X^L,Y^L \in \X^L(G)$に対して$[X^L,Y^L]_e = [X,Y]_\g$となることは定義から明らかです.
上の結果を用いることで右不変ベクトル場のリーブラケットを計算することができます.
$X,Y \in \g$に対して$[X^R,Y^R]_e = -[X,Y]_\g$が成り立つ.
$$ [X^R,Y^R]_e = [-\iota_{\ast}(X^L),-\iota_{\ast}(Y^L)]_e = \iota_{\ast}[X^L,Y^L]_e = -[X,Y]_\g$$
またこれらのことからベクトル場のレベルで
$$ [X^L,Y^L] = [X,Y]^L_\g,\quad [X^R,Y^R] = -[X,Y]^R_\g$$
が成り立つことがわかります.