僕がスライドを作るときに守ってることを備忘録として残しておこうと思います.ここに書いてあることをすべてこなしたら本番はすごいリラックスして望めました(今日発表があった).流石に自分も前の番は心臓をぎゅっとつかまれて足がすくむような感覚がありましたが,それでも自分の番でどうなるんだという焦燥感で頭がいっぱいになることはなかったです.やっぱり練習積むのは正義なんだなぁとも思います.
でもこれをすべてやるのは後輩見てる感じ難しそうなんで一種の極限なんだと思ってもいいです.ここから摂動してあなたのできるちょうどいいところを探しましょう.少なくともここまで準備すればあまり緊張しないで済むと思いますよ.
順番をまず提示します。
1.テーマを決める。
2.アブストラクトを作る。
3.章立てる。
4.章の数で発表時間を割ってさらに1分・1.5分・2分で割ることで、大体のその章に賭けていいかを見積もる。
5.タイトルを作る。
まずは兎にも角にもテーマを決めましょう。何に関して、発表するのか?それに沿ってアブストラクト、つまり概要を作成します。概要を作れば頭の中の構想が固まってきますので、次はその構想を基に3~5個の章に分けてみましょう。そこまですれば大体何枚スライドを用意するかが見えてきます。具体的には前述したとおりに求められると思います。1分はかなり早口、1.5分がちょうどいい、2分がかなり遅め、という風に思っておきましょう。しかし数学のスライドは文字数が多くなりがちですから、2分を超えてしまうこともあるかもしれません。個人的にそういうスライドは悪いスライドだと思っているのですが、まああくまで参考値と思うといいです。平均で1.5分になるよう目指しましょう。タイトルを作るのはおまけです。あらかじめ決まっていればそれでいいですし、論文と同じにしてもいいわけです。
具体的に僕の発表で例示します。用語は知らなくてもいいです。
まずテーマは「Cuspidal cross capの平行曲面」としました。アブストはどっかいったw作ってないかもw章立ては
1.イントロダクション
2.距離二乗関数について
3.分岐集合について
4.平行曲面の特異性について
多分知らない言葉ばっかでしょうから簡単に解説すると、1で研究のモチベや言葉の確認、先行研究の確認をします。2は今回の研究で主役になった手法の解説ですね。どんな性質があって、何を利用したのか?を話しました。3,4は今回の研究で得られた結果、要は一番話したいことですね。
まとめると、何を知りたいか、なぜ知りたいか? → 言葉・記号の確認 → 主役な手法を説明 → それを使って得られたことの説明という順番で構成しておけば間違いはないです。あとは必要なものをカスタマイズしていけばいいわけです。研究史とかopen problemとか。
数学の発表は40分なとこが多いですし、僕も今までは大体そうでした。4つ主題を用意したので一つの主題辺り10分、スライド枚数は10枚、6.7枚(理想)、5枚となるわけです。なんとなく作っても8枚かなぁと見積もるわけです。
タイトルに関しては捻らず「Parallel Surface of Cuspidal Cross cap」。後述する理由でスライドを作るときは英語で統一しています。
まず、先ほどの章立てに従って各々で話すことを箇条書きでまとめていきましょう。その指針を頼ってスライドを書いていきます。
スライドを作るときの大原則。一文は英語なら二行、日本語なら1行まで。そんな長々書いても聴講者頭に入ってこないと思ってます。長々と書いちゃうと可読性著しく下がるし、じゃあ発表者いらなくね?ともなっちゃいますよ。話すという意味を維持しておきましょう。
数学ですから数式に頼るべきなんですがこれは僕の先生の哲学を踏襲していて「面倒くさくて長ったらしい計算は見せないで、直感的に理解できる結果のみを見せる」というのを信条としています。人の話を聞くってことは本来大変なことはわかっていると思います。これは大学の先生や学生も実は変わんないんです。特に計算をfollowするのは特に厳しいと思いましょう。例えばある曲面を実現する写像$f:\mathbb{R}^2\rightarrow \mathbb{R}^3$に対して定まる族
$$\Phi(s,t, p,r,s, \varepsilon) := || f(s,t) - (p,q,r) ||^2 - \varepsilon^2\ \ ((p,q,r)\in\mathbb{R}^3,\varepsilon\in\mathbb{R})$$
を距離二乗関数と言いますが、これの判別集合は次で定義されます。
$$\mathcal{D}(f) := \qty{(p,q,r,\varepsilon)\in\mathbb{R}^4\ |\ ^\exists(s,t)\in\mathbb{R}^2 \text{ s.t. }\Phi = \frac{\partial \Phi}{\partial s}=\frac{\partial \Phi}{\partial t}=0 }$$
これを計算していくと次のようになります。
$$\begin{array}{rcl}
D(f) &:=& \qty{(p,q,r,\varepsilon)\in\mathbb{R}^4\ |\ ^\exists(s,t)\in\mathbb{R}^2 \text{ s.t. }\Phi = \frac{\partial \Phi}{\partial s}=\frac{\partial \Phi}{\partial t}=0 }\\
&=& \qty{(p,q,r,\varepsilon)\in\mathbb{R}^4\ |\ ^\exists(s,t)\in\mathbb{R}^2 \text{ s.t. }<\frac{\partial f}{\partial s}, f(s,t)-(p,q,r)>=<\frac{\partial f}{\partial t}, f(s,t)-(p,q,r)>=\Phi=0 }\\
&=& \qty{(p,q,r,\varepsilon)\in\mathbb{R}^4\ |\ ^\exists(s,t)\in\mathbb{R}^2 \text{ s.t. } f(s,t)-(p,q,r)=^\exists\lambda\nu,\ || f(s,t) - (p,q,r) ||^2 = \varepsilon^2 }\\
&=& \qty{(p,q,r,\varepsilon)\in\mathbb{R}^4\ |\ ^\exists(s,t)\in\mathbb{R}^2 \text{ s.t. } (p,q,r) = f(s,t) -\varepsilon\nu }\\
\end{array}$$
から平行曲面をatteinしていることがわかります!ね?嫌でしょ?こういう計算を読み上げる人いるけど聞いてる側追うの無理ですよ。そしたら「距離二乗関数$\Phi$の分岐集合を定義から計算していくと、平行曲面になることがわかります」の方が聞いてる側はストレスなく聞けますよ。一応突っ込まれたときに答えらるようにするため、計算を載せておくとは言え。
特に僕は特異点論の微分幾何学よりな発表をするので重い計算の先にある綺麗な結果を紹介する必要があります。こういう重い計算は相手に見ないのが大事です。
英語でスライド書いた方がいいってことを話します。今後色々な研究会で講演する可能性があるかもしれませんが、その場合日本でやる国際学会ならスライドは英語で発表は日本語でやることも多いと思います。そうすると違う言語でスライドを書いてしまうとそのスライドを流用することができなくなります。互換性が落ちてしまうため統一しておいた方が後々楽って話です。どうせ英語で論文書くことになるんで練習しておけばいいでしょう。
ちなみに英訳すときはchatGPTをフル活用します。英語が第一言語でない日本人が英作文するよりAIに任せた方が質がいい。チェックコストは代わりにかかりますがね。
これは僕の哲学ですが、強調で色を使うのは好きません。単純に美しくないと思ってしまうだけなんですが。強調しないような内容をスライドに載せなければいいんじゃない?とも思っちゃいます。まあ聴講者の記憶に残しやすいという側面もあるので強くは否定しませんが僕は美しくないと思うので使いません。
そんな僕が先生に言われて途轍もなく大事でややこしい式が何回もスライドに出てくるのですがそれをついに強調表示してしまいました…時に自分の哲学を崩すことも大事。
最後にスライド作りは1か月前に完成させましょう。発表の質を上げるのもそうですし、スライドには必ず間違いがあります。それを訂正するためにも事前に確認する時間が必要です。またどうせ毎日練習することなんてできないんですから、毎週1回ずつと考えればそのくらい前もって作っておくのが吉だと思いますよ。
さて、章立てた時内容を箇条書きにしておくの例示をしておきましょう。
1.イントロダクション
・研究のモチベ
・Fukuiの標準形について(先行研究)
・Cuspidal edgeの不変量について(先行研究)
・平行曲面の幾何学(先行研究)
2.距離二乗関数について
・判別集合と平行曲面の関係(先行研究)
・距離二乗関数の計算
・距離二乗関数が各特異点になる条件
3.分岐集合について
・A型D型に関する配置
・A型が退化するときの条件
・すべてを合わせた分岐集合
4.平行曲面の特異点について
・グラフについて
・D型になる場合
・Sajiの判定法(先行研究)
・Swallowtailが合わさる?
・標準形について
といった感じです。もちろんスライド描いてる間に順番を入れ替えたりもしていいです。実際2の判別集合と平行曲面の関係は最初に持っていきました。
発表の練習は五回くらいやることを目安にしよう。練習する前にスライドに修正案を書き込めるようにgood noteか印刷したやつを手元に置いておきましょう。
1回目は台本をしっかり書いてそれを読み上げながら時間の確認をします。少し早いくらいが理想です。台本読み上げながらですし、聴講者の様子を見ながら補足を追加していくのに時間を使うので発表時間の9割未満8割以上を目指しておきましょう。それ以下ならスライドを追加してみたり。先生に見せてみるタイミングはここでいいでしょう。路線変更する必要があれば準備しすぎると無駄になりますし、あまりみすぼらしいものを見せても先生の時間を奪うことになってしまうので、出来をマシにしてから見せてみましょう。多分先生の哲学を交えた大量の修正が入るのでへこたれずに、自分の好みに合わて取捨選択しながらスライドを調整していこう。
2回目は台本を見ずにスライドだけを見て台本をその場で作りながら練習してみましょう、台本を見ちゃいけないですよ?台本作る意味ないじゃないかと思うかもしれないですが、ある場面での表現を頭の中でアンカーしておくことで話すときスムーズにいくわけです。ということで慣れないうちは台本を作って練習していきましょう。慣れるようになるのは助教になってからかなぁ…この練習に自信なければ3回目からでもいいですね。
3,4回目はスライドの微調整です。このタイミングで友達とか後輩に見てもらうのもいいでしょう。実際自分の発表はわかりやすいか?わかりにくいとこはどこか?ということをヒアリングしてそれをフィードバックすることでどんどんいい発表になるでしょう。
5回目の練習は発表の前日の最終調整です。これまであった発表のことで類似していることがあれば、そのことを伝えることで発表同士のつながりが明確化し、さらに意味ある発表になるでしょうし、前の講演で理解したことを聴講者が使えるかもしれないので、理解度が増します。
数学の発表で特徴的なことは、たとえ発表途中でも聴講者が疑問に思ったことは発表を遮っても質問が飛んできます。心の準備をしておきましょう。でも恐れることはありません。その質問はあなたの発表を理解したいがためにしていることです。興味なければ質問などせずにうたた寝してるでしょうから。講演の最後の質問も同様です。世の中の分野にはパワハラまがいな質問が飛んでくることもあるようですが、僕の分野にはそういう質問はありません。たぶん数学全体がそうなんじゃないかな?ただ解析辺りはわからないかな。飲み会で権威主義なところあるみたいに聞いたし。
再度繰り返しますが質問されたことは聴講者が、論文を出版したときに読むであろう人が、興味を持っていることです。関連した論文に質問された内容の答えを追加しておいた方がいいでしょう。
発表の仕方も実に多様で、スライド・手書きスライド・板書・good noteに板書・スライド板書併用というのを見たことがあります。トポロジーの人は手書きが多いかな?図が大変なんだろうなぁ。先生が板書していて、その生徒も板書していれば「嗚呼、お弟子さんだなぁ…」とニヤニヤしてしまいます。受け継ぐものがあるっていいですよね。
発表に込めることとして、目次とか研究史を載せる人もいます。僕は目次を表示しながらモチベとか話したいことを説明する派閥ですね。あとスペースだいぶ開くのでスライドを共有するためのQRコードを貼っておくのもいいですね。話題が変わるごとに目次を表示して今自分が話したいことは何なのかを明示しておく人もいます。研究史は自分の研究が今までの研究の中でどこらへんに位置付けられるのか?何がわかっていて、何が分かっていないのかを明確にしてくれます。載せないにしても人に説明できるくらいにはなっとくといいでしょう。研究に参入している人が沢山いれば、まとめておくと立ち位置が明確になりますよ。
最後にスクリーンセイバーの話をしておきます。例えばスライドと板書を併用するとき、パソコンをいじらない時間が長くなりますが、そうすると自動的にスリープに移行してしまいます。そういう機能はスクリーンセイバーの時間をいじればオフにできたり制限時間が伸びたりします。
「スタート」→「設定」→「個人設定」→「ロック画面」→「スクリーンセイバー」→「待ち時間」
の順番で弄ればいいです。充電が少ない時は短い時間でスリープになりますので、設定を弄っておくか、充電を切らさない努力をしましょう。
最後に僕のスライドを見せておきましょう。具体例があったほうがいいですよね。僕の哲学が存分に表れているので自分ナイズドしてみてください。