こんにちは、微小です。
今回は、抽象的単体複体の定義のばらつきについて整理しようと思います。
幾何学を少しかじった方は、単体複体という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
よく想像されるのは、Euclid空間上の一般の位置にある点の凸包である単体たちが"うまく"組み合わさった「幾何学的単体複体」だと思います。
今回扱うのは、さらにその点と組み合わせ構造を一般化した「抽象的単体複体」というもので、位相幾何学や組み合わせトポロジーなどで重要な概念です。
実はこの概念、文献によって定義の仕方や流儀に非常にばらつきがあるため、整理しておこうというのがこの記事の目的です。
まずはじめに、最も広い意味での抽象的単体複体を定義します。
つまり、
(1)
(2)
(3)
次は
実際のところ、
無限集合の場合を考えなくても特に支障はないので、これ以降
ここまでで、「自分の知っている定義と少し違う」と感じた方もいるかもしれません。なので、その疑問を解決すべく、ここからちょっとずつ定義を改造して、定義の差異を埋めていきたいと思います。
その前に、少し用語を定義しておきます。
(1)
(2) 単体
(3) 単体
(4)
(5)
定義をしたので、具体例で確認します。
単体の元の個数とその次元が
準備が整ったので、さっそく本題にいきましょう。
抽象的単体複体の定義に、次のような条件が加えられていることがあります。
(★)
かなり多くの文献で、この条件をつけて定義している印象があります。
この条件によって変わるのは、
例1の
最初の定義による頂点集合は
つまり、最初の定義では「先に単体複体を考え、後で頂点集合を定義する」のに対し、(★)の定義では「先に頂点集合が与えられ、それを全部使うように単体複体を定義する」という気持ちがあるということです。
なので、
詳しくは知りませんが、例えばデータ解析などでは先にデータが与えられるため、そのデータをすべて使うような単体複体の定義の仕方が生まれたのかもしれません。
ということで、一つ目は頂点集合の違いについてでした。
抽象的単体複体の定義に、次のような条件が加えられていることがあります。
(★★)
見てわかるように、(★★)の定義では、
特に言及していませんでしたが、最初の定義では必然的に
(★★)の定義では、例1(1),(3)は抽象的単体複体ではなくなってしまいます。
この「空単体を認めるかどうか」の流儀は文献や個人によって好みが分かれるところとなっています。
私は色々議論できるほど詳しくないのですが、空単体を認めると2つの抽象的単体複体から構成される"ジョイン"の記述が楽だとか、簡約ホモロジーに都合がよいとか、そういった話は聞きます。
単純に空単体を認めない定義を採用してもあまりいいことはないという話もあります。私も空単体は認めてもいいと思っています。
ということで、二つ目は空単体の違いについてでした。
最初の定義を採用する場合、次のような極端な例を考えることもできます。
(1)
(2)
極端ではありますが、定義を満たすのでこれらもちゃんと抽象的単体複体です。
emptyの次元は定義から
(★)の条件下では、必ず
(★★)の条件下では、voidは抽象的単体複体になりますが、emptyは抽象的単体複体になりません。
voidを抽象的単体複体にしたくない場合は、定義に条件
このように、極端な例が定義に含まれるかどうかは、その後の議論にかかわるので、しっかり見極める必要があります。
以上のことをまとめると、
定義1を雛形として、
(★)の条件がついている場合・・・
(★★)の条件がついている場合・・・空単体とemptyは認めず、voidは認める
条件
ということになります。
どの定義がいいというものはありませんし、結局その文献を読むのにはその文献の定義で話をするのが一番だと思います。ですが、こういった事情も知っておくとよいかもしれません。
これから議論の対象となる一番最初の概念の定義にこんなにもバリエーションがあると、なかなか大変ですね。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。