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2026年 東京大学 理系数学 第1問

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2026年 東京大学 理系 第1問
  1. 関数 $f(\theta)=\sin\theta-\theta+\dfrac{\theta^3}{6}$ の区間 $-1\leqq\theta\leqq1$ における最大値 $M$ および最小値 $m$ を求めよ。
  2. (1)で定めた $M$ に対し,次の不等式を示せ。

$$ \frac78\pi\leqq\int_0^{2\pi}\sin(\cos x-x)\,dx\leqq\frac78\pi+4M $$

以下、$I:=\displaystyle\int_0^{2\pi}\sin(\cos x-x)\,dx$、$E:=\displaystyle\int_0^{2\pi}\cos x\,f(\cos x)\,dx$ とおく。

1. 問題の構造

1.1 補助関数 $f$ の読み方

定義式を移項すると

$$ \sin\theta=\theta-\frac{\theta^3}{6}+f(\theta) $$

となる。すなわち $f(\theta)$ は、$\sin\theta$ を3次多項式 $\theta-\theta^3/6$ で近似したときの誤差である。

一方、設問 (2) の被積分関数には $\cos x$ が現れ、その値域 $[-1,1]$ は設問 (1) で $f$ を調べる区間と一致する。したがって設問 (1) は、$f(\cos x)$ を評価するための準備と読める。

着眼点

前問で導入された関数の考察区間が、後問に現れる式の値域と一致しているときは、後問でその関数に代入する設計である可能性が高い。本問では $\cos x\in[-1,1]$ と $f$ の考察区間 $[-1,1]$ が対応している。

1.2 設問 (1) の見通し

$f'(\theta)=\cos\theta-1+\dfrac{\theta^2}{2}$ の符号は直接には見えないが、さらに微分すると $f''(\theta)=\theta-\sin\theta$、$f'''(\theta)=1-\cos\theta\geqq0$ となり、3階で符号が確定する。そこから $f''\to f'$ と逆向きに符号を決めればよい。

この過程で、$f$ について次の3種類の情報が得られる。

  • 単調性:$f$ は $[-1,1]$ で単調増加である(prop-extrema)。
  • 奇関数性:$f(-\theta)=-f(\theta)$ であり、特に $m=-M$ となる。
  • 凸性:$f(0)=f'(0)=f''(0)=0$ かつ $[0,1]$ で $f''\geqq0$ だから、$f$ は $[0,1]$ で下に凸である。

本解は単調性と奇関数性のみを用いる。凸性まで用いると上界が改良できる( 3.5 節 )。

1.3 設問 (2) の見通し:位相に残る $x$ を消す

被積分関数 $\sin(\cos x-x)$ の位相には $-x$ が残っているため、このまま $t=\cos x$ と置換しても簡単にならない。そこで、置換の前に位相の $-x$ を消す。加法定理より

$$ \sin(\cos x-x)=\cos x\,\sin(\cos x)-\sin x\,\cos(\cos x) $$

であり、第2項は $\dfrac{d}{dx}\sin(\cos x)$ に等しいから、1周期にわたる積分で消える(lem-phase)。こうして $I=\int_0^{2\pi}\cos x\,\sin(\cos x)\,dx$ となり、ここで初めて $\theta=\cos x$ として設問 (1) の $f$ と接続する。

1.4 定数 $\frac78\pi$ の由来

$\sin(\cos x)=\cos x-\dfrac{\cos^3x}{6}+f(\cos x)$ を代入すると、主要部分の積分は

$$ \int_0^{2\pi}\left(\cos^2x-\frac{\cos^4x}{6}\right)dx=\pi-\frac16\cdot\frac{3\pi}{4}=\frac78\pi $$

となる(lem-split)。つまり $\frac78\pi$ は、近似 $\sin t\approx t-\frac{t^3}{6}$ の主要部分を積分した値である。

逆に、問題文の $\dfrac78\pi$ を $\pi-\dfrac16\cdot\dfrac{3\pi}{4}$ と分解できることに気づけば、$\cos^2x-\dfrac16\cos^4x$ という被積分関数を予想することもできる。

具体的な定数への着目

不等式や積分の問題に具体的な定数が現れたら、標準的な積分値からその定数を逆算できないかを考えるとよい。

1.5 誤差項の符号と大きさ

$I=\dfrac78\pi+E$ と分離できれば、示すべきことは $0\leqq E\leqq4M$ である。

ここで $|f(\theta)|\leqq M$ だけからは $|E|\leqq4M$ しか得られず、下界 $E\geqq0$ は出ない。下界に必要なのは符号の情報であり、それは「$f$ が単調増加で $f(0)=0$」から従う

$$ \theta f(\theta)\geqq0\qquad(-1\leqq\theta\leqq1) $$

である。これが本問の論証の核心である。

1.6 解法の系列

$I=\dfrac78\pi+E$ の形に至った後、誤差の評価は大きく二つの系列に分かれる。

  • 系列 I:$\sin t=t-\dfrac{t^3}{6}+f(t)$ をそのまま用い、$E$ を $f$ の言葉で評価する(本解、参考解1、参考解2)。
  • 系列 II:部分積分によって $\cos(\cos x)$ を出し、$\cos t=1-\dfrac{t^2}{2}+f'(t)$ を用いて評価対象を $f'$ に移す(別解)。

2. 本解

2.1 方針

  1. $f'''\geqq0$ から段階的に $f'\geqq0$ を導き、$M,m$ を求める。
  2. 加法定理と完全微分により、位相の $-x$ を消す。
  3. $\sin\theta=\theta-\dfrac{\theta^3}{6}+f(\theta)$ に $\theta=\cos x$ を代入し、$I=\dfrac78\pi+E$ と分離する。
  4. $0\leqq\theta f(\theta)\leqq M|\theta|$ を用いて $0\leqq E\leqq4M$ を示す。

2.2 設問 (1) の解答

設問 (1) の解

$f$ は $[-1,1]$ 上で狭義単調増加な奇関数であり、

$$ M=f(1)=\sin1-\frac56,\qquad m=f(-1)=\frac56-\sin1. $$

特に $m=-M$、$M>0$ である。

$\sin\theta$、$\theta$、$\theta^3$ はいずれも奇関数だから、$f(-\theta)=-f(\theta)$ である。微分すると

$$ f'(\theta)=\cos\theta-1+\frac{\theta^2}{2},\qquad f''(\theta)=\theta-\sin\theta,\qquad f'''(\theta)=1-\cos\theta. $$

$[-1,1]$ において $\cos\theta=1$ となるのは $\theta=0$ のときに限るから、$\theta\neq0$ で $f'''(\theta)>0$ である。よって $f''$ は狭義単調増加であり、$f''(0)=0$ と合わせて

$$ f''(\theta)<0\quad(-1\leqq\theta<0),\qquad f''(\theta)>0\quad(0<\theta\leqq1). $$

したがって $f'$ は $[-1,0]$ で狭義単調減少、$[0,1]$ で狭義単調増加であり、$f'(0)=0$ より $\theta\neq0$ で $f'(\theta)>0$ である。ゆえに $f$ は $[-1,1]$ で狭義単調増加であり、最大値・最小値はそれぞれ端点でとる。

$$ M=f(1)=\sin1-1+\frac16=\sin1-\frac56,\qquad m=f(-1)=-f(1)=\frac56-\sin1. $$

また狭義単調増加性より $M=f(1)>f(0)=0$ である。

2.3 設問 (2) の解答

位相の消去

$$ I=\int_0^{2\pi}\cos x\,\sin(\cos x)\,dx $$

加法定理より $\sin(\cos x-x)=\cos x\,\sin(\cos x)-\sin x\,\cos(\cos x)$ である。$\dfrac{d}{dx}\sin(\cos x)=-\sin x\,\cos(\cos x)$ だから

$$ \int_0^{2\pi}\sin x\,\cos(\cos x)\,dx=\Bigl[-\sin(\cos x)\Bigr]_0^{2\pi}=-\sin1+\sin1=0. $$

よって主張を得る。

主要項と誤差項の分離

$$ I=\frac78\pi+E $$

$f$ の定義に $\theta=\cos x$ を代入すると $\sin(\cos x)=\cos x-\dfrac{\cos^3x}{6}+f(\cos x)$ である。これを lem-phase に代入して

$$ \begin{aligned} I&=\int_0^{2\pi}\left(\cos^2x-\frac{\cos^4x}{6}\right)dx+\int_0^{2\pi}\cos x\,f(\cos x)\,dx\\ &=\pi-\frac16\cdot\frac{3\pi}{4}+E=\frac78\pi+E. \end{aligned} $$

ここで $\cos^2x=\dfrac12+\dfrac12\cos2x$、$\cos^4x=\dfrac38+\dfrac12\cos2x+\dfrac18\cos4x$ より、$\displaystyle\int_0^{2\pi}\cos^2x\,dx=\pi$、$\displaystyle\int_0^{2\pi}\cos^4x\,dx=\dfrac{3\pi}{4}$ を用いた。

誤差項の評価

$$ 0\leqq E\leqq4M $$

prop-extrema より $f$ は単調増加で $f(0)=0$ だから、$\theta$ と $f(\theta)$ は同符号であり、$\theta f(\theta)\geqq0$ である。また $m=-M$ より $|f(\theta)|\leqq M$ である。したがって

$$ 0\leqq\theta f(\theta)=|\theta|\,|f(\theta)|\leqq M|\theta|\qquad(-1\leqq\theta\leqq1). $$

$\theta=\cos x$ として $[0,2\pi]$ で積分すると、$\displaystyle\int_0^{2\pi}|\cos x|\,dx=4$ より

$$ 0\leqq E\leqq M\int_0^{2\pi}|\cos x|\,dx=4M. $$

lem-split と lem-error より、

$$ \boxed{\frac78\pi\leqq\int_0^{2\pi}\sin(\cos x-x)\,dx\leqq\frac78\pi+4M} $$

が示された。

3. 別解と参考解

3.1 設問 (1) の単調性の他の示し方

いずれも目標は $f'(\theta)\geqq0$ である。

方法A:高階導関数まで微分する

本解の方法である。$f'''\geqq0$ まで微分し、初期値を用いて $f''\to f'$ と戻る。最も標準的で、答案として安定する。

方法B:半角公式による変形

$1-\cos\theta=2\sin^2\dfrac{\theta}{2}$ より

$$ f'(\theta)=\frac{\theta^2}{2}-2\sin^2\frac{\theta}{2}=2\left\{\left(\frac{\theta}{2}\right)^2-\sin^2\frac{\theta}{2}\right\}. $$

基本不等式 $|\sin u|\leqq|u|$ から直ちに $f'(\theta)\geqq0$ を得る。短いが、この基本不等式を既知として使えることが前提となる。

方法C:非負量の反復積分

$f$ が奇関数だから $f'$ は偶関数であり、$\theta\geqq0$ で示せば十分である。$f''(0)=f'(0)=0$ より、$\theta\geqq0$ で

$$ f''(\theta)=\int_0^\theta(1-\cos u)\,du\geqq0,\qquad f'(\theta)=\int_0^\theta f''(u)\,du\geqq0. $$

方法Aの「高階導関数から戻る」操作を、積分として表したものである。

方法D:Taylor の定理

$f'(0)=f''(0)=0$ だから、Lagrange 剰余つきの Taylor の定理より、各 $\theta$ に対して $0$ と $\theta$ の間の $\xi$ が存在して

$$ f'(\theta)=\frac{f'''(\xi)}{2}\,\theta^2=\frac{1-\cos\xi}{2}\,\theta^2\geqq0. $$

背景を最もよく表す方法だが、試験答案としては方法AまたはBが書きやすい。

3.2 位相の $x$ を消す他の方法

$g(x):=\sin(\cos x-x)$ とおく。$g$ は周期 $2\pi$ をもつ連続関数だから、$\displaystyle\int_0^{2\pi}g(x+\pi)\,dx=\displaystyle\int_0^{2\pi}g(x)\,dx$、$\displaystyle\int_0^{2\pi}g(2\pi-x)\,dx=\displaystyle\int_0^{2\pi}g(x)\,dx$ が成り立つ。本解の加法定理と完全微分による方法を方法Aとして、次の二つがある。

方法B:半周期ずらし

$\cos(x+\pi)=-\cos x$ より

$$ g(x+\pi)=\sin(-\cos x-x-\pi)=\sin(\cos x+x). $$

和積公式より $g(x)+g(x+\pi)=2\cos x\,\sin(\cos x)$ だから

$$ I=\frac12\int_0^{2\pi}\bigl\{g(x)+g(x+\pi)\bigr\}\,dx=\int_0^{2\pi}\cos x\,\sin(\cos x)\,dx. $$

方法C:反射

$g(2\pi-x)=\sin(\cos x-2\pi+x)=\sin(\cos x+x)$ であり、方法Bと同じ形に到達する。変換は異なるが、対称化によって $x$ を消すという発想は共通している。

3.3 別解:部分積分で誤差を $f'$ に移す

本解では誤差を $f$ のまま評価した。部分積分を用いると、評価対象を $f$ から $f'$ へ移すことができる。

誤差項の $f'$ による表示

$$ I=\frac78\pi+4\int_0^1\sqrt{1-t^2}\,f'(t)\,dt $$

lem-phase において $\cos x=(\sin x)'$ とみて部分積分すると

$$ \begin{aligned} I&=\Bigl[\sin x\,\sin(\cos x)\Bigr]_0^{2\pi}-\int_0^{2\pi}\sin x\cdot\bigl(-\sin x\,\cos(\cos x)\bigr)\,dx\\ &=\int_0^{2\pi}\sin^2x\,\cos(\cos x)\,dx. \end{aligned} $$

この被積分関数は周期 $\pi$ をもつから、$I=2\displaystyle\int_0^{\pi}\sin^2x\,\cos(\cos x)\,dx$ である。$0\leqq x\leqq\pi$ で $t=\cos x$ とおくと、$\sin x=\sqrt{1-t^2}\geqq0$、$dt=-\sin x\,dx$ だから

$$ I=2\int_{-1}^{1}\sqrt{1-t^2}\,\cos t\,dt=4\int_0^1\sqrt{1-t^2}\,\cos t\,dt. $$

最後の等号は被積分関数が偶関数であることによる。$\cos t=1-\frac{t^2}{2}+f'(t)$ を代入すると

$$ I=4\displaystyle\int_0^1\sqrt{1-t^2}\left(1-\frac{t^2}{2}\right)dt+4\int_0^1\sqrt{1-t^2}\,f'(t)\,dt. $$

$\displaystyle\int_0^1\sqrt{1-t^2}\,dt=\frac{\pi}{4}$(四分円の面積)、および $t=\sin\varphi$ として $\displaystyle\int_0^1t^2\sqrt{1-t^2}\,dt=\int_0^{\pi/2}\sin^2\varphi\cos^2\varphi\,d\varphi=\frac{\pi}{16}$ より、第1項は $4\left(\dfrac{\pi}{4}-\dfrac{\pi}{32}\right)=\dfrac78\pi$ である。

prop-fprime と lem-split を比べると、$E=4\displaystyle\int_0^1\sqrt{1-t^2}\,f'(t)\,dt$ であり、二つの解法は同じ量 $E$ の異なる表示を評価していることが分かる。

prop-extrema より $[0,1]$ で $f'\geqq0$ であり、$0\leqq\sqrt{1-t^2}\leqq1$ だから

$$ 0\leqq4\int_0^1\sqrt{1-t^2}\,f'(t)\,dt\leqq4\int_0^1f'(t)\,dt=4\bigl(f(1)-f(0)\bigr)=4M. $$

これで題意の不等式を得る。

評価対象の階層を移す

部分積分の後に現れる $\cos(\cos x)$ は、$f'(t)=\cos t-1+\frac{t^2}{2}$ を通じて設問 (1) と直結している。評価しにくい量が現れたときは、$f$、$f'$、$f''$、$\int f$ のどの階層なら既知の情報と接続できるかを考えるとよい。部分積分は、評価対象の階層を移す道具でもある。

3.4 参考解1:対称性による折り畳み

$q(x):=\cos x\,f(\cos x)$ とおく。$f$ は奇関数だから

$$ q(x+\pi)=(-\cos x)\,f(-\cos x)=q(x),\qquad q(\pi-x)=(-\cos x)\,f(-\cos x)=q(x). $$

前者より $\displaystyle\int_0^{2\pi}q=2\int_0^{\pi}q$、後者より $\displaystyle\int_0^{\pi}q=2\int_0^{\pi/2}q$ であるから

$$ E=4\displaystyle\int_0^{\pi/2}\cos x\,f(\cos x)\,dx. $$

$0\leqq x\leqq\dfrac{\pi}{2}$ では $0\leqq\cos x\leqq1$、したがって $0\leqq f(\cos x)\leqq M$ だから

$$ 0\leqq E\leqq4M\int_0^{\pi/2}\cos x\,dx=4M. $$

符号が一定の区間への帰着

符号の扱いが面倒な積分は、対称性によって符号が一定の区間へ移せないかを考える。$[0,2\pi]$ 上の周期積分では、$x\mapsto\pi-x$、$x\mapsto x+\pi$、$x\mapsto2\pi-x$ を試す価値が高い。

3.5 参考解2:凸性による上界の改良

改良された上界

$$ 0\leqq E\leqq\pi M $$

したがって $\dfrac78\pi\leqq I\leqq\dfrac78\pi+\pi M<\dfrac78\pi+4M$ である。

$[0,1]$ で $f''(\theta)=\theta-\sin\theta\geqq0$ だから $f$ は $[0,1]$ で下に凸である。$f(0)=0$、$f(1)=M$ より、$0\leqq\theta\leqq1$ に対して

$$ f(\theta)=f\bigl((1-\theta)\cdot0+\theta\cdot1\bigr)\leqq(1-\theta)f(0)+\theta f(1)=M\theta. $$

$f$ は奇関数だから $|f(\theta)|\leqq M|\theta|$ $(-1\leqq\theta\leqq1)$ であり、$\theta f(\theta)\geqq0$ と合わせて $0\leqq\theta f(\theta)\leqq M\theta^2$ を得る。$\theta=\cos x$ として積分すると

$$ 0\leqq E\leqq M\int_0^{2\pi}\cos^2x\,dx=\pi M. $$

最後の狭義不等式は、$\pi<4$ と $M>0$(prop-extrema)による。

数値的には $E\approx0.0160$ に対し、$\pi M\approx0.0256$、$4M\approx0.0326$ である。

関数の形に関する情報の再利用

極値問題では最大値・最小値だけを回収して終わりがちだが、途中で得た単調性・凸性・対称性といった関数の形に関する情報が、後続の評価で効くことがある。

3.6 同じ系列に属する変形

$f(\theta)/\theta$ の単調性

$0<\theta\leqq1$ で $h(\theta):=f(\theta)/\theta$ とおくと $h'(\theta)=\dfrac{\theta f'(\theta)-f(\theta)}{\theta^2}$ である。分子を $k(\theta)$ とおくと $k(0)=0$、$k'(\theta)=\theta f''(\theta)\geqq0$ だから $k\geqq0$ であり、$h$ は単調増加する。よって $f(\theta)\leqq h(1)\,\theta=M\theta$ を得る。結論は prop-convex の証明と同じであり、独立した別解とするには値しない。

逆正弦型の表示

参考解1の式で $t=\cos x$ と置換すると、広義積分として

$$ E=4\int_0^1\frac{t\,f(t)}{\sqrt{1-t^2}}\,dt $$

と書ける。$0\leqq f(t)\leqq M$ と $\displaystyle\int_0^1\frac{t}{\sqrt{1-t^2}}\,dt=1$ から $0\leqq E\leqq4M$ を得る。評価の対象は $f$ 自身であり、本解と同じ系列に属する。

3.7 解法の比較

方法中心となる発想計算量論証量主な注意点実戦での使いやすさ
本解$f$ をそのまま誤差として評価小小$\cos x$ の符号高
別解部分積分で $f'$ へ移すやや大やや大置換区間と補助積分中
参考解1対称性で正の領域へ折り畳む小中4倍できる根拠高
参考解2凸性で上界を改良小中弦と接線の混同中

本解は、$I=\dfrac78\pi+E$ に至った後、$0\leqq\theta f(\theta)\leqq M|\theta|$ という一つの評価で符号と大きさを同時に処理できる。設問 (1) で求めた $M$ を直接使い、追加の置換積分や凸性を必要としない点で、問題の誘導を最も素直にたどる解法である。

4. 汎用的な探索手順

誘導つきの積分評価問題では、次の順序が有効である。

  1. 前問で定義された関数の考察区間と、後問に現れる式の値域を照合する。
  2. 前問の定義式を「既知の主要部分+誤差」の形に解き直す。
  3. 代入を妨げる変数があれば、加法定理・対称性・完全微分などで先に除く。
  4. 問題文の具体的な定数を、標準的な積分値から逆算してみる。
  5. 誤差について、符号・絶対値・対称性・単調性・凸性のどれが使えるかを調べる。
  6. 直接の評価が重ければ、部分積分によって $f$、$f'$、$f''$ など別の階層へ移せないかを考える。
方法論の要約

与えられた補助関数を機械的に代入するのではなく、その補助関数が何の誤差を表しているか、どの変形をすれば後問と接続するかを読む。

5. 発展

5.1 Taylor 展開との関係

$\sin\theta=\theta-\dfrac{\theta^3}{6}+\dfrac{\theta^5}{120}-\dfrac{\theta^7}{5040}+\cdots$ より

$$ f(\theta)=\dfrac{\theta^5}{120}-\dfrac{\theta^7}{5040}+\cdots $$

であり、$f$ は $\sin\theta$ の3次 Taylor 近似の剰余である。同様に $f'(\theta)=\cos\theta-1+\dfrac{\theta^2}{2}=\dfrac{\theta^4}{24}-\cdots$ は、$\cos\theta$ の2次 Taylor 近似の剰余である。したがって本解と別解は、それぞれ $\sin$ の剰余と $\cos$ の剰余を評価していると解釈できる。

5.2 非負性の反復積分による伝播

$f(0)=f'(0)=f''(0)=0$ だから、積分形の剰余項つき Taylor の定理より

$$ f'(t)=\int_0^t(t-u)(1-\cos u)\,du,\qquad f(t)=\dfrac12\int_0^t(t-u)^2(1-\cos u)\,du. $$

$t\geqq0$ ではこれらの被積分関数が非負だから、$f'(t)\geqq0$、$f(t)\geqq0$ が直ちに従う。高階導関数を順に調べる操作は、最も基本的な非負量 $1-\cos u$ を積分によって蓄積していく操作とみなせる。

5.3 円に由来する二つの重み

別解に現れた重み $\sqrt{1-t^2}$ は単位円の上半分の高さであり、$\displaystyle\int_0^1\sqrt{1-t^2}\,dt=\frac{\pi}{4}$ は四分円の面積である。一方、 3.6 節 の逆正弦型の表示には、逆向きの重み $\dfrac{1}{\sqrt{1-t^2}}$ が現れる。いずれも変数変換 $t=\cos x$ に由来し、それぞれ $dx$ の側を $\sin x\,dx$ で表すか $dt$ で表すかの違いに対応している。

5.4 Bessel 関数による厳密値

Euler の公式により

$$ I=\operatorname{Im}\int_0^{2\pi}e^{i\cos x}\,e^{-ix}\,dx $$

であり、これは $e^{i\cos x}$ の Fourier 係数を取り出す積分である。Jacobi–Anger 展開 $$ e^{iz\cos x}=\displaystyle\sum_{n\in\mathbb{Z}}i^nJ_n(z)e^{inx} $$ を用いると、
$$ \displaystyle\int_0^{2\pi}e^{i\cos x}e^{-ix}\,dx=2\pi i\,J_1(1) $$
より

$$ I=2\pi J_1(1) $$

を得る。ここで $J_1$ は第1種 Bessel 関数であり、$J_1(1)=\displaystyle\sum_{k\geqq0}\dfrac{(-1)^k}{k!\,(k+1)!\,2^{2k+1}}=\frac12-\frac1{16}+\frac1{384}-\frac1{18432}+\cdots$ だから

$$ I=\pi-\dfrac{\pi}{8}+\dfrac{\pi}{192}-\frac{\pi}{9216}+\cdots. $$

最初の2項の和が $\dfrac78\pi$ であり、$E=\dfrac{\pi}{192}-\dfrac{\pi}{9216}+\cdots\approx0.0160$ となる。

$E$ の主要項 $\dfrac{\pi}{192}$ は、$f(\theta)$ の主要項 $\dfrac{\theta^5}{120}$ から
$$ \dfrac1{120}\displaystyle\int_0^{2\pi}\cos^6x\,dx=\frac1{120}\cdot\frac{5\pi}{8}=\frac{\pi}{192} $$
として得られるものと一致する。

5.5 パラメータつきの一般化

$F(a):=\displaystyle\int_0^{2\pi}\sin(a\cos x-x)\,dx$ とおくと、同様にして $F(a)=2\pi J_1(a)$ である。$a\to0$ で

$$ F(a)=\pi a-\frac{\pi}{8}a^3+O(a^5) $$

となり、本問は $a=1$ の場合にあたる。$\dfrac78\pi$ はこの展開の最初の2項に $a=1$ を代入した値である。

6. 最終整理

本問の中心は複雑な計算ではなく、次の判断の連鎖である。

$$ \begin{aligned} &f\text{ は }\sin\theta\text{ の3次近似の誤差:}\ \sin\theta=\theta-\tfrac{\theta^3}{6}+f(\theta)\\ &\Downarrow\\ &\cos x\in[-1,1]\text{ から }f(\cos x)\text{ の出現を予想}\\ &\Downarrow\\ &\sin(\cos x-x)\text{ の位相 }-x\text{ を先に消す}\\ &\Downarrow\\ &I=\tfrac78\pi+E\text{ と分離}\\ &\Downarrow\\ &E\text{ の符号と大きさを評価} \end{aligned} $$

  • 本解は、誤差を $f$ のまま評価する。
  • 別解は、部分積分によって誤差を $f'$ へ移す。
  • 参考解1は、対称性によって符号が一定の区間へ折り畳む。
  • 参考解2は、凸性を用いて上界を $\frac78\pi+\pi M$ に改良する。
結語

補助関数が何の誤差を表しているかを読み、その構造が見える形まで後問を変形する。そこまでできれば、本問の不等式は自然に現れる。

投稿日:14日前
更新日:4日前
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