この記事は、「アーベルモノイド及びその上のグロタンディーク群の紹介」です。内容のレベルは大学数学で、ジャンルは代数学(モノイド論・群論)です。群論にある程度親しみがあることを仮定しています。
モノイド、グロタンディーク群といった聞きなれない言葉をタイトルに書きました。
この記事は、これらの概念に関して説明を述べるものですが、慣れない言葉について述べられた記事を読もうという気にはそうならないに違いありません。
したがって、まず初めに「この記事で扱いたい内容の動機づけ」となる内容を述べるところから始めたいと思います。
この記事では、自然数は $0$ を含むものとします。また、$\mathbb{N}$, $\mathbb{Z}$ でそれぞれ自然数の全体、整数の全体を表します。
我々は、今まで数の世界の拡張を幾度となく行ってきました。
大雑把にはこういうところだと思います(多分実際には「小学校で非負の範囲で有理数まで作ってから、中学校で整数・有理数を作りきる」という流れを踏んだものと思いますが、話の都合上上の形としておきます)。
2.以降はおおむね次のような形で定式化できると耳にするものと思います(下記は定式化の一例)。
2.環の局所化
3.距離空間の完備化
4.多項式環のイデアルによる剰余体
1.、つまり「整数をどのように作るのか」について考えてみます。
自然数が与えられたとき、そこから整数を構成する方法はないものでしょうか?
実は下記のような構成で整数を与えることができます。初見では不思議に思う定義ですが、追って詳解します。
$\mathbb{N} \times \mathbb{N}$ 上に同値関係 $\sim$ を次のように与える。
$$(m_{1},\ n_{1}) \sim (m_{2},\ n_{2}) \overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow} m_{1} + n_{2} = m_{2} + n_{1}$$
この時、商集合 $(\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ は整数と「同じ」ものである。
これはあくまで「ラフ・スケッチ」であることに注意してください。
即ち、ここで構成されてものが本当に整数なのかどうかはまだわかりません。ここで構成したものと我々の良く知る整数が「同じ」かどうかがまだ判断できないためです。
本来数学的対象が同じものかどうか(同型かどうか、と言ってもよい)は、「その数学的対象をどのような構造を持ったものとして見ているのか」に依存します。例えば、整数の集合と有理数の集合は、「集合」という数学的構造としてしか見なければ「同じもの(全単射がある、対等な集合)」ですが、「可換環」という数学的構造を持つ対象としてみなすと「違うもの(同型写像が伸びない、非同型な環)」です。したがって、何も数学的構造を定めていない現時点では「同じ」かどうかはナイーブに・ラフにしか考えることができないことに注意してください。
実際には、ここで扱わないだけで、上記の構成は群・環・順序集合といった多くの数学的構造の下で「整数と同じ」ことが証明できる、自然な構成であることが知られています。
ですがここでは、「直感的にどういうことが確認できれば、上の対象が整数と同じと思えるか」という心理的な面に重点を置いて、次の点を確認するにとどめることにします。
元の一対一対応と演算の保存がわかれば、我々は多少でも「同じかもしれないな」という気分が抱けるものと思います。通常群や環などの代数系でよくやっていることです。
上記の点を、以降で確認していきます。
まず、「命題 $1$ で定義した関係 $\sim$ が同値関係であること」を示しておきます。
$\mathbb{N} \times \mathbb{N}$ 上に関係 $\sim$ を次のように定義する。
$$(m_{1},\ n_{1}) \sim (m_{2},\ n_{2}) \overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow} m_{1} + n_{2} = m_{2} + n_{1}$$
このとき $\sim$ は同値関係である。
示すべきことは次の $3$ 点である。
3.のみが非自明である。
$\mathbb{N}$ において簡約律が成り立つこと、即ち命題「勝手な自然数 $m, n, k$ に対し、$m + k = n + k$ ならば $m = n$ が成り立つ」が成り立つことに注意せよ(証明は対偶を見よ)。
今、$m_{1} + n_{2} = m_{2} + n_{1}$ 及び $m_{2} + n_{3} = m_{3} + n_{2}$ が成り立つが、これより $m_{1} + n_{3} + (m_{2} + n_{2}) = m_{3} + n_{1} + (m_{2} + n_{2})$ である。後は簡約律によればよい。
次に、「我々の知っている整数は、上の構成における同値類として、どのように構成されているのか」を確認します。
結論から述べると、通常の整数 $\nu$ は、「差 $m - n$ が $\nu$ に等しい $m,\ n$ の同値類 $\overline{(m,\ n)}$」として与えられます。
命題としてまとめると次の通りです。
次の写像は well-defined な全単射である。:
$$\mathbb{Z} \rightarrow (\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim \ : \ \nu \mapsto \text{(差 $m - n$ が $\nu$ に等しいような $(m,\ n)$ の同値類)}$$
まず、well-defined を確かめる。
整数 $\nu$ に対し、$(m_{1},\ n_{1}),\ (m_{2},\ n_{2})$ がともに「差が $\nu$ である整数のペア」であったとする。この時、$m_{1} - n_{1} = m_{2} - n_{2}$ なので $m_{1} + n_{2} = m_{2} + n_{1}$ であり、よって $2$ つのペアは同値である。
次に、単射性を見る。
整数 $\nu, \mu$ の像 $\overline{(m_{1},\ n_{1})},\ \overline{(m_{2},\ n_{2})}$ が一致したとする。すると、それらの代表元 $(m_{1},\ n_{1}),\ (m_{2},\ n_{2})$ は同値である。よって $m_{1} + n_{2} = m_{2} + n_{1}$ より $\nu = m_{1} - n_{1} = m_{2} - n_{2} = \mu$ である。
最後に、全射性を見る。勝手な同値類 $\overline{(m,\ n)}$ をとる。この代表元 $(m,\ n)$ を一つ取り、$\nu = m - n$ とすると、その像は $\overline{(m,\ n)}$ である。
具体例で割り当てを見てみます。正の数・$0$・負の数がどう書かれるかを観察してみます。
整数 $3$ に対応するのは「差 $m - n$ が $3$ に等しい $(m,\ n)$ の同値類」ですが、簡単なものとして $\overline{(3,\ 0)}$ があります。一般に正の数 $n$ は下記と同じものです。 $$\overline{(m,\ 0)} = \overline{(m + 1,\ 1)} = \cdots = \overline{(m + k,\ k)}$$
整数 $0$ には $\overline{(0,\ 0)}$ が対応します。より一般には $\overline{(k,\ k)}$ の形の同値類です。
ここまでのことから、「自然数 $m$ に対して、$\overline{(m,\ 0)}$ を割り当てる」写像 $\mathbb{N} \rightarrow (\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ が考えられます。$m = n \Longleftrightarrow \overline{(m,\ 0)} = \overline{(n,\ 0)}$ なのでこれは単射です。したがって、これをもって「商集合 $(\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ は $\mathbb{N}$ を含む」ということができます。この点は「$(\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ は整数」という感じを強めます。
負の数はどうでしょうか。
整数 $-2$ に対するものとして、$\overline{(0,\ 2)}$ があります。一般に、自然数 $n$ について、整数 $-n$ は $\overline{(0,\ n)}$ に対応することになります。
視覚的には下記の要領です。
$3, 0, -2$ に対応する直線
自然数のペア $(m,\ n)$ に対し、「点 $(m,\ n)$ を通る傾き $1$ の直線 $l$ (i.e. $y = x + (n - m)$)」を引きます。すると、$l$ 上にある「成分が非負である格子点」は全て整数のペアとして $(m,\ n)$ に同値です。
$(m,\ n)$ と同値なペアは全て $l$ 上にあります。よって $l$ は $(m,\ n)$ の同値類 $\overline{(m,\ n)}$ を表現し、結果として次の一対一対応が得られます。
$$(\text{整数 $m - n = \nu$}) \leftrightarrow (\text{差 $m - n$ が $\nu$ である $(m,\ n)$ の同値類 $\overline{(m,\ n)}$}) \leftrightarrow (\text{直線}\ y = x - (m - n) = x - \nu)$$
$l$ と $x$ 軸との交点を見ると整数が一つ得られます。この整数が命題 $3$ の全単射によって $(m,\ n)$ の同値類 $\overline{(m,\ n)}$ と対応する整数です。
また、$l$ と $y$ 軸との交点にも目を向けてみます。$l$ が負の整数に対応する場合、その $y$ 切片は $y$ 軸上の正の部分に位置します。$y$ 軸上の整数 $1, 2, 3, \ldots$ にたいして、これを通る直線が $-1, -2, -3, \ldots$ に対応しています。
実数直線 $\mathbb{R}$ は「原点に垂直に、虚数単位を点 $(0,\ 1)$ に置く」ことで複素平面への拡大を得ました。同様に、非負整数半直線 $\mathbb{N}$ は「原点に垂直に、負の数 $-k$ を点 $(0,\ k)$ に置く」ことで整数の配備に成功した、と見ることができます。
最後に、「我々が普段整数で行っている和・積といった演算は、上の構成における商集合でも再現できるのか」を確認します。
実際にはうまく再現できます。即ち、「商集合 $(\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ に和・積を定義できる。その上で、一つ前に存在を示した全単射は和・積を保存する」ことが証明できます。
商集合に和・積が、$\mathbb{Z}$ 上のそれの再現となるように定まるとしたら、それはどういうものであるべきでしょうか?
同値類 $\overline{(m,\ n)}$ は整数 $m - n$ でした。そうであれば、商集合において「$2$ つの要素 $\overline{(m_{1},\ n_{1})}$ と $\overline{(m_{2},\ n_{2})}$ の和・積」は$\mathbb{Z}$ において「対応する $2$ 要素 $m_{1} - n_{1}$ と $m_{2} - n_{2}$ の和・積」であるはずです。
考察を進める上で「整数 $m_{1} - n_{1}$ と $m_{2} - n_{2}$ の和・積が、常に『何かしらの $\overline{(m,\ n)}$ に対応する整数』の形でかけるか」が気になるポイントです。
「商集合の同値類は自然数の差である」ことがわかっているのですから、「整数 $m_{1} - n_{1}$ と $m_{2} - n_{2}$ の和・積を自然数の差として書き表す」ことを目標にこの点を詳しく見ていきたいと思います。「これらの整数の和・積が自然数 $M,\ N$ によって $M - N$ と書けたなら、それは $\overline{(M,\ N)}$ と対応するのだ」と考えるのです。
早速やってみようと思います。
$(m_{1} - n_{1}) + (m_{2} - n_{2}) = (m_{1} + m_{2}) - (n_{1} + n_{2})$ です。
よって $\overline{(m_{1},\ n_{1})}$ と $\overline{(m_{2},\ n_{2})}$ の和は、$\overline{(m_{1} + m_{2},\ n_{1} + n_{2})}$ とすればよさそうです。
また、
$(m_{1} - n_{1}) \cdot (m_{2} - n_{2}) = (m_{1}m_{2} + n_{1}n_{2}) - (m_{1}n_{2} + n_{1}m_{2})$ です。
よって $\overline{(m_{1},\ n_{1})}$ と $\overline{(m_{2},\ n_{2})}$ の積は、$\overline{(m_{1}m_{2} + n_{1}n_{2},\ m_{1}n_{2} + n_{1}m_{2})}$ とすればよさそうです。
正当性のためには、これらが well-defined であること(つまり、代表元の取り方によらず演算結果が一意に定まること)の証明が必要です。しかしながら、この点はここでは認めることにします。
また、演算というからにはもちろん結合法則や交換法則・単位的であることといった種々の性質を確かめたくなります。しかしながら、ここではそれらの証明も行いません。「上記の和・積は結合的・可換・単位的である」という事実を言及するに留めることにします。ここでこれら基本的な性質の証明を行わないのは、この記事の後の方で「アーベルモノイドのグロタンディーク群」というより一般的な枠組みに対してこれらを拡張し、証明を与えるためです。
これから「$\mathbb{Z}$ と $(\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ との間に与えた全単射は和・積を保存する」ことを証明します。これが確認できたならば、一つ前の内容を踏まえて「$(\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ は整数の集合と自然に同一視でき、しかもその対応は演算を保存する」ことが言えたことになります。
命題 $3$ で与えた次の全単射は和・積を保存する。
$$\mathbb{Z} \rightarrow (\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim \ : \ \nu \mapsto \text{(差 $m - n$ が $\nu$ に等しいような $(m,\ n)$ の同値類)}$$
主張で述べた全単射 $\mathbb{Z} \rightarrow (\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ を $\varphi$ で表す。
勝手な整数 $\mu,\ \nu$ をとり、これらが $\varphi$ によってそれぞれ $\overline{(m_{1},\ n_{1})}$ と $\overline{(m_{2},\ n_{2})}$ に対応するとする。そして、これらについて代表元 $(m_{1},\ n_{1}),\ (m_{2},\ n_{2})$ を一つずつ取る。よって $m_{1} - n_{1} = \mu,\ m_{2} - n_{2} = \nu$ である。
まず和が保たれることを見る。$\varphi(\mu + \nu) = \varphi(\mu) + \varphi(\nu)$ を示す。
右辺の計算結果は次のとおりである。
$$\varphi(\mu) + \varphi(\nu) = \overline{(m_{1},\ n_{1})} + \overline{(m_{2},\ n_{2})} = \overline{(m_{1} + m_{2},\ n_{1} + n_{2})}$$
$\overline{(m_{1} + m_{2},\ n_{1} + n_{2})}$ に対応する整数が $\mu + \nu$ であればよい。計算すると、$(m_{1} + m_{2}) - (n_{1} + n_{2}) = (m_{1} - n_{1}) + (m_{2} - n_{2}) = \mu + \nu$ であるから $\varphi(\mu + \nu) = \varphi(\mu) + \varphi(\nu)$ が言えた。
次に積が保たれることを見る。$\varphi(\mu \cdot \nu) = \varphi(\mu) \cdot \varphi(\nu)$ を示す。
右辺の計算結果は次のとおりである。
$$\varphi(\mu) \cdot \varphi(\nu) = \overline{(m_{1},\ n_{1})} \cdot \overline{(m_{2},\ n_{2})} = \overline{(m_{1}m_{2} + n_{1}n_{2},\ m_{1}n_{2} + n_{1}m_{2}))}$$
$\overline{(m_{1}m_{2} + n_{1}n_{2},\ m_{1}n_{2} + n_{1}m_{2}))}$ に対応する整数が $\mu \cdot \nu$ であればよい。計算すると、$(m_{1}m_{2} + n_{1}n_{2}) - (m_{1}n_{2} + n_{1}m_{2}) = (m_{1} - n_{1}) \cdot (m_{2} - n_{2}) = \mu \cdot \nu$ であるから $\varphi(\mu \cdot \nu) = \varphi(\mu) \cdot \varphi(\nu)$ が言えた。
「自然数から整数を作る手続き」を見てきました。以降では、この手続きを「アーベルモノイド」という代数系に対して一般化していきます。
先の話題における「自然数」にフィットするフレームワークとして「モノイド」という代数系があります。
$M$ を集合とし、$\cdot$ をその上の演算とする。
組 $(M,\ \cdot)$ がモノイドであるとは、その上の演算 $\cdot$ が結合的かつ単位的であるときをいう。
さらに、モノイド $(M,\ \cdot)$ は、その上の演算 $\cdot$ が可換であるときアーベルモノイドであるという。
一言でいえば、「群から演算の可逆性を落とした代数系」がモノイドです。
群はもちろんモノイドの具体例です。モノイドであって群でないものものも多く存在し、その典型例が「自然数の集合 $\mathbb{N}$ とその上の和の組 $(\mathbb{N},\ +)$ 」です(再度の注意:ここでは $0$ を含むものとしています)。
また、環 $(A,\ +,\ \cdot)$ が与えられたとき、その中から積だけを取り出して組 $(A,\ \cdot)$ を考えれば、これも(大抵の場合)群ではないモノイドです(これが可逆であるのは $A$ が零環であるときのみです)。モノイドは意外とよく出現しうる数学的構造です。
以降では非可換モノイドは扱いません。よって簡単のために、これより先は「モノイドと言ったらアーベルである」という仮定を置くことにします。演算が可換であることを仮定したので、以降は $\cdot$ ではなく $+$ を用いて、加法的に演算を表現していくことにします。また、非可換群も扱いません。よって「群と言ったらアーベルである」という仮定も置くことにします。
「自然数から整数を作る構成」においては、$\mathbb{N}$ の直積に適当な同値関係を入れることで、「整数と思える対象」を作ってきました。それは結局のところ負の数、即ち逆元を作る操作でした。同じことを一般化したフレームワークであるモノイドに適用したならば、「自然数から整数を得る手続きと同等の自然さで」何らかの群を生み出しうることが期待できます。もちろんできる群には可換性も望みたいところです。
実際に「同じようにすれば群が作れる」ことを定理の形で保証します。次を証明します。
$(M,\ +)$ をモノイドとする。
直積 $M \times M$ 上に関係 $\sim$ を次のように与える。
$$(m_{1},\ n_{1}) \sim (m_{2},\ n_{2}) \overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow} \text{適当な $M$ の元 $k$ に対して、} \ \ m_{1} + n_{2} + k = m_{2} + n_{1} + k$$
この時、次が成り立つ。
証明に入る前に、「整数の構成」と比べて同値関係 $\sim$ の定義が微妙に変わっていることについて注意しておこうと思います。
ここでの定義では $M$ の元 $k$ が新たに現れています。この $k$ を導入した理由は「一般のモノイドにおいては(それがアーベルである場合においてさえ)簡約律が成り立たないから」です。
整数の構成では、推移律を証明する際に、簡約律の成立を仮定していました。これがあるからこそ先ほどの構成では最終的に結論である $(m_{1},\ n_{1}) \sim (m_{3},\ n_{3})$ にたどり着けたのですが、一般のモノイドで同じことをやろうとすると、必ずしも簡約律が成り立ちえないため論理が破綻します(例えばモノイド $(\mathbb{Z},\ \cdot)$ では $0$ の存在により $m \cdot k = n \cdot k$ から $m = n$ が出せないので、破綻する)。
したがって、関係の定義を多少緩める必要があり、それが結果として「$\text{適当な $M$ の元 $k$ に対して、} \ \ m_{1} + n_{2} + k = m_{2} + n_{1} + k$」 というものになった形です。これは簡約律を成立させはしないものの、それに代わって「定義した関係が推移律を満たす」ことを保証します。
この辺りは環論における局所化に似ているかもしれません(整数から有理数を出す構成をまねて一般の環で逆元を与えようとしたら、零因子の存在により同値関係の定義に変更を加えざるを得なくなった)。ただ、もちろん「緩めた」といってもモノイド $(\mathbb{N},\ +)$ と同様に簡約律の成り立つモノイドにおいては、上記の関係の定義は「$k$ なし版の関係」の定義と同値になるので、結局同じ作業をしていることになります。
以降の証明において、$0$ で $M$ の単位元を表す。
(1)次の $3$ つを示す。
1.について、$m + n + 0 = m + n + 0$ なので $(m,\ n) \sim (m,\ n)$ とわかる。
2.について、適当な $k \in M$ に対して $m_{1} + n_{2} + k = m_{2} + n_{1} + k$ なので、 $m_{2} + n_{1} + k = m_{1} + n_{2} + k$ であり、即ち $(m_{2},\ n_{2}) \sim (m_{1},\ n_{1})$ である。
3.について、まず適当な $k, l \in M$ によって次が成り立っている。
$$m_{1} + n_{2} + k = m_{2} + n_{1} + k, \ \ m_{2} + n_{3} + l = m_{3} + n_{2} + l$$
これより、$m_{2} + n_{2} + k + l \in M$ に対して、次の等式が成り立つとわかる。
$$m_{1} + n_{3} + (m_{2} + n_{2} + k + l) = m_{3} + n_{1} + (m_{2} + n_{2} + k + l)$$
即ち、$(m_{1},\ n_{1}) \sim (m_{3},\ n_{3})$ である。
(2)$\overline{(m_{1},\ n_{1})}$ の代表元を $(m_{1},\ n_{1}), \ (\mu_{1},\ \nu_{1})$ とする。また、$\overline{(m_{2},\ n_{2})}$ の代表元を $(m_{2},\ n_{2}), \ (\mu_{2},\ \nu_{2})$ とする。この時、$(m_{1} + m_{2},\ n_{1} + n_{2}) \sim (\mu_{1} + \mu_{2},\ \nu_{1} + \nu_{2})$ であることを確かめる。
適当な $k \in M$ によって、$m_{1} + \nu_{1} + k = \mu_{1} + n_{1} + k$ が成り立つ。また、適当な $l \in M$ によって、$m_{2} + \nu_{2} + l = \mu_{2} + n_{2} + l$ が成り立つ。
これより、$k + l \in M$ について、次の等式が成り立つとわかる。
$$(m_{1} + m_{2}) + (\nu_{1} + \nu_{2}) + (k + l) = (\mu_{1} + \mu_{2}) + (n_{1} + n_{2}) + (k + l)$$
即ち $(m_{1} + m_{2},\ n_{1} + n_{2}) \sim (\mu_{1} + \mu_{2},\ \nu_{1} + \nu_{2})$ である。
(3)演算 $\bar{+}$ に関して次の $4$ つを示す。
1.結合的であることを示す。
$G$ の元 $\overline{(m_{1},\ n_{1})},\ \overline{(m_{2},\ n_{2})},\ \overline{(m_{3},\ n_{3})}$ を任意にとる。すると下記のようにして結合律の成立がわかる。
\begin{eqnarray} (\overline{(m_{1},\ n_{1})}\ \bar{+}\ \overline{(m_{2},\ n_{2})})\ \bar{+}\ \overline{(m_{3},\ n_{3})} &=& \overline{(m_{1} + m_{2},\ n_{1} + n_{2})}\ \bar{+}\ \overline{(m_{3},\ n_{3})} \\ &=& \overline{((m_{1} + m_{2}) + m_{3},\ (n_{1} + n_{2}) + n_{3})} \\ &=& \overline{(m_{1} + (m_{2} + m_{3}),\ n_{1} + (n_{2} + n_{3}))} \\ &=& \overline{(m_{1},\ n_{1})}\ \bar{+}\ \overline{(m_{2} + m_{3},\ n_{2} + n_{3})} \\ &=& \overline{(m_{1},\ n_{1})}\ \bar{+}\ (\overline{(m_{2},\ n_{2})}\ \bar{+}\ \overline{(m_{3},\ n_{3})}) \end{eqnarray}
2.可換であることを示す。
$G$ の元 $\overline{(m_{1},\ n_{1})},\ \overline{(m_{2},\ n_{2})}$ を任意にとる。すると下記のようにして可換であることがわかる。
$$\overline{(m_{1},\ n_{1})}\ \bar{+}\ \overline{(m_{2},\ n_{2})} = \overline{(m_{1} + m_{2},\ n_{1} + n_{2})} = \overline{(m_{2} + m_{1},\ n_{2} + n_{1})} = \overline{(m_{2},\ n_{2})}\ \bar{+}\ \overline{(m_{1},\ n_{1})}$$
3.単位的であることを示す。可換であることを示しているので、右単位元の存在を示せば十分。
$\overline{(0,\ 0)}$ が右単位元であることを示す。
$G$ の元 $\overline{(m,\ n)}$ を任意にとる。すると下記のように $\overline{(0,\ 0)}$ が右単位元であることがわかる。
$$\overline{(m,\ n)}\ \bar{+}\ \overline{(0,\ 0)} = \overline{(m + 0,\ n + 0)} = \overline{(m,\ n)}$$
4.可逆であることを示す。可換であることを示しているので、$G$ のどの元についても右逆元が存在することを示せば十分。$G$ の元 $\overline{(m,\ n)}$ を任意にとる。 $\overline{(n,\ m)}$ が右逆元である。これを示す。
勝手な $m, n, k \in M$ に対して、$(m,\ n) \sim (m + k, \ n + k)$ であることに注意する。すなわち勝手な $\overline{(m,\ n)} \in G$ 及び $k \in M$ に対して、$\overline{(m,\ n)} = \overline{(m + k,\ n + k)}$ である。
これに注意すると、下記の計算により主張がわかる。
$\overline{(m,\ n)}\ \bar{+}\ \overline{(n,\ m)} = \overline{(m + n,\ n + m)} = \overline{(0 + (m + n),\ 0 + (m + n))} = \overline{(0,\ 0)}$
命題 $2$ によって得られた群はグロタンディーク群と呼ばれています。
$(M, \ +)$ をモノイドとする。
この時、命題 $2$ の要領で $(M, \ +)$ から構成される群 $(G,\ \bar{+})$ を、(モノイド $(M, \ +)$ の)グロタンディーク群という。
前節の構成の中で、「商集合 $(\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ は $\mathbb{N}$ からの自然な単射を持つ(すなわち、$\mathbb{N}$ を含む)」ことを少し見ていました。
モノイドとそのグロタンディーク群についても同じことが成立します。
まずは、説明のためにモノイドの間に伸びる準同型を定義しておきます。
$(M,\ +_{M}), \ (N,\ +_{N})$ をモノイドとし、$f : M \rightarrow N$ をその間の写像とする。
$f$ が(モノイド)準同型であるとは、それが演算と単位元を保つときを言う。
全単射である(モノイド)準同型を、(モノイド)同型(写像)といい、同型(写像)がその間に伸びる $2$ つのモノイドを同型であるという。
ここでは「モノイドと言ったらアーベルである」という仮定をしていますが、モノイド準同型は特にこの仮定がない場合でも同様に定義されることに注意します。
また、群と違って単位元の保存が要請されている点にも注意します。
群の場合には、「準同型が演算を保てば、演算の可逆性から、準同型は単位元を保つ」という事実がありました。したがって、群においては準同型に単位元の保存を課す必要はありませんでした。
しかしながら、モノイドではこのようなことは成り立ちません。即ち、モノイドの間の準同型が演算を保つからと言って、それが必ずしも単位元を保つとは期待できません。例えば、自然数の集合とその上の積からなるモノイド $(\mathbb{N}, \ \cdot)$ において、「すべての元を $0$ に送る」写像を考えます。これは演算は保っているものの、乗法単位元である $1$ は保たれていません。
「代数系の間の準同型は、その代数構造における主要な演算を保っていてほしい」という期待があります。例えば、群 $(G, \ \cdot)$ においては、二項演算 $\cdot$ や「逆元をとる」という一項演算、「単位元」という零項演算の保存が期待されています。結果的に定義として課すことが不要になることはあるにせよ、これらの保存は主要命題です。これが満たされない写像は準同型と呼ぶべきではなく、よって上記のような例を排除すべく、単位元の存在は明示的に課されねばなりません。
閑話休題。モノイドから得られるグロタンディーク群は、前節の構成において述べたものと同様に、もとのモノイドを次の意味で「含み」ます。
$(M,\ +)$ をモノイドとし、$(G,\ \bar{+})$ をそのグロタンディーク群とする。
この時、写像 $\iota: M \rightarrow G: m \mapsto \overline{(m,\ 0)}$ はモノイド準同型である。
演算と単位元の保存をそれぞれ確かめる。
まず、演算を保つことを示す。任意に $m, \ n \in M$ をとる。すると、
$\iota(m)\ \bar{+}\ \iota(n) = \overline{(m,\ 0)}\ \bar{+}\ \overline{(n,\ 0)} = \overline{(m + n,\ 0)} = \iota(m + n)$ である。
次に、単位元を保つことを見る。$\iota(0) = \overline{(0,\ 0)}$ は $G$ の単位元であった。
この $\iota$ のことを自然な射と呼ぶことにします。
自然な射は一見単射に見えますが、実際には「$\mathbb{N}$ からそのグロタンディーク群への自然な単射」とは異なり、一般には必ずしも単射とは限りません(この点は私自身勘違いしていました。これが誤りであることは、コメント欄にて、反例と合わせてハッピーターンさんにご教示いただきました)。
実際、次のような反例が存在します。
「整数における通常の積」を用いて与えられるモノイド $(\mathbb{Z},\ \cdot)$ を考えます。このグロタンディーク群の台集合を $G$ で表します。
このとき、直積集合 $\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}$ の勝手な要素 $(m,\ n)$ は $(0, \ 0)$ と同値です。即ち、集合 $G$ は一元集合であり、自然な射は単射になっていません。
「それでは $\mathbb{N}$ における場合と同様に自然な射が単射になるのはいつなのか?」という疑問が生じると思います。実は、これに関しては次の結果が成り立ちます。こちらもハッピーターンさんにご教示をいただいたものです。興味深い示唆をありがとうございます。
$(M,\ +)$ をモノイドとし、$(G,\ \bar{+})$ をそのグロタンディーク群とする。
このとき、自然な射が単射であることの必要十分条件は、モノイド $M$ において簡約律が成り立つことである。
$\iota: M \rightarrow G$ を自然な射とする。
まず、「自然な射の単射性」から「簡約律の成立」が従うことを示す。
勝手な $M$ の要素 $m, \ n,\ k$ であって $m + k = n + k$ を満たすものをとる。$m = n$ を示す。
$m + 0 + k = n + 0 + k$ が成り立っているので、$(m, \ 0) \sim (n, \ 0)$ 即ち $\iota(m) = \iota(n)$ が成り立つ。$\iota$ の単射性から $m = n$ が従う。
次に、「簡約律の成立」から「自然な射の単射性」が従うことを示す。
勝手な $M$ の要素 $m, \ n$ であって、$\iota(m) = \iota(n)$ を満たすものをとる。$m = n$ を示す。
$\iota(m) = \iota(n)$ 即ち $(m,\ 0) \sim (n,\ 0)$ から、適当な $k \in M$ に対して $m + 0 + k = n + 0 + k$ 、即ち $m + k = n + k$ が成り立つ。簡約律を仮定しているので $m = n$ が従う。
自然な射によって、元のモノイドはそのグロタンディーク群に含まれるとみなせますが、言い換えるとグロタンディーク群はもとのモノイドの拡大になっています。この見方を考えて、以降はグロタンディーク群の演算をもとのモノイドの演算と同じ記号で表すことにします。
さて、この節の冒頭で、「自然数から整数を構成したやり方を、その一般化である(アーベル)モノイドに適用したならば、『自然数から整数を得る手続きと同等の自然さで』何らかの群を生み出しうることが期待できる」旨を書きました。このことを説明しておこうと思います。
何をもって、この群を「自然」というかはいろいろと考えることがあります。ですが例えば「グロタンディーク群は元のモノイドから生成された群である」、すなわち、グロタンディーク群がモノイドから得られる最小構成の群であることが言えれば、「自然に得られた群だ」と言ってよいと思います。このことは次の定理として述べることができます。
$\mathcal{AMon}$ を、(アーベル)モノイドをその対象とし、モノイド準同型をその射として得られる圏とする。
$M$ をモノイドとし、$G$ をそのグロタンディーク群とする。そして、$\iota: M \rightarrow G$ をその間の自然な射とする。この時、組 $(G, \ \iota)$ は $\mathcal{AMon}$ において次の普遍性を満たす。:
任意のアーベル群 $\Gamma$ と射 $f: M \rightarrow \Gamma$ の組 $(\Gamma, \ f)$ に対して、射 $g: G \rightarrow \Gamma$ であって $f = g \circ \iota$ となるものがただ一つ存在する。
$$ \xymatrix{ M \ar[r]^{f} \ar[d]_{\iota} & \Gamma \\ G \ar[ur]_{g} } $$
圏 $\mathcal{AMon}$ に関して注意を述べます。
アーベル群はもちろん $\mathcal{AMon}$ における対象です。また、アーベル群を $\mathcal{AMon}$ の対象と見たとき、その間に伸びる「$\mathcal{AMon}$ における射(つまりモノイド準同型)」は「群準同型」と同じものになります(アーベル群間の写像として、モノイド準同型は演算を保つので群準同型。群準同型は性質として単位元を保つのでモノイド準同型)。
$M$ を含むアーベル群 $\Gamma$ があったなら、その中では $M$ の元に逆元があるはずです。それであれば、結果として $\Gamma$ はグロタンディーク群 $G$ を含むはずです。言い換えれば、「$M$ の拡大となるアーベル群」の中でグロタンディーク群は(包含の意味で)最小であり、結果としてある種の自然さが生じているということになります。
なお、上の説明の中で $\Gamma$ は $M$ を含む、と言いましたが、普遍性の中で $f$ に単射性を課していないので、実際には多少潰れているかもしれないことにも注意しておきます。
始めに、「射 $g$ が存在するとすればそれは何であるべきか」を考えてみる。
要請 $f = g \circ \iota$ によって、$\overline{(m,\ 0)}$ の値は決まってしまう。
実際、これは下記のようにならざるを得ない。
$$g(\overline{(m,\ 0)}) = g(\iota(m)) = g \circ \iota (m) = f(m)$$
また、先の注意より $g$ が群準同型になることを思い出せば、$\overline{(0,\ n)}$ の値も次のように決まる。
$$g(\overline{(0,\ n)}) = g(-\overline{(n,\ 0)}) = -g(\iota(n)) = - g \circ \iota (n) = - f(n)$$
最終的に $G$ の勝手な元 $\overline{(m,\ n)}$ の値は下記のようにならざるを得ない。
$$g(\overline{(m,\ n)}) = g(\overline{(m,\ 0)}) + g(\overline{(0,\ n)}) = f(m) - f(n)$$
ここまでの考察から、一意性は明らかである。存在性を確かめればよい。
上記の考察を踏まえて、所望の射の存在のためには次を示せばよい。
$g$ はアーベル群の間の写像なので、演算の保存を言えば単位元の保存も従う(つまりモノイド準同型となる)ことに注意する。
1.を示す。$G$ の元 $\overline{(m,\ n)}$ を任意にとる。$(m, \ n), \ (\mu, \ \nu)$ をその代表元とする。この時、$f(m) - f(n) = f(\mu) - f(\nu)$ が成り立つことを示す。
適当な $k \in M$ によって $m + \nu + k = \mu + n + k$ が成り立つ。これを $f$ で送ることで、群 $\Gamma$ において $f(m) + f(\nu) + f(k) = f(\mu) + f(n) + f(k)$ である。両辺から $f(n) + f(\nu) + f(k)$ を引けば主張が従う。
2.を示す。$G$ の元 $\overline{(m_{1},\ n_{1})},\ \overline{(m_{2},\ n_{2})}$ を任意にとる。$\overline{(m_{1},\ n_{1})},\ \overline{(m_{2},\ n_{2})}$ から代表元をそれぞれとり、$(m_{1},\ n_{1}), \ (m_{2},\ n_{2})$ とする。
すると、下記のようにして主張が従う。
\begin{eqnarray} g(\overline{(m_{1},\ n_{1})}\ +\ \overline{(m_{2},\ n_{2})}) &=& g(\overline{(m_{1} + m_{2},\ n_{1} + n_{2})})\\ &=& f(m_{1} + m_{2}) - f(n_{1} + n_{2})\\ &=& (f(m_{1}) - f(n_{1})) + (f(m_{2}) - f(n_{2}))\\ &=& g(\overline{(m_{1},\ n_{1})})\ +\ g(\overline{(m_{2},\ n_{2})}) \end{eqnarray}
証明は省略しますが、「グロタンディーク群の(つまりモノイドから得られる最小構成の群の)普遍性を満たす対象と射の組は同型を除いて一意的である」ことが証明できます。このことを利用して、冒頭で構成した「整数と思える商集合」が群として確かに $\mathbb{Z}$ と同じであることを述べておきます。
$((\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim, \ +)$ は群として $(\mathbb{Z}, \ +)$ に同型である。
最初の節で構成した商集合 $(\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim$ とその上に定めた和 $+$ の組 $((\mathbb{N} \times \mathbb{N}) / \sim, +)$ は、$(\mathbb{N}, \ +)$ における簡約律の成立から、グロタンディーク群となっていることに注意する。
$\mathbb{Z}$ と包含写像 $i: \mathbb{N} \rightarrow \mathbb{Z}$ の組 $(\mathbb{Z}, i)$ が $\mathcal{AMon}$ における $(\mathbb{N}, \ +)$ のグロタンディーク群の普遍性を満たすことを示せばよい。
実際、これが証明できれば $\mathbb{Z}$ と 「$\mathbb{N}$ のグロタンディーク群」の間にモノイド同型写像(つまり、全単射モノイド準同型)が伸びる。このモノイド同型写像はアーベル群の間に伸びているので群同型でもある。よって $\mathbb{Z}$ と 「$\mathbb{N}$ のグロタンディーク群」が群としての同型であることが従う。
任意にアーベル群 $\Gamma$ 及び射 $f: \mathbb{N} \rightarrow \Gamma$ の組 $(\Gamma, f)$ をとる。この時、射 $g: \mathbb{Z} \rightarrow \Gamma$ であって $f = g \circ i$ となるものがただ一つ存在することを言えばよい。
まず、$g$ が存在するとすればどのようなものでなければならないのかを考える。
任意に整数 $n$ をとる。$n$ が自然数なら要件 $f = g \circ i$
から、$g(n) = f(n)$ でなければならない。また、$n$ が負の数、すなわち自然数 $\nu$ を用いて $n = -\nu$ と表されるなら、$g$ が群準同型となることから、$g(n) = -f(\nu) = -f(-n)$ でなければならない。
このことから、一意性は明らかである。そして、このように $g$ を定義すれば、実際にそれはモノイド準同型となることも容易である。よって主張が証明できた。
ここでは、「(アーベル)モノイドから自然に得られる群」についての紹介をしました。
誤字・脱字・誤り・コメントのある方はぜひお寄せください。
(2023.12.8)コメント欄にてハッピーターンさんに誤りのご指摘をいただきました。また、「モノイドにおける簡約律の成立と自然な射の単射性が同値となること」もご教示いただきました。どうもありがとうございました。