この記事では 前回の記事 に引き続き超幾何数列の基本事項についてまとめていきます。
さて
前回の記事
では手計算向けのGosper's algorithmこと掃き出し法というものについて解説しました。
しかし掃き出し法はいつでも直感や手に優しいということはなく、例えば
のような数列の扱いには手を焼かすこととなります。
実際この手法においてはわざわざ分母を階乗に書き直して
と変形しなければならず、またこの数列に対応する
という形で求めることになりますが、例えば
と求まるように非常に計算がダルそうであることが見て取れます。
さらにこのように掃き出し法にて求まる
という簡潔な表示を持っており、初めからこのような表示で
そしてそんな近道を実現できるのがAbramov-Petkovšek reductionという手法になります。
Abramov-Petkovšek reduction、以下これを簡約化の手法と呼びます、とは大雑把に言うと
という形に分解したとき、部分分数分解と平行移動を繰り返し用いることで
という掃き出し法で処理しやすい形に帰着させる手法となっています。
と言ってもやることは簡単でまず
と分解します。
この場合においては
を満たすように取ることが最適となります。
そしてこの有理関数部分を部分分数分解したときに
という因子があったとすると、この第一項を
と平行移動させる、あるいは第二項を
と平行移動させることで分母を揃える、というのが主な方針となります。
ただこのとき
とか
とかをそのまま足し合わせても却って煩雑になるだけなので、これを
という形に帰着させられるように一工夫する必要があり、その一工夫こそがこの手法の肝と言えます。
具体的には平行移動する前に部分分数分解を上手く用いるで
とか
という形に変形しておくことができ、この第一項を平行移動させることで
のように計算することができます。
なおその変形の計算にはいくつかの方法があるので詳しくは以下の折り畳みをご覧ください。ただこれを見てもよくわかんないと思うので、計算例を見て学んだ方が早いかもしれません。
とか
と変形する。
・メリット:方法2,3と違って一遍に平行移動できるので考えるのが楽。
・デメリット:分母がデカくなるので部分分数分解の計算が面倒。しばしば最後の式から分子の次数下げをして
方法1を用いて一つずつ平行移動していき
と変形することで
とか、同様にして
と平行移動させる。
・メリット:一回一回の計算は方法1より楽。
・デメリット:
概ね方法2と同様だが、最初から
とか
のように部分分数分解していくことで
とか
という形に帰着させる。
・メリット:方法1,2における分子の次数下げという二度手間が必要ない。
・デメリット:方法2と同じくダルい。方法1のように一遍に平行移動させる手法に拡張できない(多分)。
この手法の便利なところは
という形に帰着され、したがって
という形に簡約化されることにあります。
こうなってしまえば後はこの第一項について掃き出し法を適用することで
そして逆に言えば分母が
という形にしかならないとき、それだけで
このことについては次のような主張によって保証されることとなります。
超幾何数列
が以下の条件
を満しているとき
この条件(iii)は分母
例えば
という表示は
と約分できるため条件(iii)を満たさず、また例えば
という表示は分母の
と延長できるため条件(iv)を満たしません。
例えば定理の条件を満たす数列
を考えたとき、掃き出し法においてこれは
と分解しなければならず、したがって求める
という形になりますが、どのような多項式
となることから
これを一般化したのが以下の証明となります。
条件(ii)-(iv)より掃き出し法において
なる超幾何数列
と分解しなければならないことがわかる。
したがって求める
という形になるが、もし
と表せることになり条件(i)に矛盾。
よって
さて訳のわからん文字式をこねくり回すのはこの辺にして、あとは計算あるのみです。
を求めよ。
と部分分数分解できるので
と平行移動させることで
を得る。
を求めよ。
と部分分数分解でき、また
と変形できるので
つまり
を得る。
をいい感じに変形せよ。
と部分分数分解でき、また
と変形できるので
を得る。
ちなみに簡約化の手法はその特性から次のような無限和を求めるのにも応用することができます。
を求めよ。
を求めよ。
に注意すると
のような形に変形できることが期待できる。
実際
と変形できるので
と表せる。
よって
を得る。
また 第八回の記事 にて紹介したように、簡約化の手法は次のような数列の漸化式を求めるのにも応用できます。ただ以下の計算例を見てもわかるように手計算で実行するのはあまり現実的ではありません。
の満たす漸化式を求めよ。
とおいたとき
および
と変形できることに注意する。
いま
を考える。
に整理できるので
と求まり、以上より
を得る。