今回は受験数学の確率漸化式の問題を多項式・形式的冪級数で倒します.
基本となるのは"状態を多項式で持つ"という考え方です.
形式的冪級数とは多項式の一般化で,項数が有限でなくてもよいです.
"状態を多項式で持つ"
2017年京大理系第6問
を自然数とする.個の箱すべてに,の種類のカードがそれぞれ枚ずつ計枚入っている.各々の箱から枚ずつカードを取り出し,取り出した順に左から並べて桁の数を作る.このとき,がで割り切れる確率を求めよ.
明らかに,条件は出たカードの和がの倍数となると言い換えられます.
いきなりですが次の多項式を考えます.
これを展開した様子を想像してみてください.これは場合の数の計算と同等だと分かります.
例えばのとき,
となり,はカードがと出る場合を表しています.
ということはのの係数の総和を求めればいいと分かります.
このようにを定義しても結果は変わらないので慣れてきたらこのようにするといいかもしれないです.以下これで再定義します.
これは後述する方法によって簡単に求められます.
このように,状態を多項式で持つということが出来ます.ポイントは対象を文字で記録出来ないかと考えることです.
の係数の総和を求める
において,の係数の総和の求め方を解説します.
先に結論を言うと,として,
となります.これは,の解の乗和をとすると
となるためです.これは次の補題から分かります.(この補題の証明:
http://wwu.phoenix-c.or.jp/~tokioka3/k_power/k_power.pdf
)
さて,例に戻ります.いま説明したことを使えば,のの係数の総和は,として,に注意すれば,
と求められます.
練習問題
2020年阪大文系第2問(3)のみ
円周を等分する点を時計回りにとおく.点はから出発し,を以下のように移動する.個のさいころを投げて,の目が出た場合には時計回りに隣の点に移動し,の目が出た場合は反時計回りに隣の点に移動し,その他の目が出た場合は移動しない.さいころを回投げたあとにがに位置する確率をとする.を求めよ.
ヒント
でとしての場所をで記録すると? 2011年一橋大第5問
との人が,個のさいころを次の手順により投げ合う.
- 回目はが投げる.
- の目が出たら,次の回には同じ人が投げる.
- の目が出たら,次の回には別の人が投げる.
- の目が出たら,投げた人を勝ちとしてそれ以降は投げない.
- 回目にがさいころを投げる確率を求めよ.
- ちょうど回目のさいころ投げでが勝つ確率を求めよ.
- 回以内のさいころ投げでが勝つ確率を求めよ.
ヒント
(1)が出来たらあとは計算するだけですね.投げる人をで記録すると? 多変数の多項式を用意する場合
考え方は変わりません.
2023年京大理系第3問
を自然数とする.個のさいころを回投げ,出た目を順にとし,個の数の積をとする.
(1) がで割り切れる確率を求めよ.
(2) がで割り切れる確率を求めよ.
の素因数の個数をで記録しようと考えると,次の多項式が考えられます:
(1)はにおけるの係数の総和,(2)はの係数の総和を求めればいいです.
(1)として,におけるの係数の総和を求めればいいので,定数項がであることに注意すれば
と求められます.
(2) の係数の総和(とおく)から,の係数を求めればいいので
と求められます.
練習問題
2004年東大理系第4問
片面を白色に,もう片面を黒色に塗った正方形の板が枚ある.この枚の板を机の上に横に並べ,次の操作を繰り返し行う.
さいころを振り,出た目がであれば左端の板を裏返し,であればまん中の板を裏返し,であれば右端の板を裏返す.
たとえば,最初,板の表の色の並び方が「白白白」であったとし,回目の操作で出たさいころの目がであれば,色の並び方は「黒白白」となる.さらに回目の操作を行って出たさいころの目がであれば,色の並び方は「黒白黒」となる.
(1) 「白白白」から初めて,回の操作の結果,色の並び方が「黒白白」となる確率を求めよ.
(2) 「白白白」から初めて,回の操作の結果,色の並び方が「白白白」または「白黒白」となる確率を求めよ.
ヒント
で白,黒として板の状態をで記録すると? 練習問題の略解
問題1:として,
問題2(1):として,
問題2(2):
問題2(3):
問題3(2):
として,「白白白」となる確率は
「白黒白」となる確率は
求める確率は
問題3(1):「白黒白」となる確率と同じなので
おわり
今回は幾つかの受験数学の確率漸化式の問題を多項式・形式的冪級数で倒しました.(形式的冪級数は使いませんでしたが.)すべての問題が必ずしも今回の手法で倒せるとは限らないので注意してください.ここまで読んでいただきありがとうございました.