次の5条件は互いに同値である。
(a) $\alpha\notin\mathbb{Q}$.
(b) $r^3=2$ を満たす有理数 $r$ は存在しない。
(c) $r,s\in\mathbb{Q}$ が $r\alpha+s=0$ を満たせば $r=s=0$.
(d) $x^3-2$ は有理数の根をもたない。
(e) $x^3-2$ は $\mathbb{Q}[x]$ において定数でない二つの多項式の積に分解できない($\mathbb{Q}$ 上既約)。
(a)$\Leftrightarrow$(b):実数の立方根の一意性より,$r^3=2$ を満たす実数は $\alpha$ のみである。
(a)$\Leftrightarrow$(c):$\alpha=q\in\mathbb{Q}$ なら $(r,s)=(1,-q)$ が (c) に反する。逆に $r\alpha+s=0$ のとき,$r\neq0$ なら $\alpha=-s/r\in\mathbb{Q}$ であり,$r=0$ なら $s=0$ である。
(b)$\Leftrightarrow$(d):同じ主張である。
(d)$\Leftrightarrow$(e):$x^3-2=LM$($L,M\in\mathbb{Q}[x]$ は定数でない)と分解されれば,$\deg L+\deg M=3$ よりいずれかは1次式であり,その根は有理数で $x^3-2$ の根である。逆に有理数の根 $r$ があれば,因数定理により $x^3-2=(x-r)M(x)$,$M\in\mathbb{Q}[x]$ と分解される。
(c) は $1,\alpha$ が $\mathbb{Q}$ 上一次独立であること,(e) は $x^3-2$ が $\mathbb{Q}$ 上既約であることを表す。3次式の可約性は1次因子の存在と同値であるから,(1) は $x^3-2$ の既約性そのものに等しい。この事実が (2) のすべての解法の背後にある。
$P\in\mathbb{Q}[x]$ を $x^3-2$ で割って $P=(x^3-2)Q+R$ とすれば,$\alpha^3-2=0$ より $P(\alpha)=R(\alpha)$ である。
次の3条件は互いに同値である。
(A) $P\in\mathbb{Q}[x]$ が $P(\alpha)=0$ を満たせば $x^3-2\mid P$.((2) の主張)
(B) $a,b,c\in\mathbb{Q}$ が $a+b\alpha+c\alpha^2=0$ を満たせば $a=b=c=0$.($1,\alpha,\alpha^2$ の $\mathbb{Q}$ 上一次独立性)
(C) $\alpha$ を根にもつ $0$ でない $F\in\mathbb{Q}[x]$ は $\deg F\geqq3$ を満たす。
(A)$\Rightarrow$(B):$R(x)=cx^2+bx+a$ とおくと $R(\alpha)=0$ であるから,(A) より $R=(x^3-2)G$($G\in\mathbb{Q}[x]$)と書ける。$G\neq0$ なら $\deg R\geqq3$ となり矛盾するので $G=0$,よって $R=0$,すなわち $a=b=c=0$ である。
(B)$\Rightarrow$(C):$\deg F\leqq2$ を満たす $F\neq0$ が $F(\alpha)=0$ を満たせば,その係数が (B) に反する。
(C)$\Rightarrow$(A):$P=(x^3-2)Q+R$($R=0$ または $\deg R\leqq2$)とすると $R(\alpha)=P(\alpha)=0$ であり,(C) より $R=0$ である。
したがって (2) の内容は (B) に尽きる。
補題1
(c) は (B) の $c=0$ の場合であり,本問は
$$
\text{1次以下の有理係数の関係が存在しない}\quad\Longrightarrow\quad\text{2次以下の有理係数の関係が存在しない}
$$
という一段の昇格を問う構成になっている。$x^3-2$ 自身が $\alpha$ を根にもつ3次式であるから,(C) は「$x^3-2$ は $\alpha$ を根にもつ有理係数多項式のうち次数最小のものである」と言い換えられる。代数学の言葉では,$x^3-2$ が $\alpha$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式であり,$[\mathbb{Q}(\alpha):\mathbb{Q}]=3$ であることにほかならない(
5.2 節
)。
(B) を「係数比較」と称して直ちに主張するのは誤りである。係数比較は $1,x,x^2$ が多項式として一次独立であることに基づく。特定の実数 $1,\alpha,\alpha^2$ の一次独立性は (B) そのものであり,証明を要する。
$\alpha^{n+3}=2\alpha^n$($n\geqq0$)を繰り返し用いると,$\alpha$ のすべてのべき,したがってすべての $F(\alpha)$($F\in\mathbb{Q}[x]$)は $a+b\alpha+c\alpha^2$($a,b,c\in\mathbb{Q}$)の形に書ける。すなわち
$$
\mathbb{Q}[\alpha]:=\lbrace F(\alpha)\mid F\in\mathbb{Q}[x]\rbrace=\operatorname{span}_{\mathbb{Q}}\lbrace1,\alpha,\alpha^2\rbrace
$$
である。多項式の側では,これは $x^3-2$ による除法にほかならない。指数を $3$ で割った余りで項を分類すれば,余りは
$$
P(x)=A(x^3)+xB(x^3)+x^2C(x^3)\quad\Longrightarrow\quad R(x)=A(2)+B(2)\,x+C(2)\,x^2
$$
と明示される(
3.2 節
)。任意次数の $P$ に関する主張は,3個の有理数に関する主張 (B) に還元される。これが本問における次元の削減である。
$\alpha=a/b$($a,b$ は正の整数)と仮定すると $a^3=2b^3$ である。両辺の素因数 $2$ の指数を比較すると
$$
3v_2(a)=1+3v_2(b)
$$
となり,$3$ を法として $0\equiv1$ の矛盾を得る。整数の3乗では各素因数の指数が $3$ の倍数になるのに対し,右辺の $2$ の指数は $3$ で割って $1$ 余る。本解の偶奇論法(既約分数の分子・分母がともに偶数になる)は,この指数の不整合を素因数分解の一意性に訴えずに実現したものである。これとは別の入口として,有限個の剰余類の中で $2$ が立方数にならないことを用いる方法がある(
3.1 節
)。
| 着目する構造 | 数学的翻訳 | 対応する解法 |
|---|---|---|
| 素因数 $2$ の指数 | $a^3=2b^3$ における偶奇の不整合 | 本解 (1) |
| 有限個の剰余類 | $2$ は $7$ を法として立方剰余でない | 3.1 節 |
| 指数の $3$ を法とする分類 | 余りの明示公式 | 3.2 節 |
| 2次元で閉じるという仮定 | $\alpha^2=u\alpha+v$ を $\alpha$ 倍して $\alpha^3=2$ と衝突させる | 本解 (2) |
| 共通根 | $x^3-2$ を余りで逆に割る | 別解1 |
| 消滅多項式全体の構造 | 次数最小の元がすべてを生成する | 参考解1 |
| ノルム | 三次恒等式による $\alpha$ の消去と無限降下 | 参考解2 |
| 乗法の線形性 | $\alpha$ 倍写像の行列式と次元 | 参考解3 |
$\alpha$ が有理数であると仮定する。$\alpha > 0$ であるから,互いに素な正の整数 $a,b$ を用いて $\alpha=\dfrac ab$ と表せる。$\alpha^3=2$ より
$$
a^3=2b^3.
$$
$a$ が奇数なら $a^3$ も奇数であるから,$a^3$ が偶数であることより $a$ は偶数である。$a=2a_1$($a_1$ は正の整数)とおくと $8a_1^3=2b^3$,すなわち
$$
b^3=4a_1^3
$$
であり,同様に $b$ も偶数である。これは $a,b$ が互いに素であることに反する。
よって $\sqrt[3]{2}$ は無理数である。
$x^3-2$ は最高次の係数が $1$ の有理係数多項式であるから,除法の原理により
$$
P(x)=(x^3-2)Q(x)+ax^2+bx+c\qquad(Q(x)\ \text{は有理係数多項式},\ a,b,c\in\mathbb{Q})
$$
と書ける。$x=\alpha$ を代入すると,$P(\alpha)=0$,$\alpha^3-2=0$ より
$$
a\alpha^2+b\alpha+c=0. \tag{i}
$$
また,(1) より次が成り立つ。
$$
r,s\in\mathbb{Q},\quad r\alpha+s=0\quad\Longrightarrow\quad r=s=0. \tag{ii}
$$
実際,$r\neq0$ なら $\alpha=-s/r$ が有理数となり (1) に反するので $r=0$,したがって $s=0$ である。
$a=0$ の場合:(i) は $b\alpha+c=0$ となり,(ii) より $b=c=0$ である。
$a\neq0$ の場合:$u=-\dfrac ba$,$v=-\dfrac ca$ とおくと $u,v\in\mathbb{Q}$ であり,(i) より
$$
\alpha^2=u\alpha+v.
$$
両辺に $\alpha$ を掛け,右辺に現れる $\alpha^2$ に再びこの式を用いると
$$
2=\alpha^3=u\alpha^2+v\alpha=u(u\alpha+v)+v\alpha=(u^2+v)\alpha+uv,
$$
すなわち $(u^2+v)\alpha+(uv-2)=0$ である。$u^2+v$,$uv-2$ は有理数であるから,(ii) より
$$
u^2+v=0,\qquad uv=2.
$$
第1式から $v=-u^2$ であり,これを第2式に代入すると $-u^3=2$,すなわち $(-u)^3=2$ を得る。実数の立方根の一意性より $-u=\alpha$ となるが,$-u$ は有理数であるから (1) に反する。よってこの場合は起こらない。
以上より $a=0$ であり,前段より $b=c=0$ である。したがって $P(x)=(x^3-2)Q(x)$ となり,$P(x)$ は $x^3-2$ で割り切れる。
素因数の指数ではなく,有限個の剰余類の中で立方数を調べる。$7$ を法とすると整数の3乗は $0,\pm1$ のいずれかに限られ,$\pm2$ にはならない。
$\alpha$ が有理数であると仮定し,互いに素な正の整数 $a,b$ により $\alpha=a/b$ とすると $a^3=2b^3$ である。
$7\mid b$ なら $7\mid a^3$ であり,$7$ は素数であるから $7\mid a$ となって,$a,b$ が互いに素であることに反する。よって $7\nmid b$ である。
整数 $n$ の3乗を $7$ を法として調べる。$(-n)^3=-n^3$ に注意すると次の表を得る。
| $n\bmod 7$ | $0$ | $\pm1$ | $\pm2$ | $\pm3$ |
|---|---|---|---|---|
| $n^3\bmod 7$ | $0$ | $\pm1$ | $\pm1$ | $\mp1$ |
したがって $n^3\equiv0,\pm1\pmod7$ であり,$7\nmid n$ なら $n^3\equiv\pm1\pmod 7$ である。ゆえに $b^3\equiv\pm1$,$a^3=2b^3\equiv\pm2\pmod 7$ となるが,これは $a^3\equiv0,\pm1\pmod 7$ に反する。
よって $\sqrt[3]{2}$ は無理数である。
$x^3$ を $2$ に置き換える操作は,$x$ の指数を $3$ で割った余りを保つ。そこで $P$ の項を指数の $3$ を法とする類で分類すれば,除法を実行せずに余りを書き下せる。これは本解の還元段階の別表示であり,(B) の証明を代替するものではない。
$P(x)$ の項を,指数が $3$ を法として $0,1,2$ のいずれに合同かで分類して集めると,
$$
P(x)=A(x^3)+xB(x^3)+x^2C(x^3)\qquad(A,B,C\ \text{は有理係数多項式})
$$
と書ける。因数定理より $A(t)-A(2)=(t-2)\tilde A(t)$($\tilde A$ は有理係数多項式)であり,$t=x^3$ を代入すると $A(x^3)-A(2)=(x^3-2)\tilde A(x^3)$ となる。$B,C$ についても同様であるから
$$
P(x)=(x^3-2)\bigl(\tilde A(x^3)+x\tilde B(x^3)+x^2\tilde C(x^3)\bigr)+A(2)+B(2)\,x+C(2)\,x^2.
$$
除法の一意性より,$P(x)$ を $x^3-2$ で割った余りは $A(2)+B(2)\,x+C(2)\,x^2$ である。$P(\alpha)=0$ なら $A(2)+B(2)\alpha+C(2)\alpha^2=0$ であり,本解で示した (B) により $A(2)=B(2)=C(2)=0$ となる。したがって余りは $0$ である。
$P(x)=x^5+x^4+1$ では $A(t)=1$,$B(t)=t$,$C(t)=t$ であり,公式は余り $1+2x+2x^2$ を与える。これは実際の除法
$$
x^5+x^4+1=(x^3-2)(x^2+x)+2x^2+2x+1
$$
と一致する。$P(x)=x^7-4x$ では $A=C=0$,$B(t)=t^2-4$ であり,$B(2)=0$ より余りは $0$ である。実際 $x^7-4x=x(x^3-2)(x^3+2)$ である。
$R(\alpha)=0$ を係数の関係として解くのではなく,「$R$ と $x^3-2$ が共通根 $\alpha$ をもつ」という二つの多項式の関係として読む。共通根をもつ二つの多項式では,一方を他方で割った余りもその根をもつので,割り算を繰り返して次数を下げられる(Euclid の互除法)。次数が1以下になった段階で (1) を適用する。
$\alpha$ を根にもつ有理係数多項式全体を一つの集合として扱う。この集合は和と有理係数多項式との積で閉じており,その中の次数最小の元がすべての元を割り切る( 補題3 )。この最小元が $x^3-2$ に一致することを,$x^3-2$ の既約性( 補題1 (e) または 定理4 )から導く。
$I=\lbrace F\in\mathbb{Q}[x]\mid F(\alpha)=0\rbrace$ とし,$m$ を $I$ に属する $0$ でない多項式のうち次数が最小のものとする($x^3-2\in I$ であるから $m$ は存在する)。このとき
$$
I=\lbrace mG\mid G\in\mathbb{Q}[x]\rbrace.
$$
$G\in\mathbb{Q}[x]$ に対し $(mG)(\alpha)=m(\alpha)G(\alpha)=0$ であるから,右辺は $I$ に含まれる。逆に $P\in I$ を $m$ で割って $P=mG+R$($R=0$ または $\deg R < \deg m$)とすると,$R(\alpha)=P(\alpha)-m(\alpha)G(\alpha)=0$ より $R\in I$ である。$m$ の次数の最小性から $R=0$ となる。
補題3 より,$x^3-2=m(x)L(x)$($L\in\mathbb{Q}[x]$)と書ける。$0$ でない定数は $\alpha$ を根にもたないので $\deg m\geqq1$ であり,また $\deg m\leqq3$ である。
$f(x)=c_nx^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0$ を整数係数の多項式とし,素数 $p$ が
$$
p\nmid c_n,\qquad p\mid c_i\ \ (0\leqq i\leqq n-1),\qquad p^2\nmid c_0
$$
を満たすとする。このとき $f$ は $\mathbb{Q}[x]$ において定数でない二つの多項式の積に分解できない。
$x^3-2$ は $p=2$ について条件を満たす($c_3=1$,$c_2=c_1=0$,$c_0=-2$,$4\nmid -2$)。したがって $x^3-2$ は $\mathbb{Q}$ 上既約である。 補題1 (e)$\Rightarrow$(a) により (1) が従い,$m\mid x^3-2$ かつ $\deg m\geqq1$ と既約性から $m$ は $x^3-2$ の定数倍となって (2) も従う。
$a+b\alpha+c\alpha^2=0$ から無理数 $\alpha$ を完全に消去し,整数 $a,b,c$ だけの方程式に移す。恒等式
$$
x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)
$$
に $x=a$,$y=b\alpha$,$z=c\alpha^2$ を代入すると,左辺の各項は $\alpha^3=2$ により有理数となる。得られる3次形式を偶奇で解析する。この方法は (1) を用いず,(1) と (2) を同時に示す。
補題2
により (B) を示せばよい。$a,b,c\in\mathbb{Q}$ が $a+b\alpha+c\alpha^2=0$ を満たし,すべてが $0$ ではないと仮定する。両辺に分母の公倍数を掛け,さらに3数の最大公約数で割ることにより,$a,b,c$ は最大公約数が $1$ の整数であるとしてよい。
恒等式に $x=a$,$y=b\alpha$,$z=c\alpha^2$ を代入すると $x+y+z=0$ であるから,$\alpha^3=2$,$\alpha^6=4$ を用いて
$$
a^3+2b^3+4c^3-6abc=0 \tag{iii}
$$
を得る。(iii) より $a^3$ は偶数であるから $a$ は偶数である。$a=2a_1$ を代入して $2$ で割ると
$$
4a_1^3+b^3+2c^3-6a_1bc=0
$$
となり,$b$ も偶数である。$b=2b_1$ を代入して $2$ で割ると
$$
2a_1^3+4b_1^3+c^3-6a_1b_1c=0
$$
となり,$c$ も偶数である。これは $a,b,c$ の最大公約数が $1$ であることに反する。
よって $a=b=c=0$ であり,(B) が成り立つ。
補題2
より (2) が従い,(B) の $c=0$ の場合として (1) も従う(
補題1
(c))。
$\alpha$ を数として計算する代わりに,$\alpha$ を掛ける操作を有理数体上の線形写像とみる。$1,\alpha,\alpha^2$ の張る空間 $V$ は $\alpha$ 倍で閉じ,その写像 $T$ は $T^3=2\,\mathrm{id}_V$ を満たす。行列式をとると $(\det T)^3=2^{\dim V}$ となり,左辺が有理数の3乗であることから次元が $3$ に決まる。一次独立性を仮定せず,次元を未知数として出発することが要点である。
実数全体を有理数体上のベクトル空間とみて,
$$
V=\operatorname{span}_{\mathbb{Q}}\lbrace1,\alpha,\alpha^2\rbrace,\qquad d=\dim_{\mathbb{Q}}V
$$
とおく。$V$ は $0$ でない元 $1$ を含み,3個の元で張られるから $1\leqq d\leqq3$ である。
$a,b,c\in\mathbb{Q}$ に対し $\alpha(a+b\alpha+c\alpha^2)=2c+a\alpha+b\alpha^2\in V$ であるから,$T(v)=\alpha v$ は $\mathbb{Q}$ 線形写像 $T:V\to V$ を定め,$\alpha^3=2$ より $T^3=2\,\mathrm{id}_V$ である。$V$ の $\mathbb{Q}$ 上の基底に関する $T$ の表現行列は有理数を成分とするので $\det T\in\mathbb{Q}$ であり,
$$
(\det T)^3=\det(T^3)=\det(2\,\mathrm{id}_V)=2^d.
$$
$\det T\neq0$ であるから,$v_2$(
1.1 節
)をとると $3v_2(\det T)=d$ となる。よって $3\mid d$,すなわち $d=3$ である。
したがって $1,\alpha,\alpha^2$ は $\mathbb{Q}$ 上一次独立であり,これは (B) にほかならない。
補題2
より (2) が従い,その特別な場合として (1) も従う。
以下は独立の解法とは数えず,既出の解法の表現違いまたは部分的な変形として扱う。
| 解法 | 主に利用する構造 | 対象 | 範囲 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 本解 | 偶奇,2次元閉包の否定 | (1)(2) | 高校 | 定石から最短,矛盾の帰着先が明快 | (ii) を明示して用いる |
| 3.1 節 | 立方剰余 | (1) | 高校 | 素因数分解の議論が不要 | $7\nmid b$ の確認,法の選択 |
| 3.2 節 | 次数還元の明示 | 余り | 高校 | 余りの公式を与える | (B) は別途必要 |
| 別解1 | 共通根,互除法 | (2) | 高校 | 係数計算がほぼ不要 | 次数の場合分け |
| 参考解1 | 最小次数の消滅多項式,既約性 | (2)(定理4 経由で (1) も) | 高校〜大学 | 構造が明快で一般化しやすい | 定理4 は範囲外 |
| 参考解2 | ノルム,無限降下 | (1)(2) | 高校 | (1) に依存しない | 恒等式の選択,整数への正規化 |
| 参考解3 | 線形写像,行列式 | (1)(2) | 大学 | 次元を一挙に決定する | 基底の先取りを避ける |
試験場での第一選択は本解である。除法という定石から出発し,(1) を道具として二度用いるだけで閉じる。係数の正規化が煩雑に感じられる場合は別解1 が安定しており,係数計算をほとんど要しない。参考解2 は高校数学の範囲で完結し,(1) に依存しない点で独立性が高いが,恒等式の選択に発想の跳躍がある(その動機は 5.4 節 のノルムである)。参考解1・参考解3 は答案としては過剰であるが,本問が最小多項式・拡大次数という一般理論の具体例であることを示す。
本問から抽出される,「代数的数を根にもつ多項式」および「無理数を含む関係式」に関する問題への探索手順を述べる。
:「$A(x)$ が $B(x)$ で割り切れる」を示すには,まず $A=BQ+R$ と置き,目標を「余り $R$ が恒等的に $0$」に置き換える。
手順2(与えられた関係で次数を落とす):$\beta^n=c$ のような関係があれば,$\beta$ の高いべきを $1,\beta,\ldots,\beta^{n-1}$ に還元する。指数を $n$ で割った余りによる分類で余りを明示できる(
3.2 節
)。
手順3(目標を一次独立性として書き直す):$R(\beta)=0$ から $R=0$ を導くことは,$1,\beta,\ldots,\beta^{n-1}$ の一次独立性と同値である(
補題2
)。低い次数から順に否定する。1次の関係の否定は無理性そのものである(
補題1
)。
手順4(低次の関係を仮定したら演算を進める):低次の関係 $\beta^k=(\text{低次の一次結合})$ を仮定すると,有限個の元の一次結合全体が $\beta$ 倍で閉じる。その中で $\beta$ 倍を繰り返して既知の高次の関係と衝突させ,係数を比較する(本解)。
手順5(係数計算が重ければ共通根に読み替える):$R(\beta)=0$ を「$R$ と既知の多項式が共通根をもつ」と読み,互除法で次数を下げる(別解1)。次数が1以下になった時点で無理性を適用する。
手順6(既約性の判定手段を次数で選ぶ):3次以下の多項式の既約性は,その体での根の有無で決まる。4次以上では成り立たないので,Eisenstein の判定法,素数を法とする還元,二項式に対する Capelli の定理など別の手段を用いる(
5.5 節
)。
手順7(整数の方程式は二方向から攻める):$a^m=cb^m$ の形が現れたら,特定の素数の指数(付値)と,素数 $p$ を法とする $m$ 乗剰余の二方向を試す。後者では $m$ 乗写像が全単射にならない法,すなわち $\gcd(m,p-1) > 1$ を満たす素数($m$ が素数なら $p\equiv1\pmod m$)から選ぶ(
5.6 節
)。
手順8(検算する):完全べき(本問では立方数)に置き換えて論法が正しく破綻するか,有理係数の仮定をどこで用いたか,共役根や基底など証明すべき内容を先取りしていないかを確認する。
| 症状 | 検討する表現・道具 | 本問での例 |
|---|---|---|
| 「割り切れる」の証明 | 除法の原理,余りの消去 | 本解 (2) |
| $\beta^n=c$ 型の関係 | 次数還元,指数の剰余分類 | 3.2 節 |
| 無理数を含む一次関係 | 低次閉包の否定,$\beta$ 倍の反復 | 本解 (2) |
| 二つの多項式の共通根 | 互除法,最大公約多項式 | 別解1 |
| 消滅多項式全体の性質 | 次数最小の元,イデアルの生成元 | 参考解1 |
| 無理数を消去したい | ノルム(共役の積),三次恒等式 | 参考解2 |
| 次元が問題の本体 | 乗法写像の行列式 | 参考解3 |
| $a^m=cb^m$ | 付値,$m$ 乗剰余 | 本解 (1),3.1 節 |
$c$ を有理数の3乗でない有理数とし,$2$ を $c$ に替える。このとき (1) に相当する主張は「$r^3=c$ を満たす有理数 $r$ は存在しない」であり,本解・別解1・参考解1・参考解3 は,(1) をこの主張に読み替えればそのまま成り立つ。本解では $(-u)^3=c$ が現れる。参考解3 では $(\det T)^3=c^d$ が現れ,$d=1$ は $c$ が有理数の3乗となること,$d=2$ は $c^2$ が有理数の3乗となること(このとき $c=c^3/c^2$ も有理数の3乗)に反するので $d=3$ を得る。参考解2 も,$c$ を立方因子を含まない整数に正規化し($\sqrt[3]{c}$ を有理数倍しても一次独立性は変わらない),偶奇の代わりに $c$ の素因数 $p$ による整除性を用いれば同様に進む。すなわち
$$
c\in\mathbb{Q},\ c\ \text{は有理数の3乗でない}\quad\Longrightarrow\quad x^3-c\ \text{は}\ \sqrt[3]{c}\ \text{の最小多項式}
$$
である。一方,次数を上げると (1) から (2) への昇格は自明でなくなる。$x^n-c$ の既約性の完全な判定は
5.5 節
の Capelli の定理による。
| 事項 | 高校数学での扱い | 一般理論 |
|---|---|---|
| 無理性 | 背理法,偶奇 | 付値,有理根定理 |
| 割り切れること | 除法の原理 | 多項式環の除法とイデアル(単項イデアル整域) |
| $1,\alpha,\alpha^2$ の独立性 | 低次の関係の否定 | 拡大次数 $[\mathbb{Q}(\alpha):\mathbb{Q}]=3$ |
| 既約性 | 3次式は有理数の根の有無で判定 | Gauss の補題,Eisenstein の判定法,Capelli の定理 |
| 三次恒等式 | 因数分解の公式 | ノルム,共役,終結式 |
| $7$ を法とする立方数 | 合同式の計算 | 3次剰余,3次の相互法則 |
| $\alpha$ 倍写像の行列 | 扱わない | 体の拡大の正則表現 |
| 作図可能性 | 扱わない | 作図可能数の理論(Wantzel) |
本解,3.1 節,3.2 節,別解1,参考解2,および参考解1 のうち 補題3 を用いる経路は,すべて左欄の範囲で完結する。右欄は,それらの計算が成り立つ理由を説明する理論である。
複素数 $\beta$ が $\mathbb{Q}$ 上代数的であるとは,$\beta$ を根にもつ $0$ でない有理係数多項式が存在することをいう。そのうち次数最小で最高次の係数が $1$ のものを $\beta$ の最小多項式 $m_\beta$ という。
補題3
の証明は任意の代数的数に通用し,$m_\beta$ は $\beta$ を根にもつすべての有理係数多項式を割り切る。特に $m_\beta$ は一意であり,既約である($m_\beta=GH$ と分解されれば $G(\beta)H(\beta)=0$ より一方が $\beta$ を根にもち,次数の最小性に反する)。逆に,$\beta$ を根にもつ既約で最高次の係数が $1$ の多項式は $m_\beta$ に一致する。
$\mathbb{Q}[\beta]=\lbrace F(\beta)\mid F\in\mathbb{Q}[x]\rbrace$ は体である。実際,$G(\beta)\neq0$ なら $m_\beta\nmid G$ であり,既約性から $G$ と $m_\beta$ の最大公約多項式は $1$ となる。Bézout の等式 $AG+Bm_\beta=1$ に $\beta$ を代入すれば $A(\beta)G(\beta)=1$ を得る。この体を $\mathbb{Q}(\beta)$ と書き,$\mathbb{Q}$ 上のベクトル空間としての次元を拡大次数 $[\mathbb{Q}(\beta):\mathbb{Q}]$ という。これは $\deg m_\beta$ に等しく,$1,\beta,\ldots,\beta^{\deg m_\beta-1}$ が基底となる。
本問は $\beta=\sqrt[3]{2}$ について $m_\beta=x^3-2$,$[\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}):\mathbb{Q}]=3$ を示すものである。
補題2
の (A)(B)(C) は,それぞれ「$x^3-2$ はすべての消滅多項式を割り切る」「$1,\alpha,\alpha^2$ は一次独立(したがって基底)」「最小多項式の次数は $3$」に対応する。
写像 $\varphi:\mathbb{Q}[x]\to\mathbb{R}$,$F\mapsto F(\alpha)$ は和と積を保つ(環準同型)。その像は $\mathbb{Q}[\alpha]$,核は $I=\lbrace F\mid F(\alpha)=0\rbrace$ であり,(2) は
$$
\ker\varphi=(x^3-2)
$$
と同値である。準同型定理より $\mathbb{Q}[x]/(x^3-2)\cong\mathbb{Q}(\alpha)$ が成り立ち,$x^3-2$ の既約性は右辺が体であることに対応する。
高校数学の範囲では,これは3乗根を含む分母の有理化として現れる。たとえば $(\alpha-1)(\alpha^2+\alpha+1)=\alpha^3-1=1$ より
$$
\frac{1}{\alpha-1}=1+\alpha+\alpha^2
$$
である。一般に,参考解2 の恒等式の第2因子を用いると
$$
(a+b\alpha+c\alpha^2)\bigl((a^2-2bc)+(2c^2-ab)\alpha+(b^2-ac)\alpha^2\bigr)=a^3+2b^3+4c^3-6abc
$$
が成り立つ。参考解2 の降下は (iii) だけを用いているので,有理数 $a,b,c$ について右辺が $0$ となるのは $a=b=c=0$ のときに限る。したがって $(a,b,c)\neq(0,0,0)$ なら右辺は $0$ でない有理数であり,$a+b\alpha+c\alpha^2$ の逆数は再び $1,\alpha,\alpha^2$ の有理係数一次結合で表される。
$\omega=\dfrac{-1+\sqrt3\,i}{2}$ とする。$x^3-2$ の根は $\alpha,\omega\alpha,\omega^2\alpha$ であり,恒等式
$$
x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x+\omega y+\omega^2z)(x+\omega^2y+\omega z)
$$
に $x=a$,$y=b\alpha$,$z=c\alpha^2$ を代入すると
$$
a^3+2b^3+4c^3-6abc=(a+b\alpha+c\alpha^2)(a+b\omega\alpha+c\omega^2\alpha^2)(a+b\omega^2\alpha+c\omega\alpha^2)
$$
を得る。右辺は $\beta=a+b\alpha+c\alpha^2$ の三つの共役の積,すなわち $\beta$ のノルム $N(\beta)$ であり,
3.6 節
の乗法の行列の行列式,終結式 $\mathrm{Res}(a+bx+cx^2,\,x^3-2)$ とも一致する。ノルムは乗法的であり,$\beta\neq0$ なら $N(\beta)\neq0$ である。参考解2 は,この「ノルムが $0$ でない」ことを $2$ 進的な降下で直接示したものとみなせる。
ここで,共役を用いる議論には注意を要する。$P\in\mathbb{Q}[x]$ と $P(\alpha)=0$ から $P(\omega\alpha)=0$ を導くことは,(2) と同値である。実際,(2) が成り立てば $x^3-2\mid P$ より $P(\omega\alpha)=0$ である。逆に $P(\omega\alpha)=0$ なら,$P$ は実数係数であるから $P(\omega^2\alpha)=\overline{P(\omega\alpha)}=0$ でもあり,相異なる3根 $\alpha,\omega\alpha,\omega^2\alpha$ をもつので $(x-\alpha)(x-\omega\alpha)(x-\omega^2\alpha)=x^3-2$ で割り切れる(商が有理係数であることは
1.1 節
と同様に除法の一意性による)。したがって,「有理係数だから共役も根である」という主張を準備なしに用いて (2) を示すことは,結論の先取りである。ノルム $N$ が $\mathbb{Q}(\alpha)$ 上で整合的に定義されることも,同じく (2)(または既約性)に依存する。
素数 $p$ を法とする $0$ でない剰余類全体は,乗法について位数 $p-1$ の巡回群をなす。$3\nmid p-1$($p=3$ または $p\equiv2\pmod3$)なら3乗写像は全単射であり,すべての剰余が立方数となるので,
3.1 節
の論法は使えない。$p\equiv1\pmod3$ なら3乗写像の像は指数 $3$ の部分群であり,$0$ でない立方剰余は $(p-1)/3$ 個に限られる。$p=7$ ではそれが $\pm1$ の2個となる。
$p\equiv1\pmod3$ のとき $2$ が $p$ を法とする立方剰余であるための必要十分条件は,$p=x^2+27y^2$ を満たす整数 $x,y$ が存在することである。これは Euler が予想し,Gauss が証明した(証明は Gauss の死後に公表された)。$200$ 未満で $2$ が立方剰余となる $p\equiv1\pmod3$ の素数は
$$
31=2^2+27\cdot1^2,\quad 43=4^2+27\cdot1^2,\quad 109=1^2+27\cdot2^2,\quad 127=10^2+27\cdot1^2,\quad 157=7^2+27\cdot2^2
$$
の5個であり,それ以外の $p=7,13,19,37,61,\ldots$ では
3.1 節
の論法が通る。Chebotarev の密度定理によれば,$2$ が立方剰余でない素数は全素数の中で密度 $1/3$ をもつ。3次剰余の一般的な規則は3次の相互法則として体系化され,最初に公表された証明は Eisenstein(1844)による。
本問 (2) の内容 $[\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}):\mathbb{Q}]=3$ は,古典的な作図問題の不可能性証明の核心である。
長さ $1$ の線分から定規とコンパスで作図できる長さ $\gamma$ に対し,体の列 $\mathbb{Q}=K_0\subset K_1\subset\cdots\subset K_n$ で,$\gamma\in K_n$ かつ $[K_i:K_{i-1}]=2$($1\leqq i\leqq n$)を満たすものが存在する。特に $[\mathbb{Q}(\gamma):\mathbb{Q}]$ は $2$ のべきである。
作図の各段階は直線と円の交点を求める操作であり,新たな座標は既存の体の上の高々2次方程式の解となる。これが体の列の存在を与え,拡大次数の乗法性 $[K_n:\mathbb{Q}]=[K_n:\mathbb{Q}(\gamma)][\mathbb{Q}(\gamma):\mathbb{Q}]$ から後半が従う。体積 $1$ の立方体の2倍の体積をもつ立方体の一辺は $\sqrt[3]{2}$ であり,$[\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}):\mathbb{Q}]=3$ は $2$ のべきでないから,立方倍積は定規とコンパスでは作図できない。
立方倍積問題(デロス島の問題)は古代ギリシアに遡る。Hippocrates(キオス)はこれを二つの比例中項の作図に帰着させ,Menaechmus は円錐曲線の交点による解を与えた。定規とコンパスによる作図の不可能性は Wantzel(1837)によって初めて証明された。既約性判定法は Schönemann(1846)と Eisenstein(1850)による。体・拡大次数・最小多項式の概念は19世紀後半に Dedekind,Kronecker らによって整備された。本問は,これらの理論が交わる最小の具体例を,除法の原理と偶奇だけで扱わせる構成になっている。