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級数の間の等式を示す

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級数の変形には様々な方法がある.この記事では,その中で色々な応用が利く考え方を教えたいと思う.僕が過去に見つけた等式のほとんどはこの方法で証明できるので,身に付けて損はないだろう.


ここで詳しく述べることはしないが,多重ゼータ値という多重級数は双対性と呼ばれる性質を持つことが知られている.そして,その双対性に級数証明を与える際に重要となる因子 (コネクターと呼ばれる) が m!n!(m+n)! である.この記事で扱う級数の土台は全てこれである.単なる二項係数の逆数がなぜ重要となるのか.その答えは次の等式にある.
m<a1aa!n!(a+n)!=1nm!n!(m+n)!
文字が複数あるので注意.m,n は定数,a は和をとる変数である.コネクターとしての形は失われるが,両辺に n! があるので割ってしまおう.
m<a1aa!(a+n)!=1nm!(m+n)!
これは普通の高校生でも示すことができるレベルかもしれない.
m<a1aa!(a+n)!=m<a1n((a1)!(a+n1)!a!(a+n)!)=1nm!(m+n)!.
これを利用すると,次のような変形が可能になる.
0<m1m2m!n!(m+n)!=0<m1mn<a1aa!m!(a+m)!=n<a1a0<m1mm!a!(m+a)!=n<a1a2
後の都合上,この方法を(Ⅰ)とする.これだけでも非自明で面白く,簡潔に示すことができているように見えるが,ここで終わらせるのは勿体ない!さらなる一歩を踏み出すことは研究において非常に重要である.上で示した等式を別の視点から考えてみよう.
f1(n)=0<m1m2m!n!(m+n)! とおき,f1(n) が満たす漸化式を求めてみる.
f1(n)=0<mn!m1mm!(m+n)!=0<mn!m1n((m1)!(m+n1)!m!(m+n)!)=0<m1m2m!(n1)!(m+n1)!1n0<m1mm!n!(m+n)!=f1(n1)1n2.
nn+1 として,f1(n)=1(n+1)2+f1(n+1) を得る.これより,f1(n)=n<a1a2+limmf1(m) となり,limmf1(m)=0 より f1(n)=n<a1a2 が示される.この一連の方法を(Ⅱ)とする.
読者はどのように感じただろう.得られる結果は同じだから,証明の短さ故に(Ⅱ)より(Ⅰ)の方が優れていると感じたかもしれない.しかし,次の例を見ても同じことが言えるだろうか.


n<m1m2m!n!(m+n)! について考える.
〈方法(Ⅰ)の場合〉
n<m1m2m!n!(m+n)!=n<m1mn<a1aa!m!(a+m)!=n<a1an<m1mm!a!(m+a)!=n<a1a2a!n!(a+n)!.
0=0 を示すことができた.方法(Ⅰ)しか知らない人はこれで終わりだが…
〈方法(Ⅱ)の場合〉
f2(n)=n<m1m2m!n!(m+n)! とおく.
f2(n)=n<mn!m1mm!(m+n)!=n<mn!m1n((m1)!(m+n1)!m!(m+n)!)=n<m1m2m!(n1)!(m+n1)!1nn<m1mm!n!(m+n)!=(n1<m1m2m!(n1)!(m+n1)!1n2n!(n1)!(2n1)!)1n2n!n!(2n)!=f2(n1)3n2(2nn).
nn+1 として,最終的に f2(n)=n<a3a2(2aa) を得る.n=0 とすれば,
ζ(2)=30<n1n2(2nn)
が示せる.
さて,この例では方法(Ⅰ)で簡単に扱えなかった級数を方法(Ⅱ)で変形することができた.ところで,勘の鋭い読者は方法(Ⅱ)がさらに応用できるということに気付いているかもしれない.


2n<m1m2m!n!(m+n)! について考える.
〈方法(Ⅰ)の場合〉
結果だけ述べる.
2n<m1m2m!n!(m+n)!=n<m1m2m!(2n)!(m+2n)!.
あまり面白くない.
〈方法(Ⅱ)の場合〉
f3(n)=2n<m1m2m!n!(m+n)! とおく.
f3(n)=2n<mn!m1mm!(m+n)!=2n<mn!m1n((m1)!(m+n1)!m!(m+n)!)=2n<m1m2m!(n1)!(m+n1)!1n2n<m1mm!n!(m+n)!=(2(n1)<m1m2m!(n1)!(m+n1)!1(2n)2(2n)!(n1)!(3n1)!1(2n1)2(2n1)!(n1)!(3n2)!)1n2(2n)!n!(3n)!=f3(n1)74n2(3nn)1(2n1)2(3n2n1).
これにより,
f3(n)=74n<a1a2(3aa)+na1(2a+1)2(3a+1a)
を得る.n=0 のとき,
ζ(2)=740<n1n2(3nn)+0n1(2n+1)2(3n+1n)
となる.

この変形方法を kn<m について行うことでこのような ζ(2) の表示の一般化が得られる.若干煩雑だがやることはほとんど同じなので是非自分の手で計算してみてほしい.


さて,ここからは僕は今までに示した等式の一部を例として紹介していく.まずはシグマの中身を少し工夫してみよう.f4(n)=0<m1m(m+n)m!(m+n)! とおく.
f4(n)=0<m1m(m+n)m!(m+n)!=0<m1n(1m1m+n)m!(m+n)!=1n0<m1mm!(m+n)!1n0<m1m+nm!(m+n)!=1n21n!1n(0m1m+nm!(m+n)!1n1n!)=2n21n!1n0<m1m1+n(m1)!(m1+n)!=2n21n!1nf4(n1).
得られた等式は,
f4(n)=2n21n!1nf4(n1).
両辺に (1)nn! を掛け,
(1)nn!f4(n)=2(1)nn2+(1)n1(n1)!f4(n1).
先ほどと同様に nn+1 として,最終的に (1)nn!f4(n)=2n<a(1)aa2 を得る.


f5(n)=n<m1m(m+n)m!(m+n)! とおく.
f5(n)=n<m1m(m+n)m!(m+n)!=n<m1n(1m1m+n)m!(m+n)!=1nn<m1mm!(m+n)!1nn<m1m+nm!(m+n)!=1n2n!(2n)!1n(f5(n1)12nn!(2n)!12n1(n1)!(2n1)!)=32n2n!(2n)!+1n(2n1)2(n1)!(2n2)!1nf5(n1).
したがって,
(1)nn!f5(n)=3(1)n2n2(2nn)(1)n1(2n1)2(2n2n1)+(1)n1(n1)!f5(n1).
これにより,結局
(1)nn!f5(n)=32n<a(1)aa2(2aa)+na(1)a(2a+1)2(2aa)
を得る.n=0 のとき,
ζ(2)=320<n(1)nn2(2nn)+0n(1)n(2n+1)2(2nn)
となる.
もちろん 2n<m などを考えても同じように変形できる.


次は和をとる変数を増やしてみよう.f6(n)=0<m1<m21m1m2(m2+n)m2!(m2+n)! とおく.
f6(n)=0<m1<m21m1m2(m2+n)m2!(m2+n)!=0<m1<m21m11n(1m21m2+n)m2!(m2+n)!=1n0<m1<m21m1m2m2!(m2+n)!1n0<m1<m21m1(m2+n)m2!(m2+n)!=1n31n!1n(0<m1m21m1(m2+n)m2!(m2+n)!0<m11m1(m1+n)m1!(m1+n)!)=1n31n!1nf6(n1)+1nf4(n).
したがって,
(1)nn!f6(n)=(1)nn3+1n(1)nn!f4(n)+(1)n1(n1)!f6(n1).
先程示した通り (1)nn!f4(n)=2n<a(1)aa2 であるから,最終的に
(1)nn!f6(n)=n<a(1)aa3+2n<a<b(1)bab2
を得る.


f7(n)=n<m1<m21m1m2(m2+n)m2!(m2+n)! とおく.
f7(n)=n<m1<m21m1m2(m2+n)m2!(m2+n)!=n<m1<m21m11n(1m21m2+n)m2!(m2+n)!=1nn<m1<m21m1m2m2!(m2+n)!1nn<m1<m21m1(m2+n)m2!(m2+n)!=1n3n!(2n)!1n(nm1<m21m1(m2+n)m2!(m2+n)!n<m21n(m2+n)m2!(m2+n)!)=1n3n!(2n)!+1n2n<m1m+nm!(m+n)!1n(nm1m21m1(m2+n)m2!(m2+n)!nm11m1(m1+n)m1!(m1+n)!)=1n3n!(2n)!+1n2n<m1m+nm!(m+n)!+1nnm1m(m+n)m!(m+n)!1nf7(n1)=1n3n!(2n)!+12n3n!(2n)!+1nn<m1m+n(1m+1n)m!(m+n)!1nf7(n1)=1n3n!(2n)!+12n3n!(2n)!+1n2n<m1mm!(m+n)!1nf7(n1)=52n3n!(2n)!1nf7(n1).
したがって,
(1)nn!f7(n)=5(1)n2n3(2nn)+(1)n1(n1)!f7(n1).
よって (1)nn!f7(n)=52n<a(1)aa3(2aa) を得る.n=0 のとき (ζ(3)=)ζ(1,2)=520<n(1)nn3(2nn) となり,これはApéryによる ζ(3) の表示である.


それでは最後に,双対性コネクターの2乗について書こう.今までの変形とは少し異なるが,漸化式を立てるという目標は同じである.
f8(k)(n)=0<m1mk(m!(m+n)!)2 とおく.
2nf8(1)(n)+n2f8(2)(n)=0<m2mn+n2m2(m!(m+n)!)2=0<m(((m1)!(m+n1)!)2(m!(m+n)!)2)=1n!2.
よって f8(2)(n)=1n21n!22nf8(1)(n).
(2n1)f8(0)(n)+n2f8(1)(n)=0<m(2n1)m+n2m(m!(m+n)!)2=0<m((m1)!m!((m+n1)!)2m!(m+1)!((m+n)!)2)=1n!2.
よって f8(1)(n)=1n21n!22n1n2f8(0)(n).
ここで,
f8(0)(n)=0<m(m!(m+n)!)2=0m(m!(m+n)!)21n!2=f8(2)(n1)1n!2
であるから,
f8(1)(n)=2n1n!22n1n2f8(2)(n1).
したがって,
f8(2)(n)=3n21n!2+2(2n1)n3f8(2)(n1).
両辺に n!4(2n)! を掛け,
n!4(2n)!f8(2)(n)=3n2(2nn)+(n1)!4(2n2)!f8(2)(n1).
よって,n!4(2n)!f8(2)(n)=3n<a1a2(2aa) を得る.


f9(k)(n)=n<m1mk(m!(m+n)!)2 とおく.
f8 のときと同様に
f9(2)(n)=1n2(n!(2n)!)22nf9(1)(n)f9(1)(n)=n+1n2(n!(2n)!)22n1n2f9(0)(n)
が成り立つ.
f9(0)(n)=n<m(m!(m+n)!)2=f9(2)(n1)(n!(2n)!)2((n1)!(2n1)!)2=f9(2)(n1)5(n!(2n)!)2
より
f9(1)(n)=11n4n2(n!(2n)!)22n1n2f9(2)(n1).
したがって
f9(2)(n)=21n8n3(n!(2n)!)2+2(2n1)n3f9(2)(n1).
よって
n!4(2n)!f9(2)(n)=n<a21a8a3(2aa)3
を得る.n=0 のとき,ζ(2)=0<n21n8n3(2nn)3 となる.


もっと応用してみよう.
2nf8(2)(n)+n2f8(3)(n)=0<m2mn+n2m3(m!(m+n)!)2=0<m1m(((m1)!(m+n1)!)2(m!(m+n)!)2)=f8(3)(n1)f8(1)(n)=f8(3)(n1)12n1n!2+n2f8(2)(n)
より
f8(3)(n)=1n2f8(3)(n1)12n31n!232nf8(2)(n).(1)
この記事をここまで読んだ人はこのまま n!2f8(3)(n)= としたいだろう (別にしてもよい) が,少しだけ我慢してほしい.
f8(2,1)(n)=0<m1m2(m+n)(m!(m+n)!)2 とおく.
f8(2,1)(n)=0<m1m2(m+n)(m!(m+n)!)2=0<m1m1n(1m1m+n)(m!(m+n)!)2=1nf8(2)(n)1n0<m1m(m+n)(m!(m+n)!)2=1nf8(2)(n)1n0<m1n(1m1m+n)(m!(m+n)!)2=1nf8(2)(n)1n2f8(1)(n)+1n20<m1(m+n)(m!(m+n)!)2=1nf8(2)(n)1n2f8(1)(n)+1n2f8(2,1)(n1)1n31n!2=1n2f8(2,1)(n1)32n31n!2+32nf8(2)(n).
よって
f8(2,1)(n)=1n2f8(2,1)(n1)32n31n!2+32mf8(2)(n).(2)
(1)+(2) より
f8(3)(n)+f8(2,1)(n)=1n2(f8(3)(n1)+f8(2,1)(n1))2n31n!2.
したがって
n!2(f8(3)(n)+f8(2,1)(n))=2n<a1a3
を得る.
余談ではあるが,これを用いて少し遊んでみよう.
ζ(3,3)=0<n<a1n3a3=120<n1n30<m1m2(1m+1m+n)(m!n!(m+n)!)2=120<m,n1m3n3(m!n!(m+n)!)2+120<m,n1m2n3(m+n)(m!n!(m+n)!)2.
また,
20<m,n1m2n3(m+n)(m!n!(m+n)!)2=0<m,n1m2n3(m+n)(m!n!(m+n)!)2+0<m,n1m3n2(m+n)(m!n!(m+n)!)2=0<m,n1m3n3(m!n!(m+n)!)2
であるから,
ζ(3,3)=340<m,n1m3n3(m!n!(m+n)!)2
を得る.


f9(2,1)(n)=n<m1m2(m+n)(m!(m+n)!)2 とおく.上と同様に
f9(3)(n)=1n2f9(3)(n1)92n3(n!(2n)!)232nf9(2)(n)f9(2,1)(n)=1n2f9(2,1)(n1)1n3(n!(2n)!)21n2(2n1)3((n1)!(2n2)!)2+32nf9(2)(n)
が成り立つ.よって
f9(3)(n)+f9(2,1)(n)=1n2(f9(3)(n1)+f9(2,1)(n1))112n3(n!(2n)!)21n2(2n1)3((n1)!(2n2)!)2.
したがって
f9(3)(n)+f9(2,1)(n)=112n<a1a3(2aa)2+na1(2a+1)3(2aa)2
を得る.n=0 のとき,ζ(3)=1140<n1n3(2nn)2+120n1(2n+1)3(2nn)2 となる.これはGosperによる ζ(3) の表示である.


様々な例を通して学びを深めてもらったが,どうだっただろうか?突飛な発想をしている箇所はあまりないと思うし,実際僕はこの方法を1年半ほど前に自分で見つけている.f7(n) を記事を書いている途中に発見したぐらいなので,まだまだ開拓の余地はあるはずである.日本語が少なくほとんど数式になってしまったのは申し訳ないが,是非自分の手で計算を追ってみて欲しい.また,どんな級数がこのような変形が可能なのかについては何も話していないが,僕がそういうことに興味がないというだけである.間違いなどあればすぐに修正するので連絡を.これ以外の例については昔の僕のポストや記事を参照.それでは.

投稿日:2024316
更新日:2024622
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