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解けない定積分の整数部分について~2023東工大数学を題材に~

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$$\newcommand{bm}[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand{Lvec}[1]{\overrightarrow{\mathrm{#1}}} $$

導入

 解けない定積分について考察する場面は多いです.入試問題であれば定積分の極限や整数部分などを考察することになるでしょうし,機械学習やベイズ推定の文脈でも考察することがあります.なんにせよ,解けない定積分は私たちの前によく現れます.今回は,2023年の東工大の数学を題材に解けない定積分,特にその整数部分について考察してみようと思います.

背景

題材

 今回,題材となる問題は以下の問題です.また$\log$は自然対数とします.

問題

2023 東京工業大学(前期)第1問

 実数$\displaystyle \int_0^{2023} \dfrac{2}{x + e^x}\, dx$の整数部分を求めよ.

完答は中々に難しい(はず)です.解答を以下に付しておきます.

解答

 $\displaystyle I = \int_0^{2023} \dfrac{2}{x + e^x}\, dx$とおく.$N \leq I < N+1$なる$N \in \mathbb{Z}$を求めればよい.$I$を上から評価すると
$$ I \leq \int_0^{2023} \frac{2}{e^x}\, dx = 2(1 - e^{-2023}) < 2 $$
を得るので,$N = 1$が予想できる.以下,$I \geq 1$を示す.$e^x$のTaylor展開を考えると,$x > 0$での不等式$e^x \geq 1 + x$すなわち$x \leq e^x - 1$を得る.よって
$$ I \geq \int_0^{2023} \frac{2}{2 e^x - 1} \, dx = \int_0^{2023} \frac{2 e^{-x}}{2 - e^{-x}} \, dx = 2 \log{(2 - e^{-2023})}. $$
ここで$e^{-2023} < 0.2 \ (\because e^{2023} > 2^3 > 5)$ゆえ
$$ I > 2 \log{(1.8)} = \log{(3.24)} > \log{e} = 1. $$
以上より$1 \leq I < 2$がいえたので$N = 1$.よって求める整数部分は$1$

問題

 それでは,少し一般化した以下の問題を考察してみます.

一般化した問題

 実数$\displaystyle I(a) = \int_0^{2023} \dfrac{2}{x + a^x} \, dx$の整数部分$\lfloor I(a) \rfloor$を求めよ.ただし,$a > 0$とする.

まず,すぐ分かることは$I(a)$は単調減少であるということです.さらに(いきなりこの操作をするのは微妙ですが)$\displaystyle \lim_{a \to +0} I(a) = \infty$$\displaystyle \lim_{a \to \infty} I(a) = 0$が成り立ちます.そして$\lfloor I(e) \rfloor = 1$であることが分かっています.というわけで

$I(a)$の整数部分について

 $\lfloor I(a) \rfloor$は任意の非負整数をとり,広義単調減少.さらに,$a$が大きくなるといずれ$\lfloor I(a) \rfloor = 0$となって以降も常に$\lfloor I(a) \rfloor = 0$となる.

が成り立ちそうです.また,$a^x$は,$a=1$を境に単調増加と単調減少が切り替わるので
(1) $1 < a$
(2) $0 < a \leq 1$
$a$の値で場合分けするのがよさそうです.

考察

 以下の補題を準備します.

 以下の不等式が成立する:
$$ I(a) \leq \frac{2(1 - a^{-2023})}{\log{a}}. $$

被積分関数の大小関係を利用する

 $0 \leq x \leq 2023$において$a^x \leq x + a^x$ゆえ$\dfrac{2}{x + a^x} \leq \dfrac{2}{a^x}$.よって$\displaystyle I(a) \leq \int_0^{2023} \frac{2}{a^x}\, dx = \frac{2(1 - a^{-2023})}{\log{a}}$

$1 < a$のとき

$e^2 \leq a$のとき

 補題1を用いると以下の命題が証明できます.

 $a \geq e^2$のとき,$\lfloor I(a) \rfloor = 0$

命題1を利用する

 補題1より$I(a) \leq \dfrac{2(1 - a^{-2023})}{\log{a}} < \dfrac{2}{\log{a}}$ゆえ$a \geq e^2$のとき$I(a) < 1$.また,$I(a)$の被積分関数は常に正ゆえ$I(a) > 0$.よって$0 < I(a) < 1$だから$\lfloor I(a) \rfloor = 0$

$1 < a < e^2$のとき

 $a > 1$のときに成立する,以下の不等式を証明します.

 $a > 1$のとき,以下の不等式が成立する:
$$ I(a) \geq 2 \log{\frac{\log{a} + 1 - a^{-2023}}{\log{a}}}. $$

 $a^x \geq 1 + (\log{a}) x$が成立する(これは微分法により示せる).よって$a > 1$のとき$x \leq \dfrac{a^x - 1}{\log{a}}$が成立するので
\begin{align} I(a) &\geq \int_0^{2023} \frac{2}{\frac{a^x - 1}{\log{a}} + a^x}\, dx \\ &= 2 \int_0^{2023} \frac{a^{-x} \log{a}}{(\log{a} + 1) - a^{-x}}\, dx \\ &= 2 \log{\frac{\log{a} + 1 - a^{-2023}}{\log{a}}}. \end{align}

補題3で導出した下界$2 \log{\dfrac{\log{a} + 1 - a^{-2023}}{\log{a}}}$を用いて,以下の命題が証明できます.

 ある実数$\xi \in (1,\ e^2)$が存在して,$1 < a \leq \xi$のとき$I(a) \geq 1$

補題3と微分法を用いる

 まず,$2 \log{\dfrac{\log{a} + 1 - a^{-2023}}{\log{a}}} \geq 1 \iff 1 - a^{-2023} - (\sqrt{e} - 1) \log{a} \geq 0$である.次に$f(a) = 1 - a^{-2023} - (\sqrt{e} - 1) \log{a} \ (\text{定義域は} \ 1 < a < e^2)$とおき,$f(a) \geq 0$となる条件を調べる.
$$ f'(a) = (\sqrt{e} - 1) a^{-2024} \left(\frac{2023}{\sqrt{e} - 1} - a^{2023}\right) $$
ゆえ,$X := \left(\dfrac{2023}{\sqrt{e} - 1}\right)^{\frac{1}{2023}} (> 1)$の前後で$f'$は正から負へ切り替わる.また$\displaystyle \lim_{a \to 1+0} f(a) = 0$$\displaystyle \lim_{a \to e^2 - 0} f(a) = 3 - 2 \sqrt{e} - e^{-4046} < 0$$f$の連続性から,ある実数$\xi^* \in (X,\ e^2)$が唯一つ存在して,$1 < a \leq \xi^*$のとき$f(a) \geq 0$$\xi^* < a < e^2$のとき$f(a) < 0$がわかる.
 よって補題3と合わせて,ある実数$\xi \in (1,\ e^2)$が存在して,$1 < a \leq \xi$のとき$I(a) \geq 2 \log{\dfrac{\log{a} + 1 - a^{-2023}}{\log{a}}} \geq 1$が成立する.

上記の証明での$\xi$の最大値(つまり下界の値が1と一致し,以降1より小さくなるような$\xi$)が,$\xi^*$と一致することに注意します.もう既に$1 < I(e) < 2$であることは分かっているので,$e \leq \xi^*$が成り立つことも分かります.

$0 < a \leq 1$のとき

 現在,いろいろ試行錯誤中です.何か結果が出たら追記します.

結論

 いろいろ計算をした結果,少なくとも次のようなことが分かりました:
$$ \lfloor I(a) \rfloor = \begin{cases} \text{unknown} & (0 < a < e), \\ 1 & (e \leq a \leq \xi^*), \\ \text{unknown} & (\xi^* < a < e^2), \\ 0 & (e^2 \leq a). \end{cases} $$

あとがき

 私の数学力の低さにより,完全な解析解を導出することはできませんでした.おそらく数値計算で数値解をある程度見つけるしかないんでしょうかね?今回,考察しきれなかった部分は
$$ I(a) = \int_0^{2023} \frac{2}{x + a^x}\, dx \approx \frac{1}{n} \sum_{k=1}^{2023 n} \frac{2}{\dfrac{k}{n} + a^{\frac{k}{n}}} =: J(a, n) $$
と近似して,数値計算することが必要になりそうです.

投稿日:61
更新日:62

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ItaRic
ItaRic
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