本稿は「圏論から共形場理論へ ①」をすでに読んだ方向けです。まず①をよんでください。
また本稿に出てくる画像は全て形式はpngです。SVGにしようとしたらmathlogが非対応だったので拡大する場合、新しいタブで開いてください。またSVGでない為画質が荒く、人によっては読みにくい場合は質問してください。答えます
モノイダル圏の中でもいろいろな種類が存在します。なので課せられる条件が強い順にピラミッド図を作りました。未修の物も含んでいて、横軸は条件の方向性の違いを表します。例えばレベル2の「ブレイド付きモノイダル圏」と「剛性圏」——は、モノイダル圏から独立した方向に条件を追加したものです。どちらかが他方を含むわけではありません。ただしリボン圏はそのどちらも含みます。(CFTは共形場理論の略語)
圏の分類
補足:米田の補題や充実関手、充実圏はあると共形場理論の精密な定式化、理解においては必要ですが、あくまで導入なので軽く触れる程度に留めます。
圏 $\mathcal{C},\mathcal{D},\mathcal{V}$ で表す.特に断らない限り局所小圏とする.
対象 $X,Y,Z,W$ で表す.圏 $\mathcal{C}$ の対象全体を $\operatorname{Ob}(\mathcal{C})$ と書く.
射 $f,g,h$ で表す.$X$ から $Y$ への射全体を $\mathcal{C}(X,Y)$ と書く.
関手 $F,G,H$ で表す.恒等関手を $\mathrm{Id}_\mathcal{C}$ と書く.また関手$F$を対象$X$に作用させるとき$FX$とも書くとする。
自然変換 $\eta,\varepsilon,\theta,u$ で表し、$\eta:F\Rightarrow G$ と書く.対象 $X$ における成分を $\eta_X$ と書く.
モノイダル圏の構造射 結合子を $\alpha_{X,Y,Z}$、左単位子を $\lambda_X$、右単位子を $\rho_X$ と書く.
ブレイドおよび対称 ブレイドを $\beta_{X,Y}$、対称を $\sigma_{X,Y}$ と書く.
双対 右双対を $X^{*}$、左双対を ${}^{*}X$ と書く.右双対に付随する評価射・余評価射を $\mathrm{ev}_X,\mathrm{coev}_X$、左双対に付随するものを $\mathrm{ev}'_X,\mathrm{coev}'_X$ と書く.
ピボタル構造 $\mathfrak{p}_X:X\to (X^{*})^{*}$ と書く.Drinfeld 射を $u_X$、ねじれを $\theta_X$ と書く.
右双対と左双対の呼称は文献によって逆になる.本稿は Etingof–Gelaki–Nikshych–Ostrik [EGNO] の規約に従い、
$$ \mathrm{ev}_X:X^{*}\otimes X\to I,\qquad \mathrm{coev}_X:I\to X\otimes X^{*} $$
を持つものを $X$ の右双対と呼ぶ.文献 [Equiv] 等はこれを左双対と呼ぶ.読者が他書を参照する際には、名称ではなく評価射の向きによって同定されたい.
①の中で「普遍性を持つ対象は自然同型を除いて一意である」という命題を何度か使ってきました。テンソル積の一意性証明もその一例です。この「なぜ普遍性が一意性を保証するのか」という問いの根底にあるのが米田の補題です。
圏$\mathcal{C}$と関手$F: \mathcal{C} \to \mathbf{Set}$、および対象$A \in \mathcal{C}$に対して、自然変換の集まりと集合$F(A)$の間に自然な全単射が存在する。
$\mathbf{Nat(Hom}_{\mathcal{C}}(A,-),F) \cong F(A)$
難しく見えますが、言っていることは非常にシンプルです。「対象Aのことは、Aから他の対象への射の全体を見れば完全に分かる」ということです.
日常的な言葉で言えば次のようになります。ある人物の性格を知りたいとき、その人の内面を直接のぞき込もうとするより、その人が他の人々とどのように関わるかという関係性の全体を観察した方が、その人のことを完全に把握できる、ということです。これはまさに圏論が一貫して置いてきた視点——「対象の内部ではなく関係性を見よ」——の究極の表明です。
米田の補題が普遍性の一意性を保証する理由はここにあります。普遍性の定義を思い出すと、対象Uが普遍性を持つとは「任意の対象Xとの間の射が一意に定まる」という条件でした。これはまさに$\mathrm{Hom}(U, -)$という関手の振る舞いを指定していることに他なりません。米田の補題はこの振る舞いが対象$U$を自然同型を除いて完全に決定することを保証します。つまり「外からの関係性が同じなら、対象は本質的に同じ」という圏論の精神が、米田の補題という定理として結晶化しているのです。
本稿では米田の補題の完全な証明には立ち入りません。しかし「普遍性によって定義された対象が自然同型を除いて一意である」という事実を当然のように使ってきた背景には、常にこの定理が存在しています。より厳密な定式化に興味を持った読者は、米田の補題を次の学習ステップとして強くお勧めします。
モノイダル圏の定義において、結合子$\alpha_{A,B,C}$は括弧の付け方という人為的な選択に結果が依存しないことを保証する自然同型でした。しかしここで一つの不安が残ります。五角形等式と三角形等式という二つの条件を課しましたが、これで本当に十分なのでしょうか。対象の個数が増えたとき、新たな整合性条件が次々と必要になるのではないかという疑問は自然です。
マクレーンのコヒーレンス定理はこの不安に完全な答えを与えます。
モノイダル圏において、結合子 $\alpha$、左単位子 $\lambda$、右単位子 $\rho$ とそれらの逆射、および $\otimes$ と $\mathrm{id}$ のみから構成される任意の図式は可換である.
証明は非常に技巧的でありそれを紹介すると本題からそれる。 Mac Lane [MacLane, Chapter VII] を参照.本稿では以後、コヒーレンス定理により、$\alpha,\lambda,\rho$ の挿入位置が一意に定まる文脈においては、これらを表記から省略する.省略した箇所は必要に応じて一意に復元できる.
モノイダル圏において
$$ \lambda_I=\rho_I:I\otimes I\to I $$
が成り立つ.また任意の対象 $X,Y$ に対して
$$ \lambda_{X\otimes Y}=\lambda_X\otimes\mathrm{id}_Y\ \ (\text{$\alpha$ を経由して}),\qquad \rho_{X\otimes Y}=\mathrm{id}_X\otimes\rho_Y \ \ (\text{同上}) $$
が成り立つ.これらは五角形等式と三角形等式から導かれ、独立の公理として課す必要はない.
三つの等式はいずれも五角形と三角形から $\alpha,\lambda,\rho$ の自然性のみを用いて導かれる.以下、まず主張 (2) を示し、それを用いて主張 (1) を導く.主張 (3) は左右対称な議論による.証明は Kelly [Kelly] に従う.
準備. $\lambda:I\otimes-\Rightarrow\mathrm{Id}_\mathcal{V}$ は自然同型であるから、射の等式 $\mathrm{id}_I\otimes f=\mathrm{id}_I\otimes g$ が成り立てば $f=g$ である.実際、$\lambda$ の自然性を $f,g:A\to B$ に適用すると
$$ f\circ\lambda_A=\lambda_B\circ(\mathrm{id}_I\otimes f)=\lambda_B\circ(\mathrm{id}_I\otimes g)=g\circ\lambda_A, $$
$\lambda_A$ が同型射であることから $f=g$.同様に $\rho$ が自然同型であることから、$f\otimes\mathrm{id}_I=g\otimes\mathrm{id}_I$ は $f=g$ を含意する.以下この事実を単位子の忠実性と呼ぶ.
主張 (2) の証明. $\lambda_{X\otimes Y}\circ\alpha_{I,X,Y}=\lambda_X\otimes\mathrm{id}_Y$ を示す.
五角形等式を $(I,I,X,Y)$ に適用すると
$$ \alpha_{I,I,X\otimes Y}\circ\alpha_{I\otimes I,X,Y} =(\mathrm{id}_I\otimes\alpha_{I,X,Y})\circ\alpha_{I,I\otimes X,Y}\circ(\alpha_{I,I,X}\otimes\mathrm{id}_Y) \quad\cdots(\mathrm{P}) $$
三角形等式を $(I,X)$ および $(I,X\otimes Y)$ に適用すると
$$ \alpha_{I,I,X}=(\mathrm{id}_I\otimes\lambda_X)^{-1}\circ(\rho_I\otimes\mathrm{id}_X),\quad \alpha_{I,I,X\otimes Y}=(\mathrm{id}_I\otimes\lambda_{X\otimes Y})^{-1}\circ(\rho_I\otimes\mathrm{id}_{X\otimes Y}) \quad\cdots(\mathrm{T}) $$
さらに $\alpha$ の第一引数についての自然性を $\rho_I:I\otimes I\to I$ に、第二引数についての自然性を $\lambda_X:I\otimes X\to X$ にそれぞれ適用すると
$$ (\rho_I\otimes\mathrm{id}_{X\otimes Y})\circ\alpha_{I\otimes I,X,Y} =\alpha_{I,X,Y}\circ\bigl((\rho_I\otimes\mathrm{id}_X)\otimes\mathrm{id}_Y\bigr) \quad\cdots(\mathrm{N}_1) $$
$$ \alpha_{I,X,Y}\circ\bigl((\mathrm{id}_I\otimes\lambda_X)\otimes\mathrm{id}_Y\bigr) =(\mathrm{id}_I\otimes(\lambda_X\otimes\mathrm{id}_Y))\circ\alpha_{I,I\otimes X,Y} \quad\cdots(\mathrm{N}_2) $$
$(\mathrm{T})$ を $(\mathrm{P})$ に代入し、$(\mathrm{N}_1)$、$(\mathrm{N}_2)$ で同型 $\rho_I\otimes\mathrm{id}_X$、$\mathrm{id}_I\otimes\lambda_X$ を消去したのちに整理すると
$$ \mathrm{id}_I\otimes\lambda_{X\otimes Y} =\mathrm{id}_I\otimes\bigl((\lambda_X\otimes\mathrm{id}_Y)\circ\alpha_{I,X,Y}^{-1}\bigr). $$
単位子の忠実性により
$$ \lambda_{X\otimes Y}=(\lambda_X\otimes\mathrm{id}_Y)\circ\alpha_{I,X,Y}^{-1}, $$
すなわち $\lambda_{X\otimes Y}\circ\alpha_{I,X,Y}=\lambda_X\otimes\mathrm{id}_Y$.
主張 (1) の証明. 主張 (2) を $X=Y=I$ に適用すると
$$ \lambda_{I\otimes I}\circ\alpha_{I,I,I}=\lambda_I\otimes\mathrm{id}_I \quad\cdots(\ast) $$
一方、$\lambda$ の自然性を $\lambda_I:I\otimes I\to I$ に適用すると $\lambda_I\circ\lambda_{I\otimes I}=\lambda_I\circ(\mathrm{id}_I\otimes\lambda_I)$ であり、$\lambda_I$ が同型射であることから
$$ \lambda_{I\otimes I}=\mathrm{id}_I\otimes\lambda_I. $$
これを $(\ast)$ に代入すると
$$ (\mathrm{id}_I\otimes\lambda_I)\circ\alpha_{I,I,I}=\lambda_I\otimes\mathrm{id}_I. $$
他方、三角形等式を $(I,I)$ に適用すると
$$ (\mathrm{id}_I\otimes\lambda_I)\circ\alpha_{I,I,I}=\rho_I\otimes\mathrm{id}_I. $$
両者を比較して $\lambda_I\otimes\mathrm{id}_I=\rho_I\otimes\mathrm{id}_I$.単位子の忠実性($\rho$ 側)により $\lambda_I=\rho_I$.
主張 (3) の証明. 五角形等式を $(X,Y,I,I)$ に適用し、三角形等式を $(X,I)$、$(X\otimes Y,I)$ に、$\alpha$ の第三引数の自然性を $\lambda_I$ に、第二引数の自然性を $\rho_Y$ にそれぞれ適用する.主張 (2) と完全に左右対称な議論により
$$ \rho_{X\otimes Y}=(\mathrm{id}_X\otimes\rho_Y)\circ\alpha_{X,Y,I} $$
を得る.
モノイダル圏 $(\mathcal{V},\otimes,I,\alpha,\lambda,\rho)$ が厳密であるとは、$\alpha,\lambda,\rho$ がすべて恒等射であること、すなわち
$$ (X\otimes Y)\otimes Z=X\otimes(Y\otimes Z),\qquad I\otimes X=X=X\otimes I $$
が対象および射について等号として成り立つことをいう.
このような圏においては結合子や単位子は全て厳密に省略でき、かなり便利な圏となっています。
モノイダル圏の間の「構造を保つ関手」と、その間の「構造を保つ自然変換」を定める.これらは、モノイダル同値や、ピボタル構造(モノイダル自然同型)を厳密に述べるために必要である.以下、$\mathcal{V}=(\mathcal{V},\otimes,I,\alpha,\lambda,\rho)$ と $\mathcal{W}=(\mathcal{W},\otimes,I',\alpha',\lambda',\rho')$ を二つのモノイダル圏とする.両者のモノイダル積を同じ記号 $\otimes$ で書くが、それがどちらの圏の積であるかは対象から一意に定まる.
関手 $F:\mathcal{V}\to\mathcal{W}$ が緩モノイダル関手(lax monoidal functor)であるとは、次のデータを備えることをいう.
これらが次の整合性(結合律と左右の単位律)を満たす.まず結合律:
$$ \begin{CD} (FX\otimes FY)\otimes FZ @>{\alpha'_{FX,FY,FZ}}>> FX\otimes(FY\otimes FZ) \\ @V{J_{X,Y}\otimes\mathrm{id}_{FZ}}VV @VV{\mathrm{id}_{FX}\otimes J_{Y,Z}}V \\ F(X\otimes Y)\otimes FZ @. FX\otimes F(Y\otimes Z) \\ @V{J_{X\otimes Y,Z}}VV @VV{J_{X,Y\otimes Z}}V \\ F\bigl((X\otimes Y)\otimes Z\bigr) @>{F(\alpha_{X,Y,Z})}>> F\bigl(X\otimes(Y\otimes Z)\bigr) \end{CD} $$
射の等式として書けば
$$ F(\alpha_{X,Y,Z})\circ J_{X\otimes Y,Z}\circ(J_{X,Y}\otimes\mathrm{id}_{FZ}) =J_{X,Y\otimes Z}\circ(\mathrm{id}_{FX}\otimes J_{Y,Z})\circ\alpha'_{FX,FY,FZ}. $$
次に左右の単位律.$I'\otimes FX$ および $FX\otimes I'$ から $FX$ への二経路がそれぞれ一致する.
$$
\begin{aligned}
I'\otimes FX
&\xrightarrow{\ J_0\otimes\mathrm{id}_{FX}\ }F(I)\otimes FX
\xrightarrow{\ J_{I,X}\ }F(I\otimes X)
\xrightarrow{\ F(\lambda_X)\ }FX,\\
I'\otimes FX
&\xrightarrow{\ \lambda'_{FX}\ }FX
\end{aligned}
$$
と
$$
\begin{aligned}
FX\otimes I'
&\xrightarrow{\ \mathrm{id}_{FX}\otimes J_0\ }FX\otimes F(I)
\xrightarrow{\ J_{X,I}\ }F(X\otimes I)
\xrightarrow{\ F(\rho_X)\ }FX,\\
FX\otimes I'
&\xrightarrow{\ \rho'_{FX}\ }FX
\end{aligned}
$$
すなわち
$$ F(\lambda_X)\circ J_{I,X}\circ(J_0\otimes\mathrm{id}_{FX})=\lambda'_{FX},\qquad F(\rho_X)\circ J_{X,I}\circ(\mathrm{id}_{FX}\otimes J_0)=\rho'_{FX}. $$
さらに、$J_{X,Y}$ と $J_0$ がすべて同型射であるとき $F$ を強モノイダル関手(strong monoidal functor)、$J_{X,Y}$ と $J_0$ がすべて恒等射であるとき $F$ を厳密モノイダル関手という.本稿で単にモノイダル関手というときは、強モノイダル関手を指す.
緩モノイダル関手では構造射の向きは $F(X)\otimes F(Y)\to F(X\otimes Y)$ である.逆向き $F(X\otimes Y)\to F(X)\otimes F(Y)$ を備えるものは余緩モノイダル関手(oplax monoidal functor)と呼ばれ、強モノイダル関手においては $J$ が同型であるから両者の区別は消える.
$(F,J,J_0)$ と $(G,K,K_0)$ を $\mathcal{V}\to\mathcal{W}$ の緩モノイダル関手とする.自然変換 $\eta:F\Rightarrow G$ がモノイダル自然変換であるとは、$\mathcal{V}$ の各対象 $X,Y$ に対して次の図式が可換であることをいう.
$$ \begin{CD} FX\otimes FY @>{J_{X,Y}}>> F(X\otimes Y) \\ @V{\eta_X\otimes\eta_Y}VV @VV{\eta_{X\otimes Y}}V \\ GX\otimes GY @>{K_{X,Y}}>> G(X\otimes Y) \end{CD} $$
および $I'\xrightarrow{\ J_0\ }F(I)\xrightarrow{\ \eta_I\ }G(I)$ が $I'\xrightarrow{\ K_0\ }G(I)$ に一致すること.射の等式として書けば
$$ \eta_{X\otimes Y}\circ J_{X,Y}=K_{X,Y}\circ(\eta_X\otimes\eta_Y),\qquad \eta_I\circ J_0=K_0. $$
各成分 $\eta_X$ が同型射であるとき、$\eta$ をモノイダル自然同型と呼び、$F\overset{\sim}{\Longrightarrow}G$ と書く.
強モノイダル関手 $F:\mathcal{V}\to\mathcal{W}$ がモノイダル同値であるとは、$F$ が圏同値であることをいう.これは、強モノイダル関手 $G:\mathcal{W}\to\mathcal{V}$ と二つのモノイダル自然同型
$$ G\circ F\overset{\sim}{\Longrightarrow}\mathrm{Id}_\mathcal{V},\qquad F\circ G\overset{\sim}{\Longrightarrow}\mathrm{Id}_\mathcal{W} $$
が存在することと同値である.このような $F$ が存在するとき、$\mathcal{V}$ と $\mathcal{W}$ はモノイダル同値であるという.
$F,G$ がともに厳密モノイダル関手($J,J_0,K,K_0$ が恒等射)の場合、定義 2.10 の二条件は
$$ \eta_{X\otimes Y}=\eta_X\otimes\eta_Y,\qquad \eta_I=\mathrm{id}_I $$
に帰着する.第 7 節のピボタル構造 $\mathfrak{p}:\mathrm{Id}_\mathcal{V}\overset{\sim}{\Longrightarrow}(-)^{**}$ は、恒等関手と二重双対関手(命題 の標準同型 $(X^{*})^{*}\otimes (Y^{*})^{*}\cong ((X\otimes Y)^{*})^{*}$ を構造射 $K$ とする強モノイダル関手)との間のモノイダル自然同型に他ならない.
ではここで重要な定理を一つ挙げる.
任意のモノイダル圏は、ある厳密モノイダル圏とモノイダル同値である.
コヒーレンスの定理の実用的な意義は、記法の簡約にとどまらない.厳密モノイダル圏で成り立つ性質・定理を、モノイダル同値な(一般には厳密でない)モノイダル圏へそのまま移せる点にある.
具体的にはモノイダル同値 $F:\mathcal{V}\to\mathcal{W}$ は、モノイダル構造($\otimes,I,\alpha,\lambda,\rho$ とそれらから定まる射・図式)のみを用いて記述される性質・構成を、両圏の間で移す.次はいずれもモノイダル同値で保たれる.
よって厳密な世界で得た証明を一般の $\mathcal{V}$ の主張へ適切に戻せる。省略していた $\alpha,\lambda,\rho$ を必要な位置へ挿入し直せばよいのだが、コヒーレンス定理が、その挿入位置は一意であり結果は挿入の仕方によらないことを保証するため、この翻訳は曖昧さなく行える.本稿で繰り返し用いる「記述の簡明のため厳密モノイダル圏を仮定する」という断り書き(例えば双対の一意性の証明)は、まさにこれによって正当化されている.
モノイダル圏の定義によって「対象を組み合わせる」という操作を圏論的に捉えることができました。しかしここで一つの問いが自然に浮かびます。
「$A\otimes B$と$B\otimes A$の関係はどうなっているのか」
コヒーレンス定理によって括弧の付け方という順序は本質的でないことが保証されましたが、モノイダル積の左右の順序については何も言っていません。モノイダル圏の定義(テンソル積ではない)は$A\otimes B$と$B\otimes A$が異なる対象であることを許容しており、両者の間に何らかの自然な対応がある保証は一切ありません。
数学的には純粋に抽象的な問いですが、この問いは物理学からの強い要請でもありました。量子力学において二つの粒子を入れ替えるという操作——粒子交換——は物理的に意味のある操作であり、その数学的構造を記述する言語が必要とされていたのです。古典的な統計力学では粒子を入れ替えても状態は変わらないか、あるいは符号が反転するかの二択しかありませんでした。しかし1970年代から80年代にかけて、2次元系の物理においてはその二択に収まらない中間的な統計性を持つ粒子、アニオン(anyon)の存在が理論的に示され、その記述に新しい数学的枠組みが必要になりました。
またマニアックですが純粋数学の側では、組み紐(braid)の理論が結び目理論と深く関係することが明らかになり、その代数的構造を圏論的に定式化するという動機もありました。
モノイダル圏$(\mathcal{C},\otimes,I,\alpha,\lambda,\rho)$に対して、任意の対象$A,B\in\mathcal{C}$に対する自然同型の族
$\beta_{A,B}: A\otimes B \xrightarrow{\sim} B\otimes A$
が存在して次の二つのブレイド整合性条件(hexagon identities)、言い換えるとふたつの六角形等式を満たすとき、$(\mathcal{C},\otimes,I,\alpha,\lambda,\rho,\beta)$をブレイド付きモノイダル圏と呼ぶ。
六角形等式
$\beta$ が自然同型であるとは、各成分 $\beta_{X,Y}$ が同型射であることに加えて、任意の射 $f:X\to X'$、$g:Y\to Y'$ に対して次の図式が可換であることをいう.
$$ \begin{CD} X\otimes Y @>{\beta_{X,Y}}>> Y\otimes X \\ @V{f\otimes g}VV @VV{g\otimes f}V \\ X'\otimes Y' @>{\beta_{X',Y'}}>> Y'\otimes X' \end{CD} $$
射の等式として書けば
$$ \beta_{X',Y'}\circ(f\otimes g)=(g\otimes f)\circ\beta_{X,Y}. $$
シリーズ①の五角形等式と同じように、自然同型$\beta_{A,B}: A\otimes B \xrightarrow{\sim} B\otimes A$と結合子の性質だけで各辺が自然同型となり、各頂点が自然に同型になることを示せます。ただし射の経路の取り方で射が完全に一致するとは限りません。それを保証します。これによりモノイダル積が可換になります。
大体に自然同型の定義の元で等号を示すのはほとんどできません。新たに条件を課す必要性があります。なのでその条件を課した対称モノイダル圏を紹介します。
ブレイド付きモノイダル圏の自然同型の族$\beta_{A,B}: A\otimes B \xrightarrow{\sim} B\otimes A$が$\beta_{A,B}\circ\beta_{B,A}\neq\text{id}_{A\otimes B}$であるなら、非対称なモノイダル圏または単純に対称でないブレイド付きモノイダル圏と言い、逆に等号が成り立つなら対称モノイダル圏という.
対称モノイダル圏においては、第一六角形等式と第二六角形等式は同値である.
$\sigma_{Y,X}=\sigma_{X,Y}^{-1}$ であるから、第一六角形等式の両辺の逆射を取ると
$$ \alpha^{-1}_{X,Y,Z}\circ\sigma_{X,Y\otimes Z}^{-1}\circ\alpha^{-1}_{Y,Z,X} =(\sigma_{X,Y}^{-1}\otimes\mathrm{id}_Z)\circ\alpha^{-1}_{Y,X,Z}\circ(\mathrm{id}_Y\otimes\sigma_{X,Z}^{-1}), $$
すなわち
$$ \alpha^{-1}_{X,Y,Z}\circ\sigma_{Y\otimes Z,X}\circ\alpha^{-1}_{Y,Z,X} =(\sigma_{Y,X}\otimes\mathrm{id}_Z)\circ\alpha^{-1}_{Y,X,Z}\circ(\mathrm{id}_Y\otimes\sigma_{Z,X}) $$
を得る.ここで対象の名称を $(X,Y,Z)\mapsto(Z,X,Y)$ と置換すると、これは第二六角形等式に一致する.逆も同様である.
ブレイド付きモノイダル圏によって「対象を入れ替える」という操作を圏論的に捉えることができました。次章が答える問いは「対象を『打ち消す』という操作をモノイダル圏的に捉えるにはどうするか」です。これは数の世界における逆数、ベクトル空間における双対空間の概念を、モノイダル圏の言語へ一般化する試みです。
ここで注意しなければならないのは、モノイダル積が可換であるとは限らないため(一般に$A\otimes B\ncong B\otimes A$)、「左から打ち消す」操作と「右から打ち消す」操作が別物になりうるという点です。これによりが左双対と右双対という概念に差別化が生まれます。ではこう思う人もいるはずです。「一般のブレイド付きモノイダル圏では一致するのだろう」。実際そうなのですがそれを正当化する必要があります。
$\mathcal{V}$ をモノイダル圏、$X\in\operatorname{Ob}(\mathcal{V})$ とする.$X$ の右双対とは、三つ組 $(X^{*},\mathrm{ev}_X,\mathrm{coev}_X)$ であって、$X^{*}\in\operatorname{Ob}(\mathcal{V})$ および射
$$ \mathrm{ev}_X:X^{*}\otimes X\to I\quad\text{(評価射)},\qquad \mathrm{coev}_X:I\to X\otimes X^{*}\quad\text{(余評価射)} $$
からなり、以下のジグザグ等式を満たすもののことをいう.
ジグザグ等式:次の二つの合成がいずれも恒等射である.
$$ \begin{aligned} X&\xrightarrow{\ \lambda_X^{-1}\ }I\otimes X \xrightarrow{\ \mathrm{coev}_X\otimes\mathrm{id}_X\ }(X\otimes X^{*})\otimes X\\ &\xrightarrow{\ \alpha_{X,X^{*},X}\ }X\otimes(X^{*}\otimes X) \xrightarrow{\ \mathrm{id}_X\otimes\mathrm{ev}_X\ }X\otimes I \xrightarrow{\ \rho_X\ }X \end{aligned} $$
$$ \begin{aligned} X^{*}&\xrightarrow{\ \rho_{X^{*}}^{-1}\ }X^{*}\otimes I \xrightarrow{\ \mathrm{id}\otimes\mathrm{coev}_X\ }X^{*}\otimes(X\otimes X^{*})\\ &\xrightarrow{\ \alpha^{-1}\ }(X^{*}\otimes X)\otimes X^{*} \xrightarrow{\ \mathrm{ev}_X\otimes\mathrm{id}\ }I\otimes X^{*} \xrightarrow{\ \lambda_{X^{*}}\ }X^{*} \end{aligned} $$
厳密モノイダル圏においては、これらはそれぞれ
$$ (\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{ev}_X)\circ(\mathrm{coev}_X\otimes\mathrm{id}_X)=\mathrm{id}_X,\qquad (\mathrm{ev}_X\otimes\mathrm{id}_{X^{*}})\circ(\mathrm{id}_{X^{*}}\otimes\mathrm{coev}_X)=\mathrm{id}_{X^{*}} $$
と書ける.
$X\in\operatorname{Ob}(\mathcal{V})$ の左双対とは、三つ組 $({}^{*}X,\mathrm{ev}'_X,\mathrm{coev}'_X)$ であって、${}^{*}X\in\operatorname{Ob}(\mathcal{V})$ および射
$$ \mathrm{ev}'_X:X\otimes {}^{*}X\to I,\qquad \mathrm{coev}'_X:I\to {}^{*}X\otimes X $$
からなり、以下のジグザグ等式を満たすもののことをいう.
次の二つの合成がいずれも恒等射である.
$$ \begin{aligned} X&\xrightarrow{\ \lambda_X^{-1}\ }I\otimes X \xrightarrow{\ \mathrm{coev}_X\otimes\mathrm{id}_X\ }(X\otimes X^{*})\otimes X\\ &\xrightarrow{\ \alpha_{X,X^{*},X}\ }X\otimes(X^{*}\otimes X) \xrightarrow{\ \mathrm{id}_X\otimes\mathrm{ev}_X\ }X\otimes I \xrightarrow{\ \rho_X\ }X \end{aligned} $$
$$ \begin{aligned} X^{*}&\xrightarrow{\ \rho_{X^{*}}^{-1}\ }X^{*}\otimes I \xrightarrow{\ \mathrm{id}\otimes\mathrm{coev}_X\ }X^{*}\otimes(X\otimes X^{*})\\ &\xrightarrow{\ \alpha^{-1}\ }(X^{*}\otimes X)\otimes X^{*} \xrightarrow{\ \mathrm{ev}_X\otimes\mathrm{id}\ }I\otimes X^{*} \xrightarrow{\ \lambda_{X^{*}}\ }X^{*} \end{aligned} $$
厳密モノイダル圏においては、これらはそれぞれ
$$ (\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{ev}_X)\circ(\mathrm{coev}_X\otimes\mathrm{id}_X)=\mathrm{id}_X,\qquad (\mathrm{ev}_X\otimes\mathrm{id}_{X^{*}})\circ(\mathrm{id}_{X^{*}}\otimes\mathrm{coev}_X)=\mathrm{id}_{X^{*}} $$
と書ける.
またこの等式が成り立つのは当たり前じゃないかと感じたら、あくまで単位対象は同型射の存在をだけを保証するもので,何もしないという操作である恒等射である事の保証はしていません。恒等射と同型射、単位対象の意味を振り返っているみて下さい。日常的な例でいうとyoutubeのコンテンツとしてある「逆翻訳」が出来る事は保証していますが、逆翻訳する前の物と後の物が全く同じであることの保証していません。
対象Aに対して右双対対象と評価射、余評価射の組$(A^*,\mathrm{ev}_A,\mathrm{coev}_A)$が存在するなら、右双対対象は同型を除き一意に定まる。
この証明はテンソル積の一意性と同じように射に注目しましょう。もしふたつの右双対対象を考えた時、それぞれに付随する射が逆射の関係になれば、自然と同型になります。また逆射の一意性はシリーズの①で紹介しているのでそちらで見てください。
$\mathcal{V}$ をモノイダル圏、$X\in\operatorname{Ob}(\mathcal{V})$ とする.$(D_1,\mathrm{ev}^{(1)},\mathrm{coev}^{(1)})$ と $(D_2,\mathrm{ev}^{(2)},\mathrm{coev}^{(2)})$ がともに $X$ の右双対であるとする.このとき、
$$ \mathrm{ev}^{(2)}\circ(\varphi\otimes\mathrm{id}_X)=\mathrm{ev}^{(1)} $$
を満たす射 $\varphi:D_1\to D_2$ がただ一つ存在し、しかも $\varphi$ は同型射である.さらにこの $\varphi$ は
$$ (\mathrm{id}_X\otimes\varphi)\circ\mathrm{coev}^{(1)}=\mathrm{coev}^{(2)} $$
をも自動的に満たす.すなわち右双対は、評価射と余評価射を保つ同型射を除いて一意である.
定理7 では、比較すべき二つの右双対を $D_1,D_2$ と書き、付随する構造射に上付きの $(1),(2)$ を付す. $\mathrm{ev}'_X,\mathrm{coev}'_X$ は左双対の構造射を表す記号であり、本定理の $\mathrm{ev}^{(2)},\mathrm{coev}^{(2)}$ とは無関係である.
記述の簡明のため厳密モノイダル圏を仮定する(定理 2.8 により一般性を失わない).以下、$\alpha,\lambda,\rho$ は省略し、$I\otimes A=A=A\otimes I$ と同一視する.用いる等式は次の四つのみである.
$$ \begin{aligned} (\mathrm{Z1}_i)\quad &(\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{ev}^{(i)})\circ(\mathrm{coev}^{(i)}\otimes\mathrm{id}_X)=\mathrm{id}_X,\\ (\mathrm{Z2}_i)\quad &(\mathrm{ev}^{(i)}\otimes\mathrm{id}_{D_i})\circ(\mathrm{id}_{D_i}\otimes\mathrm{coev}^{(i)})=\mathrm{id}_{D_i} \end{aligned} $$
($i=1,2$.これらは $(D_i,\mathrm{ev}^{(i)},\mathrm{coev}^{(i)})$ に対する公理 6.3 である.)および注意 2.1.1 の交換法則である.
構成 射 $\varphi:D_1\to D_2$ および $\psi:D_2\to D_1$ を
$$ \varphi:=(\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_2})\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)}),\qquad \psi:=(\mathrm{ev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_{D_1})\circ(\mathrm{id}_{D_2}\otimes\mathrm{coev}^{(1)}) $$
と定める.型を確認する.$\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)}:D_1=D_1\otimes I\to D_1\otimes X\otimes D_2$ であり、続く $\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_2}:D_1\otimes X\otimes D_2\to I\otimes D_2=D_2$ であるから $\varphi:D_1\to D_2$ である.$\psi$ も同様.
第一段:$\mathrm{ev}^{(2)}\circ(\varphi\otimes\mathrm{id}_X)=\mathrm{ev}^{(1)}$ 交換法則により、二つの射 $\mathrm{ev}^{(1)}:D_1\otimes X\to I$ と $\mathrm{ev}^{(2)}:D_2\otimes X\to I$ を互いに素なテンソル因子に施す順序は交換可能である.すなわち
$$ \mathrm{ev}^{(2)}\circ(\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_2\otimes X}) =\mathrm{ev}^{(1)}\circ(\mathrm{id}_{D_1\otimes X}\otimes\mathrm{ev}^{(2)}) \qquad\text{(ともに }D_1\otimes X\otimes D_2\otimes X\to I\text{)}. $$
これを用いて
$$ \begin{aligned} \mathrm{ev}^{(2)}\circ(\varphi\otimes\mathrm{id}_X) &=\mathrm{ev}^{(2)}\circ(\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_2}\otimes\mathrm{id}_X)\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_X)\\ &=\mathrm{ev}^{(1)}\circ(\mathrm{id}_{D_1\otimes X}\otimes\mathrm{ev}^{(2)})\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_X)\\ &=\mathrm{ev}^{(1)}\circ\Bigl(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\bigl[(\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{ev}^{(2)})\circ(\mathrm{coev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_X)\bigr]\Bigr)\\ &=\mathrm{ev}^{(1)}\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{id}_X)=\mathrm{ev}^{(1)}. \end{aligned} $$
第三の等号は交換法則、第四の等号は $(\mathrm{Z1}_2)$ による.
第二段:$\psi\circ\varphi=\mathrm{id}_{D_1}$ 同様に、$\mathrm{coev}^{(1)}$ と $\mathrm{coev}^{(2)}$ は互いに素な因子に施されるから順序を交換できる.
$$ \begin{aligned} \psi\circ\varphi &=(\mathrm{ev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_{D_1})\circ(\mathrm{id}_{D_2}\otimes\mathrm{coev}^{(1)})\circ(\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_2})\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)})\\ &=(\mathrm{ev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_{D_1})\circ(\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_2\otimes X\otimes D_1})\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_{X\otimes D_1})\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(1)})\\ &=(\mathrm{ev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_{D_1})\circ\bigl(\varphi\otimes\mathrm{id}_{X\otimes D_1}\bigr)\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(1)})\\ &=\Bigl(\bigl[\mathrm{ev}^{(2)}\circ(\varphi\otimes\mathrm{id}_X)\bigr]\otimes\mathrm{id}_{D_1}\Bigr)\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(1)})\\ &=(\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_1})\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(1)})=\mathrm{id}_{D_1}. \end{aligned} $$
第三の等号は $\varphi$ の定義、第五の等号は第一段、最後の等号は $(\mathrm{Z2}_1)$ による.
添字 $1$ と $2$ の役割を入れ替えれば、まったく同じ議論により $\varphi\circ\psi=\mathrm{id}_{D_2}$ を得る.よって $\varphi$ は同型射である.
第三段:一意性 $\varphi':D_1\to D_2$ も $\mathrm{ev}^{(2)}\circ(\varphi'\otimes\mathrm{id}_X)=\mathrm{ev}^{(1)}$ を満たすとする.交換法則により
$$ (\mathrm{id}_{D_2}\otimes\mathrm{coev}^{(2)})\circ\varphi'=(\varphi'\otimes\mathrm{id}_{X\otimes D_2})\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)}) $$
が成り立つ(両辺とも $D_1\to D_2\otimes X\otimes D_2$).ゆえに
$$ \begin{aligned} \varphi'&=(\mathrm{ev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_{D_2})\circ(\mathrm{id}_{D_2}\otimes\mathrm{coev}^{(2)})\circ\varphi' &&\text{(}(\mathrm{Z2}_2)\text{ による)}\\ &=(\mathrm{ev}^{(2)}\otimes\mathrm{id}_{D_2})\circ(\varphi'\otimes\mathrm{id}_{X\otimes D_2})\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)})\\ &=\Bigl(\bigl[\mathrm{ev}^{(2)}\circ(\varphi'\otimes\mathrm{id}_X)\bigr]\otimes\mathrm{id}_{D_2}\Bigr)\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)})\\ &=(\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_2})\circ(\mathrm{id}_{D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)})=\varphi. \end{aligned} $$
よって $\varphi'=\varphi$ であり、一意性が示された.
第四段:$\mathrm{coev}$ の保存 交換法則により
$$ (\mathrm{id}_{X\otimes D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)})\circ\mathrm{coev}^{(1)}=(\mathrm{coev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{X\otimes D_2})\circ\mathrm{coev}^{(2)} $$
(両辺とも $I\to X\otimes D_1\otimes X\otimes D_2$).ゆえに
$$ \begin{aligned} (\mathrm{id}_X\otimes\varphi)\circ\mathrm{coev}^{(1)} &=(\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_2})\circ(\mathrm{id}_{X\otimes D_1}\otimes\mathrm{coev}^{(2)})\circ\mathrm{coev}^{(1)}\\ &=(\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{ev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{D_2})\circ(\mathrm{coev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_{X\otimes D_2})\circ\mathrm{coev}^{(2)}\\ &=\Bigl(\bigl[(\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{ev}^{(1)})\circ(\mathrm{coev}^{(1)}\otimes\mathrm{id}_X)\bigr]\otimes\mathrm{id}_{D_2}\Bigr)\circ\mathrm{coev}^{(2)}\\ &=(\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{id}_{D_2})\circ\mathrm{coev}^{(2)}=\mathrm{coev}^{(2)}. \end{aligned} $$
最後から二番目の等号は $(\mathrm{Z1}_1)$ による.
左双対も、評価射と余評価射を保つ同型射を除いて一意である.
$\mathcal{V}^{\mathrm{rev}}$ を、$X\otimes^{\mathrm{rev}}Y:=Y\otimes X$ により定まるモノイダル圏とする.$X$ の $\mathcal{V}$ における左双対は $X$ の $\mathcal{V}^{\mathrm{rev}}$ における右双対に他ならない.よって定理 6.6 を $\mathcal{V}^{\mathrm{rev}}$ に適用すればよい.
定理7が主張するのは、右双対が同型を除いて一意であること、すなわち $X^{*}$ という記号が対象を一つに確定させるわけではないことである.また定理7 は右双対どうしの比較しか述べておらず、右双対 $X^{*}$ と左双対 ${}^{*}X$ が同型であるとは主張していない.この点は改めて扱う。
$A\otimes A^*\cong I $ではないことに注意が必要です。 これは逆数の類比から来る最もよくある誤解です$a\cdot a^{-1}=1 $という等式はモノイダル圏では$ A\otimes A^*\cong I$という式には対応せず、あくまで$\mathrm{ev}_A $と$\mathrm{coev}_A $という二つの射の合成が恒等射に一致するという条件です。$A\otimes A^* $ と$I$は一般に異なる対象のままです。もし同型ならピカール圏というまた別の圏に分類されます
全ての対象が右または左双対対象を持つ圏をそれぞれ右剛性圏、左剛性圏と言う。またどちらも持つ場合は単に剛性圏(または両側剛性圏,two-sided rigit category)
本稿は右剛性そして左剛性を満たす圏を両側剛性圏と書くことにする。逆に単に剛性圏とか書いたら右剛性と左剛性を含む一般的な圏とする。
$\mathcal{V}$ を右剛性圏とする.各対象 $X$ に対して右双対 $X^{*}$ を一つずつ選ぶと、射 $f:X\to Y$ に対して
$$ f^{*}:=(\mathrm{ev}_Y\otimes\mathrm{id}_{X^{*}})\circ(\mathrm{id}_{Y^{*}}\otimes f\otimes\mathrm{id}_{X^{*}})\circ(\mathrm{id}_{Y^{*}}\otimes\mathrm{coev}_X)\ :\ Y^{*}\to X^{*} $$
と定めることにより、$(-)^{*}$ は反変関手 $\mathcal{V}^{\mathrm{op}}\to\mathcal{V}$ をなす.さらに標準的な同型
$$ (X\otimes Y)^{*}\cong Y^{*}\otimes X^{*} $$
が存在する.すなわち $(-)^{*}$ はモノイダル積の順序を反転させる.
証明は [EGNO, Proposition 2.10.5, 2.10.8] を参照.順序の反転を二回行うと順序は元に戻るから、$(-)^{**}$ は順序を保つ共変関手 $\mathcal{V}\to\mathcal{V}$ となる.これが次の議論の出発点である.
$\mathcal{V}$ を剛性圏、$X\in\operatorname{Ob}(\mathcal{V})$ とする.このとき
$$ {}^{*}X\cong X^{*}\quad\Longleftrightarrow\quad X\cong (X^{*})^{*}. $$
剛性圏においては、標準的な同型
$$ {}^{*}(X^{*})\cong X,\qquad (\,{}^{*}X)^{*}\cong X $$
が成り立つ(右双対を取る操作と左双対を取る操作は互いに擬逆である.[EGNO, Section 2.10] を参照).
($\Rightarrow$)${}^{*}X\cong X^{*}$ とする.両辺に右双対関手 $(-)^{*}$ を適用すると、関手は同型射を同型射に移すから $(\,{}^{*}X)^{*}\cong (X^{*})^{*}$.左辺は $X$ に同型であるから $X\cong (X^{*})^{*}$.
($\Leftarrow$)$X\cong (X^{*})^{*}$ とする.両辺に左双対関手 ${}^{*}(-)$ を適用すると ${}^{*}X\cong {}^{*}\bigl((X^{*})^{*}\bigr)\cong X^{*}$.最後の等式は ${}^{*}(Y^{*})\cong Y$ を $Y=X^{*}$ に適用したものである.
命題 6.12 の条件が成り立つ一般的な理由は存在しない(Müger [Muger, Section 2] は「no general reason」と述べている).実際、第 7 節の例 7.5 で $X\not\cong (X^{*})^{*}$ となる剛性圏を挙げる.
$\mathcal{V}$ をブレイド付きモノイダル圏とする.このとき $\mathcal{V}$ が右剛性圏であることと左剛性圏であることは同値である.さらにそのとき、任意の対象 $X$ について
$$ {}^{*}X\cong X^{*} $$
が成り立つ.
厳密モノイダル圏を仮定する.$\mathcal{V}$ が右剛性圏であるとし、$X$ の右双対 $(X^{*},\mathrm{ev}_X,\mathrm{coev}_X)$ を取る.ここで
$$ \mathrm{ev}'_X:=\mathrm{ev}_X\circ\beta_{X,X^{*}}:X\otimes X^{*}\to I,\qquad \mathrm{coev}'_X:=\beta_{X,X^{*}}\circ\mathrm{coev}_X:I\to X^{*}\otimes X $$
と定める.$\beta$ の自然性と六角形等式を用いると、$(X^{*},\mathrm{ev}'_X,\mathrm{coev}'_X)$ が公理 6.4 のジグザグ等式を満たすことが確認できる([EGNO, Section 8.10] を参照).よって $X^{*}$ は $X$ の左双対でもあり、左双対の一意性から ${}^{*}X\cong X^{*}$.逆向きも同様である.
ここがかなり重要なもので、左と右の区別が重要になるような圏はブレイドがないような合成圏に限られるとわかる。
ブレイド付きモノイダル圏によって「二つの対象を入れ替える」という操作を、剛性圏によって「対象を打ち消す」という操作を圏論化しました。しかしここでまた一つの問いが自然に浮かびます。これは現実世界で言う、正の電荷を持つ粒子、負の電荷を持つ反粒子の関係です。
今までは数学的要請が表に出て来ましたが今回の概念は物理学の要請が強いです。例えば量子力学はスピンと言う状態があります(トップダウン、アップダウンなど)。共形場理論はスピンを「一回転」という操作を圏論で記述しようとします。
二重ブレイドは「2つ対象の回転を記述する」という二対象間の操作であり、ツイストは「ひとつの対象を回転を記述する」という一対象の操作です。実世界でも回転することはふたつのものを必要とせず、単一のものでもバランスを取れば回転出来ます。
ブレイド付き剛性圏 $\mathcal{V}$ のねじれ(twist)とは、自然同型 $\theta:\mathrm{Id}_\mathcal{V}\Rightarrow\mathrm{Id}_\mathcal{V}$ であって
$$ \theta_{X\otimes Y}=\beta_{Y,X}\circ\beta_{X,Y}\circ(\theta_X\otimes\theta_Y),\qquad (\theta_X)^{*}=\theta_{X^{*}} $$
を満たすもののことをいう.ねじれを備えたブレイド付き剛性圏をリボン圏と呼ぶ.
命題 6.11 により、剛性圏 $\mathcal{V}$ において $(-)^{**}$ は共変関手 $\mathcal{V}\to\mathcal{V}$ をなす.恒等関手との比較が本節の主題である.
剛性圏 $\mathcal{V}$ がピボタル圏であるとは、モノイダル自然同型
$$ \mathfrak{p}:\mathrm{Id}_\mathcal{V}\overset{\sim}{\Longrightarrow}(-)^{**} $$
が与えられていることをいう.この $\mathfrak{p}$ をピボタル構造と呼ぶ.ここで $\mathfrak{p}$ がモノイダルであるとは、各成分 $\mathfrak{p}_X:X\to (X^{*})^{*}$ が同型射であり、自然性を満たし、さらに命題8の標準同型 $((X\otimes Y)^{*})^{*}\cong (X^{*})^{*}\otimes (Y^{*})^{*}$ のもとで
$$ \mathfrak{p}_{X\otimes Y}=\mathfrak{p}_X\otimes\mathfrak{p}_Y $$
が成り立ち、かつ $\mathfrak{p}_I=\mathrm{id}_I$(標準同型 $(I^{*})^{*}\cong I$ のもと)であることをいう.
定義 10 において、次の三条件は順に真に強い.
条件 2 から条件 3 が従わないことは、次節の定理 7.5 が示す最も重要な内容である.Hopf 代数の言葉では、この差は「$S^2$ が内部自己同型であること」と「$S^2$ が群様元による内部自己同型であること」の差に対応する([WQH, Section 7] を参照).
$H$ を体 $k$ 上の有限次元 Hopf 代数、$S$ をその対蹠射とする.$V\in\mathbf{Rep}(H)$ に対して
$$ V^{*}=\operatorname{Hom}_k(V,k),\quad (h\cdot f)(v)=f(S(h)v);\qquad {}^{*}V=\operatorname{Hom}_k(V,k),\quad (h\cdot f)(v)=f(S^{-1}(h)v) $$
であり、$V^{**}\cong V^{S^2}$($S^2$ に沿う引き戻し)である.このとき $\mathbf{Rep}(H)$ がピボタル圏であることと、
$$ S^2(h)=g\,h\,g^{-1}\qquad(\forall h\in H) $$
を満たす群様元 $g\in H$ が存在することとは同値である.
証明は [WQH, Section 7]、[EGNO, Section 4.7] を参照.$S^2$ が群様でない可逆元 $x$ による内部自己同型である場合、$x$ の作用は自然同型 $\mathrm{Id}\Rightarrow(-)^{**}$ を与えるが、これはモノイダルではない.注意 7.2 の条件 2 と条件 3 の差が、この現象として具体化する.
一つの対象 $X$ で自由生成された自由剛性モノイダル圏 $\mathcal{F}$ を考える.その対象は
$$ \dots,\ {}^{*}({}^{*}X),\ {}^{*}X,\ X,\ X^{*},\ (X^{*})^{*},\ \dots $$
から作られる語全体であり、異なる語のあいだに同型射は存在しない.特に $X$ と $(X^{*})^{*}$ は同型でない.よって $\mathcal{F}$ は剛性圏であるが注意 7.2 の条件 1 すら満たさず、ピボタル圏ではない.
なお、フュージョン圏に限れば「すべてのフュージョン圏はピボタル構造を持つか」は未解決問題である(Etingof–Nikshych–Ostrik [ENO, Conjecture 2.8]).擬ユニタリなフュージョン圏については肯定的に解決している.
「ブレイド付き剛性圏はピボタル圏になり得ない」という主張は誤りである.正しい主張は次の三点である.
「なり得ない」と「自動的には従わない」は峻別されるべきである.
$\mathcal{V}$ をブレイド付き剛性圏とする.各対象 $X$ に対して
$$ u_X:=(\mathrm{ev}_X\otimes\mathrm{id}_{(X^{*})^{*}})\circ(\beta_{X,X^{*}}\otimes\mathrm{id}_{(X^{*})^{*}})\circ(\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{coev}_{X^{*}})\ :\ X\longrightarrow (X^{*})^{*} $$
と定める.$u=(u_X)_X$ は自然同型 $\mathrm{Id}_\mathcal{V}\Rightarrow(-)^{**}$ をなす.これを Drinfeld 射と呼ぶ.
定義 11の記述は [Nakayama, Section 6.4] に従った.
$\mathcal{V}$ をブレイド付き剛性圏、$u$ をその Drinfeld 射とする.このとき対応
$$ \mathfrak{p}\longmapsto\theta:=u^{-1}\circ\mathfrak{p} $$
は、$\mathcal{V}$ のピボタル構造全体と、条件
$$ \theta_{X\otimes Y}=\beta_{Y,X}\circ\beta_{X,Y}\circ(\theta_X\otimes\theta_Y)\qquad(\forall X,Y\in\operatorname{Ob}(\mathcal{V})) \quad\cdots(\ast) $$
を満たす自然同型 $\theta:\mathrm{Id}_\mathcal{V}\Rightarrow\mathrm{Id}_\mathcal{V}$ 全体との間の全単射を与える.
証明は [Nakayama, Section 6.4] を参照.条件 $(\ast)$ の右辺に二重ブレイド $\beta_{Y,X}\circ\beta_{X,Y}$ が現れている点が本質的である.$\theta=\mathrm{id}$ が条件 $(\ast)$ を満たすのは、二重ブレイドが恒等である場合、すなわち $\mathcal{V}$ が対称である場合に限る.これが注意の内容の正確な形である.
$\mathcal{V}$ を対称剛性圏とする.このとき $\mathfrak{p}:=u$(Drinfeld 射)はピボタル構造を与える.すなわち対称剛性圏は標準的にピボタル圏である.
$\theta:=\mathrm{id}_{\mathrm{Id}_\mathcal{V}}$ と置く.$\mathcal{V}$ は対称であるから定義 5.1 により $\beta_{Y,X}\circ\beta_{X,Y}=\mathrm{id}_{X\otimes Y}$ であり、条件 $(\ast)$ は
$$ \mathrm{id}_{X\otimes Y}=\mathrm{id}_{X\otimes Y}\circ(\mathrm{id}_X\otimes\mathrm{id}_Y) $$
となって自明に成立する.よって定理 7.8 の全単射により $\mathfrak{p}=u\circ\theta=u$ はピボタル構造である.
対称剛性圏はコンパクト閉圏(compact closed category)とも呼ばれる.この圏がさらに球面圏(spherical category)にもなることまで導く.
リボン圏 $(\mathcal{V},\beta,\theta)$ は $\mathfrak{p}:=u\circ\theta$ によりピボタル圏になる.
定義 12の第一の条件は定理12の条件 $(\ast)$ に一致する.よって定理 7.8 の全単射により $\mathfrak{p}=u\circ\theta$ はピボタル構造である.
対称モノイダル圏はねじれ $\theta=\mathrm{id}$ を持つリボン圏である.この意味で定理13はリボン圏の特別な場合である.逆に、対称でないリボン圏においては $\theta\neq\mathrm{id}$ であり、ねじれが二重ブレイドの非自明性をちょうど打ち消すことでピボタル構造が得られる.
定理13 は「対称ならばピボタル」を述べるが、その逆は成り立たない.すなわち、ピボタル圏であって対称でない圏が存在する.例 7.15 に挙げる.
以上を整理すると次のとおりである.
| 圏 | ブレイド | 対称 | ピボタル |
|---|---|---|---|
| $\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fin}}$、$\mathbf{Mat}_k$、$\mathbf{Rep}_k(G)$ | 有 | 有 | 有 |
| $\mathbf{Rep}(U_q(\mathfrak{sl}_2))$($q$ 一般) | 有 | 無 | 有 |
| $\mathbf{Vect}_G^\omega$($G$ 非アーベル) | 無 | 無 | 有 |
| 自由剛性モノイダル圏(例 7.5) | 無 | 無 | 無 |
「ブレイド付きかつピボタルでない剛性圏」の欄が空いているが、これは定理 7.8 の条件 $(\ast)$ を満たす $\theta$ が存在しないブレイド付き剛性圏に対応する.フュージョン圏の範囲でそのような例が存在するかは、例 7.5 で述べたとおり未解決である.
このブログの最終目標は「リーマン面のコボルディズム圏からベクトル空間の圏へのモノイダル関手」としてCFTを定式化することでした。この定式化における「リーマン面」という対象が何者あかを理解するためには、必要不可欠です。
言い換えれば複素解析はCFTという物理学的素材であり、圏論はその素材を組み立てる文法です。文法だけ学んで素材を知らないままでは、何も書けません。
リボン圏の章でツイスト$\theta_A: A\to A$を導入しました。
今回の章は自然界、日常の中にあふれる等角写像を学びます。又は復習します。この章の目的を理解するための第一歩は、2次元の等角写像が、どのような物理問題で強力に働くかを知ることです。たとえば、2次元の理想流体の流れや、一般的な静電位・熱伝導の最小化、最適化のような境界値問題では、共形写像が非常に有効な道具になります。こうした問題では、角度を保つ変換によって、解くべき領域の形を「扱いやすい形」に移し替えられるからです。これは「自然界のあらゆる現象が等角写像で記述される」という意味ではなく、2次元に理想化できる特定の問題で、共形写像が便利であると理解するのが正確です。またこの等角写像のが自然界に現れる自然性を評価するのがCFTの直接的目的ではありません。
関数$f: \mathbb{C}\to\mathbb{C}が点z_0\in\mathbb{C}$で複素微分可能であるとは極限$f(z_0)=\displaystyle\lim_{h \to 0} \frac{f(z_0+h)-f(z_0)}{h}$
が$h\in\mathbb{C}0$に近づけても同じ値に収束することである。開集合$U\subseteq\mathbb{C}U$上の正則関数(holomorphic function)と呼ぶ。
実数の場合と定義式は同じに見えますが、hが複素数であるという点が本質的な違いです。hを実軸方向から0に近づける場合と虚軸方向から近づける場合で同じ値になることを要求すると、以下のコーシー・リーマン方程式が導かれます。
$f:\mathbb{C}\to\mathbb{C}$の正則関数は、を形式的に$(x,y)\in \mathbb{R}^2$と任意のふたつの実数関数$u(x,y),v(x,y)$で$f(x,y)=u(x,y)+iv(x,y)$とした時、
$\displaystyle\frac{ \partial u }{ \partial x }=\frac{ \partial v }{ \partial y } $,$\displaystyle\frac{ \partial u }{ \partial y }=-\frac{ \partial v }{ \partial x }$
無限回微分可能性として、一回複素微分可能ならば自動的に無限回複素微分可能になります。
解析的連続性として、正則関数はその値が小さな領域で分かれば原理的に全領域での値が決定されます。これを解析接続と呼びます。
コーシーの積分定理として、正則関数の閉曲線に沿った積分はその曲線の内部の孤立特異点のみに依存し、曲線の形状には依存しません。
正則関数$f: U\to\mathbb{C}$($U$は開集合)が任意の点$z_0\in U$において$f'(z_0)\neq 0$を満たすとき、fを等角写像と呼ぶ。
$f'(z_0)\neq 0$を満たす点の近傍において次の1次近似$f(z)\approx f(z_0)+f'(z_0)(z-z_0)$
を持つ。
これがなぜ理由になるかというと $f'(z_0) = re^{i\theta}$(極形式)と書くと、この近似は
· 拡大/縮小:$r$ 倍
· 回転:$\theta$ 回転
を表します。拡大縮小は長さを変えますが、角度は変えません。なぜなら、二つの曲線が $z_0$ でなす角は、$f'(z_0)$ による回転分だけ両方の曲線が同じだけ回転するので、相対的な角度は保たれるからです。
物理学において対称性とは「ある変換を施しても理論が変わらない」という性質です。たとえば空間を平行移動しても物理法則は変わりません。これが並進対称性であり、その帰結として運動量保存則が導かれます。回転対称性からは角運動量保存則が、時間並進対称性からはエネルギー保存則が導かれます。このように対称性と保存則が一対一に対応するという事実はNoetherの定理として知られています。
CFTにおける対称性は共形対称性です。共形変換に対して理論が不変であるという要請から、CFTの豊かな構造がすべて導かれます。ではその共形変換とは何かを正確に定義します。
共形変換にはリーマン多様体の知識が不可欠です。本稿は定義だけ載せますが詳しくはやりません。もし未修なら先にリーマン多様体の導入だけでいいので
位相空間$M$が$n$次元位相多様体であるとは以下の条件を満たすことである。
$M$がハウスドルフ空間であり第二可算公理を満たす。
任意の点$p\in M$に対してある開近傍$U\ni p$と$\mathbb{R}^n$の開集合$V$の間の同相写像$\varphi: U\xrightarrow{\sim} V$が存在する。
この組$(U,\varphi)$を座標近傍(チャート)と呼び$\varphi(p) = (x^1,\ldots,x^n)$を$p$の局所座標という。
多様体$M$の アトラスとは$M$を覆うチャートの族$\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}$であって、任意の二つのチャートの重なり$U_\alpha\cap U_\beta\neq\emptyset$に対して 座標変換写像
$\varphi_\beta\circ\varphi_\alpha^{-1}: \varphi_\alpha(U_\alpha\cap U_\beta)\to\varphi_\beta(U_\alpha\cap U_\beta)$
が$C^\infty$(無限回微分可能)であるものをいう。このようなアトラスを持つ多様体を滑らかな多様体(smooth manifold)と呼ぶ。
滑らかな多様体$M$の点$P$における 接空間$T_pM$とは、$P$を通る滑らかな曲線$\gamma: (-\epsilon,\epsilon)\to M (\gamma(0)=p)$の速度ベクトル$\dot{\gamma}(0)$全体のなすベクトル空間である。
局所座標$(x^1,\ldots,x^n)$に対して接空間の基底を$\left\{\frac{\partial}{\partial x^1},\ldots,\frac{\partial}{\partial x^n}\right\}$と書く。
滑らかな多様体$M$上の リーマン計量$g$とは各点$p\in M$の接空間$T_pM$上の内積
$g_p: T_pM\times T_pM\to\mathbb{R}$
を滑らかに割り当てるものである。局所座標$(x^1,\ldots,x^n)$では
$g = g_{ij}dx^i\otimes dx^j,\quad g_{ij} = g\left(\frac{\partial}{\partial x^i},\frac{\partial}{\partial x^j}\right)$
と書かれる。リーマン計量を備えた多様体$(M,g)$を リーマン多様体と呼ぶ。
では実際にリーマン多様体上に置いて共形変換を定義しよう。
$n$次元リーマン多様体$(M,g)$において微分同相写像$\phi: M\to M$が 共形変換であるとは、ある正値関数$\Omega: M\to\mathbb{R}_{>0}$が存在して
$\phi^* g = \Omega^2 g$
が成立することである。($\Omega$を共形因子という)
何故これが角度を保つのでしょうか。説明していませんでしたが、まず多様体上の「角度」とは何か、見つめなおしましょう。
複素平面では「角度」が自明に定義できましたが、一般の多様体では「角度」を測るためにはリーマン計量$g$が必要です。計量$g$があって初めて「二つのベクトルのなす角」が定義できます。したがって一般の多様体における「等角写像」を定義するためには計量をどのように変換するかを記述しなければなりません。
多様体$M$の一点$p$における二つの接ベクトル$u,v\in T_pM$のなす角$\theta$は
$\cos \theta = \displaystyle\frac{g_p(u, v)}{\sqrt{g_p(u, u)} \sqrt{g_p(v, v)}}$
これは$\mathbb{R}^n$における内積による角度の定義
$\cos\theta = \displaystyle\frac{u\cdot v}{|u||v|}$
の多様体版です。
ここで式で$\Omega^2$が出てくる根拠があります。計量$g$を正の実数$\lambda^2$倍した計量$\tilde{g} = \lambda^2 g$において同じ計算をすると
$\cos \tilde{\theta} = \displaystyle\frac{\tilde{g}_p(u, v)}{\sqrt{\tilde{g}_p(u, u)} \sqrt{\tilde{g}_p(v, v)}} = \frac{\lambda^2 g_p(u, v)}{\sqrt{\lambda^2 g_p(u, u)} \sqrt{\lambda^2 g_p(v, v)}} = \frac{\lambda^2 g_p(u, v)}{\lambda^2 \sqrt{g_p(u, u)} \sqrt{g_p(v, v)}} = \cos \theta$となります。つまり計量を正の実数倍しても角度は変わりません。$\lambda^2$という因子が分子と分母で完全に打ち消し合うからです。しかしなぜ単に$\lambda$倍しないかと言うとそれぞれの接ベクトルの長さを考えると一般に$\sqrt{\lambda}$倍になり綺麗に行かないからです。
$\phi^* g$は計量$g$の引き戻し(pullback)と呼ばれるものです。変換$\phi: M\to M$があるとき、像の側の計量$g$を定義域の側に引き戻す操作です。
具体的には二つの接ベクトル$u,v\in T_pM$に対して
$(\phi^*g)_p(u,v) := g_{\phi(p)}(d\phi_p(u),\ d\phi_p(v))$と定義されます。ここで$d\phi_p: T_pM\to T_{\phi(p)}M$は$\phi$の微分(接写像)です。
$\Omega: M\to\mathbb{R}_{>0}$は各点で変わりうる正の実数値関数です。$\Omega^2 g$とは計量$g$の各点での値を$\Omega(p)^2$倍した計量です。局所座標で書くと$(\Omega^2 g)_{ij}(p) = \Omega(p)^2 \cdot g_{ij}(p)$になります。
です。$ \Omega$が定数なら全体を一様にスケールしますが、$\Omega$が点によって変わる場合は場所によってスケールが変わります。
$\left( \phi^* g \right)_p(u, v) = \Omega(p)^2 \cdot g_p(u, v)$
これは「$\phi$で移した後にgg gで測った内積」が「$\phi$で移す前に$g$で測った内積の$\Omega(p)^2$倍」に等しいという条件です。
ここで先ほど確認した観察を使います。角度の計算において$\Omega(p)^2$という因子は分子と分母で完全に打ち消し合います。したがって日常的な言葉で言えば「$\phi$で移した後に$g$で角度を測ること」と「$\phi^*g$で移す前に角度を測ること」が等しいという要請です。
$\cos\theta_{\text{移した後}} = \displaystyle\frac{(\phi^*g)_p(u,v)}{\sqrt{(\phi^*g)_p(u,u)}\sqrt{(\phi^*g)_p(v,v)}}= \frac{\Omega^2 g_p(u,v)}{\sqrt{\Omega^2 g_p(u,u)}\sqrt{\Omega^2 g_p(v,v)}}= \cos\theta_{\text{移す前}}$
となり角度が保存されます。
複素平面$\mathbb{C}$を$\mathbb{R}^2$と見なし標準計量$g=dx^2+dy^2$を入れた場合に、正則関数$f=u+iv$が共形変換の定義を満たすことを確認します。
$f$の微分(Jacobi行列)は
$\begin{align*} df = \displaystyle\begin{pmatrix} \frac{\partial u}{\partial x} & \frac{\partial u}{\partial y} \\[2pt] \frac{\partial v}{\partial x} & \frac{\partial v}{\partial y} \end{pmatrix} \end{align*}$
$a = \frac{\partial u}{\partial x}, \quad b = \frac{\partial v}{\partial x}$と置き、コーシーリーマン方程式により$df = \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix}$
という形になります。引き戻し計量を計算します。
$(f^*g)_{ij} = \displaystyle\sum_{k,l} (df)^k_i (df)^l_j g_{kl} = (df)^T (df)$を計算すると
$(df)^T(df) = \begin{pmatrix} a & b \\ -b & a \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a^2 + b^2 & 0 \\ 0 & a^2 + b^2 \end{pmatrix} = (a^2 + b^2) \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}$
ここで$a^2+b^2=\displaystyle|\frac{df}{dz}|^2=|f'(z)|^2$
より$f^*g=|f'(z)|^2g$という形で共形因子を$|f'(z)|^2$を選べば定義を満たします。
これまで共形変換、リボン圏まできました。しかしいまいち共形場理論にモヤモヤがかかっています。なのでこの章では共形場理論の生い立ちや目的について説明します。今更感がありますがきいてください
共形場理論の始まりは1960年代後半から1970年代にかけての素粒子物理学と統計力学という二つの全く異なる文脈に遡ります。
当時の物理学者は「水が沸騰する瞬間」のような相転移の臨界点で起こる不思議な現象に魅了されていました。臨界点では、物質のゆらぎがすべてのスケールで自己相似(フラクタル)になり、系の性質が「スケール変換」に対して不変になることが知られていました。もちろんこの複雑だが臨界現象の普遍的な振る舞いを形式化しようとします。そしたら共形対称性によって支配されている記述されるという発見がアレクサンドル・ザモロドチコフやアレクサンドル・ポリャコフによってされました。
同時期、素粒子論の世界では「弦」という一次元的な対象の理論が注目されていました。しかし、弦の量子論を定式化しようとすると、重力を含む整合的な理論が得られるのは、弦が二次元の世界面(ワールドシート) 上を運動する場合だけであることが判明します。そして、この二次元の世界面の理論を調べてみると、そこに共形対称性が自然に現れることがわかったのです。弦理論の基礎方程式として、一般に記述できる理論が必要とされたのです。
共形場理論の目的は橋渡し節で話した通り、共計変換が便利な道具であることの理由追及が目的ではありません。共形場理論は量子論というミクロな世界のおいてその対称性が課す強い条件の理解に赴きを置いています。
つまり CFT は、「等角変換が使える」ことを言う理論ではなく、等角対称性をもつ量子系がどのように振る舞うかを、対称性から徹底的に記述する理論なのです。その量子系の要求は先程の弦であったり、相転移の言語統一です。斜体にしたい文字
① 相関関数の計算
物理学者が最も知りたいのは、場が異なる点でどのように「絡み合うか」を示す相関関数です。共形場理論では、共形対称性という強い制約によって、相関関数の形がほとんど決まってしまいます。例えば、二次元の共形場理論では、プライマリ場と呼ばれる基本的な場の二点相関関数は、その「共形次元」という一つの数だけで決まってしまうのです。
② 理論の分類(ユニタリティ・モジュラー不変性)
共形場理論には「正値性(ユニタリティ)」という物理的に自然な条件を課すと、可能な理論が驚くほど限られます。二次元の場合は、中心電荷と呼ばれる数値と、モジュラー不変性という要請によって、理論の「完全なリスト」を作ることができるのです。この分類作業は、1980年代から90年代にかけて、数理物理学の一大プロジェクトとなりました。
③ 弦理論の背景時空の決定
弦理論では、弦が「住んでいる」二次元の共形場理論が、実際の四次元時空の性質を決めます。どのような共形場理論を選ぶかによって、私たちの宇宙がどのような粒子や力を持つかが変わるのです。つまり、共形場理論により「可能な宇宙の設計図」 を得られるのです。