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現代数学解説
文献あり

圏論から共形場理論へ ②

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圏論から共形場理論②へを読むにあたって

本稿は「圏論から共形場理論へ ①」をすでに読んだ方向けです。まず①をよんでください。
また本稿に出てくる画像は全て形式はpngです。SVGにしようとしたらmathlogが非対応だったので拡大する場合、新しいタブで開いてください。またSVGでない為画質が荒く、人によっては読みにくい場合は質問してください。答えます

モノイダル圏の中の分類

モノイダル圏の中でもいろいろな種類が存在します。なので課せられる条件が強い順にピラミッド図を作りました。未修の物も含んでいて、横軸は条件の方向性の違いを表します。例えばレベル2の「ブレイド付きモノイダル圏」と「剛性圏」——は、モノイダル圏から独立した方向に条件を追加したものです。どちらかが他方を含むわけではありません。ただしリボン圏はそのどちらも含みます。(CFTは共形場理論の略語) 圏の分類 圏の分類

補足:米田の補題や充実関手、充実圏はあると共形場理論の精密な定式化、理解においては必要ですが、あくまで導入なので軽く触れる程度に留めます。

目次

第二部続き
(1)米田の補題
(2) coherence定理
(3) ブレイド付きモノイダル圏
(4) 双対対象と剛性圏
(5) ツイストとリボン圏
第三部 物理への入口-共形対称性を掴む
-橋渡し節-なぜ今更複素解析を?
(6) 複素解析と等角写像
(7) 共形変換と対称性
(8) シリーズ③に向けて初心を思い出す。

普遍性による一意性の証明。米田の補題

①の中で「普遍性を持つ対象は自然同型を除いて一意である」という命題を何度か使ってきました。テンソル積の一意性証明もその一例です。この「なぜ普遍性が一意性を保証するのか」という問いの根底にあるのが米田の補題です。

米田の補題(Yoneda's lemma)

$\mathcal{C}$と関手$F: \mathcal{C} \to \mathbf{Set}$、および対象$A \in \mathcal{C}$に対して、自然変換の集まりと集合$F(A)$の間に自然な全単射が存在する。
$\mathbf{Nat(Hom}_{\mathcal{C}}(A,-),F) \cong F(A)$

難しく見えますが、言っていることは非常にシンプルです。「対象Aのことは、Aから他の対象への射の全体を見れば完全に分かる」ということです。
日常的な言葉で言えば次のようになります。ある人物の性格を知りたいとき、その人の内面を直接のぞき込もうとするより、その人が他の人々とどのように関わるかという関係性の全体を観察した方が、その人のことを完全に把握できる、ということです。これはまさに圏論が一貫して置いてきた視点——「対象の内部ではなく関係性を見よ」——の究極の表明です。

普遍性との繋がり

米田の補題が普遍性の一意性を保証する理由はここにあります。普遍性の定義を思い出すと、対象Uが普遍性を持つとは「任意の対象Xとの間の射が一意に定まる」という条件でした。これはまさに$\mathrm{Hom}(U, -)$という関手の振る舞いを指定していることに他なりません。米田の補題はこの振る舞いが対象$U$を自然同型を除いて完全に決定することを保証します。つまり「外からの関係性が同じなら、対象は本質的に同じ」という圏論の精神が、米田の補題という定理として結晶化しているのです。

本稿では米田の補題の完全な証明には立ち入りません。しかし「普遍性によって定義された対象が自然同型を除いて一意である」という事実を当然のように使ってきた背景には、常にこの定理が存在しています。より厳密な定式化に興味を持った読者は、米田の補題を次の学習ステップとして強くお勧めします。

コヒーレンスの定理

定理の目的

モノイダル圏の定義において、結合子$\alpha_{A,B,C}$は括弧の付け方という人為的な選択に結果が依存しないことを保証する自然同型でした。しかしここで一つの不安が残ります。五角形等式と三角形等式という二つの条件を課しましたが、これで本当に十分なのでしょうか。対象の個数が増えたとき、新たな整合性条件が次々と必要になるのではないかという疑問は自然です。

マクレーンのコヒーレンス定理はこの不安に完全な答えを与えます。

マクレーンのコヒーレンス定理(Mac Lane's coherence theorem)

モノイダル圏$(\mathcal{C}, \otimes, I, \alpha, \lambda, \rho)$において五角形等式と三角形等式が成立するならば、同じ対象から同じ対象への、結合子と単位子の合成からなる任意の二つの射は一致する。

言い換えれば「任意個数の対象に対して、括弧の付け替えと単位子の適用に関わる図式はすべて可換になる」ということです。

実用的効果

コヒーレンス定理の最も直接的な恩恵は、括弧を省略した記法が正当化されることです。$((A\otimes B)\otimes C)\otimes D$$(A\otimes B)\otimes(C\otimes D)$$A\otimes(B\otimes(C\otimes D))$はすべて本質的に同じ対象であり、単に$A\otimes B\otimes C\otimes D$と書いて差し支えありません。括弧の付け方という人為的な選択が本質に影響しないことが、有限の条件から厳密に保証されているからです。

証明

注釈。コヒーレンス定理の証明は非常に技巧的で完全な記述は数十ページに及ぶため、ここでは証明の方向性だけ説明します。

証明は「任意のモノイダル圏の問題を、最も制約の少ない自由モノイダル圏の問題に帰着させる」ことです。テンソル積と似た感じです。
第一段階として、自由モノイダル圏$\mathcal{F}(S)$において定理を証明します。任意の対象はアルファベットの列に括弧を付けた木構造として表現され、結合子はその木構造の局所的な書き換え規則として捉えられます。五、三角形等式は、この書き換え規則が合流性(どの順序で書き換えても同じ正規形に到達する)を持つことを保証します。これは計算機科学における書き換え系の理論と深く関係しており、任意の二つの経路が同じ正規形を経由することから一致が導かれます。
第二段階として、任意のモノイダル圏$\mathcal{C}$には自由モノイダル圏*$\mathcal{F}(S)$からの関手が存在し、$\mathcal{F}(S)$での等式が$\mathcal{C}$での等式に翻訳されることを示します。自由モノイダル圏で成立する可換性は関手を通じて任意のモノイダル圏に持ち越されるため、定理が一般に成立します。
厳密な証明に興味を持った人はマクレーンの原著 Categories for the Working Mathematician の第七章を見てください。

ブレイド付きモノイダル圏

必要性、生まれた経緯

モノイダル圏の定義によって「対象を組み合わせる」という操作を圏論的に捉えることができました。しかしここで一つの問いが自然に浮かびます。
$A\otimes B$$B\otimes A$の関係はどうなっているのか」
コヒーレンス定理によって括弧の付け方という順序は本質的でないことが保証されましたが、モノイダル積の左右の順序については何も言っていません。モノイダル圏の定義(テンソル積ではない)は$A\otimes B$$B\otimes A$が異なる対象であることを許容しており、両者の間に何らかの自然な対応がある保証は一切ありません。
数学的には純粋に抽象的な問いですが、この問いは物理学からの強い要請でもありました。量子力学において二つの粒子を入れ替えるという操作——粒子交換——は物理的に意味のある操作であり、その数学的構造を記述する言語が必要とされていたのです。古典的な統計力学では粒子を入れ替えても状態は変わらないか、あるいは符号が反転するかの二択しかありませんでした。しかし1970年代から80年代にかけて、2次元系の物理においてはその二択に収まらない中間的な統計性を持つ粒子、アニオン(anyon)の存在が理論的に示され、その記述に新しい数学的枠組みが必要になりました。

またマニアックですが純粋数学の側では、組み紐(braid)の理論が結び目理論と深く関係することが明らかになり、その代数的構造を圏論的に定式化するという動機もありました。

ブレイド付きモノイダル圏

ブレイド付きモノイダル圏(braided monoidal category)

モノイダル圏$(\mathcal{C},\otimes,I,\alpha,\lambda,\rho)$に対して、任意の対象$A,B\in\mathcal{C}$に対する自然同型の族
$\beta_{A,B}: A\otimes B \xrightarrow{\sim} B\otimes A$
が存在して次の二つのブレイド整合性条件(hexagon identities)、言い換えるとふたつの六角形等式を満たすとき、$(\mathcal{C},\otimes,I,\alpha,\lambda,\rho,\beta)$をブレイド付きモノイダル圏と呼ぶ。
六角形等式 六角形等式

シリーズ①の五角形等式と同じように、自然同型$\beta_{A,B}: A\otimes B \xrightarrow{\sim} B\otimes A$と結合子の性質だけで各辺が自然同型となり、各頂点が自然に同型になることを示せます。ただし射の経路の取り方で射が完全に一致するとは限りません。それを保証します。これによりモノイダル積が可換になります。

一般に$\beta_{A,B}\circ\beta_{B,A}\neq\text{id}_{A\otimes B}$

大体に自然同型の定義の元で等号を示すのはほとんどできません。新たに条件を課す必要性があります。なのでその条件を課した対称モノイダル圏を紹介します。

非対称、対称モノイダル圏

ブレイド付きモノイダル圏の自然同型の族$\beta_{A,B}: A\otimes B \xrightarrow{\sim} B\otimes A$$\beta_{A,B}\circ\beta_{B,A}\neq\text{id}_{A\otimes B}$であるなら、非対称モノイダル圏または単純に対称でないブレイド付きモノイダル圏と言い、逆に等号が成り立つなら対称モノイダル圏という.

双対対象と剛性圏

ブレイド付きモノイダル圏によって「対象を入れ替える」という操作を圏論的に捉えることができました。次章が答える問いは「対象を『打ち消す』という操作をモノイダル圏的に捉えるにはどうするか」です。これは数の世界における逆数、ベクトル空間における双対空間の概念を、モノイダル圏の言語へ一般化する試みです。

双対対象

ここで注意しなければならないのは、モノイダル積が可換であるとは限らないため(一般に$A\otimes B\ncong B\otimes A$)、「左から打ち消す」操作と「右から打ち消す」操作が別物になりうるという点です。これによりが左双対と右双対という概念に差別化が生まれます。ではこう思う人もいるはずです。「一般のブレイド付きモノイダル圏では一致するのだろう」。しかし実はただのブレイド付きモノイダル圏では一致しません。さらに条件を課す必要性があります。それも含め
てこれから説明します。

右双対対象

モノイダル圏$\mathbf{C}$、対象$A\in \mathbf{C}$に対して右双対対象$A^*$とは二つの射$\mathcal{ev}_A:A^*\otimes A\to I$,$\mathcal{coev}_A:I\to A\otimes A^*$に対して

等式① 等式①
等式② 等式②
の以上の式が成り立つ

このふたつの射$\text{ev}_A,\text{coev}_A$をそれぞれ評価射、余評価射と呼ぶ。

左双対対象

モノイダル圏$\mathbf{C}$、対象$A\in \mathbf{C}$に対して左双対対象$^*A$とは二つの射$\widetilde{\text{ev}}_A:A\otimes {}^*A\to I$,$\widetilde{\text{coev}}_A:I\to :{}^*A\otimes A$に対して
等式③ 等式③
等式④ 等式④
以上の式が成り立つこと

実はこの等式はコヒーレンスの定理に依存している。なぜなら本来であれば結合子や単位子を明記する必要性があるが、どんな括弧の付け方でも自然同型になる結果を既知としている。話を戻して等式をひも解こう。
$f:X\to X^{'}$,$g:Y\to Y^{'}$である時、二つの射のモノイダル積の定義は$f\otimes Y$$f\otimes g:X\otimes Y\to X^{'}\otimes Y^{'}$になるのでした。よって例えば等式①の部分$\text{coev}_A\otimes \text{id}_A$$I\otimes A\to (A\otimes A^{*})\otimes A$という形になり。$\text{id}_A \otimes \text{ev}_A : A \otimes (A^* \otimes A) \to A \otimes I$になります。しかしこのままでは$(A\otimes A^{*})\otimes A$$A \otimes (A^* \otimes A)$等号的一致はしていません。射の合成が求めるのは一意な翻訳が出来る自然同型的関係ではありません。先程のコヒーレンスの定理により結合子の省略が正当化されているのです。どのような結合子、単位子の合成も一致するのでこの書き方にしました。

またこの等式が成り立つのは当たり前じゃないかと感じたら、あくまで単位対象は同型射の存在をだけを保証するもので,何もしないという操作である恒等射である事の保証はしていません。恒等射同型射単位対象の意味を振り返っているみて下さい。日常的な例でいうとyoutubeのコンテンツとしてある「逆翻訳」が出来る事は保証していますが、逆翻訳する前の物と後の物が全く同じであることの保証していません。

双対対象の一意性

対象Aに対して右双対対象と評価射、余評価射の組$(A^*,\mathrm{ev}_A,\mathrm{coev}_A)$が存在するなら、右双対対象は同型を除き一意に定まる。

この証明はテンソル積の一意性と同じように射に注目しましょう。もしふたつの右双対対象を考えた時、それぞれに付随する射が逆射の関係になれば、自然と同型になります。また逆射の一意性はシリーズの①で紹介しているのでそちらで見てください。
二つの右双対対象と付随する射$(A^*,\mathrm{ev}_A,\mathrm{coev}_A)(B,\mathrm{ev}_B',\mathrm{coev}_B')$がともにジグザグ等式を満たすとします。次の射を定める:$ \phi := (\mathrm{ev}_A\otimes \mathrm{id}_B)\circ(\mathrm{id}_{A^*}\otimes \mathrm{coev}_B') : A^*\to B$,$ \psi := (\mathrm{ev}_B'\otimes \mathrm{id}_{A^*})\circ(\mathrm{id}_B\otimes \mathrm{coev}_A) : B\to A^*$.
すると,ジグザグ等式により
$ \psi\circ\phi=\mathrm{id}_{A^*},\qquad \phi\circ\psi=\mathrm{id}_B $
が成り立つ.
したがって $\phi$$\psi$ を逆射として同型であり,
$A^*\cong B$

左の場合も同様の論理で導ける

$A\otimes A^*\cong I $ではないことに注意が必要です。 これは逆数の類比から来る最もよくある誤解です$a\cdot a^{-1}=1 $という等式はモノイダル圏では$ A\otimes A^*\cong I$という式には対応せず、あくまで$\mathrm{ev}_A $$\mathrm{coev}_A​ $という二つの射の合成が恒等射に一致するという条件です。$A\otimes A^* $$I$は一般に異なる対象のままです。もし同型ならピカール圏というまた別の圏に分類されます

右と左で区別したけど...

本音を言うと恐らく右と左の区別は大学院まではほとんど必要ないんです。必要になると言って真っ先に思い付くのは量子群の表現論、非可換幾何学、位相的場の理論、ブレイド群の表現論といった分野です(唯一大学学部で触れるなら非可換環上の加群だが、テンソル積が非対称であるという解釈で終わりがち)。多くの読者が共形場理論に入ろうというのに、量子力学・ホップ代数・リー代数の表現論などの専門的な内容を終えたとは思えない。なので「へえー、厳密には違うのかー」くらいでOK.

右、左剛性圏(right,left rigit category)

全ての対象が右または左双対対象を持つ圏をそれぞれ右剛性圏、左剛性圏と言う。またどちらも持つ場合は単に剛性圏(または両側剛性圏,two-sided rigit category)

本稿は右剛性そして左剛性を満たす圏を両側剛性圏と書くことにする。逆に単に剛性圏とか書いたら右剛性と左剛性を含む一般的な圏とする。

双対対象は何故多くの場合一致するのか?

実は剛性圏上で双対対象が等しい性質を十分に満たすのは、その剛性圏が対称モノイダル圏であることです。行列、ベクトル空間、群、環そのほぼ全てが対称です。非対称モノイダル圏は量子群などの非常に専門的にしかほとんど登場しません。

ブレイド付き剛性圏において、双対対象の一致に対し、対称モノイダル圏が十分条件であること、逆に一般のブレイド付きモノイダル圏では不十分であることを示します。
ブレイドが使えるので右双対対象から左双対対象を構成します。具体的に$\widetilde{\text{ev}}_A = \text{ev}_A \circ \beta_{A,A^*} : A \otimes A^* \to A^* \otimes A \to I$
$\widetilde{\text{coev}}_A = \beta_{A^*,A}^{-1} \circ \text{coev}_A : I \to A \otimes A^* \to A^* \otimes A$とすれば構成できそうです。ジグザク等式を計算すると$\beta_{A^*,A}\circ\beta_{A,A^*}:A\otimes A^*\to A^*\otimes A\to A\otimes A^*$という二重ブレイドが現れます。もちろん一般のブレイド付きモノイダル圏では恒等射かは分かりません。しかし対称モノイダル圏では$\beta_{B,A}\circ\beta_{A,B}=\mathrm{id}_{A\otimes B}$が成立するため、この二重ブレイドが消え、構成した左双対の評価射・余評価射が右双対のものと自然同型で一致します。

双対対象一致の必要十分条件

ブレイド付き剛性圏上では対称であることは十分ですが必要ではありません。必要で十分なのはピボタル性という条件です。そして等しい圏をピボタル圏と言います。しかしあくまでブレイド付き剛性圏上では対称条件の方が強いが、一般ではピボタル性を持っても対称でないものもあります(量子群など)。
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ツイスト

ブレイド付きモノイダル圏によって「二つの対象を入れ替える」という操作を、剛性圏によって「対象を打ち消す」という操作を圏論化しました。しかしここでまた一つの問いが自然に浮かびます。これは現実世界で言う、正の電荷を持つ粒子、負の電荷を持つ反粒子の関係です。
今までは数学的要請が表に出て来ましたが今回の概念は物理学の要請が強いです。例えば量子力学はスピンと言う状態があります(トップダウン、アップダウンなど)。共形場理論はスピンを「一回転」という操作を圏論で記述しようとします。

2重ブレイドで良くない??

二重ブレイドは「2つ対象の回転を記述する」という対象間の操作であり、ツイストは「ひとつの対象を回転を記述する」という一対象の操作です。実世界でも回転することはふたつのものを必要とせず、単一のものでもバランスを取れば回転出来ます。

定義
ツイスト(twist)

ブレイド付き剛性圏$\mathcal{C}$において、各対象$A\in \mathcal{C}$に対する自然同型の族$\theta_A:A\xrightarrow{\sim}A$がツイストとは以下の条件を満たすものである。
$\theta_{A \otimes B} = (\theta_A \otimes \theta_B) \circ \beta_{B,A} \circ \beta_{A,B}$
$\theta_{A^*} = (\theta_A)^*$

しかしツイストはあくまで右双対対象の一致しか要求せず、またブレイドを持つため左双対対象も構成できるとはいえ2重ブレイドが残ることが先程の考察でわかっています。対称モノイダル圏ではないため左双対対象が自然同型かも定かではない。ピボタル性を自ら課すなら別ですがそのような条件は2行目に書いていません。果たして右双対対象の制限だけで左双対対象それ以外でないと言えるのでしょうか。さらに強く言うと自然にピボタル性を持ちえるのでしょうか。実際はこの両方の主張は正しいです。
また論文によるとブレイド付き剛性圏において、ピボタル性とツイストの存在は同値です。

証明は省略

この証明を描き下すのは長いし読むのもめんどくさいだろう(書く私もだるい)。厳密な文字式での証明はTuraevのQuantum Invariants of Knots and 3-Manifolds 第1章、またはBalkalov-KirillovのLectures on Tensor Categories and Modular Functors に詳述されています。またはselingerのPDF,lemma4.20でふんわり触れています

対称モノイダル圏とツイスト

対称モノイダル圏は自明なツイスト(恒等射)を持つ。

証明
$\beta_{A,B}\circ\beta_{B,A}=\text{id}_{A\otimes B}$により
$\theta_{A \otimes B} = \theta_A \otimes \theta_B$
が導ける。よって実際に恒等射$id$は上記の条件を自然に満たすため自明なツイストを持つ。

第三部

橋渡し節

このブログの最終目標は「リーマン面のコボルディズム圏からベクトル空間の圏へのモノイダル関手」としてCFTを定式化することでした。この定式化における「リーマン面」という対象が何者あかを理解するためには、必要不可欠です。
言い換えれば複素解析はCFTという物理学的素材であり、圏論はその素材を組み立てる文法です。文法だけ学んで素材を知らないままでは、何も書けません。
リボン圏の章でツイスト$\theta_A: A\to A$を導入しました。
今回の章は自然界、日常の中にあふれる等角写像を学びます。又は復習します。この章の目的を理解するための第一歩は、2次元の等角写像が、どのような物理問題で強力に働くかを知ることです。たとえば、2次元の理想流体の流れや、一般的な静電位・熱伝導の最小化、最適化のような境界値問題では、共形写像が非常に有効な道具になります。こうした問題では、角度を保つ変換によって、解くべき領域の形を「扱いやすい形」に移し替えられるからです。これは「自然界のあらゆる現象が等角写像で記述される」という意味ではなく、2次元に理想化できる特定の問題で、共形写像が便利であると理解するのが正確です。またこの等角写像のが自然界に現れる自然性を評価するのがCFTの直接的目的ではありません。

複素解析、等角写像

複素微分可能性・正則関数

関数$f: \mathbb{C}\to\mathbb{C}が点z_0\in\mathbb{C}$で複素微分可能であるとは極限$f(z_0)=\displaystyle\lim_{h \to 0} \frac{f(z_0+h)-f(z_0)}{h}$
$h\in\mathbb{C}0$に近づけても同じ値に収束することである。開集合$U\subseteq\mathbb{C}U$上の正則関数(holomorphic function)と呼ぶ。

実数の場合と定義式は同じに見えますが、hが複素数であるという点が本質的な違いです。hを実軸方向から0に近づける場合と虚軸方向から近づける場合で同じ値になることを要求すると、以下のコーシー・リーマン方程式が導かれます。

コーシー・リーマン方程式

$f:\mathbb{C}\to\mathbb{C}$の正則関数は、を形式的に$(x,y)\in \mathbb{R}^2$と任意のふたつの実数関数$u(x,y),v(x,y)$$f(x,y)=u(x,y)+iv(x,y)$とした時、
$\displaystyle\frac{ \partial u }{ \partial x }=\frac{ \partial v }{ \partial y } $,$\displaystyle\frac{ \partial u }{ \partial y }=-\frac{ \partial v }{ \partial x }$

無限回微分可能性として、一回複素微分可能ならば自動的に無限回複素微分可能になります。
解析的連続性として、正則関数はその値が小さな領域で分かれば原理的に全領域での値が決定されます。これを解析接続と呼びます。

コーシーの積分定理として、正則関数の閉曲線に沿った積分はその曲線の内部の孤立特異点のみに依存し、曲線の形状には依存しません。

等角写像

等角写像(conformal map)

正則関数$f: U\to\mathbb{C}$$U$は開集合)が任意の点$z_0\in U$において$f'(z_0)\neq 0$を満たすとき、fを等角写像と呼ぶ。

$f'(z_0)\neq 0$を満たす点の近傍において次の1次近似$f(z)\approx f(z_0)+f'(z_0)(z-z_0)$
を持つ。
これがなぜ理由になるかというと $f'(z_0) = re^{i\theta}$(極形式)と書くと、この近似は
· 拡大/縮小:$r$
· 回転:$\theta$ 回転
を表します。拡大縮小は長さを変えますが、角度は変えません。なぜなら、二つの曲線が $z_0$ でなす角は、$f'(z_0)$ による回転分だけ両方の曲線が同じだけ回転するので、相対的な角度は保たれるからです。

共形変換と対称性

対称性とは何か 物理学からの視点

物理学において対称性とは「ある変換を施しても理論が変わらない」という性質です。たとえば空間を平行移動しても物理法則は変わりません。これが並進対称性であり、その帰結として運動量保存則が導かれます。回転対称性からは角運動量保存則が、時間並進対称性からはエネルギー保存則が導かれます。このように対称性と保存則が一対一に対応するという事実はNoetherの定理として知られています。
CFTにおける対称性は共形対称性です。共形変換に対して理論が不変であるという要請から、CFTの豊かな構造がすべて導かれます。ではその共形変換とは何かを正確に定義します。

共形変換の前に、基礎的な多様体理論のおさらい

共形変換にはリーマン多様体の知識が不可欠です。本稿は定義だけ載せますが詳しくはやりません。もし未修なら先にリーマン多様体の導入だけでいいので

位相多様体

位相空間$M$$n$次元位相多様体であるとは以下の条件を満たすことである。
$M$がハウスドルフ空間であり第二可算公理を満たす。
任意の点$p\in M$に対してある開近傍$U\ni p$$\mathbb{R}^n$の開集合$V$の間の同相写像$\varphi: U\xrightarrow{\sim} V$が存在する。

この組$(U,\varphi)$座標近傍(チャート)と呼び$\varphi(p) = (x^1,\ldots,x^n)$$p$の局所座標という。

アトラスと滑らかな多様体

多様体$M$アトラスとは$M$を覆うチャートの族$\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}$であって、任意の二つのチャートの重なり$U_\alpha\cap U_\beta\neq\emptyset$に対して 座標変換写像
$\varphi_\beta\circ\varphi_\alpha^{-1}: \varphi_\alpha(U_\alpha\cap U_\beta)\to\varphi_\beta(U_\alpha\cap U_\beta)$
$C^\infty$(無限回微分可能)であるものをいう。このようなアトラスを持つ多様体を滑らかな多様体(smooth manifold)と呼ぶ。

接空間

滑らかな多様体$M$の点$P$における 接空間$T_pM$とは、$P$を通る滑らかな曲線$\gamma: (-\epsilon,\epsilon)\to M (\gamma(0)=p)$の速度ベクトル$\dot{\gamma}(0)$全体のなすベクトル空間である。
局所座標$(x^1,\ldots,x^n)$に対して接空間の基底を$\left\{\frac{\partial}{\partial x^1},\ldots,\frac{\partial}{\partial x^n}\right\}$と書く。

リーマン計量・リーマン多様体

滑らかな多様体$M$上の リーマン計量$g$とは各点$p\in M$の接空間$T_pM$上の内積
$g_p: T_pM\times T_pM\to\mathbb{R}$
を滑らかに割り当てるものである。局所座標$(x^1,\ldots,x^n)$では
$g = g_{ij}dx^i\otimes dx^j,\quad g_{ij} = g\left(\frac{\partial}{\partial x^i},\frac{\partial}{\partial x^j}\right)$
と書かれる。リーマン計量を備えた多様体$(M,g)$を リーマン多様体と呼ぶ。

では実際にリーマン多様体上に置いて共形変換を定義しよう。

共形変換

共形変換

$n$次元リーマン多様体$(M,g)$において微分同相写像$\phi: M\to M$が 共形変換であるとは、ある正値関数$\Omega: M\to\mathbb{R}_{>0}$​が存在して
$\phi^* g = \Omega^2 g$
が成立することである。($\Omega$を共形因子という)

何故これが角度を保つのでしょうか。説明していませんでしたが、まず多様体上の「角度」とは何か、見つめなおしましょう。
複素平面では「角度」が自明に定義できましたが、一般の多様体では「角度」を測るためにはリーマン計量$g$が必要です。計量$g$があって初めて「二つのベクトルのなす角」が定義できます。したがって一般の多様体における「等角写像」を定義するためには計量をどのように変換するかを記述しなければなりません。
多様体$M$の一点$p$における二つの接ベクトル$u,v\in T_pM$​のなす角$\theta$
$\cos \theta = \displaystyle\frac{g_p(u, v)}{\sqrt{g_p(u, u)} \sqrt{g_p(v, v)}}$
これは$\mathbb{R}^n$における内積による角度の定義
$\cos\theta = \displaystyle\frac{u\cdot v}{|u||v|}$
の多様体版です。
ここで式で$\Omega^2$が出てくる根拠があります。計量$g$を正の実数$\lambda^2$倍した計量$\tilde{g} = \lambda^2 g$において同じ計算をすると
$\cos \tilde{\theta} = \displaystyle\frac{\tilde{g}_p(u, v)}{\sqrt{\tilde{g}_p(u, u)} \sqrt{\tilde{g}_p(v, v)}} = \frac{\lambda^2 g_p(u, v)}{\sqrt{\lambda^2 g_p(u, u)} \sqrt{\lambda^2 g_p(v, v)}} = \frac{\lambda^2 g_p(u, v)}{\lambda^2 \sqrt{g_p(u, u)} \sqrt{g_p(v, v)}} = \cos \theta$となります。つまり計量を正の実数倍しても角度は変わりません。$\lambda^2$という因子が分子と分母で完全に打ち消し合うからです。しかしなぜ単に$\lambda$倍しないかと言うとそれぞれの接ベクトルの長さを考えると一般に$\sqrt{\lambda}$倍になり綺麗に行かないからです。

左辺の意味

$\phi^* g$は計量$g$引き戻し(pullback)と呼ばれるものです。変換$\phi: M\to M$があるとき、像の側の計量$g$を定義域の側に引き戻す操作です。
具体的には二つの接ベクトル$u,v\in T_pM$に対して
$(\phi^*g)_p(u,v) := g_{\phi(p)}(d\phi_p(u),\ d\phi_p(v))$と定義されます。ここで$d\phi_p: T_pM\to T_{\phi(p)}M$$\phi$の微分(接写像)です。

右辺の意味

$\Omega: M\to\mathbb{R}_{>0}$は各点で変わりうる正の実数値関数です。$\Omega^2 g$とは計量$g$の各点での値を$\Omega(p)^2$倍した計量です。局所座標で書くと$(\Omega^2 g)_{ij}(p) = \Omega(p)^2 \cdot g_{ij}(p)$になります。
です。$ \Omega$が定数なら全体を一様にスケールしますが、$\Omega$が点によって変わる場合は場所によってスケールが変わります。

等号の意味

$\left( \phi^* g \right)_p(u, v) = \Omega(p)^2 \cdot g_p(u, v)$
これは「$\phi$で移した後にgg gで測った内積」が「$\phi$で移す前に$g$で測った内積の$\Omega(p)^2$倍」に等しいという条件です。
ここで先ほど確認した観察を使います。角度の計算において$\Omega(p)^2$という因子は分子と分母で完全に打ち消し合います。したがって日常的な言葉で言えば「$\phi$で移した後に$g$で角度を測ること」と「$\phi^*g$で移す前に角度を測ること」が等しいという要請です。
$\cos\theta_{\text{移した後}} = \displaystyle\frac{(\phi^*g)_p(u,v)}{\sqrt{(\phi^*g)_p(u,u)}\sqrt{(\phi^*g)_p(v,v)}}= \frac{\Omega^2 g_p(u,v)}{\sqrt{\Omega^2 g_p(u,u)}\sqrt{\Omega^2 g_p(v,v)}}= \cos\theta_{\text{移す前}}$
となり角度が保存されます。

実際に複素平面では等角写像?

複素平面$\mathbb{C}$$\mathbb{R}^2$と見なし標準計量$g=dx^2+dy^2$を入れた場合に、正則関数$f=u+iv$が共形変換の定義を満たすことを確認します。
$f$の微分(Jacobi行列)は
$\begin{align*} df = \displaystyle\begin{pmatrix} \frac{\partial u}{\partial x} & \frac{\partial u}{\partial y} \\[2pt] \frac{\partial v}{\partial x} & \frac{\partial v}{\partial y} \end{pmatrix} \end{align*}$
$a = \frac{\partial u}{\partial x}, \quad b = \frac{\partial v}{\partial x}$と置き、コーシーリーマン方程式により$df = \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix}$
という形になります。引き戻し計量を計算します。
$(f^*g)_{ij} = \displaystyle\sum_{k,l} (df)^k_i (df)^l_j g_{kl} = (df)^T (df)$を計算すると
$(df)^T(df) = \begin{pmatrix} a & b \\ -b & a \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a^2 + b^2 & 0 \\ 0 & a^2 + b^2 \end{pmatrix} = (a^2 + b^2) \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}$
ここで$a^2+b^2=\displaystyle|\frac{df}{dz}|^2=|f'(z)|^2$
より$f^*g=|f'(z)|^2g$という形で共形因子を$|f'(z)|^2$を選べば定義を満たします。

初心を思い出す。

これまで共形変換、リボン圏まできました。しかしいまいち共形場理論にモヤモヤがかかっています。なのでこの章では共形場理論の生い立ちや目的について説明します。今更感がありますがきいてください 

生い立ち

共形場理論の始まりは1960年代後半から1970年代にかけての素粒子物理学と統計力学という二つの全く異なる文脈に遡ります。

統計力学の視点

当時の物理学者は「水が沸騰する瞬間」のような相転移の臨界点で起こる不思議な現象に魅了されていました。臨界点では、物質のゆらぎがすべてのスケールで自己相似(フラクタル)になり、系の性質が「スケール変換」に対して不変になることが知られていました。もちろんこの複雑だが臨界現象の普遍的な振る舞いを形式化しようとします。そしたら共形対称性によって支配されている記述されるという発見がアレクサンドル・ザモロドチコフやアレクサンドル・ポリャコフによってされました。

素粒子物理学の視点

同時期、素粒子論の世界では「弦」という一次元的な対象の理論が注目されていました。しかし、弦の量子論を定式化しようとすると、重力を含む整合的な理論が得られるのは、弦が二次元の世界面(ワールドシート) 上を運動する場合だけであることが判明します。そして、この二次元の世界面の理論を調べてみると、そこに共形対称性が自然に現れることがわかったのです。弦理論の基礎方程式として、一般に記述できる理論が必要とされたのです。

目的、考えて嬉しいこと

共形場理論の目的は橋渡し節で話した通り、共計変換が便利な道具であることの理由追及が目的ではありません。共形場理論は量子論というミクロな世界のおいてその対称性が課す強い条件の理解に赴きを置いています。
つまり CFT は、「等角変換が使える」ことを言う理論ではなく、等角対称性をもつ量子系がどのように振る舞うかを、対称性から徹底的に記述する理論なのです。その量子系の要求は先程の弦であったり、相転移の言語統一です。斜体にしたい文字

for expert

① 相関関数の計算
物理学者が最も知りたいのは、場が異なる点でどのように「絡み合うか」を示す相関関数です。共形場理論では、共形対称性という強い制約によって、相関関数の形がほとんど決まってしまいます。例えば、二次元の共形場理論では、プライマリ場と呼ばれる基本的な場の二点相関関数は、その「共形次元」という一つの数だけで決まってしまうのです。
② 理論の分類(ユニタリティ・モジュラー不変性)
共形場理論には「正値性(ユニタリティ)」という物理的に自然な条件を課すと、可能な理論が驚くほど限られます。二次元の場合は、中心電荷と呼ばれる数値と、モジュラー不変性という要請によって、理論の「完全なリスト」を作ることができるのです。この分類作業は、1980年代から90年代にかけて、数理物理学の一大プロジェクトとなりました。
③ 弦理論の背景時空の決定
弦理論では、弦が「住んでいる」二次元の共形場理論が、実際の四次元時空の性質を決めます。どのような共形場理論を選ぶかによって、私たちの宇宙がどのような粒子や力を持つかが変わるのです。つまり、共形場理論により「可能な宇宙の設計図」 を得られるのです。

参考文献

投稿日:7日前
更新日:7日前
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