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高校数学議論
文献あり

標準正規分布にしたがう確率変数の確率密度関数の原始関数について

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現行の高校の数学 B の教科書には, 標準正規分布 $N(0,1)$ にしたがう確率変数の確率密度関数は
$f(z)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac{x^2}{2}}$
で表されると書かれてあります.
また, $\int_{0}^u f(z) dz$$u=0.00$ から $u=3.09$ までの値の一覧がいわゆる正規分布表として, 教科書の巻末に掲載されています.
ここで,
$f(z)$ の定積分の値をどうやって求めたのか」
という当然の疑問を抱く高校生も多々いるだろうと思います.

まず, $f(z)$ の原始関数を求めることが可能かどうかですが, 不可能です.
もう少し厳密に言うと, 原始関数は存在するものの, それを初等関数で表すことは不可能です。
ここで, 初等関数というのは, 大まかには
「多項式, 指数関数, 対数関数, 三角関数, 逆三角関数と, これらの和, 差, 積, 商および合成を有限回繰り返すことによって得られる関数」
のことです。
[ 参考| Wikipedia:初等関数 ]
こうした条件を満たさない初等関数もありますが, 少なくとも, 高校の数学の教科書に現れる全ての関数は (適当な開区間において) 初等関数であると言って良いと思います.
なお, 原始関数が存在することは, 開区間で定義された連続関数は原始関数をもつということから保証されます.

この記事では, $f(z)$ の原始関数を初等関数で表すことが不可能であることの理由 (A) と, それなのに定積分の値を求めることができるのは何故なのか (B) について書いていきたいと思います。

(A) について
$f(z)$$\frac{1}{\sqrt{2\pi}}$ の部分は議論に影響ないので除外して考えます.
また, $-\frac{x^2}{2}$ の部分は $t=\frac{x}{\sqrt{2}}$ と置換することで $-t^2$ に置き換えることができます.
したがって,
$f(t)=e^{-t^2}$
について考えれば十分です.

(余談ですが, $\int_{0}^x f(t) dt$ は, 誤差関数 (error function) と呼ばれる関数の $\frac{\sqrt{\pi}}{2}$ 倍になっています.)

微分代数 (differential algebra) という分野で, Liouville の定理というものがあります.
[ 参考| Wikipedia: Liouville's theorem (differential algebra) ]
この定理から直ちに次の系が得られます.

Liouville の定理の系

初等関数 $f$ の原始関数が初等関数で表されるための必要十分条件は, ある初等関数 $s, f_1, \cdots, f_n$ と定数 $c_1, \cdots, c_n$が存在して,
$f=Ds+\sum_{i=1}^n c_i \frac{D f_i}{f_i}$
となることである.
ここで, $D$ は微分を表す.

しかし, これは意味のない主張です.
というのも, 各 $c_i$$0$ としてみると,
「初等関数 $f$ の原始関数が初等関数で表されるための必要十分条件は, ある初等関数 $s$ について $f=Ds$ となることである.」
という主張となり, この $s$ こそが原始関数に他ならないからです.

しかしながら, 同じく Liouville の定理の系として, 次が成り立つことが知られているようです [ 1 ].

Liouville の定理の系

有理関数 (多項式の商の形で表される関数) $g_1$, $g_2$ に対して, $g_1 e^{g_2}$ の原始関数が初等関数で表されるための必要十分条件は, ある有理関数 $h$ が存在して,
$g_1=Dh+h Dg_2$
となることである.

この事実を使うことにより, $f(t)$ の原始関数を初等関数で表すことが不可能であることが示されます.
証明は, 参考文献 [ 1 ] にあるのと全く同様です.

(B) について
$e^x$ のマクローリン展開
$e^x=\sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{n!}$
において, $x$$-t^2$ に置き換えると
$e^{-t^2}=\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^{n}}{n!}t^{2n}$
となります.
この両辺を項ごとに積分します.
(今の場合, そのようにしても等号が保たれます. 証明は省略します.)
その結果,
$\int_{0}^x e^{-t^2} dt=\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^n}{n!(2n+1)}x^{2n+1}$
という等式が得られます.
この $x$ に色々な値を代入すれば, 正規分布表にある各値を求めることができる, というわけです.

参考文献

投稿日:27日前
更新日:27日前
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投稿者

高校生に数学を教えています。 数学に関するあんなことやこんなことを考えるのが趣味です。

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